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96:遠き場所にいる者たち

 部屋へ帰った日色は、案の定リリィンに話の内容を問い詰められた。

 納得させるためにも偽りなく話すと、彼女はまたまた呆れたような溜め息を吐く。

 それだけでなく、どことなく安堵したような表情もしていたのだが、自分が懸念していたことではなくて安心したということなのだろう。


「まあ、貴様が選んだというのならワタシも何も言わん」

「ノフォフォフォフォ! お嬢様はヒイロ様が心配で帰って来るのを今か今かとお待ちし、落ち着きなど全くございませんでしたよ!」

「ち、ちちち違うわ馬鹿者ぉぉぉぉぉぉっ!」

「ぶへんっ!?」


 シウバの余計な言葉にリリィンは顔を瞬間的に真っ赤に染め、誤魔化すようにシウバの顔面を蹴りつけた。

 沈黙したシウバをシャモエは驚愕しながらも甲斐甲斐しく介抱する。いつもの光景だ。


「はあはあはあはあ……いいかヒイロ! い、い、今のは奴の戯言だ! 決して違うからな!」


 何だか涙目になりながらも指を突きつけて必死で否定してくる。

 日色はそんな彼女をチラッと見て、「あっそ」と何ともまあ淡白な返事をした。

 当然肩透かしのような気分をさせられたリリィンは呆気にとられている。そして何故かキッと鋭い視線を向けると、


「き、ききき貴様はいつか必ず跪かせてやるからなぁっ!」


 いまだ頬の赤い小さなリリィンが怒鳴ってもちっとも恐怖が走らない。それどころかあまりに必死な彼女が微笑ましくもある。


(何をそんなに必死になってるんだか……)


 悲しいかな、リリィンの一言一句は日色に些かの影響を与えていない。相変わらずのドライぶりである。


「し、師匠!」


 突然ニッキが拳を固めて叫ぶ。


「何だ?」

「し、師匠はその、決闘を行うのですよね!」

「ああ」


 すると明らかにウズウズしているような表情を見せつけてくる。彼女が言いたいことが分かった日色は淡々と告げる。


「お前はダメだぞ」

「ええっ!? ど、どうしてですか!」


 ガビーンという感じでショックを受けている。


「当然だろ。お前にはまだ早い」

「で、ですが……ボクも師匠のお役に立ちたいですぞ!」

「これはオレへの依頼だ。お前らが関わる必要は無い」

「う、うぅ……」


 完全に拒否されたせいでシュンとなる。


「それにこれは国の命運をかける決闘だ。お前がそれを背負うには、まだまだ足りないものがある」

「う~もっと!」

「は?」

「もっともっとも~っと強くなれば師匠とともに戦えますか!」


 口を一文字に結んでジッとこちらに真剣な眼差しを向けている。

 日色は軽く息を吐くと頭をかく。


「そうだな、それだけじゃ足りないが、お前がもっと強ければ一緒に戦えたかもな」

「ならばボクは! ボクはもっと強くなりますぞ! その時はよろしくお願いしますぞ!」

「……まあ、期待しておこうか」


 彼女の額をトンと指先で軽く押すと、パアッと表情を明るくさせる。そんなニッキをぷく~っと頬を膨らませて見つめていたのはミカヅキだった。


「ぶ~、ニッキだけなんかずるいよぉ~! ミカヅキもトンってしてほしい!」


 駄々をこね始めるが、日色は完全に無視する。

 ニッキはというと、フフンと言った感じでミカヅキに優越感を見せつけた。


「ク……ク……クイィィィ! シャモエちゃぁぁぁぁぁん!」


 ミカヅキは悔しくてシャモエの胸に飛び込んで行った。シャモエは優しく彼女の頭を撫で慰めている。


「そう言えば決闘はいつなのですかな?」


 いつの間にか復活していたシウバが聞いてくる。


「それはまだ分からん。こちらは準備万端だが、向こうはどうだろうな。まあ受けた以上は、自国の最高戦力を集めてくるはずだが」

「ほほう、ならば《三獣士》は確実でございますね。それに国王に王子二人くらいでしょうか?」


 シウバの情報網では、トップクラスは今挙げた人物だけらしい。


「いや……」

「ノフォ? 他におりましたかな?」

「……まあな」


 日色はアクウィナスとの会話を思い出していた。

 その中で相手側の戦力について話題になった時、懐かしい人物の名前を聞いた。


(まさかアイツが出てくると思えんが、万が一ってこともあるからな)


