〈妖精郷の狭間〉での邂逅と英雄の軌跡
──〈放蕩者の記録〉にある夜櫻用に用意された個室では…年明けに向けて、三人の人物が室内を大掃除している。
その内の一人…緩いウェーブ状の腰までの長さの深い新緑色の髪に、淡いサファイア色の瞳をした女性エルフの〈森呪遣い〉─天音が、机の上に置かれた綺麗な細工が施された小箱を見つける。
「あれ?この小箱だけ、この部屋の雰囲気に合ってませんよね?」
天音のその言葉に、一緒に部屋の掃除を行っていた…緩いウェーブ状の膝下位の長さの淡いエメラルド色の髪に、深い海色の瞳をした人間の歌姫スタイルの女性〈吟遊詩人〉─ヴィオラと背中までの長さの淡い金髪にオリーブ色の瞳をした女性エルフの〈妖術師〉─ルナの二人の視線も、机の上の小箱へと向く。
「あ、本当ですね」
「和風コーディネートの部屋の中で、確かに不釣り合いな小箱ね」
そう言って、小箱の置いてある机へと近付いた三人の背後から…「コホン!」というわざとらしい咳払いが聞こえてくる。
背後から咳払いが聞こえてきた事で、慌てながら振り返った三人は、部屋の入り口で腕を組んで仁王立ちする…背中までの長さの鮮やかな桜色の髪をポニーテール状に纏め、深い蒼色の瞳をした部屋の主である女性エルフ─夜櫻の姿があった。
「こら。掃除の手を止めて、なーにしてるかなぁ~?
『掃除は、自分達に任せて』って言ったから、任せたのに……三人が掃除をサボるんだったら、アタシが自分でやるよ」
夜櫻に叱られ、ショボンとする三人だったが…天音が気を取り直して、夜櫻に尋ねてみる。
「母さん、この小箱は何ですか?」
「ん?小箱??」
天音からの質問に、一瞬何の事だろうと思った夜櫻だったが…天音の指差す先の机の上に置いてある小箱を目にして、質問の意図を理解した。
「……ああ、それかぁ~。
それはね、『妖精女王の憂鬱』っていうクエストをクリアした報酬で貰える〈妖精女王の魔法の小箱〉っていうアイテムでね……『中に入れた物の状態を永久的に最良の状態に保つ』っていうアイテム特性があるんだよ。
けど…アタシがこれを使用しているのは、もう一つの特性の『如何なる手段を用いても、中にある物を持ち主以外が手にする事は不可能となる』っていうアイテム特性の方が必要だったからなんだ」
「どういう事ですか?」
問い掛けてくるヴィオラの…疑問への返答は、小箱の蓋を開ける事で答える。
──小箱の中には、綺麗な金色で光の輝きを纏う片方だけの耳飾りがあった。
「……これは?」
「綺麗な耳飾りですね」
「でも、何で片方だけ?」
娘達から次々と飛んでくる質問に、苦笑しつつも夜櫻は答える。
「昔、あるクエストで手に入れた品なんだけど……これ、未だに本来の持ち主に返せていないんだよ」
夜櫻のその返答に、天音達がほぼ同時に問い掛けてくる。
「「「どういう事なんですか?」」」
娘達の問い掛けに対して、夜櫻は…四枚の座布団を床に敷き、部屋にあった急須から緑茶を四つの湯飲みに注ぎ、湯飲みと茶請けのお煎餅を入れた入れ物を乗せたお盆を卓袱台の上に置いてから……ゆっくりと話を始める事にする。
「話は、今から十七年前……〈エルダー・テイル〉の正式サービスが始まってから、約三年が過ぎた位にまで遡るよ。
当時のアタシは、最初に所属していたギルド…〈久遠の灯火〉が解散しちゃって、無所属の〈冒険者〉として活動していた頃でね……その頃に、まだ〈エルダー・テイル〉をプレーしていた友人の一人からの頼み事が、この耳飾りを入手するクエストと遭遇するきっかけだったね……」
◇◆◇
『……は?そんなの聞いてないよ?』
友人からのテキストチャットで、『今日から一週間程、ログイン出来ないので代わりにクエストを受けて欲しい』というメッセージが届き…冒頭のメッセージを書き込んだ訳である。
『本当に、悪いとは思うんだけど…そのクエスト、明日までで終了してしまうんだ。だから……頼む!!俺、どうしても〈水精の剣〉を手に入れたいんだ!!勿論、ちゃんと代わりにクエストを受けた礼はするからさ』
テキストチャットの文面からは、必死に懇願してきている事が読み取れる。
彼とは、友人として随分と長い付き合いでもある事もあって…アタシは、「仕方ないなぁ~」と内心思いつつも、引き受ける事にした。
『仕方がないから、引き受けるよ。その代わり…人手の必要な大掛かりなクエストを受ける際は、協力してもらうからね』
『ありがとー。その時は、必ず協力するからな!
