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第31階層 階層によっては救助っていうのも一苦労でして……まくあい



「――アシュレイが、小人に頼み込んでくれるそうだ」



 これが、今回俺たち『果てなき輝き』が救助隊に加わることを承諾した理由だ。

 正直な話、俺はもともとこの救助要請に乗り気ではなかった。当たり前だ。俺は冒険者が救助隊を組むなんて何を言っているんだと、この手の話になると否定する側に回る人間なのだ。



 迷宮の潜行は自分たちのことで手一杯で、最悪メンバーが欠ける可能性もある。

 そしてそれが【屎泥の泥浴場】ならば、そのリスクは急激に跳ね上がる。毒気や瘴気など、ここは他の階層と比べても特に危険が多い場所なのだ。そんなところに、仲間や友人ならまだしものこと、知り合いですらない人間を助けに行くなど正気の沙汰ではない。


 まともな連中ならば決して受けないし、チームの命を預かるリーダーとしても受けるわけにもいかなかった。



 だがそれが、小人が行くと言うなら話は変わる。



 俺たちも彼には何度か世話になったことがあるため、その能力の高さについては知っているし、それに彼が行くのであればある程度の安全性も担保される。

 もしものときは引き返してもいいという保証があるなら、やってみてもいいのかもしれないということになった。



 加入の鍵は、七番受付の受付嬢だ。



 ……ギルドの受付は、窓口によってその性質や性格が変わる。



 一番から三番は高ランクの元冒険者(ダイバー)を据えており、担当する冒険者(ダイバー)は特に超高ランクや冒険者(ダイバー)経歴が長い冒険者を受け持つ。これはお互いに対等なやり取りを行うためだ。


 四番五番は、超高ランクと高ランクの間を行き来する冒険者(ダイバー)を担当し、受付嬢たちも煩雑な手続きをこなせる事務処理能力の高い者が据えられる。ランクの変動が激しいため、書類も膨大な数になる。


 七番受付付近は受付としてもベテランで、特に濃い冒険者(ダイバー)たちを抱えているという。慣れてきて思い上がったり、暴走しがちになったりする連中をうまく捌けるし、他の受付嬢との連携も上手い。

 ……まあ単にあそこの受付嬢たちも濃いから相殺されているだけだとは思うのだが。



 その受付嬢の一人が、小人の担当をしているのだ。

 小人、最近噂になってきている『一人歩きの小人(アローンポーター)』のことだ。

 名前は、クドー・アキラ。風変わりな格好で迷宮に来る少年で、魔法使いとしての属性は紫だという。紫父神アメイシスの加護を受けた、閃光と鉄槌を操る。

 以前にチームが【黄壁遺構】で危機に陥ったとき、帰りのルートを見繕ってもらってから、良好な関係を築いている。



 ルート選定が抜群であり、深い階層でもお構いなしに一人でどこでも出没する。

 最近ではよく誰かと一緒にいるのを良く目にすることも増えてきたうえ、噂では、258位の『赤眼の鷹(ホークバッカス)』にスポット的に属するのではという噂も立っている。

 特に同じ中堅冒険者からは彼に辻回復などをしてもらったという話を良く聞く。

 得意なのは回復魔法だけでなく、一度に使える汎用魔法の数もあり得ないほど多いという。今回の戦闘でそれをいかんなく見ることができた。



 ……まあなぜかその話題を彼に振ると、しばらくの間「あくま、あくま」とぶつぶつ独り言を言い始めるのは本当に謎なのだが。



 目立つような行動を避け、助けた冒険者への口止め、迷信を信じる冒険者の存在などから、いまだ冒険者全体の認知度は薄いものの、その知名度は確かなものになりつつある。

 本人がそれを知っているかどうかはわからないが。



「ぎゃー! ガングリオンガングリオンガングリオン! やばいきもいあっちいけー!」



「…………」



 そんな当人と言えば、いまは半泣きになりながらモンスターからひたすら逃げ回っているという状況だ。

 彼のことを追いかけ回しているのは、ここ【屎泥の泥浴場】を代表するモンスターの一つ、『腫瘤魔獣(ガングリオン)』。ひどく喜色悪いモンスターで、追いかけられたらああして逃げ回ってしまうのも無理はないというほどに、強烈な見た目だ。