 少し遠い目をしている日色を皆が首を傾けて見ていた。



     ※



 酒に囲まれている場所で、ごそごそと何かが動く。

 どうやらその何かは人のようだ。寝ているらしく寝返りをうったせいで酒瓶に体が当たりカランと地面に倒れる。

 そこへ誰かの足音が聞こえてくる。

 寝ているその者を見て、呆れたように溜め息を漏らしている。


「おいおい、足の踏み場もねえじゃねえか」


 器用に酒瓶を避けて寝ている人物に近づくと、肩に手を触れて起こすように揺らす。


「師匠? なあ師匠?」

「むにゃ……うしし……」


 何やら良い夢を見ているようで笑顔を浮かべている。

 子供と変わらないその顔に収められている口からはだらしなく涎が出ている。

 しかも酒瓶を抱えたままだ。もうホントギャップがあり過ぎて怖い。


「はぁ、ホントにまったくこの人は……」


 どんだけ酒好きなんだと思いながらも、この時間に起こせと言われていたので揺らすのを止めるわけにはいかない。


「悪い、ちょっと片づけといてくれねえか?」

「あ、うん分かったよ」


 どうやらその場にやって来た人物は二人いたようで、もう一人の人物に部屋の片づけを頼んだ。


「師匠ってば、そろそろ起きて下さい、さもないと…………もうツマミを作りませんよ?」

「しょ、しょれは承知できんぞぉ!」


 突然ガバッと起きて、拳を高々と突き出している。ようやく起きてくれたようだ。


「目が覚めたようですね師匠」

「……ん? ああ……ロリコンか」

「誰がロリコンじゃっ!」



 部屋に反響するほどの声を張り上げる。


「ナハハハハ! 冗談だ冗談!」


 緑の髪を揺らしながら楽しそうに笑っている。

 そして大きく伸びをして、頭にちょこんと生えている長い耳もピンと伸ばす。

 彼女は兎人であり、小学生のような体躯をしていて、決して清潔ではないよれよれの白衣をいつも身に纏っている。


「ったく、そもそもあのヤロウが師匠に余計なことを言わなけりゃ、俺にそんな称号なんてつかなかったのによ……」


 ガックリと肩を落としながらも、ロリコンという称号を背負わされた原因である人物を思い出し殺意を膨らませる。


「ナハハ! そういやあの小僧が出て行ってから半年以上経つのか」


 その声で部屋の片づけをしていた人物の動きがピタリと止まり悲しそうに目を伏せている。


「ああもう、アイツが約束を守るなんて思ってないですよ! ほら、ミュアも気にするなって!」

「う、うん……」


 ミュア・カストレイア。

 それが彼女の名前だ。

 そしてこの中で唯一の男が、ミュアの保護者であるアノールド・オーシャンだ。二人ともかつての丘村日色の旅仲間であった者たちだ。

 また先程アノールドに殺意を芽生えさせた張本人がその日色なのである。


 半年以上前、ここにアノールド、ミュア、ウィンカァ、ハネマルの四人と一匹でやって来た彼らは、アノールドの師匠である白衣のチビッ子、ララシーク・ファンナルに会った。そしてミュアとアノールドが彼女に修行をつけてくれるように頼んだ。

