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48・付き合ってほしいの。

 豚の妖精レヴィエントと話をしながら、私はいつの間にか眠りに落ちていたらしい。翌朝目覚めると妖精さんの姿は無く、何故かテーブルの上に女神の神話の本が開かれたままの状態で置き去りにされていた。


「きっとレヴィエントね。それにしても、こんなにハッキリ読めるのに、他の誰にも見えないものだったなんて、気付かなかったわ。前にタキがこの本を読んでいたけれど、やっぱりこの部分は白紙にしか見えなかったのかしらね」


 そして今更この本の違和感に気が付いた。何も考えず、パラパラっとページを捲ると、本当に最初の二枚だけが白紙だった。私にはずっと、最初のページから文字がビッシリ書かれているように見えていて、白紙なんて無いはずだったのに。

 この最初のページを読み始める事で、この本の内容が変わってしまうという仕組みなのだろうか。とても白紙部分の四ページに書き切れる話ではなかったはずだ。

 途中から読み始める事が無いから、何とも言えないわ。

 まさか、無意識にスマホやタブレットの様にスクロールさせて読んでいたとか? いやいや、それは流石にありえないか。だって読み終えた時は、必ず最後のページになっているもの。

 レヴィエントが言うには、これは天界の文字で書かれているらしい。妖精界でも同じ文字を使い、だからこそ彼が昨日暇つぶしに手に取ったこの本の内容を知っていたのだ。

 試しに途中から読み始めてみると、その内容は皆が良く知る普通の神話だった。


「普通の本の上から、天界の文字で重ねて書き綴られたものだったのね。じゃあ、この文字は女神様が書いた文字という事? そんな貴重な物を、無造作にこんな所で保管していて大丈夫かしら? 誰にも分からないとは言え、ちょっと怖くなってきたわ」


 だからと言って、ここに宝物庫は無いし。誰も、古いだけの普通の神話の本を、盗んだりしないわよね。この事を知らなければ、そんなに価値のある本では無いもの。

 私は丁寧に元の場所に本を戻し、身支度を始めた。

 今日は午後から半日お休み。本当は、周辺のお店が休みの週末くらいは食堂もお休みにしたいのだけど、週末も働くお客様がそれは困るというので、時間を短縮してランチタイムだけは営業して、午後は休みという事で手を打ったのだ。今まで交替で休みを取る事はあったけれど、皆で休むというのは初めての試み。

 問題は宿のお客様だけど、当番制で私かチヨのどちらかが一人残って、接客する事にした。その代わりに当番の翌日は半日休み。休日よりも平日の方が忙しいのだから、まあそれも悪く無い。


 厨房に向かい、朝食の準備をしていると、レヴィエントが豚の姿でふよふよと飛んで来た。


「あら、お散歩にでも行っていたの? 今日の午後、ケビンの働く花農家さんの所へ直接行って、色々買ってくるわね」

「プギッ」


 可愛く返事をして、私の肩にポンと乗った。


「うふふ、可愛い」

「ラナさん、さっきから誰と話をしてるんです?」

「あ、おはよう、チヨ。私の肩に昨日話した妖精さんがとまっているのよ。今は光の玉じゃなくて、豚の姿なのだけど、見えない?」


 チヨは目を細めたり、ジーッと見つめたりしているけれど、やはり見る力は無いようだ。ぶんぶんと首を横に振って、溜息をついた。


「駄目です。シンとタキにも見えるのに、残念ですけど。ハア、私って、霊感とかまったく無いんですよ」


 するとレヴィエントはチヨの方へ飛んでいき、彼女のエプロンの下に入り込んで、風も無いのにふわりと浮かせて見せた。


「わ? 何? 何ですか今の?」

「チヨに自分の存在を示したかったみたいね。あなたのエプロンを浮かせたのは妖精さんよ。名前はレヴィエント。この宿の初代オーナーのお友達ですって」


 チヨはキョトンとして、先ほどレヴィエントが浮かせて見せた自分のエプロンを見ていた。


「へえー、妖精って長生きなんですねー。どうも、チヨです。えっと、どこにいるのかな? 私の目には見えませんが、よろしくお願いします」

「プギッ」

 

 このチヨの飲み込みの速さは相変わらずだ。

 チヨには聞こえていないけれど、レヴィエントはちゃんと返事をしているのよ。


「多分、よろしくって言ってるんだと思うわ」

「プギッ」


 宿泊のお客様に朝食を出し終わり、一人厨房で後片付けをしていると、リアム様が鍵を戻して出て行くのが見えた。

 休日だし、今日こそは夜にフレッド様も一緒に来るのかしら? きっと昨日のうちに私が二人の秘密を知ってしまった事、聞いているわよね。シン達には、私とリアム様達との間に何かあったと気取られないよう注意しなくてはいけないわね。

 

「おーっす、お、居るな」

「おはよう、ラナさん、チヨちゃん。あれから妖精は……戻って来たようだね」

「プギッ」


 シンとタキが出勤して来ると、レヴィエントは食堂内を飛び回るのを止め、私の肩にとまった。


「おはよう、シン、タキ。昨日妖精さんが私の部屋に来て、少しお話し出来たの。名前はレヴィエントよ」

「レヴィエント? 随分カッコいい名前なんだな。その可愛い姿には、レヴィの方が合ってるんじゃないか?」

「ああ、確かに。レヴィ、昨日は乱暴に捕まえたりしてごめんね」

「プギッ」


 二人はすっかりレヴィと呼ぶ事にしたらしい。本人も嫌がっていないし、構わないのかな? 私も豚の姿の時は、レヴィと呼ばせてもらおうかしら。さすがに、あの本物の姿を見せられた時には、気安くレヴィなんて呼べそうにないけれど。


「あ、そうだわ。今日の午後、何の予定も無ければシンかタキにお願いがあるの」

「何だ? 別に用事は無いぞ」

「僕は今日当番だから、洗濯したり掃除したり、色々やる事はあるけど、何か人手が必要なら、別に構わないよ」

「ううん、ならタキは家の事を優先してね。シンは何も無いなら、ちょっと付き合ってほしいのだけど」


 花を買いに行くにしても、一人で持ち帰る事のできる量はたかが知れている。大きな観葉植物は、勿論配達を頼む事になるけど、なるべく早く部屋に緑を増やしたい。


「おう、構わないぞ。買い物か? 俺に荷物持ちさせるつもりだろ?」

「ふふ、勘が良いわね。花を買いに行きたいの。市場じゃなく、ケビンの花農家へね。観葉植物も欲しいから、そっちは馬車を使って王都を出る事になるし、ちょっと遠いけど、良い?」

「フッ、何遠慮してんだ? 良いに決まってるだろ。逆に、そんな所一人でなんて行かせられるかよ」


 シンは笑って、快く引き受けてくれた。折角の半休なのに、ちょっと申し訳ない気もするけれど、シンならきっと、良いって言ってくれると思っていた。

 その時に、シンに何かお礼ができないかしら? 

 

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