クエストの詳細は、後で送るメッセージに載せとくな』
そう書き込み終わると同時に、友人からのテキストチャットが終了し…「メッセージが届きました」というメッセージ受信表示がパソコン画面に表示される。
アタシは、届いたメッセージに素早く目を通すと…すぐに〈妖精の輪〉を使って、目的のクエストがある北欧サーバーへと飛んだ。
□■□
北欧サーバーにある〈アルスター〉─現実でのブリテンを指す─へと到着したアタシは、まずクエストの起点である〈湖の貴婦人〉がいる湖へと向かう。
このクエスト─『湖の貴婦人の追憶』は……〈湖の貴婦人〉からの依頼でアーサー王伝説所縁の地である場所を巡って、三つのアイテム…〈選定の台座の欠片〉、〈勝利の祝杯〉、〈妖精郷の煌めき〉を集め、それを〈湖の貴婦人〉に渡すと〈湖の水晶〉という素材アイテムが手に入る。
それが、友人が欲しがっている〈水精の剣〉を製作する為に必要な材料の一つらしい。
これは、公式サイトを調べて判った事である。
……で、本題の〈湖の水晶〉を入手出来るクエストの『湖の貴婦人の追憶』が、明日までで終了する…という事で、確実にログインしているであろうアタシに頼んできたという訳だった。
湖へと到着したアタシは、現れた〈湖の貴婦人〉から『かつて気に掛けていた〈古来種〉アーサー所縁の地を訪れて、所縁の品を集めてきて欲しい』と頼まれ、それを引き受けた。
〈湖の貴婦人〉からのクエスト自体は、難しく無かった。
所縁の地を訪れて〈選定の台座の欠片〉、〈勝利の祝杯〉、〈妖精郷の煌めき〉の三つのアイテムを全て集める事も出来たし、アイテムを〈湖の貴婦人〉に渡して、目的の素材アイテム〈湖の水晶〉も入手出来た。
──けど、いざ日本サーバーへ帰還するよ!……という状況になって、アタシは〈妖精郷の狭間〉に迷い込む羽目になっちゃったんだ……。
■□■
「あっれぇ~?おっかしいなぁ~。このまま森を突っ切った先に、日本サーバーに転移出来る〈妖精の輪〉がある花畑に出られる筈なんだけどなぁ~?」
湖から〈妖精の輪〉のある花畑を目指して森の中を歩いていた筈のアタシのアバター─夜櫻は現在、濃霧に包まれた不思議な場所で途方に暮れている状況に陥っている。
(何処で道を間違えたのかなぁ~?これ、明らかに通常のゾーンじゃないよね?)
パソコン画面と睨めっこをしながらも、アタシは自分の分身とも言える夜櫻を濃霧の中の道なき道を歩かせる事にする。
濃霧の中をしばらく歩かせていると、一人の美少年エルフが大きな切り株に腰掛けて泣いている姿を見つける事になった。
『君、こんな所でどうしたの?』
テキストチャットを使って、美少年エルフに話し掛ける。
『僕は……悪い〈闇妖精〉に名前と記憶を盗られてしまいました』
泣きながら、美少年エルフがそう言ってくる。
よくよく観察してみると、美少年エルフのステータスの名前の部分が『名を盗られた者』と英語と日本語で表記されている。
『名前と記憶を盗られるなんて、可哀想に……。よし、アタシが悪い〈闇妖精〉から君の名前と記憶を取り戻してあげるよ!』
『本当ですか!?……ありがとうございます!!』
泣き止んだ美少年エルフが嬉しそうな表情を見せると同時に、パソコン画面に「クエスト『妖精郷の迷い路』を受注しました」とクエスト受注を知らせる表示が現れる。
それにより、アタシはこのゾーン…〈妖精郷の狭間〉で、美少年エルフ─名無しになっているので、“無名の”から取って仮称『アノン』君と呼ぶ!─と一緒に悪い〈闇妖精〉捜しをする事となった。
□■□
アノン君と共に、〈妖精郷の狭間〉をしばらく歩いていると…突然、バッタリと〈悪の闇妖精〉と遭遇する。
だけど、〈悪の闇妖精〉はアタシ達の姿を認識すると同時に、素早く濃霧の中へと消える。
『……逃げられてしまいました……』
アノン君がその場で立ち止まり、シュン…と悄気た表情をする。
『諦めちゃ駄目だよ!逃げられたなら、追い掛ければいいんだよ!』
アタシは励ます様にテキストチャットにそう書き込むと、
『そうですね。このまま追い掛けましょう』
そう言って、アノン君は気を取り直して〈悪の闇妖精〉を追い掛ける為に再び歩き出してくれた。
その事にホッと一安心して胸を撫で下ろしていると、アノン君から質問が飛んでくる。
『あの……貴女は何故、〈冒険者〉になったのですか?』
アノン君からの突然の問い掛けだったけど、アタシは即答でテキストチャットに書き込む。
『色々な場所を旅したり、色々な強敵と戦ってみたりしたいからかな?
まあ、一番の理由は単純にドキドキワクワクする様な冒険がしたい…って気持ちがあるからなんだけどね』
アタシの答えに、アノン君が不思議そうな表情を見せる。
『ドキドキワクワクする様な冒険がしたい……ですか?』
『そうだよ。特に、誰も辿り着いた事の無い未踏の地や秘境の地を一番に冒険するのが楽しいね』
アタシのその言葉に、アノン君はしばらく考える素振りを見せ、ゆっくりと言葉を口にする。
『未知の冒険……なんだか楽しそうですね。僕もいつか、そんな冒険をしてみたいですね』
『出来ないの?』
アタシの質問に、アノン君はゆっくりと首を横に振る。
『記憶を盗られて、はっきりとは思い出せませんが……僕には、生まれた時から定められた宿命があるんです。
そして、僕はその宿命から逃れる事は出来ないと思うんです』
『そっかー。生まれた時からの定めで、逃れられないっていうのなら…仕方がないのかな……。でも、夢を見る事は諦めちゃ駄目だよ?』
