90ー3歳はまだ自由がない
おフクと手を繋いで食堂に行くと、両親がもう座っていた。
「ラウ、おはよう」
「おはよう」
「とうしゃま、かあしゃま、おはようごじゃいましゅ」
「ラウッ! 今朝も可愛いぞぉッ!」
シュンッと瞬間移動かと思う様な速さで、父が俺の側に来て抱き上げた。朝からテンションの高い父だ。
「とうしゃま、びっくりしましゅ」
「父様のお膝で食べようなッ! 父様が食べさせてあげよう!」
「ぼくはひとりで、しゅわりましゅ」
「ラウ、父様が嫌いなのか……!?」
「しょんなことはないれしゅ。けろ、じぶんれ、たべましゅ」
「あなた、朝から暑苦しいですわ」
「お、おう」
一刀両断だ。母って父には容赦ない時がある。なのに、仲が良いんだよな。
結構、俺の前でも平気でいちゃいちゃしている時もある。
例えば父が任務に出掛けて行く時だ。玄関ホールで堂々とハグしていたりする。
父が熱烈に求婚しただけの事はあるな、なんて思いながら俺はしれっと見ている。
きっとまだ3歳だから分からないだろうとか思っているのだろう。分かるっての。
だって、中身は3歳じゃないから。ぷぷぷ。
でも、仲が良いのは良い事だ。俺だって、前の時はアコレーシアと超仲良しだったからさ。
本当だよ、俺の思い込みなんかじゃなくて、仲が良かったんだ。
だって7歳の時に、毎日花を届けに通ったくらいなんだから。本当、おませな7歳児だったよ。
今回は3歳で、もう出会う。どうしよう。7歳の時みたいに毎日花を届けに行くか?
いや、3歳児にそれは無理がないか? 一人で外に出られないだろう? ふむ、どうしよう。と思いながら、まだ短い腕を組み片手をペトッと額につける。
「あら、ラウ。どうしたの?」
「あ、かあしゃま、なんれもないれしゅ」
「そう? 食べましょう」
「あい」
つい考える時のポーズをしてしまう。もうこれはクセになっている。俺用のチャイルドチェアに座りながらそんな事をしてしまった。
まだ3歳だけど、俺は0歳の時からの記憶があるんだ。ちゃんとしっかりと覚えている。ここまで長かったよ。
なにしろ自由に動けない、話せない、おまけにオムツだ。それはもう不自由だった。
「ラウ、考え事があるのかしら?」
「かあしゃま、ぼーっとしてました」
「そう? 体調が悪いのではないのね」
「あい、げんきれしゅ」
いかんいかん、考え事をしていたら心配を掛けてしまう。
「いたらきましゅ」
「そうだ、ラウ。城に行く日が決まったぞ。明後日に行く事になった」
「あい、とうしゃま」
モグモグと食べる。うん、美味しい。離乳食と比べたら、とっても美味しい。
「父様も一緒に行くからな」
「あい」
「ラウ、美味しいかしら?」
「あい、かあしゃま。とってもおいしいれしゅ」
「ふふふ、沢山食べるのよ」
「あい」
明後日か。王女と初めてのご対面だ。
どれくらい我儘なのか、ちゃんと見極めないといけない。俺達の将来に影響するのだから。
その城に行く当日になった。
「ふく、これきていくの?」
「はい、そうですよ。お城ですからね、ちゃんとしませんと」
と言いながら、俺にフリッフリのシャツを着せるおフク。
いつも着ているシンプルなやつだと駄目なのか? そういえば、0歳の時に城へ行った時にも、フリッフリのベビー服を着せられたな。
「お似合いですよ、坊ちゃま」
「ええー」
「あらあら、お嫌ですか?」
「らって、ふりふりらもん」
「ふふふ、可愛らしいですよ」
「かわいいはらめ、かっちょいいじゃないと」
「あらあら」
そんな呑気な事を言っていたんだ。
着替えを済まし、いつもの様にミミを肩に乗せて玄関ホールに下りて行くと、両親がもう待っていた。
「とうしゃま、かあしゃま、おまたしぇしました」
「ラウ、大丈夫だ。待っていないぞ」
「あら、ラウ。可愛いわ」
「ええー」
この歳だと可愛いが主流だ。いや、主流って何だよ。ちびっ子だから、そうなるのだろう。
馬車に乗り込み、城に向かう。
父は別の馬車だ。これも安全対策の一環なのだそうだ。国内ではここまでする必要もないらしいのだけど、それでも万一の事を考えての事らしい。
俺は母とおフクと一緒に馬車に乗る。
アンジーさんが、父と俺達が乗る馬車の真ん中を馬で並走している。
こうして見ていると、アンジーさんが『銀花男子』と呼ばれるのも頷ける。とってもクールな表情をして颯爽と馬に乗っている。
「ラウ、どうしたの?」
「あんじーしゃん、かっちょいいれしゅ」
「ふふふ、ああしていれば、そう見えるわね」
「あい」
そうなんだよ、ああしていればだ。本当はとっても気さくなお兄ちゃんだ。俺の事もよく相手をしてくれる。
高い高いしてくれたり、肩車をしてくれたりして遊んでくれる。
そのアンジーさんが、キリッとした顔つきで馬に乗りながら周囲を警戒している。それがなんとなく分かる。
「かあしゃま、こんなにしないと、あぶないのれしゅか?」
「そんな事はないわよ。でも念のためね」
「あい」
「それより、ミミちゃん」
「みゃ? みみみゃ?」
「そうよ。お城に着いたら喋っちゃ駄目よ」
「みゃみゃ? しょうなのみゃ?」
「そうよ。前に行った時にもそうしたでしょう?」
「おぼえてないみゃ」
0歳の時に城へ行った時にも、ミミは一緒だったけど王の前で堂々と喋っちゃったからなぁ。