 彼なら倒す手立ては十分持っているだろうに、どうも気弱な部分が邪魔しているらしい。一緒に来た『銀麗尾(シルバーテイル)』などは遠間から呆れの視線を送っているほどだ。


 だが、小人のあれは警報みたいなものだし、逃げつつもあれはあれで他の冒険者(ダイバー)が攻撃に入りやすいよう考えて動いている節がある。

 そもそも『腫瘤魔獣(ガングリオン)』自体、強モンスターのカテゴリーに入るのだ。彼が『この階層で嫌われているモンスター第三位』と言った通り、脅威度も三番目で準ボスクラスに相当する。今回加わったソロ冒険者(ダイバー)も実力はあるが、やはり手出しするのにはしり込みしてしまうほどなのだ。



 その話は、いまはともかく。



 今回のメンバーの中でも特に目を(みは)るのは、やはり『銀麗尾(シルバーテイル)』だろう。耳長族。戦闘能力がすこぶる高い。ここに来ても、ほとんどのモンスターを単独で撃破しているほどだ。おそらくは、氏族中でもかなりの実力者なのだろうと思われる。

 先ほど小人のサポートを受けて、それこそレベル40後半の冒険者並みの戦闘能力を発揮していた。


 単独(ソロ)冒険者はこの二人がいるせいか、その他の単独(ソロ)が霞んでしまうほどだ。彼らも決して実力は低くはないものの、レベル30超えの、しかも四色以外の魔法使いに、耳長族の実力者。比べる方が可哀そうというものだろう。



 次いで目を向けたのは、『ユルい集い』だ。他の二つのチームのアクが強いため、バランスを考えて選ばれた。特にここのリーダー『黒狼(ブラックハウンド)』は信頼できる。判断力に長けているし、いつも一歩退がった場所から物事を見ているため相談も持ち掛けやすい。戦闘能力も高く、戦士としての火力なら『銀麗尾(シルバーテイル)』と比べても遜色ないほどだ。



 メンバーもマイペースな者たちではあるが、みな協調性が高く連携が取りやすい。ここまでの安定した潜行は彼らなしでは成しえなかっただろう。



 次に、『秘水の加護』。ここについては、実力は申し分ないのだが、メンバーの攻略意欲が高過ぎるのが難点だろう。

 誰も彼もがイケイケノリノリであるため、メンバーが個々で暴走しがち。それゆえここのリーダーが半ば保護者のような印象を受ける。役割が遠距離に偏っているためバランスが良いとは言い難いものの、実力はかなり高い。やはり青の魔法使いを二人も抱えているのが大きいだろう。



 ……『ぶらすとふぁいやー』。冒険者(ダイバー)界隈ではとある理由で危険なチームと目されているが、それとは裏腹に高い実力を有する。特に今回、受付嬢たちは最悪の場合を想定してこのチームを選んだらしい。それだけこの階層は、高火力で焼き払うという手段が効果的だということだ。『溶解屍獣(ポイズンキマイラゾンビ)』を倒した実績があるというのも大きい。

