第五話
こうして取り巻き二人は、三姉妹に連絡を取った。震える声で、急報する。
「お、お姉様が、吉田春吉の車に、の、の、乗りました」
「なんですって!?」
親衛隊員の報告に、三女は直ぐに次女に連絡を取った。姫様、反社会的組織に拉致の凶報に、次女が瞬時に長女に連絡を取ったのは言うまでもない。
事態を認識した三姉妹の行動は早かった。緊急事態に協議を簡単に済まし、実際の行動に移る。電話をかける。
長女は、祖父が代議士、父が地元市長であり、
次女は、祖父が警察庁長官、父が地元警察署長であり、
三女は、祖父が会計監査法人CEO、父が地元税務署長と、肉親に有力者を持っていた。
「わたし、おおきくなったら、パパの、およめさんになる」
そんな風に、よく抱きつかれた。父にとって、娘との最高の時間だった。
だが、それも遠い昔。今や娘達は思春期の、お年頃。
「一緒に洗濯しないで」
と洗濯物を分別される毎日。近親相姦を防ぐための、生物学的な嫌悪だとしても、それは父には悲しすぎた。パパよめの頃の、娘の写真を眺める日々。写真では娘が自分に、ギュウギュウに、くっ付いている。自分の頬が娘の頬に潰されている。ゼロ距離以上の、マイナス距離。渾身の頬擦りだ。娘は満面の笑みだ。本当に幸せそうだ。そんな笑顔を最近は見た記憶がない。ため息が漏れる。
それが今日はどうだ。
「パパ、来てくれて、ありがとう」
娘から電話があって急に呼び出され、いきなり前から抱きつかれた。懐かしい娘の匂いと感触。自分の胸の中に娘がいるとの認識に、父の涙腺が緩む。
「パパの胸の中、懐かしい」
娘の安心したような、ほっこりした声に、父の嬉し涙は抑え切れそうになかった。
「それでね。パパ、少しお願いがあるんだけど」
胸の中の娘が、自分を見上げる。上目遣いの潤んだ瞳に、自分がはっきりと映っている。
なんて、キレイに育ったんだ。
見蕩れてしまう。背筋を突き抜けるような、活力が湧いてくる。
お願い? 何でも聞いてやる。全身全霊を尽くして応えてやる。
「良いかなあ?」
娘が人差し指で自分の胸をグリグリして来る。甘えた仕草に、全身に精力が漲る。
娘の願いを叶える。父はそれが、自分の生まれ来た使命であるとさえ思った。