52.エピローグ
荘厳なパイプオルガンの音が高らかに鳴り響き、可愛らしいフラワーガールがヴァージンロードを進む。その後ろをブーケを持って続けば、一歩進むごとに頭がウエディングドレスのように真っ白になっていく。
分かってはいたが、神父のそばで控えている国王夫妻の存在感が強すぎるのだ。
緊張をほぐすためにイルヴィスとくだらない話をしたが、残念ながらあんまり効果はなかった。
雪のように白く輝くエンパイアラインのドレスは、国一番のシルクでできている。美しい模様のレースは有名なデザイナーの渾身の出来で、アクセサリーは伯爵家を売っても足りない値段だろう。
この日のために数か月前から鼻息の荒いメイドたちに手入れされた私は、信じられないくらいの美人になってしまった。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
そう言って壇上で微笑むイルヴィスは、いつにも増して光り輝いていた。
私のドレスと同じシルクが使われたタキシードをまとい、それに負けない艶を放つ銀髪が眩しい。アイスブルーの瞳は柔らかく細められ、その姿は絵本に登場する王子様そのものだった。
最前列に本物の王太子が座っているが、それとこれとは別である。それにイルヴィスの方が何倍もかっこいい。
「そうですね。では、先ほどルイが私を見て真っ赤になったときのことでも思い出して落ち着きます」
「アメリー、貴女さては意外と余裕がありますね?」
国王夫妻が祝辞を述べると、優しい笑みを浮かべた神父が厳かに式を進めた。
ふとヴェール越しにイルヴィスを見上げれば、視線が重なった。気恥ずかしさに目を逸らす間もなくイルヴィスが微笑み、それにつられて私も笑顔を浮かべた。
一年前の私は、まさかこんな日が来るとは夢にも思っていないだろう。
妹に婚約者を寝取られたかと思えば、女嫌いと有名なイルヴィス・ランベルト公爵に求婚された。あの時の私が聞いたら、「追い詰められすぎてとうとう幻覚でも見たのか」と思うだろう。
ヴェールをめくられる。
そっと目を閉じて誓いの口付けを交わせば、会場は大きな拍手に包まれた。今すぐヴェールを下ろして顔を隠したいくらいの恥ずかしさに襲われたが、それ以上に幸せだった。
よく見れば、イルヴィスの顔もわずかに赤い。そんな私の好奇の視線を逸らすように、イルヴィスは私に腕を差し出した。
「行きましょうか。お手をどうぞ?」
「まだその話引っ張るのですか?」
「もちろん。今回もご満足いただけましたか」
「ええ。文句なしの満点ですよ」
「それは良かった」
ブーケを投げれば、それは綺麗な弧を描いて令嬢たちのところへ向かった。しかし熾烈な奪い合いが行われてしまい、再び宙を舞ったブーケはなんとミラの胸元に収まった。
令嬢たちは不満そうにしていたが、流石にこの場で争うわけにもいかない。イルヴィスの一声で、みな会場を移動し始めた。
「いい式でしたね」
「それも今言うことではありませんね」
「幸せですね」
「……はい、私も幸せです」
独り言のつもりだったのに、イルヴィスに拾われた。
まだ今日は始まったばかりなのに、訳もなく涙が出そうになった。あの日、イルヴィスが愛している女性を羨んだ私はもういない。
私は今日から、イルヴィスとともに誰よりも幸せになるのだから。
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『聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します』
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