41ーぷりけつ
「偽造したか?」
「そうとしか考えられないです。でもそんな事をするはずがないんです」
何故ならこの世界は誰もが魔力を持っている。婚姻届けの様な大事な物は、その人自身の魔力を登録しないといけない。魔力の登録だ。だからといって、何もその人自身が出向く必要はない。
専用紙があるんだ。それを使って書類を作成しなければならない事になっている。
婚姻は、遺産問題や継承に直結する事だ。
だからどの国でも本人を証明する書類として、専用紙で書類を作る。それを偽造する事はできない。
真紅の髪の女性が、遺産目当てなのは分かっている。
遺産を相続する時に、登録した魔力と同じでないといけない。妻になると届けを出した人物と、違う魔力だと相続できなくなる。
だから、偽造してしまったら元も子もなくなるというわけだ。
婚姻届を受領はされても、遺産を受け取れないんだ。
「ふむ、意味が分からん」
「真紅の髪の女性は出入りしていなんです。貴族の邸宅どころか、街でも見かけません」
だけど、髪色なら誤魔化せるだろう?
魔法で色を変える事が出来るし、ウィッグだってある。髪色だけを目印にしていても駄目なんじゃないのか?
そう俺が考えていると、父が同じ事を言った。
「髪色はどうとでもなるだろう? それこそファッションで変える女性だっている」
「分かってます。ですからメイドとして潜入させたんです。目の色も確認させる為です」
なんだ、やっぱ分かっていたんだ。目の色までは誤魔化せないからな。それを確認するのが一番確実だ。
「手続きをする部署にも手を回してあります。いくら婚姻届けを出そうとしても、本格的に受領される事はありません。ですが、問題はその真紅の髪の女性です」
「そうだな、ここで捕らえておきたい。これ以上思い通りにさせる訳にはいかない」
「はい、ですのでもっと探りを入れます」
「今夜か?」
「はい」
なにやら物騒な感じになってきた。今夜何をするのか俺は知らないが。
ちょっと我慢できなくなってきた。ブルルッと震えちゃったりする。
「あぶあ」
「あら、はいはい。オムツ替えましょうね」
「あう」
会議室で真面目な話をしているのに、下半身おっ広げなんて。
まあ、慣れたんだけど。もうすっかり0歳児に慣れてしまっている。
そうそう、おっぱいは卒業したんだ。離乳食で事足りるようになっている。
小さな歯も生えているから、もう少しの辛抱だ。
「坊ちゃん、プリけつッスね」
「あばー」
アンジーさんが俺のオムツ替えをジッと見ている。プリけつって言うな。
それでもオムツを替えてもらわないと、気持ち悪い。
おフク、しっかり拭いてね。と、自分の両足を手で持って、拭きやすいように足を上げる。
「桃尻ってこの事っスね」
うるせーんだよ。ジロジロ見るんじゃないよ。会議を中断させて悪いけど。
「はい、綺麗になりましたよ」
「ぶばー、ああーちゃ」
「はいはい、奥様のところに行きますか?」
「あうあ」
さて、俺は母の膝の上で大人しくしているから、会議を続けてくれたまえ。
なんてお利口な0歳児なんだ。
「あぶ」
「アハハハ、坊ちゃんなんスか。超貫禄あるじゃないッスか」
え? そうか? なんでだよ、赤ちゃんに貫禄なんてあるわけないだろう。
「アンジー、それで続きだ」
「ああ、はい」
「もう一人潜入させるか?」
「もう入れてあります。例のヤツを」
「そうか、ならその報告を待とう」
「はい」
ヤツ? なんだか隠し玉っぽい言い方だったよな。
その日の会議は、それで終了した。ちょっとその『ヤツ』って気になる。
「ぶばー」
「はいはい、オヤツですね」
「あう」
「みみも、ももじゅーしゅのむみゃ」
「はいはい」
ミミは大人しくしていたじゃないか。珍しい。
「みみは、おりこうなのみゃ」
「あぶぶ」
「らうみぃ、まらあかちゃんみゃ」
「あば?」
何を今更な事を言っているんだ。
「のうりょくは、あかちゃんじゃないみゃ」
こら、ミミ。余計な事を言うんじゃない。
「え? しょうみゃ?」
「あうあ」
そうだよ、俺は大人しくてお利口な赤ん坊なんだ。
さて、ミミ。これからオヤツだ。その後はお昼寝だ。また特訓だぞ。
「がんばるみゃ」
「あぶ」
お昼寝の時間、俺が眠ったのを確かめるとおフクは隣の部屋で控えている。
以前は俺が眠っている間でも同じ部屋で待機していたのだが、最近はやっと隣の部屋に行ってくれるようになった。
そして俺はムクッと身体を起こす。うつ伏せになって、オムツをしたちょっぴり大きなお尻を持ち上げてヨイショと座る。
「あば」
……なんだか嫌な予感がする。どこからか見られているような……身体にねっとりと纏わりつく嫌な感じ。
「らうみぃ」
「あう」
ミミも感じているらしい。ここで大声を出すか? そしたらおフクが来るだろう。だけどなぁ。
と考えていた時に、バルコニーに出る大きな窓に掛けられたカーテンが揺れた。
風もない、窓を開けてもいない。なのにカーテンが揺れる訳がない。
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