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落下と急上昇


「ふう、疲れた。少し休憩だな」


 しばらく葉っぱの上で遊び続けると疲れてきたので休憩をすることにした。


 ジャンプをやめて、葉っぱの上に腰を下ろす。


 雑草の葉っぱは、腰を下ろすのにも最適で程よく体重を受け止めてくれていた。


 それに頭上にはたくさんの葉があるお陰で日陰になっていて涼しい。


「葉っぱの上に座るなんてファンタジー感があるなぁ」


 こんなことは元の身体では中々できないな。いや、丈夫な葉っぱを拡大してやれば、縮小しないままでもできるか? 


 そのような品種の植物は見たことがないが、探してみる価値は十分にあるな。


 子供たちの天然の遊び場にもなるし、椅子やベッドとして利用できそうだ。


「大ジャンプ!」


「こっちも大ジャンプ!」


 なんて考えながら休憩している間にも、頭上ではククルアやハンナの楽しそうな声が聞こえてくる。


 今はどちらがより高く飛べるか競い合っているのだろうか。


「ククルアとハンナは元気だな」


 縮小世界の前では人見知りも吹き飛んでしまうのか、今ではすっかりと楽しんでいる。


 それは大変素晴らしいことであり、計画通り進んでくれているので嬉しいのだが元気過ぎだ。


 俺も青年といえる年齢で若いはずだが、彼女たちのエネルギーには敵いやしないな。


 なんて思いながら見上げていると葉っぱの隙間から水色と白の布が見えた。


 ……多分、ククルアとハンナの下着だ。


 縮小で小さくなると、どうしてこのようなラッキースケベ的な展開になってしまうのだろうか。前も小さくなった時にメアの下着を覗いてしまった気がする。


 無邪気な少女の下着を目にしてしまっただけに罪悪感が半端ない。


 別に小さな子供に欲情する趣味はないが、男として見るべきではないだろう。


 ……パキキ。


 そう思って目を逸らしていると、傍から不穏な音が聞こえた。


「今の音は?」


 妙な音が気になって耳を澄ませていると、またしても『パキパキキ』と何かが破砕するような音がする。


 そして、その音はククルアやハンナが飛び跳ねる度に鳴っており……そこではたとして気付いた俺はすぐに顔を上げた。


 勿論、下着を覗くためではない。二人に注意を促すためだ。


「わああああああっ!?」


「きゃああああああっ!?」


 跳ねるのをやめるように言おうとした瞬間、頭上で跳ねていた二人が落ちてくる。


 どうやら度重なるジャンプに茎が耐え切れなくなり、茎が折れてしまったようだ。


 目の前では真っ逆さまにこちらに落ちてくるククルアとハンナの姿。


 どちらかに手を伸ばしても片方しか助けることができない。


 いや、手を伸ばすなんかよりもずっと確実で二人を救う方法がある。


「拡大!」


 俺は座っている自分の葉っぱに手を当てて拡大を施す。


 すると、葉っぱと茎がグングンと大きくなり、真っ逆さまに落ちてきた二人を柔らかく受け止めた。


「二人とも大丈夫かい?」


「「あははははははは!」」


 俺が慌てて駆け寄ると、二人は顔を見合わせるなり笑った。


 よくわからないけど恐怖よりも楽しさが勝ったらしい。


 ヘタするとトラウマレベルの恐怖なので、二人の心身に異常がなくて本当に良かった。


 しかし、安心したのも束の間。二人はとんでもないことを口走る。


「領主様、今の楽しかったです!」


「もう一回やりたい!」


 こちらの心境など物ともせず、ハンナとククルアはおねだりしてくる。


「……ダメだよ。俺の心臓がもたないから」


「「ええええー」」


 仲良くなるためとはいえ、他人様の子供に怪我なんてさせられない。


 勿論、そんな危ない遊びは却下する俺だった。




 ◆




 ククルアとハンナが落下した後は、石の上に移動して休憩することにした。


 二人は丈夫そうな葉っぱに移動して飛び跳ねたそうにしていたが、止めさせてもらった。


 純粋に俺の心が持たないのもあるし、二人の身体を休ませるのも大事だと思ったから。


 そんな訳で俺たちは何てことのない石の上に座っている。


 縮小する前なら足首にも満たない高さの石。


 しかし、今の俺たちからすればよじ登るような高さであって、ちょっとしたクライミング気分だった。とはいえ、また落ちては敵わないので大したことのない高さだけど。


「ピー! ピー!」


 三人でボーっと座っていると、頭上でそんな声が響く。


 気になって視線を上げると、空には青い鳥が舞っていた。


 もしかして、肉食の鳥じゃないだろうか? 今の俺たちが攫われでもしたら大変なことになる。


