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55、奇跡の光のその先は


「大陸にはない素材って、そんなもん手に入るのか?」

「はい」


 セイジの問いに、マックはこともなげに肯定の返事をしていた。

 嘘はついていない、まっすぐな瞳に、セイジは苦笑を零した。

 まだまだ手の届かないものだと思っていた蘇生薬は、この目の前の錬金術師によって、もう少しで指先が届く程度の場所まで来ていたらしい。

 ということは、あとは自分がやるべきことをやらないといけない、ということだ。

 セイジはこみ上げてくる笑いを止めることが出来なかった。

 

「俺がオーブを集めるまでに、なんて悠長なことは言ってられなくなったな。俺の方が負けそうだ」

 

 ちらりとマックを見ると、マックは小さく首を振った。


「無理は禁物です。セイジさんに何かあったらまたクラッシュが暴走しますから」


 そういえばクラッシュの暴走の時にもマックが抑えたんだった、と思い出したセイジは、神妙に頷くと、視線の先にあるマックの後頭部にポン、と軽く手を乗せてから、立ち止まっていた足を動かした。

 


 他にめぼしい本はないかと棚を見上げる。

 魔大陸の書物を見つけては開いて内容を確認する作業を繰り返す。蘇生薬に関する情報を手にいれなくてよくなった今、なんだか一つ肩の荷が下りた気がして、少しだけ気持ちが楽になったセイジだった。


 前の洞窟同様、たくさんのメモをまとめて燃やしたセイジは、近くで何かの本を開いているマックに気付いた。

 覗き込んでみると、魔法陣構築の基礎だけが載っている本だった。


 一生懸命その本を覗き込んでいるマックに、セイジはふと、だいぶ前にマックに魔法陣を教える約束をしていたのを思い出した。

 そういえばまだ教えてなかったな、と呟きつつ、魔法陣の本に視線が向かう。

 あの時は今よりもっと簡単に特殊な本が手に入ったが、今はだれが排除したのか、世に殆ど出回っていない。

 クラッシュの店に卸しに来る行商ですら、古代魔道語の本を仕入れてくることはまずない。

 どこから手に入れたのかはかなり疑問に思ったが、きっと大陸にはない素材を手に入れられることと関連があるのかもしれず、深追いしてはいけない部類に入る事柄だということをセイジは悟っていた。

 

「そう言えばマックとの約束、まだ果たしてなかったな。戻ったらアルの所の訓練所を借りて、攻撃魔法陣教えるか?」


 セイジの言葉に、マックは目を輝かせて二つ返事で頷いた。



 そろそろここを引き上げるかと皆に声を掛けようとセイジが顔をあげると、ふと、耳に「祈り」が流れ込んできた。

 心を落ち着かせるような静謐な祈りだった。

 振り返って祈りの聞こえるほうに目を向けると、マックが棺の前に鍵となっていたダガーと一輪の花を置いて、手を組み静かに祈りを捧げていた。

 思わず聞き惚れ、ただただ祈りの姿を目に入れる。他の皆も同じようにマックの「祈り」に聞き惚れているようだった。

 

 祈りが終わった瞬間、鍵の短剣が光り輝き、奇跡の姿が宙に描かれていった。


 

 静かに立ち上る光は、二つの姿を形どり。

 そこには、ここの持ち主と思われる人族と、ここに静かに眠る獣人族の女性の、幸せそうに手を取る姿が現れていた。

 セイジも、祈りを唱えた本人も、ともにここに来た皆も、ただただその光景に見入っていた。

 その幸せそうな表情に、セイジの胸がギュッと絞めつけられる。

 生きてこそ、だと思っていた。

 生きてこの笑顔を互いに浮かべることが、最上にして最高の。


 光は徐々に収まり、それと共に二人も宙に霧散していった。

 光の幻影か、魔素の見せる夢か、それはセイジにもわからなかった。




 騎士団本部に帰って来ると、セイジは早速裏手でマックと、ちゃっかり一緒にいたクラッシュに攻撃魔法陣を伝授した。

 真剣に話を聴く二人に苦笑しながら、セイジはつぎつぎと魔法陣を描いていくのだった。

 二人がトレに帰っていくと、今度は『白金の獅子』『高橋と愉快な仲間たち』に囲まれ、セイジは古代魔道語の指導をすることになった。

 皆、ああいう古代の仕掛けを本気で探したいらしい。

 今日は苦笑が多い日だな、と溜め息を吐いて、セイジは騎士団本部の食堂を借りて講師をしたのだった。

 古代魔道語を教えながら、頭に描くのは、幻想が見せた一組の幸せそうな笑顔。

 最後、サラはどんな顔をしていたのか。

 辛くて視線をずらしたのは、自分。

 もう一度あの笑顔を取り戻すために気合いを入れないとな、とセイジは口を引き締めた。

 