 しかし一人前になるにはかなりの時間がかかると言われ、それまでここ【獣王国・パシオン】に留まることはできないと言い、日色は旅仲間たちと別れることを決意した。


 その際に半年後、暇ができれば会いに来ると言っていた彼なのだが、何一つ音沙汰が無いので、特に楽しみにしていたミュアは彼の話をすると落ち込んでしまうのだ。

 ミュアは日色に異性としての好感を抱いている。旅をしていた時はあまり意識したことは無かったが、離れてみて会いたいという衝動がどんどん高まっていった。

 思った以上に日色の存在が、彼女の中で大きくなっていることに彼女自身も驚いていただろう。だから半年後に会いに来てくれると思って必死に修行を頑張っていたのだ。


『強くなれ』


 そう言った日色の言葉に答えるために。

 ララシークはその吊り上った目をミュアに向けてニヤッと笑う。


「まったく、あの小僧も罪作りな奴だなぁ。聞くところによるとミミル様も惚れてるらしいじゃねえか」


 ミミルというのは第二王女である。彼女は幼い頃にかかった病で高熱により声を失ってしまった。歌うことを何よりの生きがいとしていた彼女にとってそれは絶望に匹敵する不運だった。

 だが周囲の者を悲しませたくないと思い、自分を偽って笑顔を振りまいていたが、それを日色に見破られてしまっただけでなく、あろうことかどんな名医でも治せなかった声を《文字魔法》であっさりと復活させたのだ。


 その時から日色を自分の英雄として崇拝に比肩するほどの想いを日色に寄せている。そしてその中には淡い恋心も含んでいる。彼女曰く一目惚れをしたとのことだった。


「ミュアにミミル様、それにこの半年でま~たいろんな奴を落としてたりしてな。ナハハハハ!」


 面白そうに言うララシークの言葉に――パリンッ!

 アノールドはギョッとなって音の方向を見ると、ミュアが酒瓶を握り潰していたのだ。しかも手には一切傷など無かった。


「ミュ、ミュア……?」

「へ? あ、えっと……あっ、ごめんなさい! すぐに掃除します!」 


 自分が今何したのか気づいていないのか、何も無かったかのように掃除しだした。いや、よく見ると頬が赤いので自分が何故そんなことをしたのか理解しているのだろう。


「ナハハハ! やっぱからかうと面白いなミュアは!」

「はぁ、勘弁してやってくださいよ師匠」

「悪い悪い、けどツマミは作れよ?」

「…………はいはい」


 こめかみを押さえながらも仕方無く了承する。何故なら逆らうと危険だからだ。

 以前ツマミを作る約束をしていて、それを忘れた時なんて、彼女の目から光が無くなった状態で半日実戦経験と称して一方的なリンチを受けた。

 アノールドも手伝って部屋の片づけして、ようやくそれなりに綺麗になったところでララシークに聞く。


「ところで、この時間に起こせって言ってましたが何かあったんですか?」

「いやいや、ちょうどこの時間に一番美味しくなる漬物があってな」


 そう言いながら床板を外してそこから小さな壺を取り出す。


「これで一杯やるつもりだったんだ!」

「…………あの師匠?」

「何だ?」

「確か朝は二日酔いで頭が痛いと言ってましたよね?」

「フン、愚かなことを言うなアノールド。このワタシが二日酔いごときで酒を飲まないとでも思ってたのか?」


 キラーンと目を光らせて決め台詞のような感じで言うが、アノールドの頬は引き攣るだけだった。

 意味の無さそうな自信に空笑いを浮かべていると、家の扉からノック音が聞こえた。三人は一様にして首を傾げた。

 何故ならここ半年ほど、誰かが尋ねてきたことが無かったからだ。それほどララシークは近所付き合いというものを行っていない。

 この家の地下にはララシークが作った巨大な空間があり、そこには様々な部屋が設置されている。その一つにアノールドとミュアも住んでいるのだが、こんなふうにノック音を聞くのはここへ来て初めてだ。