アタシのその言葉に、アノン君はニッコリと満面の笑みを浮かべる。
『お気遣いの言葉、ありがとうございます』
そう感謝の言葉を述べるアノン君をパソコン画面越しに見ながら、アタシは…アタシ達と同じ様に、自分の生きる道を自由に選べない〈NPC〉のアノン君が本当に可哀想で…同時に、そんな風にデザインされた事が“悲しい”と思ってしまった……。
■□■
──その後、何回か〈悪の闇妖精〉を見つけるものの……〈悪の闇妖精〉はアタシ達の姿を認識する度に逃走する事を繰り返し、なかなか捕まえる事が出来ずにいた。
逃走を繰り返す〈悪の闇妖精〉を追い掛けて移動している最中…アノン君は残っている記憶から自分の事を色々話してくれて、アタシは完全に聞き手側に回っている。
その話を聞いていると、アノン君が今までどの様に生きてきたかを知る事が出来た。
まず、彼には生みの親は居らず…現在は、育ての親に知識や剣術を学びながら養ってもらっているらしい。
彼は、生まれながらに背負った自分の宿命を理解していたらしく…その宿命に従って、育ての親が教えてくれる知識や剣術を積極的に学ぶつもりだと話してくれた。
けど…ふとした時に、「本当に、この生き方でいいのだろうか?」という迷いが生じ、思い悩んでいた時に〈悪の闇妖精〉が「何か悩みがあるのなら相談に乗る」と言って近付いて来たらしい。
彼は自分の悩みを正直に話し、それを聞いた〈悪の闇妖精〉から「だったら、その悩みを解決するいい方法がある」と言われ、彼は悩みを解決したくて「教えて欲しい」と頼み込んだのだが…その結果、〈悪の闇妖精〉に名前と記憶を盗られたのだと語ってくれた。
一通りの話を聞き終えて、最初にアタシがアノン君に一言告げる。
『君、馬鹿なの?』
『えっ!?ひ、酷いです。そんな風に言わなくても……』
アノン君のその反応で、アタシの言葉を“拒絶”と判断したと素早く理解し、慌てて訂正する。
『あ、ごめんごめん。君の事を貶す意図は無かったんだ。
あのね、“悩む”っていう事はね…“運命の分岐点”なんだよ』
『“運命の分岐点”…?』
不思議そうな表情を見せるアノン君に、アタシは子供に言い聞かせる様にテキストチャットに書き込み続ける。
『思い悩む事はね…自分の進む人生での分かれ道に遭遇したからなんだよ。どうしたいのか、どうなりたいのか、どう在りたいのか…それをきちんと考える時が来たから悩むんだよ。
そして…英雄って呼ばれる人達だって、最初から完璧だった訳じゃない。
英雄達だって、挫折や苦悩や後悔をいっぱい経験して…けど、それらの苦難を見事に乗り越えてきたからこそ、英雄って呼ばれる存在になったんだよ。
だから、思い悩む事はちっとも恥ずかしい事なんかじゃなく、大切な事なんだよ』
そう書き込みながら…アタシは夜櫻に中腰姿勢を取らせ、アノン君の頭を撫でる動作を取らせる。
『そして…君は、悩みを相談する相手も間違えている。
そこは、見ず知らずの闇妖精ではなくて…君の育ての親に相談するべきだったんだよ。
もし、名前と記憶を取り戻したら…今度こそ、君の育ての親に相談しなさい。
それと…悩みに関しては、あくまで相談して助言を貰うだけにしなさい。そして、最後の判断は自分でしなさい。じゃないと、後で『自分で選んでおけばよかった』って後悔する事になってしまうからね』
アタシの言葉を聞いて…アノン君は、しばらく俯いたまま黙っていたんだけど…顔を上げた時には、彼の目は強い意志を宿した瞳に変わっていた。
『分かりました。今後、悩み等についてはきちんと育ての親に相談する様にします。
それと…最後に、一つだけ聞いて良いですか?』
『何かな?』
『貴女は、『〈冒険者〉として、どんな風に在りたい』のですか?』
アノン君が納得して答えた後に、その質問をしてきた時…アタシは故郷の桜の大木の前で自らに誓った“誓い”を書き込む。
『アタシの救いの手が届く限りの範囲で…アタシに出来る方法で、苦しみ…助けを求める誰かを助けられる人で在りたいかな』
アタシの答えに、アノン君が問い返す。
『“英雄になりたい”って事ですか?』
アノン君のその言葉に、アタシはこう返答する。
『違うよ。そんな凄い存在になりたいって訳じゃないよ。
アタシは、ただ…困っている誰かを助けられる人になりたいだけなんだよ』
アタシの返答に、アノン君は「困っている誰かを助けられる人……か」と、一言呟き…それ以降、一言も喋らなくなってしまった。
□■□
──〈悪の闇妖精〉との長い追い掛けっこも…ようやく、終わりの時を迎える事となった。
〈妖精郷の迷い路〉というゾーンの…どうやら、袋小路らしき場所に追い詰めたらしく…〈悪の闇妖精〉があたふたとした動きをしている。
『ギギギ。ナンデ、オレノコトヲ オイカケルコトガ デキルンダ!』
『簡単だよ。〈妖精郷の迷い路〉での必須アイテム〈妖精王の羅針盤〉があるからね』
アタシの分身である夜櫻の右手にある〈妖精王の羅針盤〉が仄かに輝いている。
『ギギギ。オマエハ、ヨウセイオウサマニ ミトメラレタモノ ダッタノカ!コウナッタラ、オマエタチヲ タオシテヤル!!』
〈悪の闇妖精〉のその言葉が合図となり、パソコン画面に表示されたステータスに『戦闘中』の文字が点滅しながら表示される。
それと同時に、音楽が戦闘用のBGMに変化し…画面上に戦闘の勝利条件の『エルフの少年を守り抜き、〈悪の闇妖精〉を無力化する』という文字が表示され、アタシのステータスの下にアノン君の分のステータスも表示される。