「あっ! ピピル!」


 急いでここから離れて避難しようかと考えていると、ククルアが頭上を見て叫んだ。


 すると、その声が聞こえたのか青い鳥がこちらにやってきた。


「ピー!」


 青い鳥は俺たちを見ても襲うことなく、地面にゆっくりと降り立った。


 小型の鳥ではあるが俺たちよりも十分大きくて、羽ばたきで強い風が巻き起こる。


 思わず両腕で顔を覆っていると、ククルアが一目散に石から降りて近づいていった。


「よしよし、ピピル!」


「ピー!」


 青い鳥に抱き着いて身体を撫でるククルア。


 鳥もそれを不快に思うことなく、嬉しそうに目を細めていた。


「ククルアちゃん、その鳥さんとは知り合い?」


「うん、ピピルっていうんだ! いつも餌を上げていたの!」


 ハンナが尋ねると、ククルアが笑顔で青い鳥のことを話してくれる。


 どうやらククルアとピピルは知り合いだったようだ。


 小さくなっても襲うことなく、ククルアと接することができるなんてお利口さんだ。いい関係を築けている証だろう。


「小さくなって見ると、ピピルって意外と大きいんだね! それに羽根もしっかり生えてる!」


「ピー!」


 ククルアの言葉にどこか自慢げに反応するピピル。


 つぶらな瞳に丸々とした身体がとても可愛らしい。身体に生えている青い羽根はとても色鮮やかで柔らかそうだ。


「ね、ねえ、ククルアちゃん。私もピピルを撫でてもいい?」


「俺も触ってみてもいいかい?」


 そして、そんな可愛らしい生き物を見て興奮する少女が一人。


 かくいう、俺も触ってみたくて堪らない者の一人だった。


 俺にはククルアのように信頼関係を築けている動物がいないので、このように小さくなって触れることは危険でできなかった。


 しかし、ククルアの言う事を聞く賢いピピルなら思う存分に撫でることができる。


「……ピピル、領主様とハンナも触ってもいい?」


「ピー!」


「多分、大丈夫だと思う!」


 その多分という台詞が少し不安だが、コクリと頷いたピピルの反応を見る限り大丈夫そうだ。


 俺とハンナはおそるおそるピピルへと近づいて、その体に触れてみる。


「うわぁ、サラサラ」


「それに柔らかいね」


 ピピルの青い羽根はまるで絹のように滑らかだ。指を入れるとスッと通っていく。


 そのまま手を押し込むとフワフワとしており、ピピルの体温が感じられた。


 小鳥に触れたことはあるが、こんな風に思いっきり触ったのは初めてだったので感動だ。


 ハンナと俺がわしゃわしゃと体を撫でると、ピピルは心地よさそうに目を細めてくれた。


 十分にピピルを撫でて堪能したハンナと俺は礼の言葉をかけて離れる。


「そうだ。今ならピピルの背中に乗れるかも!」


 すると、ククルアがとんでもないことを言って、ピピルの体をよじ登り始めた。


 ピピルもククルアの意図を察したのか、体を低くして登りやすいようにしてくれている。


「ククルア、さすがにそれは危なくないか?」


「でも、今ならピピルの背中に乗って飛べるんだよ?」


 ピピルの背中にまたがったククルアがとってもいい笑顔で言う。


 確かにそれは魅力的な体験だ。


 鳥の背中に乗って空を飛ぶなんてことは普通に過ごしていてできることではない。


 落下という危険性を考慮しても魅力に思えてしまう。


 でも、危ないしなぁ。


 自分たちの身体の元に戻して、ピピルを拡大しても落下というリスクに変わりはない。大きくなろうが高所から落下すれば大怪我や死亡のリスクは変わらない。


 それに小さくなって空を飛ぶのがいいのであって、大きくなって飛ぶのは何だか違うと俺の心の中の少年が告げていた。


「私も乗る!」


 そのような葛藤を抱いている間にもハンナがよじ登ってしまった。


 さすがは子供。迷いが少ない。


「ちょっと待ってくれ。やっぱり危ないから」


「ほら、ノクト様も早く!」


 二人を止めようと近寄ると、ククルアとハンナに手を引っ張られてしまう。


 縮小で小さくなっているから俺の身体がぐいぐいと持ち上げられる。


「いや、俺は乗ろうとしているんじゃなくて、二人を止めようと――」


「ピー!」


 慌てて説明しようとした瞬間、ピピルが翼を勢いよくはためかせた。


 ピピルが翼をブンブンとはためかせると空中に上っていく。


 ここまでくると止めるのはもう遅い。俺は止めることは諦めて、振り落とされないようにしっかりと背中に掴まることにした。





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