表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/44

後の聖女は善行を積む

12/3のお昼に!!

pixivコミックで「悪役令嬢の中の人」コミカライズの2回目更新があるので宣伝に番外編の更新ですぞ!


悪役令嬢の中の人〜断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします〜 https://comic.pixiv.net/works/7926



 


「レミリアさん、ありがとうございます……! 報酬もろくにお渡しできないのに依頼を引き受けていただいて、貴女はこの村の救世主です! やはり、せめてこのペンダントを……」

「そんな! 欲しい素材のついでですもの、ほんとにそんなお礼なんて……大丈夫ですから!」


 少し慌てたそぶりで、手も顔を小さく横に振って報酬を辞退して見せる。

 エミはきっとこの貧しい村の事情を知っていたら何も受け取ったりしない。だから私も同じように振舞う、「泊まる部屋と食事を用意してくださって、それでわたくしは十分助かりましたから」と、それがお礼でいいと言外に語って。

 村長の妻の形見だと言う古い宝石をもらうよりも、恩を着せて評判を広めさせる事にしたのだ。エミの記憶にあった、この世界を描いた「ゲーム」の中でもこの依頼はイベントになっていた。


 錬金窯の強化をするために必要な素材である鉱石を採掘しに来ると、近くの村が魔物の被害に困っている。山での採掘のついでだからと、主人公一団は山に巣くった魔物の討伐を引き受ける。エミの世界の「ゲーム」によくあるおつかいイベントというやつだった。

 最初に提示された報酬はとても低いのだが、依頼を達成すると「これを足しにして欲しい」と古いペンダントをもらえる。一見古い、表面の曇った質の悪い宝石にしか見えないが、実は珍しい石で後ほど好事家にとても高く売れるのだ。

 ストーリーの本筋には関わらないから、鉱石だけ採掘して、村からの依頼は受けなくてもクリアは出来るのだが。わたくしが領主を務める村の越冬資金にしようと狙ってこの村の近くの依頼を受けたのに、当てが外れてしまったわ。


 ゲームの中ではそんな話出てこなかったのに。あのペンダントが遺品だなんて聞いてないわ。そんなの受け取る訳にいかないじゃないの。だって、エミはとっても優しい子だからそれを知ってたら絶対に辞退するでしょう?

 わたくしはエミと違って性格が悪いから、「このレミリアという冒険者は人が良さそうだから報酬を値切れないか」と思って画策しているのでは、と疑っているのだが。「エミのレミリア」はそんな事考えないから、わたくしもおくびにも出さない。

 そんな大切なものをもらう訳にはいかないと遠慮して、あちらにも負い目を感じさせないように「その代わりにまたこちらに依頼で来たときは泊めていただけると嬉しいです」とだけ答える。


 エミだったらきっとこう言う、こう振舞う、と完璧に推測して「こちらも、本来の目的だった欲しかった鉱石を手に入れましたから。魔物も貴重な素材になるので、損なんてしていないのですよ」と裏表を一切感じさせず、太陽みたいに笑って見せた。

 まぁ、この鉱石の他はここでしか手に入らない素材なんて無いから、二度と来ないと思うけど。


 依頼のついでに立ち寄ったので実際損はしていない。あの魔物も解体して、使う部位は確保して残りを売却すれば利益が出るし。

 手に入るつもりでいた収入がなくなったのはもうあれこれ考えても仕方がないわ。また何か別の手段を考えましょう。


 予定より少し早いけど、ゲームでは仲間になる、少年暗殺者の所属している犯罪組織を潰そうかしら。あそこのボスが貯め込んでる資金を丸ごといただけば村の運営資金が大分潤う。

 いや、ダメだ……まだ時期が早い。組織から、少年に対しての人質にされている妹が体調を崩すのは冬の終わりだったはず。それから助けるため、まだ手を出すわけにはいかないのに。最良の計画が少し崩れたからって、焦りすぎてしまったようね。

 実はこれ、腕の良い暗殺者である少年を言いなりにするために組織が毒を盛っているのだけど。解毒薬を「この病気の特効薬で、この組織のお抱え薬師しか作れない」と言って渡しているの。


 少年は妹のために、犯罪に手を染めていく。妹には「酒場の用心棒のバイトをしている」と偽って夜に外出しているのだったっけ。

 本人達も知らない事だが、薄いけど彼らには魔族の血が流れている。少年の魔力は人間並みだが、身体能力が高くて夜目が利くのはこのため。まぁ、この辺の事情はどうでもいいわ。

 何の見返りもなく命を救った後はわたくしの村に迎え入れる予定。彼らは「レミリア」に何をしてもらったか、どれ程感謝してるか聞かれなくても広めてくれるだろうし、単純に村での貴重な戦力にもなるから。


 この件についての細かい話は先で考えればいいだろう。今は村の運営資金についてだ。冬になれば暖をとるための燃料がどうしても必要になる。しかしあの開拓村の近辺には薪に出来るような森は無い。防寒着も足りない。外部から薪と中古の衣類を買い付ける資金にしたかったのだが……資金難を理由に領主邸に村人全員を集めてひと冬しのごうか。他人と数カ月一つ屋根の下で過ごすなんて本当はごめんだが、死なせる訳にはいかない。


 エミはなるべく全員が、最大限幸せになるようにと常に考えていた。資金難を仕方がないと言わずに「お金や薪がなくても皆が温かく冬を過ごすには」と思える子だから。わたくしも同じように、同じ視点で考えないと。

 暖はとれるけど人口密度が高くなるから感染症には注意を払う必要があるわね。薬は今あるもので足りるかしら。ああ、そう考えると別の心配が出てくるのか……悩ましい。


 薪よりうんと安く暖房をまかなえる手段があればいいのだが。……エミの世界の知識で何か出来ないだろうか? 上手くいけば新しい魔道具としても販売できる。魔道具の暖房は一応存在するが、火災の心配が無いものを作れれば間違いなく需要がある。高くても買い手は必ず付く。


 凍死でも感染症でも、わたくしの判断で一人でも死者を出すわけにはいかない。エミは絶対そんな事しない。間違わないように最善の道を選ばないと。

 とりあえず、魔道具を考えてみようか。村の人達が一冬暖かく過ごすために。しばらく睡眠時間を少し削って、「エアコン」が再現できないか試行錯誤してみましょう。出来たら暑さにも使えるものを作りたいわ、その方が評判になるから。


 依頼した魔物を討伐してくれたせめてものお礼に、と貧しい村ながらも精一杯の歓待として晩餐を用意したらしい。村長の幼い孫に招待されたわたくしは、彼女と視線を合わせるように地面に屈むと「嬉しいわ。ぜひ晩御飯にお邪魔させてください」と一番美しく見える笑顔でそう答えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] レミリアたんがエミ最推しなとこ。復讐のエグいとこしつこいとこ最高おぶ最高……!!! 美しすぎる悪役令嬢の拷問姿素敵ぃ…高いところから落としたあと踏んでいただきたいけど私にはご褒美でしか無い…
[良い点] 全体的にテンポが良かった。 スカッとした [気になる点] 一つの文章が長いため読みづらい [一言] 最後まで読みましたが面白かったです。 漫画も見ましたが内容もでしたが特に顔芸が面白かった…
[一言] コミカライズ第三話前編読んできました。 エミの表紙の笑顔に泣きたくなりました… 絵のうまい作家さんにコミカライズしてもらえて良かった~ 眼福です! また一話から読んできます〜!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ
OSZAR »