94/658
深淵ニ明カリヲ
深淵に明かりを灯す鮟鱇は
波間に揺れて
ゆらゆらゆらゆらと
明かりに集まる魚と遊んで
他愛もない時間を過ごす
大きな口を開いて吸い込んで
ポンっと空気の輪っかを吐き出す
遠くへ遠くへ
魚たちは追いかける
他愛もない時間は
長く長く続く
あくびをひとつ
魚たちもつられてあくびをひとつ
眠い
寝ようかな
くるっと逆さかに
お腹を見せて一休み
長い長い時のお休み
そしておはよう
目覚めのとき
鮟鱇は明かりを灯して起き上がる
みんなどこにいるのだろう
鮟鱇は独りぼっち
みんなどこにもいない
赤い明かりを灯して
揺らめく鮟鱇は
冷たい底を揺れ動く
そして会えたお友達
赤い光を灯す
もう一匹のアンコウ