「む……何か嫌な予感がするな」


 ララシークは眉をひそめながら言う。するとミュアはその愛くるしいクリッとした大きな目を細めて頭の獣耳をピンと張ると、


「そんなこと言っちゃダメですよお師匠さま、せっかくのお客さまなんですから」


 ミュアはそう言うと「は~い」と返事をして美しい銀髪を靡かせながら扉に向かって行った。その様子を二人は黙って見守っている。


「失礼、ここにララシーク殿が居られるはずだが?」


 扉の向こう側にいたのは、背中に翼を生やした獣人だった。


「ん? この声……」


 ララシークは小声でそう呟くと、目を細めて確認するように扉に立つ人物を見つめる。


「あ、はい。えっと……」


 ミュアは身体を横に避けて、その人物の視界にララシークが入るようにした。


「ほう、これはまた珍しい客だぜ。まさかかの有名な《雷侯》のバリドさんが、こんな一民家に足をお運びされるとは」


 ララシークの嫌味たっぷりなその言葉に、バリドは恐縮したように肩を竦める。


「よして下さい。私など、あなたに比べればまだ小僧同然。今の地位を得たのも、あなたが鍛えて下さったからではありませんか」


 ミュアはアノールドの近くに行くと、相手が誰かを尋ねる。


「あの人は《三獣士》の一人、《雷侯》の二つ名を持つバリド様だ」

「さ、さささ《三獣士》!? そ、それじゃとっても偉い人なんだよね!」

「少女よ、何を驚いているのだ? そこに居られる方のほうが明らかに偉人なのだぞ?」


 ミュアはバリドの言葉には驚きは無かった。

 ララシークが獣人たちにとって、どれほど貢献したのか知っているからだ。何と言っても《化装術》を編み出した功績は、獣人の歴史上最も偉大なものだと称えられている。


「だからこそ、このような矮小な場所などではなく、もっとあなたに相応しい住まいを提供したのですが。どんな名誉や地位もお受け取りにはならないなど、今も私は納得できておりませんよ?」

「フン、何でお前に納得してもらわねばならねえんだ? ワタシはここが気に入っている。ジャラジャラした宝石や誰もが羨む名誉や地位など、腹の足しにもならねえじゃねえか」

「あ、酒なら受け取るんでしょ?」

「当然だろ」


 アノールドの言葉にあっさりと頷きながら漬物を口へと運び、グビグビと酒を煽るララシーク。

 やはりどことなくこの人は日色に似ているとアノールドは苦笑する。特に自分の欲望に忠実なところが。


「つうかそんな話をしに来たのかバリド? というか今は戦争してんだろ? どうした、負けたのか?」


 淡々と他人事のように言う彼女を見てバリドは溜め息を吐く。


「……実はその戦争のことでお話が。今国王様が城へとご帰還なさっております」

「……は? おいおい、ホントに戦争に負けたってのか?」


 そうでなければこの戦争時に、国王が帰って来るとは思えなかった。無論勝ちを収めたのであれば、もっと大々的に帰国の知らせが街中に出回るはずだ。


「いえ、負けてはおりません……まだ」

「まだ? ……『人間族』と手を組んだ割には旗色が悪いということか?」

「旗色が悪いだけなら良いのですが、冷静に分析して、今のままでは確実に敗北します。いえ、一度は敗走しているのですが」


 バリドの言葉には正直に驚いたのかララシークは目を見張っている。


「手を組んでも敗走……したってのか? 魔界まで攻め込んで?」


 バリドは苦笑いを浮かべながら口を動かす。


「はい。とてつもないイレギュラーが現れて、誰もかれもがその者に翻弄されました」

「その者? おいおい、まさかたった一人に戦場をかき回された挙句、敗走まで追い込まれたって言わねえよな?」

「……その通りです」


 その場で時間が止まったかのように沈黙が漂う。アノールドも、話を聞いて吃驚していた。有利だったはずの戦争が、たった一人の人物によって覆されたと知れば、誰だって疑わしくなるというものだ。