(どうやら…アノン君を守り抜いた上で、〈悪の闇妖精〉を“無力化”する必要があるみたいだね)
そう素早く判断したアタシは、〈武士〉用の移動系特技〈縮地〉で〈悪の闇妖精〉との間合いを一気に詰める。
『ナニ!?』
驚愕している〈悪の闇妖精〉に、特殊攻撃系特技〈峰打ち〉を発動させて〈気絶〉の状態異常をプレゼントしてやる。
『ギギィ~……』
その鳴き声を最後に…〈悪の闇妖精〉は、バッタリと地面に倒れ…そのまま気絶してしまう。
〈悪の闇妖精〉が気絶すると同時に、戦闘の勝利条件『エルフの少年を守り抜き、〈悪の闇妖精〉を無力化する』に『クリア!』という文字が表示され、夜櫻のステータスに表示されていた『戦闘中』の文字が消える。
──〈妖精郷の迷い路〉で発生した〈悪の闇妖精〉との戦闘は…僅か30秒の早さで終了した。
■□■
──目を覚ました〈悪の闇妖精〉に対して、分身の夜櫻に腕組みの動作を取らせ、アタシはテキストチャットで、こう声を掛ける。
『彼から奪った名前と記憶を返しなさい』
アタシの言葉に、〈悪の闇妖精〉は懐から一つの淡い蒼色の結晶を取り出す。
『コレガ、ソイツカラ トッタ ナマエト キオクダ。
カエスカラ、オレヲ ミノガシテクレ』
そう懇願してきた〈悪の闇妖精〉に、アタシはこう返答する。
『なら、二度と悪さをしないと誓いなさい』
アタシのその言葉に…〈悪の闇妖精〉は項垂れながらも、こう返答する。
『……ワカッタ。ヨウセイオウサマ ト ヨウセイジョオウサマ ニ チカッテ、ニドト ワルサハ シナイ』
そう言って…アタシに〈記憶の結晶〉というアイテムを手渡してくる。
『よし。きちんと誓いを立ててくれたし、もう行っていいよ』
アタシは、きちんとした誓い立てを行った〈悪の闇妖精〉を約束通り見逃し…〈悪の闇妖精〉は、そのまま〈妖精郷の迷い路〉に漂う濃霧の中へと消え去っていった……。
それを黙って見送ったアタシは、アノン君に向き直ってから〈記憶の結晶〉を彼に渡す。
『はい。君の名前と記憶が封じ込められた〈記憶の結晶〉を取り返したよ。ただ、これは…妖精達のみが使える特殊な魔法で封じ込められていて、解除出来るのは〈妖精王〉か〈妖精女王〉だけらしいから…一度、〈妖精郷〉に立ち寄る必要がありそうだよ』
そう告げると、アノン君がこう言ってくる。
『大丈夫です。僕の育ての親が、〈妖精郷〉に行く術を持っていますから…育ての親に頼んで、連れていってもらいます。なので…〈冒険者〉さん、〈妖精郷の狭間〉の出口まで送ってくれるだけで良いです』
『……分かった。君がそう望むなら、〈妖精郷の狭間〉の出口まで連れていくよ』
そう答え…アタシは、アノン君を連れてゆっくりと歩き出す。
──〈妖精王の羅針盤〉の導きに従いながら、しばらく歩いていると、画面に表示されているゾーン名が〈妖精郷の迷い路〉から〈妖精郷の狭間〉に変更され、ゾーンが切り替わったのだが…アタシ達は一切の会話は無いまま、〈妖精郷の狭間〉の出口まで辿り着いた。
アノン君に頼まれた通り、〈妖精郷の狭間〉の出口まで連れて来た事で…此処でお別れなのだと分かっていたアタシは、そのまま〈妖精郷の狭間〉の外へと歩き出そうとする。
すると、アノン君が「ちょっと待って下さい」と言って呼び止めてくる。
『何かな?』
振り返りながらアノン君の方へと向き直ると、アノン君は真剣な眼差しでアタシの分身である夜櫻を見ていた。
『僕は今まで…“宿命”という定めに、ただ従って生きているだけでした。
でも、そんな時…貴女と出会い、貴女が話してくれた数々の言葉は、僕の心の迷いを晴らしてくれました。
僕は…貴女の様に、『誰かを守れる程の強さと…時に、敵であっても助ける慈悲深さ。それらを兼ね備え、困っている誰かを助けられる様な人物』になりたいと思います。
それと…折角助けて戴いたのに、僕には貴女へのお礼となる様な物を持っていません。だから…これを代わりに受け取って下さい』
そう言って渡されたのは、〈妖精金の耳飾り〉というアイテムだった。
『えっ!?これは、君の育ての親が君の為に用意した御守りだよ!?こんな大事な物を貰う訳にはいかないよ!』
そうテキストチャットで書き込むと、アノン君がこう答える。
『……いいえ。それは、差し上げる訳ではありません。
今の僕には、貴女へのお礼も恩返しも満足に出来ません。
だから…将来、僕は貴女と共に戦える位に強い剣士になります。その暁には…改めて、貴女に恩返しをさせて下さい。
そして、その耳飾りはその証として預かって欲しいのです』
そう言ってアノン君は、腰に提げていた淡い蒼色の片手剣を鞘から抜いて両手で柄を持ち、真っ直ぐに立てる様に掲げると…厳かに言葉を紡ぐ。
『ここに、一つの誓いを立てる……
『我、この身に受けし恩に報いる為、〈冒険者〉に危機ある時…我が 誓いに懸けて必ず助ける事をここに誓う。〈妖精金の耳飾り〉は、その誓いの証とする』……』
そうアノン君の誓いが宣言されると、〈妖精金の耳飾り〉のフレーバーテキストにある一文が追加される。
誓いの宣言が終わると、アノン君はニッコリと笑顔を見せてくれた。
『約束です』
『うん、約束だね。君の立ててくれた誓い…必ず覚えておくよ』
そう最後の言葉を交わすと…アタシは〈妖精郷の狭間〉の外へ、アノン君は〈妖精郷の狭間〉の中へと分かれ…そのままお互いに歩き出していった……。
□■□
──〈妖精郷の狭間〉の濃霧を抜けると…アタシは何故か、湖の畔に立っていた。