 あまり気は進まないが、大量のモンスターに囲まれた際はその力に頼ることになるだろう。



 仲間の弓使いが囁く。



「……リーダー。そろそろ『腫瘤魔獣(ガングリオン)』の動きが止まります」


「そうねえ。仕掛け時だと思うわよ。アキラ君が上手に沼地の近くに引き連れていってくれたみたいだし。落としちゃえばいいものね」



 沼に落ちれば足が止まる。あとは遠距離主体の者たちに任せれば安全に倒し切れる。

 だが、



「いや、そっちは大丈夫だろう。『黒狼(ブラックハウンド)』がすでに動いている」


「あら? いつの間に」


「さすがあそこは良く見ています。機を見るに敏というやつですね」


「観察力はこのメンツの中でも一番だろう」


「それにしても、今日はみんな元気ね。いつもは誰か彼か体調崩しちゃうのに」


「それもこれも小人のポーションのおかげです。これなら長時間の行動も苦にならない」



 だろう。最初は一体何を持ってきたのかと思ったが、これほど有用なものがあるとは思わなかった。

 ポーションショップには並んでいないため、彼が作ったものだろう。



 そもそもポーションは怪我を治したり回復させたりするものなのに、それがどうしたらこんな風になるのか。やはり彼には不思議がいつも付きまとう。




 ……それを作った本人はと言えば、各種ポーションを持って待機中の冒険者(ダイバー)の間を回っている。先ほどまで逃げ回っていたのが嘘のようだ。



「……どうなってるんだろうな」


「ほんとどうなってるのかしらね」


「まったくです」



 まあ、この階層を楽に動けるため、文句はないのだが。



 …………ふと『銀麗尾(シルバーテイル)』が小人に近づいて行き、彼の前で口を開けた。

 すると、小人は何か黒いかけらのようなものを『銀麗尾(シルバーテイル)』の口に放り込む。やがてまた『銀麗尾(シルバーテイル)』はモンスターを倒しに前線に戻っていた。





 ――ウルフィス・ユーコーンの影が、『腫瘤魔獣(ガングリオン)』に迫る。



 すでに『腫瘤魔獣(ガングリオン)』を引き付けていた人物の姿はない。

 先ほど使った高速移動を行う魔法を使用し、跳躍して一気に離脱したのだ。



 『腫瘤魔獣(ガングリオン)』が振り返る前に、こちらは攻撃の準備を終えた。

 気合を一気に溜めて、咆哮と共に一撃を放つ。



「ォオオオオオオオオオオオオオオン!!」



 『腫瘤魔獣(ガングリオン)』の右上半身が消し飛んだ。



「リーダーやっるぅ!」


「いやー、やっぱり狼撃の一発はデカいねぇ」



 モンスターを倒した直後、それを見ていたチームのメンバーたちがわいのわいのしながら集まってくる。



「他のところはどうだ?」


「みんな安定してる。俺たち出番はほとんどなーし」


「ハーゲントさんがいて助かったよ。他の冒険者(ダイバー)じゃこのメンツまとめらんないもん」


「だよなー」



 『輝閃光(フラッシュヘッド)』は先ほどのケンカのときも、うまく図らってくれた。

 あれは、あそこで下手に怒鳴ってギスギスするよりも、自主的に引き下がらせた方がいいという判断だろう。互いに引っ込めれば、あとは再びケンカをしないように、うまく間に入ればいいだけだ。



「こっちはどうだ? アルゼ」


「うーん。ここの敵は指弾自体が効きにくいんだよ。できて足止めよ? 足止め。俺とか『影弓』とか、あと『必中眼(インファリブルアイ)』あたりはサポートに徹するしかないな」


「そうなるか」



 『影弓』は弩弓使い。


 『必中眼』投石士。


 アルゼは指弾師だ。



 軟泥モンスターなど、変わり種が多いこの階層では、狙いすました必殺の一撃というのは効果が薄い。力ずくで、大火力で、一気に吹き飛ばすのが常道だ。



「おーい、ラーダ。『秘水の加護』のリーダーから壁作ってくれって要請」


「えー? 『必中眼(インファリブルアイ)』が? なになんかヤバいのでも出たの?」


「……そうじゃなくて、みんなが前に出過ぎないようにって」


「敵じゃなくて仲間の方せき止めんのかよ!!」


「あそこも苦労してるな」



 『秘水の加護』のメンバーたちを見て、全員が微妙な顔をする。確かに『秘水の加護』の連中は、前のめりになりすぎな節がある。よくもまあこんな階層であそこまでガツガツできるのか本当に不思議だが、だからこそ短期間でランクを伸ばすことができたのだろう。



