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誤字報告ありがとうございます!

 再び座り直したイルヴィスは、締まりのない空気を変えるように咳ばらいをした。



「ひとまず、私はこれからアマリアと呼ばせていただきますね」

「は、はい!……イルヴィス様に名前を呼ばれるなんて、少し変な感じがします」

「すぐに慣れますよ」



 今まで婚約者にしかそう呼ばれたことがないせいか、イルヴィスの品位のある低音に紡がれる自分の名前が一等特別に聞こえた。


 いや。イルヴィスの様子からはとても信じられないが、もし女嫌いの噂が本当なら、彼から呼び捨てにされるのは本当に特別なことだろう。今の姿からはとても女嫌いには思えないが。



「さて、お互いの緊張もほぐれたころでしょうし……そろそろ本題に入りましょうか」

「え、イルヴィス様も緊張してたんですか?」

「ほら、ご両親に問い詰められる前に、先に話を合わせた方が良いかと思いまして」

「清々しいほどの無視ですね。おっしゃる通りですけど」

「そうでしょう?だからこんな早朝にやってきたわけですが……貴女が二日酔いになる可能性を失念していました」



 そう言ってイルヴィスは柳眉を下げて申し訳なさそうな顔をした。……こんなことをしているから、女性に勘違いされるのではないか。



「飲み過ぎは自業自得です。それに、イルヴィス様はきちんと私を家に送ってくださったではありませんか。感謝はあっても不満など、一つとしてありません」



 強いていえば、何かとごり押ししようとするのをやめて欲しい。困ったら顔でなんでも押し通せると思っているのだろうか。その考えは間違ってないが。



「貴女にそう言っていただけると心が軽くなります」

「それで、どう合わせるつもりですか?確かに公爵という身分で私の両親を一時的に黙らせられますが、たぶん信じてませんよ」

「そうでしょうね。だからたくさんデートをしましょう」

「急に知能指数を下げるのやめてもらっていいですか」



 とても真剣な顔をしているせいで思わず頷きかけてしまったではないか。



「誰でも思いつく簡単な方法こそ一番有効だと思いますがね。考えてみてください。例えば私たちはろくに会ってもいないのに、お互いを愛していると言ったところでご両親が信じると思いますか?」

「信じないでしょうけど、そんな堂々と何度もデートをしていたら噂になります!昨夜も言いましたが、大ごとになってしまいますよ!?」



 昨日は半分冗談だと思っていた。だって、まさか本当に初対面の女にここまでしてくれるとは思わなかったのだ。



「大ごとになった方が好都合です。はぁ、貴女がそんなに鈍感だとは思いませんでしたよ……」

「なぜ今私が呆れられたんです……?」

「いいですか、面倒事は私が全部何とかします。アマリアは私と仲良くなることだけに集中してください」

「それは、」

「しばらくはご両親に何を聞かれても誤魔化してください。本当はもっと詳しくお話をする予定でしたが、もういいです。まずは仲良くなりましょう」



 再び距離を縮められたかと思えば、まるで逃がさないとでもいうように手を掴まれる。そして私が驚く暇もなく早口でまくし立てると、これ見よがしにと大きなため息をつかれた。

 肝心の私は完全に置いてけぼりである。



「おや……これは失礼しました」



 ひととおり話して落ち着いたのか、イルヴィスは私たちの距離がとても近いことに気づいたようだ。すぐに離れてくれたが、私たちの間に流れる空気が少し気まずい。



「この後、さっそく貴方と出かけるつもりでしたが、やめておきましょう。隠してるようですが、顔色、悪いですよ」

「そんなに分かりやすかったですか?」

「いえ、さっき気付きました。……その、急に詰め寄ってすみませんでした。嫌な気持ちにさせましたね」



 言われてみれば、私は驚いただけで嫌だという気持ちはなかった。イケメンはこんなところでも得をするのか。



「いえ、全然不快な気持ちはありませんでした。ですがイルヴィス様の言う通り、体調が良くないのは確かです」



 吐き気はだいぶ収まったが、頭痛は一向に収まる気配がない。こんな体調で外に出たら、何も楽しめないどころかイルヴィスに迷惑をかけてしまうだろう。



「そうですか!分かりました。明日また伺いますので、今日はこれで失礼しますね」

「分かりました。ですが、お見送りはさせてください」



 外出を断られたというのに、イルヴィスはちょっと嬉しそうだった。



 まあ、あの気まずい空気のまま別れるよりはマシだろうと考えた私は、あまり気にとめなかった。



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