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昇格する

ラムダと強盗団たちは逮捕された。

 最初、ラムダは何かの間違いだと主張して罪を認めなかったが、強盗団たちはラムダとの繋がりをあっさりと自白した。

 これによって無事に街での強盗事件は解決した。

 事の顛末を知ったボルトン団長は驚いていた。


「……まさか、ラムダの奴が裏で糸を引いていたとはな。陰湿で小狡い奴だったが、一線を越えるほどの度胸や愚かさはないと思っていたが。俺の目は節穴だったな。いったい何があいつをここまで駆り立てたのか……」


 ラムダが強盗団に取り入った動機は分からない。

 奴は肩書きと強さに執着があるようだった。

 もしかすると、自分の中にくすぶっていたコンプレックスを解消する手段として強盗団を利用しようとしていたのかもしれない。


「……あいつは愚かだが、それに気づいてやれなかった俺にも責任の一端はある。上司としての役割を果たせなかった」


 呆れと悔しさが綯い交ぜになった口調だった。

 ラムダが自分の中に鬱屈としたものを抱えていたとは言え、結局、街を脅かす悪に加担したのは他でもない奴自身の決断だ。

 だから、ボルトン団長が責任を感じる必要はないと俺は思った。


「――だが、この事実を公表するわけにはいかねえな。衛兵が強盗団に加担してたことが知れたら街の連中はパニックになる」


 間違いなくそうなることだろう。

 その上、衛兵に対する信頼は地の底に墜ちてしまうはずだ。

 街を守る衛兵であるラムダが強盗団に協力していたという真実を伏せることは、俺たちだけでなく街の人々にとっても必要なことだ。


「それにしてもジーク。今回はお手柄だったな。お前がいてくれたおかげで、無事に犯人を捕まえることができた」

「いえ。単なる偶然ですよ」


 元々、ラムダは俺を殺すために夜警で人気のない路地に誘い出した。

 それを返り討ちにした結果として、強盗団の逮捕が付いてきただけだ。俺としては特に事件を解決したという認識もなかった。


「だが、新人がお前じゃなければ、今頃、水路の底に沈んでたかもしれねえ。お前に力があったからこそ、真実が明るみに出たんだ」


 それはそうかもしれない。

 あの場面でもし敗北していれば、今頃俺はこの世にいなかっただろうし、ラムダや強盗団は今後もバレずに犯行を続けていたことだろう。

 俺が連中を倒したことにより、街の人々の脅威を取り除くことが出来たのなら。それは素直に喜ばしいことだと思った。


「――そこで、俺は考えたんだがな。……ジーク。今回の件での活躍を考慮して、お前を分隊長に任命しようと思う」

「「えっ!?」」


 俺も、そして兵舎にいた衛兵たちも声を上げた。


「ちょうど今、分隊長の席に空きが一つあってな。だから、お前にはその空いた分隊長の座について貰いたい」


 分隊長ということは、つまり、昇格というわけだ。

 それ自体はありがたいのだが……。


「ですが、俺はまだ、入団してから一ヶ月も経ってませんよ」

「そうですよ! 団長! 入団してから一ヶ月も経たずに分隊長になった者など、過去に遡っても一人もいません!」

「通常、分隊長になるには速くても三年は掛かるんですよ! それを入団から一ヶ月未満の新人が就任するなど聞いたことがない!」


 衛兵たちが声を上げた。

 しかし、それらの声を受けてもボルトン団長はどこ吹く風だ。


「別に問題ねえだろ。こいつにはそれだけの実力があるんだからよ。出来る奴にはちゃんと相応の評価をしてやらねえとな」

「ですが! 他の者に対する示しがつきません!」

「それにまだ研修中の平の衛兵がいきなり分隊長に抜擢など、無茶苦茶ですよ! 新人の彼には荷が重すぎます!」


 衛兵たちが次々に不満や抗議の声を上げた。兵舎に怒号が飛び交う。すると、ボルトン団長は地を這うような声で言った。