その湖では、〈湖の貴婦人〉が笑みを浮かべて畔に佇んでいる。笑みを浮かべながら、〈湖の貴婦人〉が話し掛けてくる。
『先程、〈妖精郷の狭間〉の入り口が開いた気配を感じました。そうしたら、貴女がそこを通って現れました。
どうやら貴女は、過去の〈妖精郷の狭間〉に迷い込んだみたいですね』
そう言うと、〈湖の貴婦人〉が〈妖精郷の狭間〉について親切に説明してくれた。
『〈妖精郷の狭間〉では、普段は人間界よりもゆっくりとしていますが…変わらぬ時間が流れています。
しかし、ごくたまに過去・現在・未来の三つの時間の内の二つが交わる時があるのです。
そして、今回…貴女が迷い込んだのは“過去”の〈妖精郷の狭間〉だった様です』
『……つまり、あの時出会ったエルフの少年は過去の人物って事?』
アタシの問い掛けに、〈湖の貴婦人〉は静かに頷いていた。
この時のアタシは…「どうやら、壮大な連作クエストに遭遇したみたいだね」と少しワクワクした気持ちで考えていた。
──けど…アタシが、あの少年と再会する事は二度と無かった……。
■□■
「──という経緯で、アタシはこの耳飾りを入手した訳なの」
アタシが語った長い昔話を聞き覚え…天音、ヴィオラ、ルナは各々に質問を投げ掛けてくる。
「そういう経緯を経て、母さんの手元にある訳ですね。でも…それなら何故、今も母さんの手元にあるんですか?」
「その子に、耳飾りを返さなかったんですか?」
「母さんは、その子と再会しなかったのですか?」
三人が次々と投げ掛けてくる質問に、アタシは少し困った気持ちになった。
「勿論、彼から預かった耳飾りを返そうと思ったし…彼の本当の名前を知りたかったから、もう一度会おうとも考えたよ。
でもね、彼と再会する事は出来なくなったんだよ……」
「どうして?」
天音の問い掛けに、アタシは話を続ける事で返答する。
「彼に関連するクエストは、『英雄の軌跡』っていう連作クエストだったんだけど…北欧サーバーの運営の知り合いから聞いた話によると、このクエストは本来β版用のクエストだったらしいの。
彼の生い立ちと、〈古来種〉として悩み苦しみながらも立派に成長していく姿を間近で見て知る事が出来る…って感じのクエストだったらしいよ。
…で、本来だったら本サービス開始と共にクエストは停止される筈だったんだけど、担当のシステムエンジニアさんの手違いでクエストは停止されないまま継続していたって訳。
けど、アタシが最初のクエストをクリアした事で運営の管理するクエスト履歴に表示された事で、このクエストが生きている事が判明してね…担当さんが慌ててクエストのデータを消去しちゃったから、アタシの立てたフラグごと抹消されて…〈妖精金の耳飾り〉は、『キーアイテム』から『クリア記念アイテム』に成り下がっちゃったって訳なの」
アタシの話した説明に、三人娘は「うわぁ~……」という声を異口同音に上げていた。
──アタシとしても、この結果は非常に残念に思っている。
折角、彼と出会い…誓いまでしてくれたその物語は…運営の身勝手な対応で、永遠に完結する事は無くなった。
それに…当時のパソコン画面に表示されるキャラクターの画像はかなり粗く、当時の色のバリエーションもあまり多くは無かった。
また、彼が所属する事になったであろう〈赤枝の騎士団〉には…他のサーバーに比べてエルフの割合が多かった上に、髪色も黄色系統色が殆どだったから…誰が“彼”だったのかを知る術も無い訳だ。
そして…アタシが彼の本当の名前を知り、その名前で呼んであげる機会も、彼が誓い立てしてくれた誓いが果たされる機会も…永遠に失われてしまったのだから……。
アタシは話を切り上げる為に軽く数回手を叩く。
「はいはい、話はここまで。さっさと掃除を再開しなさい。
アタシの部屋はアタシ自身で掃除するから、貴女達は他の場所を掃除しに行きなさいね。綺麗なギルドハウスで、気持ちよく新年を迎えたいでしょ?」
「「「はーい」」」
娘達がそう返事を返すと、部屋の外へと出ていく。
それを見送ったアタシは、机の上にある小箱へと近付き…その蓋を軽く開けながらポソリと呟く。
「……アタシは諦めないよ。もし、君があの時の事を覚えているのなら……
もし、君にまた会って話せる機会があるのなら…アタシは今度こそ、君を本当の名で呼んであげたい。
そして、君が誓い立てしてくれた…尊くも、真っ直ぐで純粋な誓いを果たさせる機会を与えてあげたい。
だから、元の世界への帰還の目処が立ったら…アタシは、きっと立派な大人になっているであろう君を捜しに、〈アルスター〉や世界中を旅してでも必ず見つけに行くよ」
そう言って小箱の蓋を閉めると、アタシは部屋の掃除に気持ちを切り替える。
──これもまた、一つの誓約……。
□■□
──〈ユーレッド大陸〉。
広大な中央ユーレッドの…シャンマイ山脈に向かって進みながら、中央ユーレッドの終点とも言うべき〈草原の都〉を目指して、男女五人組が旅を続けている。
一人は…緑色の蛙スーツを身に付け、背中に双刀を背負ったレベル90の〈暗殺者〉で、人間の紅毛の男性─レオナルド。
一人は…白と薄紅色を基調とした闘着に身を包み、長い黒髪を一纏めの太い三つ編み状にしているレベル90の元気いっぱいの人間の女性〈武闘家〉─カナミ。
一人は…ヴィクトリアン・メイド服の上にメイド服に似た重装鎧を身に付け、大鞄を持ち運ぶ藍色のショートカットにターコイズを磨いた様な暗群青の瞳が前髪に隠れているレベル90の人間で〈施療神官〉の小柄な少女─コッペリア。
