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22 少し変わった大きな犬

 次の日、ディアが目覚めるとソウレの姿はどこにもなかった……。


(って、普通はなるんじゃないのかなぁ?)


 予想を裏切り現実は、体格の良いソウレにがっちりと抱きつかれ、ベッドの上でディアは身動きが取れなかった。横を見ると、気持ちよさそうな顔でソウレが寝息を立てている。


(神様も眠るのね)


 獣耳とふわふわの尻尾があるせいか、それとも彼が神様だからなのか、どうもソウレを男性と意識できない。抱きつかれた状態でもディアは何も感じなかった。


(まぁいいわ。少し変わった大きな犬になつかれたと思っておこう)


 しばらくすると、ソウレが『うーん』といいながら、猫が伸びをするように身体を伸ばした。パチリと黄色の瞳が開かれる。


 --おはよう。我の愛おし子(いとおしご)


「アルディフィア様とかぶってるのでやめてください!」


 --もちろん、わざとだ。


「でしょうね……」


 この神様は女神アルディフィアに嫌がらせをすることを最大の喜びとしているようだ。ディアはため息をつきながらベッドから起き上がった。


「ソウレ様。そういえば、最後の力を使って時を巻き戻したアルディフィア様は、この世界からいなくなってしまったのでしょうか?」


 ソウレが獣のように低く唸る。


 --そうであれば良かったのだが、時を巻き戻した性悪女は消滅したが、巻き戻った先の性悪女はまだ存在している。


「じゃあ、アルディフィア様がいなくなったというわけではないのですね」


 --そうだ。ただ未来の自身が消滅したことにより、著しく弱っておるな。倒すなら今のうちだぞ。


 怪しい笑みを浮かべるソウレに、「どうして私が自国の女神様を倒すんですか」とディアはため息をついた。それより、ソウレがアーノルドを助けてくれないのなら、今の時間軸のアルディフィアに助けを求めたほうがいいのかもしれない。


「どうすればアルディフィア様に会えますか?」


 --やれやれ、つまらん。


 ソウレは大きな欠伸をした。


 --そうだな。お前が愛おし子(いとおしご)なら、性悪女に何か頼まれなかったか? 神の頼みを聞けば礼でも言いにお前の前に現れるかもな。


(私が頼まれたこと……?)


 天界に行ったときの記憶を必死に掘り起こす。


「えっと、確か王国の未来を救ってとか、天界を巻き込む厄災をどうにかしろとか?」


 --相変わらず勝手な奴らよ。自らの尻拭いを人の子にさせようなど、気に食わん。


「でも……」


 ディアは俯いた。


「このままだったら、アーノルドが邪神と契約して狂王になってしまう可能性が高いんです。だから、私が彼を助けないと……」


 ソウレはディアの顔を両手で挟んで、強制的に上を向かせた。


 --知っておるか? 人間という生き物は、たった一人に愛情を注がれれば生きていけるのだ。愛情を注ぐのは、親でも恋人でもペットでもいいし、なんなら己自身でも良い。お前の愛は確かにアーノルドに注がれておる。己を信じて、愛するものを信じよ。


 ディアの目尻に涙が浮かんだ。


「ソウレ様。今の、すごく、愛の神様っぽいです」


 --ぽいのではない。我こそが愛の神なのだ。ほれ、お前を導いた我に何か礼をせい。そうだ、お前がこの前食べていた良い香りのものを奉納しろ。それがいい。


 ソウレが太陽のように微笑むと鋭い犬歯が少しだけ見えた。




 朝食を終え、しばらくするとエイダが部屋にお茶とお菓子を運んできてくれた。ディアが「後から食べるから、置いておいて」と笑顔を伝えると、エイダも笑顔を浮かべ頭を下げて去っていく。


(さてと)


 ディアは空中にふよふよと浮いているソウレを見上げた。


「ソウレ様。お望み通りお茶とお菓子を奉納しますよ」


 --感心感心。さすがは我の愛おし子(いとおしご)


「そういう冗談は、やめてください」


 ディアが呆れているとソウレは楽しそうに笑う。


(本当に暇なのね、この神様……)


 ソウレは、クッキーをつまみ口の中に投げ入れている。


「ソウレ様。私、明日はエイダと街に買い物に行きたいんです」


 協力してくれるエイダに何かプレゼントをしたいし、たくさんの本を訳して書き写してくれたアーノルドにもお礼に何か送りたい。


「だから、今日中に帰ってもらえませんか?」


 ソウレの顔がパァと明るくなり、ふわふわの尻尾が激しく上下に揺れた。


 --我も行くぞ。


「本気ですか?」


 --本気だ。神はウソをつけない。


「え? そうなんですか?」


 --神だからな。ただし、ウソをつけない代わりに、わざと神にとって不都合な真実を伝えないことはあるがな。

 

(人と神様って根本的に違う生き物なのね。いや、神様を生き物って言っていいのかは分からないけど……)


 ディアが「まぁいいや。ソウレ様の姿は、他の人には見えないんですもんね。一緒に行きましょう」と伝えると、ソウレが犬のように飛びついてきてディアの頬をベロリと舐めた。


「ぎゃあ!?」


 悲鳴を聞きつけて部屋に駆け込んできたエイダに、ディアは「む、虫がいて……」と苦しい言い訳をした。そして、エイダが部屋に来てくれたついでに、「エイダ。明日、私と一緒にお買い物しない?」と誘った。

 

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