 メンバーの闘争心が強くて、ランクが近いこちらとよく迷宮任務を競い合っている。

 ただ仲自体は悪くないため、ときにこうして協力し合うこともあるのだ。



 ふと、誰かしらがこちらに向かって歩いてくるのが、視界の端に映った。



「『ユルい集い』の皆さーん。さっきはありがとうございますー。ポーション各種とか要りますかー?」


「こっちは大丈夫だ! クドー君はソロの冒険者の方を頼む!」


「了解でーす!」



 現れたのはクドー君だ。

 先ほどは『腫瘤魔獣(ガングリオン)』を引き付けてくれていたが、いまはまるで商店街をうろつく売り子のように、冒険者たちの間を回っている。

 彼には勝手に動いてもらうに限る。むしろ何かしら注文を付けない方が、上手く回るように立ち回ってくれるのだ。



 そんな中、『銀麗尾(シルバーテイル)』が彼のもとに駆け寄ってくる。



「アキラ、アキラ、さっきの」


「はいはいチョコねチョコ。ほい」


「はむっ」



 クドー君は、『銀麗尾(シルバーテイル)』の口に、黒いかけらを放り込んだ。

 『銀麗尾(シルバーテイル)』は一瞬顔を蕩けさせ、しばらくの間至福のひとときを堪能したあと、再び前線へと戻っていく。



 ……いまのは一体何のやり取りだったのか。

 それをぼけーっと眺めていた一人が、何とはなしにこぼした。



「……さっき、『松露怪獣(マタンゴン)』をぶっ飛ばしたとは思えないくらいほのぼのしてるよねえ」


「そうだな。なんか『森』とか『水没都市』の安全地帯とかに来てる感じ」


「ちぐはぐだよなちぐはぐ」


「なのにクドーくん、攻撃力はウチのリーダーに引け取らないんだもん」


「いや、クドー君ならおそらくこのメンバーの中で最大火力を出せる」


「え? そうなの」


「そんな匂いがする」


「リーダー鼻利くもんね」


「犬だけに」


「狼だ狼。まったく……」



 そんな話をしながら、みんなで笑い合う。

 これだけの面子が揃えば、この階層の移動も余裕だろう。

 この危険地帯を気負うことなく踏破できるというのも、なんとも不思議な感覚だが。





 ――チーム『秘水の加護』リーダー、クディット・シルディは、前に出ていたメンバーたちに声を掛けた。



「アリア! レリア!」


「こっちは大丈夫!」


「何も問題ないよ!」


「そうじゃなくて! 前に出過ぎだからもう少し下がってってこと!」



 注意の声を掛けるけど、二人は前線から離れようとしない。

 どうしてこの危険な階層でそんな前に行きたがるのかまったくもってわからないけど、リーダーをやっているぼくとしては見過ごせないことだ。

 ぼくが何度も大声で叫ぶけど、全然聞いちゃくれない。



「おーい。来たよー」


「あっ! すみません! よろしくお願いします!」


「はーい」



 ぼくが二人を引き止めるのに苦戦している中、『ユルい集い』の魔法使いのラーダさんが来てくれた。

 彼はすぐに黄の魔法を使って、地面を隆起させてくれる。



 前線に壁ができた。これで二人は立ち止まざるを得ない状況になる。

 うん、モンスター相手の防壁じゃないのだ。



「――よし、じゃあ少し下がろうか」


「りーだー! これじゃ前に出れないよー!」


「ちょっとわざわざ来てもらって何させてるの!」


「君たちの邪魔だよ。これ以上前に出ないようにね」


「どうしてそんなことするの!? 倒す数が減っちゃうよ!?」


「そもそもなんで魔法使いなのに前にばっかり出ようとするの君たちは! おかしいよ!」



 ぼくはそう叫んだけど、他のメンバーも、アリアとレリアの味方なのか。



「リーダーリーダー! ここで頑張れば素材もがっぽりなんだぜ!」


「折角安全にこの階層を動けるんだ! 稼げるとき稼いでいこう!」


「だめだめだめだめ! いいから下がる!」


「どうしてー!」


「どうしても! 命が大事! 無理しない!」


「リーダーもっとガツガツ行こうよ!」


「だーめーなーのー!」



 まったく。彼女たちだって状況が見えてないわけじゃないけど、そもそもぼくら『秘水の加護』のメンバー構成は、この階層と相性が悪いのだ。他のチームのみんながいるからこうしてここまで来れているだけであって、そうじゃなかったらもっと手前で引き返している。