一人は…〈古代水竜のサーコート〉を身に纏い、栗色の長い髪と栗色の瞳をしたレベル100のエルフであり〈古来種〉の〈刀剣術師〉の美青年─エリアス=ハックブレード。
一人は…皮鎧の上に毛皮のついたマントを纏い、髪を二つの団子状に纏め、ギルド〈楽浪狼騎兵〉に所属するレベル90の〈施療神官〉で巡廻師の女性─春翠。
──旅の道中、エリアスの左横を歩いていたレオナルドは…何気なく見ていたエリアスの耳に付けてある耳飾りが左耳のみしか身に付けていない事に気が付く。
代わり映えのしない荒野の道のりを…ただ歩き続ける事に辟易してきていたレオナルドは、気になったその事をエリアスに尋ねてみる。
「ちょっと聞いていいか?エリアス」
「一体、なんだい?レオナルド」
「その耳飾り、何で左耳だけにしか身に付けていないんだ?」
レオナルドから投げ掛けられた質問に、エリアスは少し思案する様な素振りを見せる。
いつの間にか、カナミ達もエリアスが口にするであろう答えに興味を示している。
皆からの注目が集まっている中…エリアスはゆっくりと口を開く。
「この耳飾りは、育ての親から贈られたもので…元は、両耳に身に付けていたのだ。ある時…幼かった私は、闇妖精が仕掛けてきた悪戯のせいで“名前と記憶”を奪われてしまった事がある」
エリアスの語り出した話の中で、エリアスが“名前と記憶を奪われた”という辺りで…カナミ、レオナルド、春翠の三人は驚いた表情を見せている。
「エリアス殿に、その様な過去があったのですね……」
「まさか…〈古来種〉であるエリアスが、たかが闇妖精に“名前と記憶”を簡単に奪われたりする事があるなんて…とても信じられないぜ」
「でも、今のエリエリはエリエリだよね?」
カナミのその発言に苦笑いを浮かべながらも、エリアスは話を続ける。
「その時、親切な〈冒険者〉殿が助けてくれたおかげで“名前と記憶”を取り戻す事が出来たからな。その時の私には、あの方に渡せる礼の品を持っていなくて……だから将来、『あの方が危機ある時に必ず助ける』という誓いを立てたのだ。右耳の耳飾りは、その時の誓い立ての証としてあの方に今も預けてある」
そう語る時のエリアスの表情は、穏やかなものだった。
「……成程な。そいつは、エリアスにとって“大恩人”って訳か。
当時の事をそこまで覚えているなら、その人物の特徴とかも覚えているのか?」
レオナルドからの質問に、エリアスは頷く。
「勿論だ。その方は、強くて優しくて聡明で…私に、〈古来種〉として生きていく為の一つの道標を示してくれた偉大な方だ。
異国の鎧…ヤマトの〈古来種〉の者が身に付けている鎧によく似た物を身に付けて、鮮やかな桜色の髪をポニーテールに結んでいて、深い蒼色の瞳をしたエルフの女性だったな……」
「ふーん。“ヤマト”って事は、日本人って事だよな。おい、カナミ。お前は何か心当たりありそうな人物を知らないのか?」
エリアスから恩人の特徴を聞いたレオナルドが、話題をカナミへと振ってみる。
話題を振られたカナミは、「うーん」とか「むー」とか声を出しながら一応彼女なりに考えている様だ。
「……夜櫻さん……かな?」
「知ってるのか!?」
「どの様な人物なのだ!!」
詰め寄る勢いで聞いてくるレオナルドとエリアスに怯む様子も無く…通常運転の様な反応で、カナミが答える。
「う~んとね…。シュッ!で、ズバッ!で、シャキーン!…って感じな人だよ!!」
カナミの擬音だらけのその答えに…エリアスとレオナルドが思わず脱力し、崩れる様にその場でガックリポーズを取る。
「マスター。それでは、具体性に欠けます」
コッペリアが冷静に、カナミへ指摘をする。
「カナミに聞いた、僕が馬鹿だったよ……」
「ミストレス・カナミ……」
レオナルドとエリアスの二人は、揃って額に手を当てながら深い溜め息を漏らす。
「むー。だったら、どう言ったら分かりやすいの~」
「そうですね。具体的には…その方がどの様な事をしたのか、どの様な考えを持っているのか、どの様な人柄なのか……だと思います」
プーっと頬を膨らますカナミに、春翠が苦笑いを浮かべながらさりげなく助言をする。
春翠の助言を聞いたカナミは、改めて知り合いの〈武士〉─夜櫻の事を話し出す。
「そうだね……一言で言えば、面白い人だよ!!
何処かに悪人がいるって聞けば…華麗に成敗し、未知の遺跡を見つけたって聞けば…飛んで行って挑戦し、絶景を見つけたって聞けば…そこまで眺める為に旅立ち、強敵がいるって聞けば…思いっきり大暴れする人だよ!!」
「それって、具体的って言えるのか!?」
カナミのその説明に、レオナルドは条件反射の様に思わずツッコミを入れる。
すると突然、「あっ!」とカナミが声を上げる。
「そうそう。シロ君が、『海外で夜櫻さんの事は〈神風〉って呼ばれてる』って言ってたよ~」
ハイハイと投げやりな態度を取っていたレオナルドだったが…“神風”という単語の意味を理解すると同時に、驚愕の声を上げる。
「何だって!?その“夜櫻”って人物は、〈神風〉なのか!?」
「何か知っているのか?レオナルド」
問い掛けてくるエリアスに、レオナルドは黙って頷く。
「僕達〈冒険者〉の間では、超有名人だ。彼女が共闘しているだけで、大規模戦闘の勝率が八割までに引き上げられる位に凄い人物なんだ。
戦場の流れを一変させ、敵側から味方側へと…向かい風から追い風に切り替わるかの様に勝利を引き寄せる事から“神風”って呼ばれてる」