 しかしバリドの表情を見ると、とても冗談や誇張で言っているとは思えない。彼が真実を述べているということは、この場にいる者は全員把握していた。


「ふ~ん、それで? ヤバくなったから手を貸せって言いにでも来たか?」

「…………」

「……はぁ、あのなバリド、ワタシがこんなふうに戦争に利用されるのは嫌いだって知ってるだろうが」

「それは認識しております」

「ならどれだけ頼まれようが、答えは変わらねえってことは分かるよな?」

「はい。ですが一度国王様はあなたと対話をされたいとお望みです」

「嫌だね、めんどくせえ」


 国王の要請にめんどくせえで断るララシークに、さすがのアノールドも冷や冷やものだった。


「今回、戦争は思わぬ方向へと動いております。他ならぬそのイレギュラーによってです」

「ナハハ、お前らがそこまで慌てるとは、大したものだなその人物は」


 楽しそうに笑みを浮かべる彼女に少しムッとなるバリド。


「何がおかしいのですか?」

「上には上がいるってことだ。《化装術》を手に入れて浮かれてたようだが、今回でそれが分かったんじゃねえか? たとえ力を持ってても、それが通じねえ相手だって存在しやがる」

「それは……」

「ワタシが何のために《化装術》を編み出したと思ってんだ? 戦争をするためじゃねえ」

「……それは分かっておりますが」

「分かってねえな。力を手にして浮かれ切ったお前らは最初何て言ったか覚えているか?」

「…………」

「これで『魔人族』と『人間族』を倒せるって言ったんだ」


 事実なのかバリドは反論しない。


「だからワタシは武術指南役を降りて、お前らのもとを離れた。簡単に言や愛想を尽かしたってとこだな」

「わ、分かっております……ですがどうか、今回ばかりは国王様のお話をお聞き下さい!」


 するとバリドは丁寧に頭を下げる。国のトップクラスに位置する《三獣士》のリーダーであるバリドが簡単に頭を下げるとは、見ているこっちが委縮してしまうとアノールドとミュアはソワソワする。


「……帰りなバリド」


 それでも冷ややかに言葉をぶつける。


「ララシーク様!」

「お前らが起こした戦争だ。勝つも負けるもケツは自分たちで持ちな」

「くっ……」


 これ以上何を言っても無駄だと判断したのか、歯を噛み締めながら三人に背を向ける。出て行こうとしている彼を見て一言ララシークが言葉を発する。


「そういや、一応聞かせろ。そのイレギュラーな奴ってどんな奴なんだ?」

「……分かりません。ただ規格外な存在ということだけは分かっております。奇妙な魔法を使う『人間族』です」

「ほう、『人間族』が『魔人族』の味方か。それはまた奇怪な事態が起こってるな。それよりも奇妙な魔法?」

「変化、治癒、爆発など系統の分からない魔法を使います」


 バリドの言葉に、ピクッと反応するのはアノールドとミュアだ。


「国王様の攻撃にも無傷で耐える光の壁を生み出し、橋を一気に破壊し、空も飛びます」

「お、おいおい、そいつはホントに人間か?」


 ララシークは冗談のような話に頬を引き攣らせている。だがアノールドは、


(ま、まさか……)


 自分の中に出てきた答えに、思わず身体が熱くなっていく。


「見た目は人間です。国王様から聞いたのは、黒髪で黒目、眼鏡をかけて赤ローブを羽織った人物だと」


(ヒイロだっ!?)


 アノールドは心の中で叫んだ。そして隣にいるミュアの表情も自分と同じ答えに導かれたのか、驚愕に歪められていた。

 そして互いに確かめ合うように視線を合わせる。


「あ、あと物凄く横柄な態度の少年だと」


(決まったぁぁぁっ!)


 二人は心の中で確信した。彼が言うイレギュラーな存在が、自分たちの知っているヒイロ・オカムラであるということを。


「横柄? 赤ローブ? ん? ちょっと……待てよ?」


 ララシークもハッとなって二人の顔を見る。そして三人は目を合わせると、コクリと頷き合う。それが答え合わせだった。


「情報はこれくらいです。では私はこれで……」


 落胆しながら扉を開けたその時、


「待てバリド」


 ララシークからの声がかかり、バリドは足を止める。


「な、何か?」


 何故急に足を止めさせたのか分からずキョトンとなって尋ねる。

 すると彼女はニヤッと口角を上げると――。


「少し気が変わった。王に会わせろバリド」


 





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