 

 しばらくは辺境を周っていたセイジだったが、思ったほど亀裂は見つからなかったので、今度は違う場所を探してみるかと辺境を離れた。

 セィ城下街とセッテの間にある森に足を踏み入れ、見つからないとそのまま南の街道を抜け、さらに南下してみる。

 ここら辺でも異邦人は元気に魔物を狩っている。

 近くで大きな四つ足の魔物を狩っているパーティーも、なかなかに見どころのありそうなパーティーだった。

 魔物を狩っている異邦人たちを横目に、セイジはさらに南下してみた。

 何かがあるわけじゃないが、もしかしたら亀裂があるかもしれない。

 草をかき分けて進んでいると、小さな木々の間に、見慣れた亀裂を発見した。


「やっぱりある程度場所は変えて見るもんだな」


 そう独りごちると、セイジは今来た道を引き返していった。




 セィ城下街の安い食堂で、酒を片手に盛り上がるパーティーとテーブルを共にしながら、セイジも手にした酒を煽った。

 シークレットダンジョンのランクはそこまで高くなく、出てきたのは火のオーブだった。

 一緒にダンジョンに入ったパーティー『ブルードルフィン』は初シークレットダンジョン踏破に盛り上がり、快くセイジに飯を奢ってくれた。

 今日の成果は、気持ちのいい異邦人に出会えたこと、それに尽きる。

 

「お前らはいつ頃辺境に辿り着くんだろうな」

「今はまだここらへんで結構辛いから、もう少しレベルを上げてからだな」

「そうか。辺境に着いたら、騎士団にでも顔を出してみろよ。もしかしたら訓練を受けれるかもしれねえよ」

「マジかよ!」


 また一つ盛り上がる要因が増えたとばかりに満面の笑みで酒の追加を頼む『ブルードルフィン』のメンバーを一通り眺めながら、セイジは今度はどの方面を探そうかと、頭の中の地図を開いていた。


「一緒に入ったパーティーのレベルに応じて亀裂も強さを変える、ねえ……」


 小さく呟いたセイジの言葉は、幸いにも盛り上がっている周りには届かなかったようだった。




 しばらくの間は、声を掛けた異邦人にとっては当たり、セイジにとっては外れのシークレットダンジョンが続いた。

 そろそろクリアオーブが出てきてもいいころだろ、と目の前の大きな肢体の魔物に魔法陣魔法を飛ばしながらセイジは舌打ちした。

 明らかにパーティーレベルが足りなかった感の否めない苦戦を強いられながら、先程魔物の攻撃で最後の武器を壊されて後ろに下がった前衛メンバーの穴を埋めるべく、セイジは腰の剣を手に取った。


「肉弾戦は、苦手だって、言ってんだろ……!」


 魔法攻撃の効きにくい魔物に、前衛の抜けたパーティーは厳しすぎた。

 セイジの剣を貸そうにも、片手剣は装備できないらしく、異邦人の就く職の勝手の悪さに舌打ちしかでない。

 しかも最悪なことに、前衛がその一人しかいなかった。

 後衛の二人は魔術師なので、今回の魔物相手には相性が悪かった。

 魔法陣で自身に身体能力上昇の魔法を掛けてから、セイジは気合いと共に魔物に剣を揮った。


 何とか魔物を倒した時には、セイジと『ブルードルフィン』のメンバーは全員みごとにボロボロだった。

 セイジが羽織っていた長いローブはかぎ裂きになっており、再起不能に近い状態だった。

 出てきたのはブルーオーブだった。疲れ切った顔をしていた『ブルードルフィン』のメンバーもそれを手に取った瞬間は顔を綻ばせた。

 近くの街に全員を連れて転移の魔法陣を展開したセイジは、ふと耳元でクラッシュの声が聞こえた気がして視線を動かした。


『セイジさん、トレの街近くで、古代の神殿が見つかったそうなんですけど、一緒に行きませんか』


 はっきりと聞こえたその声に、クラッシュが念話を送ってよこしたんだと気付いたセイジは、奢るという『ブルードルフィン』の誘いを断って、クラッシュのもとに跳んだ。

 



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