「そうか……。レオナルド。良かったら、君の知ってる限りで構わないから彼女の事を聞かせて欲しい」
「良いぜ。そうだな……」
そう言って、レオナルドは〈神風〉と呼ばれた一人の〈冒険者〉と初めて共闘した時の話を語り始める。気が付くと、カナミ達も耳を傾けて聞く体勢に入っている。
──レオナルドの昔話の最中…煩い位に大声を出しているカナミと、物静かに聞き入るコッペリアは完全に対称的な反応で、春翠は割りと冷静で大人しい反応を見せている。
そして、旅の道中…なにかと思い詰める事が多かったエリアスは、今はまるで子供の様に目をキラキラと輝かせ、楽しそうに笑顔を見せて話を聞いている姿を見ながら…レオナルドは「たまには、こんな日も悪くないか」と思うのだった……。
■□■
──後に…〈天狼洞〉において、葉蓮仙女の策略によって、エリアスは自らの有り様を見失い、仲間に刃を向ける事となる。
しかし、レオナルドが命を懸け…身体を張ってでも掛けた言葉がエリアスの心を救う事となる。
かつて、彼が道を見失いかけた時に進むべき道標を示したのが夜櫻なら…自らの有り様を見失いかけた時にその心を救ってくれたのもまた、レオナルドだったのである……。
《データベース》
『湖の貴婦人の追憶』
北欧サーバーの期間限定クエスト。トリガー式。
〈湖の貴婦人〉の依頼で、〈古来種〉アーサー=ペンドラゴン所縁の地を巡り、三つの所縁あるアイテムを手に入れてくるお使いクエスト。
所縁ある三つのアイテムを〈湖の貴婦人〉に全て引き渡す事により、製作級の片手剣〈水精の剣〉の材料となる素材アイテム〈湖の水晶〉を入手出来る。
低レベルから中堅レベル向けのクエスト。
〈湖の水晶〉
製作級の片手剣〈水精の剣〉の材料の一つである素材アイテム。
【フレーバーテキスト】
清き湖の冷気が封じ込められた水晶。その清き水の波動は、あらゆる邪気を祓う力を持つ。
〈選定の台座の欠片〉
『湖の貴婦人の追憶』のキーアイテムの一つ。〈古来種〉アーサー=ペンドラゴン所縁の品。
【フレーバーテキスト】
〈古来種〉アーサー=ペンドラゴンが、王の選定の剣を引き抜いた時の台座の欠片。
〈勝利の祝杯〉
『湖の貴婦人の追憶』のキーアイテムの一つ。〈古来種〉アーサー=ペンドラゴン所縁の品。
【フレーバーテキスト】
〈古来種〉アーサー=ペンドラゴンが、勝利した時に使用された祝杯。
〈妖精郷の煌めき〉
『湖の貴婦人の追憶』のキーアイテムの一つ。〈古来種〉アーサー=ペンドラゴン所縁の品。
【フレーバーテキスト】
〈古来種〉アーサー=ペンドラゴンが所有していた鞘の力の煌めきが封じ込められた結晶。
〈水精の剣〉
製作級の片手剣。冷気属性。
〈守護戦士〉、〈施療神官〉、〈暗殺者〉、〈盗剣士〉、〈吟遊詩人〉装備可。
30%の確率で〈凍結〉または〈凍傷〉の状態異常発生。
〈不死〉系に対し、30%の確率でクリティカル発生。
【フレーバーテキスト】
水精の持つ清らかな水の波動を宿した剣。その清き水の力は、あらゆる邪気を祓う聖なる剣となる。
『妖精郷の迷い路』
北欧サーバーで発生する連作クエスト『英雄の軌跡』の起点となるクエスト。トリガー式。β版専用クエスト。
〈妖精郷〉にいる〈妖精王〉または〈妖精女王〉のどちらかに認められ…〈妖精水晶の指輪〉か〈妖精王の羅針盤〉のどちらかのアイテムを所有している事、月夜に〈妖精郷〉の入口が開く場所を通過する…という二つの条件を満たす事で発生する。
〈悪の闇妖精〉によって『名前と記憶』を奪われた幼き頃のエリアス=ハックブレードと出会い、彼と共に〈妖精郷の迷い路〉を逃げ回る〈悪の闇妖精〉をひたすら追い掛ける。
袋小路に追い詰めると、〈悪の闇妖精〉との戦闘が発生。戦闘に勝利すると〈記憶の結晶〉を入手出来る。
その後、〈妖精郷の狭間〉の出口で幼いエリアスと別れる事になるが…道中でエリアスからされた質問に対する返答内に鍵となる単語が含まれている事や〈悪の闇妖精〉と戦闘になった際にノーダメージで“無力化”する…という幾つかの必須条件を満たす事で、次のクエスト発生のキーアイテム〈妖精金の耳飾り〉を入手出来る。
オープンβ導入時、クエストクリアの報酬が『キーアイテムの〈妖精金の耳飾り〉のみ』だった事等にプレイユーザー達から批判が殺到し、本サービス開始時に停止される筈だったが…担当の手違いにより、夜櫻がクリアするまでクエストが生きていた。
夜櫻がクリア後、クエストのクリア履歴からクエストが停止されずに生きていた事が判明し、担当によってクエストデータ自体は消去された。
なお…エリアス本人は、この時の記憶を鮮明に覚えている模様。
〈記憶の結晶〉
〈悪の闇妖精〉によって奪われたエリアスの『名前と記憶』が封じ込められた結晶。
妖精族が使える複雑で特殊な魔法の多重行使によって封じ込められている為、魔法の解除は、〈妖精王〉か〈妖精女王〉のどちらかにしか出来ない。
【フレーバーテキスト】
妖精族の特殊な魔法を多重発動によってエリアスの“名前と記憶”が封じ込められた結晶。
まだ、挫折や後悔を一切知らぬ無垢なる心を持っていた頃のエリアスの魂の輝きである蒼き煌めきを結晶の中に内包している。
〈妖精金の耳飾り〉
エリアスの育ての親が〈妖精鉱〉の一つ、〈妖精金〉で名工に頼み造らせた耳飾りの片割れ。
元は連作クエストの『キーアイテム』の一つだったが、担当によってクエストデータが消去された事により『クエストクリア記念アイテム』へと成り下がった。
