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「なろうラジオ大賞4」のための物語

今日から、星座になりました。(オリジナル版)

作者: ヤギマルケイト

(はじめに)


「第4回 小説家になろうラジオ大賞」参加用に書かれた同タイトル超短編の、1000文字化される前のオリジナル版です。


2分で読むことはできませんが、よろしければお楽しみください。




 今日から、星座になりました。



          ☆



 変革は唐突に訪れる。

 それは、突然やってきた。



「──というわけで晴川(はるかわ)春佳(はるか)さん。あなたは今日から星座になりました」


 「というわけで」の意味が判らない。


 実に平和すぎるほど平和な、とある日曜の昼下り。

 特にこれといってやることもないので、親友のモモコと映画にでも行こうか、なんて思ってた私の目の前に、彼らは予告もなしに現れた。


 彼らは誰なのか。


 いや聞かれたって困る。

 知らない。

 見たことも会ったこともない顔だ。確かナントカ委員会の者です、みたいに名乗ってたはずだけど、聞いたこともない名前だった。


 だけどひとつだけ。一目ではっきりと、判ったことがある。


 人間じゃない。


 人間っぽい顔をしては一応いる。

 でも……何というか、うまく表現できないんだけど、1人は人間の顔とネコか何かの顔が混じったような、1人は魚が混じったような、1人は虫っぽいものが混じったような──

 とにかく人間の顔じゃない。人間の造形をしていない。何か、どこかが違う。


 人間じゃない、というよりは「地球人じゃない」というのが正解かもしれない。

 例えるならば、スターなんちゃらみたいなSF映画に出てくる人間っぽい宇宙人みたいな、あるいは悪の侵略宇宙人が人間に化けようとしてイマイチうまくいってないみたいな、そんな感じ。


 だけど。

 人間じゃないとかこの際どうでもよかった。


 それ以上に、言ってることが判らない。



「……星座?」

 私は聞き返す。


「はい」

「星座って何?」

「星座は星座です」

 代表らしきネコ星人がにこやかに答える。


「星座って空にある?」

「はい」

「星の?」

「はい」

「やぎ座とかさそり座とか」

「はい」

「それに……なった?」

「はい」

「私が?」

「はい」


 わけが判らない。


「ご理解いただけましたでしょうか」

「いただけるわけないでしょうがっ」

 思わず声を上げる。当然だと思う。


 まったくもって意味が判らない。

 どういうこと?


「何が何っ?何なの?何がどういうこと?どうなってんのよっ」

「えぇですから、たった今ご説明致しました通り……」

「……ゴメン。もう1回お願いできるかな」

「はぁ。では出来るだけシンプルに、ざっくりと説明致しますと」

「ホントそれでお願い」

「この度コスモスクエア・ネキタスにて開催されましたデアバウフ・ゼンロコ会議におきまして、メーヨゴ・トキップラタ機関によるシゥナン宣言が行われました結果、グルカトコロイロ条約の第12076条14項、アギュ星系ならびにオレズニアンにおけるフリムベㇲ規定についての見直しが行われる運びとなりまして、我がオトトココ委員会と致しましてはクグルのオィフラービュ機構との綿密な協議を行いまして──」


 ちょっと何言ってるか判らない。


 人間の言葉をしゃべっていただけませんか。



 以降、同じようなやりとりは何度か繰り返したのだけど……結局何回説明されても、彼らの言っていることは1ミリも理解できなかった。

 自慢じゃないが、私はポン酢のポンがどういう意味なのかさえ、未だ何度説明されてもよく判らないような人間なのだ。こんな何が何だかな代物、もはや異次元の物語である。


 とりあえず。

 かなりざっくり把握したところによると、彼らはやはりこの星の人間ではないらしい。たぶんどっかからきた宇宙人か何か。


 で宇宙のどこかで、何やら偉い人たちがややこしい話で何かしらの決定をした結果……

 私、晴川春佳が星座になりました、と。

 なるほどね。


 ………………


 なわけあるかい。


 なるほどじゃないっての。全然まったく意味が判らないんですけど。

 なぜ?

 何が?どうして?どうなって?

 星座って何?


 しかもだ。100歩譲ってそれら全部を理解できたとして、せめてそういうのは普通、本人の了承をちゃんと得てから行うのが礼儀って奴なんじゃなかろうか。地球だろうが宇宙だろうが。