 確かにチャンスでもあるけど、動きを少しでも間違ったら大変なことになりかねないのだ。慎重に進んでいたいし、みんな無事で帰りたいのがぼくの切実な願いである。



 そんなぼくの気も知らないで、メンバーがぶーぶー文句を垂れ始める。



「そんなに文句あるなら、君たちがリーダーやる?」


「えっ……?」


「それは……」



 アリアとレリアは言い淀み、目を赤紫の空に向かって泳がせる。他のメンバーからも「それはやめろ!」「リーダーはリーダーでいいから!」と反対の声が上がった。みんないつもぼくの消極的な部分に文句を言うくせに、こういうときだけ押し付けてくるのは本当になんなのか。


 まあ実際消極的なんだけど。その消極的な意見も、冒険意欲がバリバリあるみんなの意見で潰れちゃうんだけどさ。



 そんな話が終わったと、ぼくらはもとの作業に従事する。『粘液汚泥(ポップスライム)』掃討だ。そこら中に湧いて出る。他の危険なモンスターもそうだけど、こいつらをきちんと掃除をしていないとチームが全滅するっていうくらい、まめな駆除が重要なモンスターなのだ。



 みんなで立ち回ってひとしきり周りの掃除をし終えたあと。



 ぼくに声を掛けてきたのは、アキラくんだった。



「ご苦労様、霧吹きかける?」


「うん。ちょっとお願いしようかな……」


「ほい。じゃあぷしゅぷしゅっ……と」


「ふう……なんか気分も落ち着くねこれ」



 彼とは性格が似ているからなのか、迷宮で出会うときはこうしてよく気を遣ってくれる。

 先ほどまで『腫瘤魔獣(ガングリオン)』の引き離し役をしていたのに、こうして周りをよく見回ってくれるのは本当にありがたい。



 ぼくが精神的な疲労で肩を落としていると、アキラ君が同情するような視線を向けてくる。



「クディット君のとこ、いろいろ大変だよねぇ」


「そうだね……やる気あり過ぎるってのも困りものだよね」



 ぼくはしみじみため息を吐く。いつものことだけど、そろそろ落ち着いてくれないだろうか。まあこんなみんなだからこそ、ここまでランクを上げられたってこともあるんだけど。



「アキラ君はどうして今日のメンバーに?」


「僕? 僕はアシュレイさんがどうしてもって言うからさ。まあ、仕方なーく本当に仕方なーくメンバーに加わったわけですよ」


「そうだよね。こんなの普通は引き受けないよね」


「そうそう。道中で助けるならまあわかるけどさ、助けに行くとかどうなの? 僕はレスキュー隊に入った覚えはないよ。まあアシュレイさんは人道的にとかそうい断りにくいこといわないからまだいいんだけど」



 アキラ君はそう言いながら、ポケットから食べ物が入った袋を取り出す。

 黒っぽい茶色をした長方形のかけらだ。何とも言えない甘い香りが漂ってくる。



「はい、これ」


「ありがとう。確かこれ、さっきから『銀麗尾(シルバーテイル)』にあげてたやつだよね」


「そうそう、さすがよく見てるなぁ」


「これはなんなの? 薬かなにか?」


「チョコ。甘くて美味しいお菓子だよ」



 彼が『ちょこ』と言ったお菓子を、口の中に放り込む。これまで感じたことのないような、得も言われぬ甘味が広がった。おいしい。さっき『銀麗尾(シルバーテイル)』が顔をとろんとさせていた理由がよくわかる。ぼくも顔が緩んでしまいそうだ。