なお、アイテムデータまで消去されなかったのは…クエストを折角、頑張ってクリアしてくれたプレイヤーに対する担当者の細やかな気遣いから。
だが…夜櫻にとっては、これは“ただの記念アイテム”では無く…真の名を知らぬ彼との大切な思い出の品であり、彼が立ててくれた誓約の証として、今も大事に保管し続けている。
【フレーバーテキスト】
〈妖精鉱〉の一つ、〈妖精金〉で造られた耳飾りの片割れ。
『健やかに育って欲しい』という養い親の細やかな親心が込められている。
『我、この身に受けし恩に報いる為、〈冒険者〉に危機ある時…我が 誓いに懸けて必ず助ける事をここに誓う。〈妖精金の耳飾り〉は、その誓いの証とする』という…幼き頃の“ある〈古来種〉”の純粋で、ひたむきな心によって立てられた誓約の思いも込められている。
〈悪の闇妖精〉
〈妖精郷〉で悪さばかりしていた為に、怒った〈妖精女王〉によって〈妖精郷〉より追放された闇妖精。
〈妖精郷〉に立ち入る事が出来ず…〈妖精郷の狭間〉の中をさ迷っている。
〈妖精郷の狭間〉にやって来た者に質の悪い悪戯を行う事で、孤独の寂しさを誤魔化している。
『英雄の軌跡』
北欧サーバーで発生する連作クエスト。トリガー式。
〈古来種〉エリアス=ハックブレードが、妖精族に育てられ…〈赤枝の騎士団〉の一員となり、〈妖精族の勇者〉と呼ばれる様になるまでの物語を知る事が出来る大規模なクエスト。
本来は、β版専用のクエストだったが…プレイユーザーから『起点のクエストのクリア条件が分からない』、『クエストのクリア報酬がキーアイテムだけなのが嫌だ』、『〈悪の闇妖精〉を追い掛けるのが面倒臭い』等の不満や批判が殺到した為に、本サービス開始時に停止される事となった。
だが、担当の手違いでクエストは健在。夜櫻が起点クエストをクリアするまで、長期間放置されていた。
現在は、クエストデータ自体の消去によって抹消されてしまった。
『妖精女王の憂鬱』
北欧サーバーで発生するクエスト。トリガー式。
モンスターに襲われている妖精を助ける事を起点に発生する。
妖精を助けると、『〈妖精女王〉様がご病気で、良く効く薬を手に入れて欲しい』と頼まれる事になる。
薬を入手した後に、妖精の導きで〈妖精郷〉を訪れる事になり…〈妖精女王〉の元気の無い原因が『妖精族を滅ぼそうとする魔狼の存在』である事が判明し、これを退治する事でクエストクリアとなる。
クリア報酬アイテムは…〈妖精女王の魔法の小箱〉、〈妖精水晶の指輪〉、〈妖精王の羅針盤〉の三つで、どれも高性能のアイテムとなっている。その為、アイテムの総数はかなり少なく設定されている。
〈妖精女王の魔法の小箱〉
クエスト『妖精女王の憂鬱』のクリア報酬の特殊アイテムで、『中に入れた物の状態を永久的に最良の状態に保つ』と『如何なる手段を用いても、中にある物を所有者以外が手にする事は不可能となる』という二つのアイテム特性を持つ。
『中に入れた物の状態を永久的に最良の状態に保つ』という特性については、時間経過による劣化や耐久度の減少を完全に防ぐ事が出来る。
但し、キーアイテム全般と生き物は収納不可能。
『如何なる手段を用いても、中にある物を所有者以外が手にする事は不可能となる』という特性については、賊系のサブ職持ちや盗む系の特技を持つモンスターからの盗みを完全に防ぐ事が出来る。
夜櫻は〈妖精金の耳飾り〉を無くさない為にも、この小箱の中に仕舞って大事に保管している。
【フレーバーテキスト】
ドワーフの名工が造り上げた小箱に、〈妖精女王〉の護りの魔法が何重にも掛けてある。
〈妖精女王〉の魔法による強き護りが、中にある物を永遠に護り続ける。
〈妖精水晶の指輪〉
秘宝級装飾品。全職業装備可。
クエスト『妖精女王の憂鬱』のクリア報酬で〈妖精郷〉への通行証とも言える指輪。
この指輪を持っている事で、北欧サーバー各地に出現する〈妖精郷の狭間〉への入口が開き…通行が可能となる。
装備者の幸運値を少しばかり上昇させる効果と15%の精神属性耐性の効果を持っている。
【フレーバーテキスト】
〈妖精水晶〉に特殊な魔術的加工を加えて造られた水晶の指輪。淡い虹色に輝く指輪は、幸運を呼ぶと言われ…〈妖精王〉か〈妖精女王〉のどちらかに認められた者のみに与えられる妖精族との友好の証。
〈妖精王の羅針盤〉
クエスト『妖精女王の憂鬱』のクリア報酬の特殊アイテム。
〈妖精郷〉へと繋がる〈妖精郷の狭間〉は常時、濃霧が立ち込めている為…この羅針盤を使用しなければ、〈妖精郷の狭間〉で迷子になる確率が高くなる。
また、アイテム特性として…目的地を入力する事でそこまで辿り着く為の道筋を示したり、マーキングした対象の位置を持ち主に知らせてくれる。
但し、マーキングしたい対象に一度対面する必要があるという難点がある。
【フレーバーテキスト】
〈妖精郷〉へと導く、魔法の羅針盤。
美しいエメラルド色の羅針盤には…『〈妖精郷〉を旅立つ妖精達が、自らの進むべき道に迷わぬ様に』という、〈妖精王〉の深き慈愛の思いが込められている。
〈赤枝の騎士団〉
〈セルデシア〉を守護する〈全界十三騎士団〉の一つで、北欧サーバーにある〈古来種〉達による騎士団。
〈妖精族の勇者〉エリアス=ハックブレードを始めとする…北欧サーバーで大活躍する全ての〈古来種〉が所属している。
夜櫻曰く…〈赤枝の騎士団〉に所属しているエルフ族の数は、〈全界十三騎士団〉でダントツトップであり…その殆どの人物達の髪色は黄色系統の系統色との事。