 「あなたは星座になりますけどよろしいでしょうか?」でしょ普通。「あなたは星座になりました」って完全なる事後報告。私の人権とかどうなってんだ。一切無視かい。

 どうなってんだ宇宙の常識は。


 わけが判らない。


 もう何が何だか。さっぱりなのだが……何度何をどう尋ねたところでたぶんこれ以上の答えが返ってはこないだろう、ってこともよく判ってしまった。

 まったくわけが判らないが、

 受け入れるしかないらしい。


 私は、今日から星座になりました。



「……で?」

 問いかける私に、彼らは不思議そうな顔で答える。

「で?とは?」

「私に何をどうしろと?」

 何かとんでもない事態に巻き込まれたらしい私の人生はいったいどうなるのか、と思ったりしたわけなのだけれど、


「いえ。特には」

 しれっとそう言われる。

「我々はあくまでも、ご報告にうかがったまでですので」


 私が星座になりました。

 それを当人に伝えに来ただけで、星座になったから、これから私が何かしなくちゃいけないとか、そういうことではないらしい。

 あくまでも報告。

 ご連絡。


 本人の許可も取らずに勝手に星座なんかにしてるくせに、ちゃんとしてるんだかしてないんだか。

 ホントどうなってんだ宇宙の常識は。



 ──結局、狐につままれたような顔の私を残したまま、彼らは去っていった。


 わけが判らない。

 ひとつも納得できていない。


 でも……とにかく。

 こうして私──晴川春佳は、星座になった。


          ☆


 その日から、私の日常は一変した。


 ……なんて言おうかと思っていたのだけど。

 そういうのがよくある話なのかと思ったんだけど、全然そんなことはなかった。


 私の日常は大して変わらなかった。

 いつもと同じ。

 今まで通りだ。


 ただ、本や何かで星座について見てみると、白鳥座だとかオリオン座だとか、よくある見慣れた星座と並んで、しれっと「晴川春佳座」なる謎の星座が載っている。


 ちゃんと解説もされてる。何月くらいのどっちの空のどの辺にこんな感じで、みたいに。

 されたところでさっぱりなのだけど。

 星に詳しい人ならちゃんと判るんだろうか。正直私はそっち方面の知識がまるでないので、結局未だにどこにあるんだか理解できていない。

 星なんて月以外、全部同じに見えないか。


 晴川春佳にも認識されていない晴川春佳座って何だそりゃいったい。


 図解とか載ってる。

 星と星とをつないだ線の上に私の顔が重なって。

 おっ、確かに私にそっくり。

 ……なんてことはもちろんない。

 ただの線じゃん。

 誰でもいいんじゃないかな、これ。



 宇宙人ものの映画なんかでよくある記憶操作、みたいなことが行われたんだろうか。こんな世にもおかしな代物がある日突然出現しているってのに、誰一人としてそれを疑問に思っていたりはしないようだった。

 大昔から存在していたことになっているらしい。

 何だ大昔って。

 私まだ生まれて十数年しか経ってないはずなんだけど。


 しかも何だか、12星座という奴の仲間に組み込まれたらしい。占いとかに使われるあれだ。ありがたいのかありがたくないのか。

 現在の常識では「晴川春佳座」を加えて13星座、ということになる。

 確か13個目って昔なかったっけ。何座だったかな?あれはもう忘れていいんだろうか。


 かに座としし座の間に、ムリヤリねじ込まれている。

 獅子をはさんで乙女と晴川春佳の三角関係、なんてモモコが言っていた。

 余計なお世話である。

 とんでもないライバルが出来てしまった。

 別に超肉食系が好みのタイプってわけでもないんだけどな。


 夏の星座ってことになる。

 名前は晴川春佳なのに。


 ちなみに私はと言えば1月生まれなので、残念ながら晴川春佳座ではなく、やぎ座である。冬生まれだけど春のような暖かい人間になるように、と両親が名づけてくれたと聞いた。


 結果、「晴川春佳座」なのに夏の星座で、当の晴川春佳はやぎ座──という実にややこしい状況になっている。

 何なんだろうこれ。



 子供向けの星の本を見ていたら、星座の成り立ちというか元ネタというか、元となるお話みたいなものが書かれた一角に、ちゃんと晴川春佳座も載っていた。

 特に盛り上がることもない私のここまでの人生が、物語として書いてある。小学生の頃の学芸会で桃太郎のキジ役をやったなんて誰が読んでて楽しいんだ、こんな話。

 隣のページを見るとギリシャ神話とか書いてあるので、いよいよわけが判らない。これを読まされる子供にも何だか申し訳ない気分になってくる。


 もっとも、それを不思議に思っているのはどうやら私だけらしい。モモコに言わせれば、一般人の目から見れば、晴川春佳もヘラクレスも似たようなもので、大して変わらないそうである。

