21ー初仕事?
王や父の執務室は城の奥にある。中央付近に謁見の間があり、もっと出入り口に近い場所には役所の様な仕事をしている部署がある。
そこには貴族しかやって来ない。庶民の役所は街にあるからだ。
所謂貴族専用の役所という訳だ。
婚姻や出産、離婚や継承、そして財産に関わる事、貴族の色んな手続きをそこでする。
その部署近くの廊下に、俺は連れて来られた。
見ていると、貴族らしい男性が出入りしている。
そんな場所で俺は何をするんだ?
「ラウ、この廊下で思い切り高速ハイハイをするといい」
「あぶぅ?」
「思い切りやっていいぞ。やり過ぎかと思うくらいにやってくれ」
おう、そうなのか。なら遠慮なく。
「あぶぅ」
「みみもいくみゃ」
「ミミ、喋ったら駄目だぞ」
「わかったみゃ」
ミミが俺の肩に乗った。行くぞ。思い切りだ。せーのッ!
「あばばばば!」
「ピヨピヨー!」
俺は広くて長い廊下を爆走だ。ハイハイで。あばばばと叫びながら。
歩いている人達が驚いて見てくる。それでもお構いなしに俺は爆走だ。
「あばばばばばー!」
「ピヨピヨピヨー!」
気持ちいいぞーぅ! こんなに長い廊下はないからな! ずっと突進して行ける。
ミミは別に鳴かなくても良いのに、一緒に鳴きながら飛んでいる。
これって、一体何の意味があるのか知らないけど。
城の表玄関と言われている様な、人が多い場所だ。人通りも多い。
謁見の間を使う時も、この場所を通って行く。それだけ貴族がよく通る場所。廊下だけど、壁には歴代の王の肖像画が掛けてあり、お高そうな壺に豪華な花が生けられている。もちろん、塵一つない。
そこをとにかく俺は気持ちよく爆走だ。
「あばばばばばばばば!」
「ピヨピヨピヨ!」
すると驚いて書類をぶちまけたり、俺を避けようとして尻餅をついたりする人が出だした。
人が歩いていても、その脇をお構いなしに高速ハイハイで爆走しているからだ。
おっと、ドアが開け放たれた部屋が正面にあるぞ。ここも行ってみよう。
「あばばば!」
「ピヨピヨ!」
「うわ、何だ!?」
部屋の中にいた人が驚いている。そりゃそうだ。まさか城に赤ちゃんがいるなんて思いもしないだろう。その上、いきなり高速ハイハイで突進して来たんだ。そりゃ、驚く。
「あばばば……あぶあ?」
「ピヨ?」
あれ? これ以上行けないぞ。部屋に入って直ぐにカウンターの様なものがあって、それ以上進めなくなってしまった。なら曲がろう。
「あばばばば」
「ピヨピヨ」
ワッハッハッハ! 楽しいぞ!
「ラウ! そこまでだ!」
「あぶ?」
父が後ろから走って来た。ええ、俺まだ行くぞ。
クルンと方向転換をして、また高速ハイハイだ。
「あばばばばば!」
「ピヨピヨ!」
「ラウ! 止まりなさい!」
父が何かを叫んでいるけど、俺はもう止まれない。だって、超気持ちいいんだ。
「あばばば」
「こら、ラウ!」
ヒョイと父に抱き上げられてしまった。
「あぶぅ」
「だから、もういい」
「あばう」
「ピヨ」
「すまない、邪魔をしたな」
そう言って父は俺を抱っこしてスタスタとその場を離れた。
あれ? こんなので良いのか?
全然意味が分からないのだけど。
そして、父の執務室に戻って来た。
「ラウ、よくやった」
「あばぶぅ」
運動したらお喉が渇いたぞ。おフク、お茶ちょうだい。
「坊ちゃま、お手々を拭きましょう」
「ばうあー」
ソファーにチョコンと足を伸ばして座っている俺の手をおフクが拭いてくれる。
「あぶ、あばーんば」
「はいはい、ちょっと待ってくださいね」
「みみも、ももじゅーしゅのむみゃ」
「はいはい」
俺もうっすーい麦茶擬きを貰って、ちょっと一息。
「あなた」
「ああ、上手くいった」
「では、帰りましょうか」
「そうだな」
なんだ? 俺は全く分からないぞ。気持ち良く高速ハイハイをしていただけだ。
その間に父は何かをしていたのか? いや、ただ見ていただけだよな?
「あば……ふぇ」
その時ブルブルッと震えた。……出ちゃった。
「あらあら、オムツ替えましょうね」
「あぶあー」
おフク、頼む。気持ち悪いんだ。
「あぶ、あぶ、ああーちゃ」
「あら? ラウ?」
「ああーちゃ」
「あなたッ!」
「ああ、アリシアッ!」
俺は両手で自分の足を持つ。拭きやすいようにな。そしてもう一度言った。
「ああーちゃ」
「ラウ! 母様って言っているのよねッ!?」
「あぶあぶー」
「ああ、アリシアッ! 感動だぁッ!」
と、言って両親は抱き合っている。ヒシッと。
よく分かったな。そうなんだよ。俺は母様と言ったつもりだったんだ。だけど、実際に発音できたのは。
「ああーちゃ」
「ラウーッ!」
「うちの子は天才だぁッ!」
と、両親に抱き締められちゃった。いや、待って。俺って今下半身をおっ広げているから。もうちょっと待ってくれるかな?
おフク、早く拭いてオムツをしてくれ。
「はいはい、旦那様、奥様、先にオムツをしましょう」
「あ、あら、そうね」
こんな両親なんだけど。父なんて『氷霧公爵』なんて二つ名があるんだけど。
ふふふ、おもしれー。
「みみのももじゅーしゅ、おかわりみゃ」
ミミは場の空気を読むって事を勉強する方が良いと思うぞ。
「しょうみゃ? しょんなの、みみはかんぺきみゃ」
「あばぅ」
いやいや、全然できていないから。
お読みいただき有難うございます!
なんとなく思いついた呼び方『らうみぃ』なかなかお気に入りだったりします。^^;
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宜しくお願いします。