「てめえら、俺の決定に文句があるってのか?」

「「……っ!」」


 ボルトン団長が凄むと、衛兵たちはその迫力に息を呑んだ。燃え盛っていた威勢の火は一瞬にして鎮火してしまう。

 場が静まり返ったのを見回すと、ボルトン団長は先を続けた。


「納得できねえ奴がいるってのなら、出てきてこいつと戦え。それで勝つことができれば代わりに分隊長に任命してやるよ。――とは言え、無駄だとは思うがな。平のお前らが束になって掛かったところで敵いやしねえよ」


 衛兵たちは互いに顔を見合わせた。

 誰一人、俺に挑んでこようとする者はいなかった。


「まあ、良いじゃねえか。それにこいつが引き継ぐのは第五分隊だぜ。てめえらのうちの誰かが代わりに引き受けてくれんのか?」


 ボルトン団長は衛兵たちの方を睥睨する。


「……そうか。分隊長の座が空きになってるのは第五小隊だったな……」

「……確かにあそこの分隊長になるのだけは嫌すぎる。一日で胃がやられちまうよ。何しろ問題児の集まりだからなあ」

「……昇進って言ってるけど、実際腫れ物を押しつけてるだけじゃねえか? 団長、中々えげつないことするな」


 先ほどまでは俺に批判の目を向けていた衛兵の連中たちが、今度は一転してなぜか同情するような目を向けてきた。


「新人。精々、頑張れよ」

「達者でな」

「短い間だったけど、楽しかったぜ」


 皆、死地に赴く者に掛けるような言葉を掛けてくる。

 ……いったい何だと言うのだろう?


「一旦、ジークに任せてみて、荷が重そうならその時にまた考えれば良い。取りあえずはこいつが分隊長で行くからな」


 解散した後、セイラが俺の元へと駆け寄ってきた。


「ジークさん! 今日から私たちの隊の分隊長ですね!」

「ということは……セイラは第五分隊だったのか」

「はい! ですが、あっという間に私の上司になってしまいましたね。ジークさんは凄い方だと思っていましたが、想像以上でした!」


 セイラの表情に不満の色は見えなかった。

 むしろ、俺の分隊長への就任を心から喜んでくれているようだ。

 彼女は世界中の人々を守るためにこの街の衛兵になったと言っていた。だから、地位や肩書きには執着がないのだろう。


「ジークさんの元でお仕事出来ることになって嬉しいです! 第五小隊として共にこの街を守っていきましょうね!」

「ああ。俺も分隊長として全力を尽くそう」


 俺はそう言うと、


「ちなみにこの隊は何人くらいいるんだ?」

「ジークさんを入れて、全員で四人ですね。私とスピノザさん。ファムさんです。基本的に分隊はこれくらいの人数ですよ」

「なるほどな。……そういえば、他の隊員は?」

「えーっと。それがですね……」


 セイラはやや言葉に詰まりながら言った。


「私とジークさん以外は来ていません」

「何だ。今日は休みなのか?」

「休みと言いますか。自主的に休んでいると言いますか……」

「平たく言えばサボりだ」


 ボルトン団長がセイラの言葉を引き継いだ。


「第五小隊はうちの兵団でも指折りの問題児集団でな。実力は確かなんだが、何しろ癖が強い奴ばかりなんだ。おかげでどの分隊長も匙を投げちまってな。中には余りのストレスで精神を壊した奴もいるくらいだ」


 ボルトン団長はそう言うと、


「……他の分隊長たちはてんで扱い切れていなかったが、まあ、お前なら第五小隊の奴らも上手く手懐けることが出来るだろ。頼んだぜ」


 ぽん、と俺の肩に手を置いて去っていった。

 ……これはもしかすると、厄介者を押しつけられただけなのでは? そう気づいた時にはすでに後の祭りだった。

 問題児集団か――。

 これは今日から大変なことになりそうだ。

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