 それは構わないけど、何でそこで怪力大男と並べるかな私を。

 せめて女神とかにしてほしい。



 私が、晴川春佳座の晴川春佳だ、ということはとりあえず認知されているようだ。

 家族も近所の人も、学校のみんなもちゃんと知っている。……まぁそれに関しては、何かと周りにしゃべりたがる親友を持ってしまったせいもあるような気もするけど。


 けれど、だから特に何というわけでもない。

 ちょっと名前が有名な星座のあの人、くらいの認識だろうか。まぁ実際、特に何をやっているわけでもないので仕方ないが。

 友達にたまにいじられる程度だ。

 この前、映画を見に行ったらモモコは「高校生1枚と星座1枚」って言ってた。

 相手はきょとんとしていた。

 無駄な混乱を招くんじゃないっての。


 そんなわけだから、すっかり世界の有名人になった私は、連日テレビや何かに引っ張りだこで忙しい毎日を──ということももちろんなかった。

 平和なものである。

 昔から当たり前のように世の中に存在することになっているものだから、今さら特に珍しくも何ともないらしい。


 天文関係の本なんかには、たまにコメントを求められたりはする。正直そっち方面の知識はさっぱりなので一苦労だ。

 完成した記事を見ると、ほぼ笑ってごまかした程度のものが、何かいい感じに語ったようにうまい具合に書かれていたりして驚く。

 記者ってスゴいな。


 町を歩いていて人だかりが出来たり、とかいうことも特にはない。

 そもそも有名なのは私の名前であって顔ではないので、見てもほとんど気づくことはないのだ。

 本人だと判るとビックリはするようである。


 たまにだけど、サインだとか握手だとか、求められることもなくはない。

 とりあえず悪い気はしないので快く応じるようにはしている。列を作って並ぶような大騒ぎにはまずならないし。

 もちろんサインなんて書いたこともないので、適当に自分の名前を書く。

 もらった人は、とりあえず喜んではくれているみたいでホッとしている。

 星座のサインって何だろう。


 もちろん、逆に命を狙われたりとかもない。

 あったら困る。冗談じゃない。

 まぁ、とりあえず今のところ無事に生きているので大丈夫なんだと思う。私なんか狙ったところで何になるわけでもなかろうし。

 モモコがたまにボディガードっぽい顔でニヤリと笑うけど、たぶん彼女のおかげではないと思われる。



 星座になってよかったことを一つ挙げるとするならば、名前の話だろうか。


 これまで、電話口なんかで名前を伝えるのがわりと大変だった。

 ハルカワハルカ、だけど名字は晴で名前は春で、佳の字もまた説明しなきゃいけない。案外いちいち面倒だったりはしていたのだ。

 今では「晴川春佳座の晴川春佳です」でほぼ一発で通じるようになった。

 大抵の場合は同姓同名だと思われているようだ。

 当人と判明するとわりと驚かれる。



 ──まぁ要するにそんなこんなで。


 私の日常に言うほど大した変化はない。

 私は私のままである。


 ただ──

 何の変哲も特徴もなかった、ただの女子高生だったはずの私は、

 「晴川春佳座でおなじみの晴川春佳さん」になった。

 それは確かだった。


          ☆


 1年ちょっとが過ぎた。



 何か悪い夢でも見てるんじゃないか、どうせこんなの大して長続きするはずもない、ある日突然何事もなかったように元通りになって、全部ただの夢でしたよ、なんて言われるんじゃないか──なんて思っていたのだけど。

 何も変わらず来てしまった。

 今日も私は星座の人だ。


 ひょっとして……いやひょっとしなくても、これはもう変わることなく、ずっと続いていくんじゃなかろうか、なんて最近は思い始めている。

 私はこれから先もずっと、星座でおなじみ晴川春佳のままなのかもしれない。


 まぁ別に困っているわけではないし、誰かに文句を言いたいわけでもないのだけれど。

 というかそもそも誰に文句を言えばいいのかさっぱり判らないけど。

 てか文句言ったら何とかなるんだろうか。



 たまに考えることがある。


 この先もずっと、私が晴川春佳座の晴川春佳であるとして……


 たとえば結婚したとしたら、どうなるんだろう。

 星座の名前も変わるんだろうか。それとも星座は晴川春佳座のまま、私が星座でない名前になるのだろうか。


 たとえば……私がものすごい犯罪なんかを犯したとしたら、どうなるんだろう。

 星座や何かは全て抹消、みたいなことになるんだろうか。それとも、それはあくまでそれとして、星座は星座のまま語られ続けていくんだろうか。


 私が死んだ後は……どうなるんだろう。


 星座は残っていくのか。死んだ時はやっぱりニュースになったりするのかな。晴川春佳座で知られる晴川春佳さんが──みたいに。



 でも……考えたって仕方ない。

 どうなるか、なんて全然判らないし。

 たぶんなるようにしかならないんだろうし。


 これからも、私は私だ。

 晴川春佳なのだ。


 未だどこに見えるのかも今ひとつ把握していない、夜空にある──たぶんどこかにあるはずの自分の星座を見上げながら、生きていこうと思う。


 ホントどこにあるんだろう、私の星座。

 少しは勉強しなきゃダメかな。



 まぁ……でも判らないし。

 すべては明日、終わる話かもしれないしね。


 人生なんて突然、変わるのだ。

 よーく知ってる。


          ☆


 変革は唐突に訪れる。

 それは、突然やってきた。


「──というわけで晴川春佳さん。あなたは今日から十二支になりました」


 何がだ。


 わけが判らない。



 まったくもうホントに、

 どうなっているんだろう。私の人生は。







(作者よりもう一言)


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

というわけで。

オリジナル版をお送りいたしました。


いくらか長くはなってしまいましたが、その分、中身はより濃く詰まったものになったのではと思います。たぶん。


完成版との差異などもお楽しみいただければ、幸いです。

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