「これ、すごく甘くておいしいね」


「でしょ。何個かあるからもって行きなよ」


「じゃあ遠慮なく」



 そんな感じで、いくつか分けてもらった。

 こんなにおいしいものなのに、お金も取らずに気前がいい。

 アキラ君は相変わらずどこでも『小人』をしているみたいだ。

 そんな彼は「人肌でも溶けちゃうから気を付けて、早めに食べちゃってね」と注意点を教えてくれる。



 そして、



「そっちはどうして救助に?」


「緊急な迷宮任務だし、ギルドも困ってるから、引き受ければ恩を売れるんじゃないかってのがぼくらの算段」


「それだけ?」


「メンバーも揃ってるしさ。救助は大変だけど、なんだかんだ安全に潜行経験を積めるし、他のチームの立ち回りも見れそうだから。プラスの面が多かったんだ」


「……なんだかんだ計算高いよね君もね」


「これぐらいじゃまだまださ。すごいところは他のチームの動きも利用してるみたいだし、情報収集してランキング下がるタイミングを見計らって動くとこもあるみたいだいよ?」


「こわーい」


「こわいよねぇ」



 二人してなんとも言えない息を吐く。超高ランク帯はほんとに魔境だ。ミゲルくんくらい人脈と高い政治力を持ってないとやっていけない。それかアキラくんくらいに単独(ソロ)でなんでもできる万能性かな。



「……ねえ、今度『赤眼の鷹(ホークバッカス)』とチーム合同で冒険してみたいんだけど、渡り付けてもらえないかな?」


「ミゲルに? 一応話してはみるけど、どうなるかはわからないよ? あとそれに、もしOK出たとして、ブレーキ役の負担大きくならない?」


「それは仕方ないと思ってあきらめるよ」


「わかった。聞いてみる」


「よろしくお願いします」



 ぼくはアキラ君にぺこりと頭を下げる。まあ十中八九、快い返事はもらえると思う。

 この話は向こういnもメリットがあるのだ。冒険者稼業というのは、沢山仲間を作るのが生き残りの秘訣でもある。これにはしがらみが増えるというデメリットもあるけど、仲良くできる人間を増やすのは絶対的に特なのだ。



 そんな風に、二人で少しの間ぼーっとチョコを食べていた折、



 ……視線の先に、大きな山が見えた。いや、あれは山じゃない。



 答えは一つだ。この階層に出てくる巨大モンスターである。



「避けよう。あんなのと戦わなきゃいけない理由なんてない」


「まったく同意ですよ。巨大怪獣とか専門家に任せるのが一番です。戦隊ヒーロー呼ばなきゃ戦隊ヒーロー」


「ほんとにね。その『せんたいひいろう』っていうのは知らないけど」


「まー、中には『このメンツなんだ! 倒して行こうぜ!』 ……って言い出す人は出るだろうけど、その辺はハーゲントさんが怒ってくれるよ」


「……ぼくのチームからも出てきそう」



 ぼくは顔を両手で隠さずにはいられない。アキラ君も「みんなガツガツしてるもんね……」と同情してくれる。



 そんな中、ぼくはふと気づいてしまった。



「あのさ、アキラ君」


「なになに?」


「これから向かう場所ってさ」


「あー、うん。要救助者がおられるらしき場所のことだね。えーっと、そうそう! あっちだね! あっち」



 そう言ってアキラ君が指差した場所は、彼が先ほど巨大怪獣と言っていたモンスターが出てきた場所だった。

 アキラ君も遅ればせて気付いたか。



「あっ……」



 目を点にさせて、なんとも言えない顔を見せる。

 どうやら今回、あのモンスターとの遭遇は避けられないらしい。



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[良い点] クドーくんへの、第三者視点でのお話が伺えて面白かったです。 クドーくん、自己評価と、彼のことを識っている他人からの評価が、隔絶していますね(笑。 クドーくんが、本人の自覚を余所に、フリ-ダ…
[気になる点] >「ただ、入るのはもう少し待ってくれって話だ。なんでも、やることがあるんだとよ」 クドーくんの「やること」と云うのは・・・ベアトリーゼ師匠の”解放”でしょうか?。  物語の続きが気に…
[一言] 漫画化おめでとうございます 小説の続きも気長に待ってます
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