表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

龍の毛探し 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 へえ~、また巨大生物の骨が海底から見つかったんだってさ。ネットでもあちらこちらで画像があがっているよ。

 ひと昔前なら、写真は強力な証拠のひとつだったと思うけれど、いまや画像の加工、編集を手軽に、人によっては本物さながらに仕立てることもできちゃって、いまひとつ信頼ができなくなっちゃったんだよね。

 かつては手で触れ、じかに目で見るより本物のなかった世界。それがネットの広がりで、より手軽に本物に出会えるようになったかと思いきや、フェイクが平気でまかり通るご時世。結局、「本当」の世界は今も昔も、広がってはいないんじゃないかなあ、と感じてしまうんだ。


 そのせいか、「宝探し」をはじめとする、探し物は遊びでもガチでも、並びようがないほどの魅力を感じる。

 真偽はどうであっても、自分のとってふれあうことのできる本物に、大きな期待を寄せてしまうのだよね。ひとつ、僕が昔に行った宝探しについて、話を聞いてみないかい?



 当時の僕たちは、西洋ファンタジーにかぶれていた。

 まだ経験値の少ない僕たちにとって、ファンタジーといえば剣と魔法とドラゴンの三拍子がそろっているもので、いずれも自分の手元に置けないかと、あれやこれや考えていた者だ。

 木の枝を拾ってチャンバラをし、でたらめな印と詠唱で相手を打ちのめすことをのぞみ、ドラゴンに近づくべく、羽をはばたかせたり、炎を吐く真似をしてみせたりした。

 剣以外の二つは、真似というのもおこがましいような形だけのものだったが、僕たちの意欲は旺盛だった。

「悪魔の証明」などは知らなかったが、いま手元にないことが、この世に存在しないこととイコールだとは思っていなかったのさ。

 ゲーム風にいうなら、まだレベルが足りないだけ。現実的には、行動半径が足りないだけ。

 あと1レベル、あと一歩でも自分の壁を越えたなら、望んだ風景が待っているかもしれない。そんな都合の良い想像が、日々僕たちをファンタジーへ引っ張り続けていた。



 そんな僕たちに、新たな宝探しへの誘いがやってきた。この地域に眠る、「龍の角」を探そう、というものだった。

 話を持ってきた友達によると、この地域に横たわる二級河川はかつて、龍がその身を変えた姿なのだという。

 川の水は、いわば龍の血のようなもので、深い山奥の水源が心臓部。そこより絶えずあふれ出るから、流れは今に至るまで絶えていない。つまり、龍は現代にいたるまで生き続けている証だと。

 話だけだと信用されないことを見越していたか、語った友達はズボンのポケットから、あるものを取り出す。


 パッと見、携帯型ラジオから伸びる、アンテナのように思えた。

 しかし、そのボディは輝かんばかりの金色。鼻を寄せてみると、たちどころにあくびが出てきてしまうような、眠気を誘う甘ったるい匂いがした。鼻腔より、むしろ両目のすき間を洗っていくかと思う、涼しげな気さえまとっていた。

 持ってきた友達は、これを龍の毛だと話してくれる。先の不思議な様子から、子供心に作り物だとはとうてい思えず、これを見つけた場所を彼に問いただしていたよ。


 彼はこれを、隣町に流れる小川。件の二級河川の支流そばの、湿った土の中で見つけたというんだ。

 いわく、土が柔らかいというのは、水を浴びたことを差し引いても、最近に何者かが触れたり、手を入れたりしたことを伝えている。つまりここで龍は寝起きをしているのだと。

 川が龍だというなら、その身、その首は支流となって横たわっている。だから龍のいる手がかりを見つけようと、僕たちに大々的に呼びかけがあったんだ。ファンタジーに魅かれる子供たちは、すっかり乗り気になっていたよ。


 それからの放課後。僕たちは自分たちなりにあたりをつけて、地域の川を探して回っていた。

 まずは図書室で地域の地形を確認。本流からわずかでも伸びている支流があれば、分担して調査に出かけた。

 複数人が同じところを探しては、誰の手柄か分からなくなってしまう。もちろん、人手の少なさは調査を難航させるが、僕たちはそれすらも楽しんでいた。

 あともう一歩。あともうひとかきが、うわさを現実としてくれる。

 先ほども話したようなイメージが、僕たちに足を運ばせ続けていたんだ。



 僕自身、例の毛らしきものと出会ったのは、調査から3カ月が過ぎたころだった。

 このとき、すでに話を持ってきた友達以外にも、数名が龍の毛らしきものを携えてきている。はじめに見せてもらったものと同じ、金色のものもあれば、銀色、瑠璃色のものもあった。

 それらの共通項といえば、やはりあの嗅いでいて眠くなってくる香りと、目元をすり抜け、涙さえにじませてくる、冷気を伴っていることだったんだ。


 その条件に合致するものを、ようやく僕も見つけたわけ。

 当初、選んだ支流にこだわり、最寄りの地点からさかのぼること十余キロ。帰る時間も考えれば、悠長に時間を使えなくなってくる頃合いだったよ。

 みんなからの証言通り、水際近くの湿った土を中心に、上へ乗っかる石たちをのけていく。

 途中で、小さいサワガニたちがやたらとたかる石を見つけてね。彼らを追っ払うのと同時に、その石を持ちあげてみたんだ。


「待ってました」。


 そんな言葉が聞こえてきそうなくらい、岩がどくや、ぴんと天を差すように、赤いアンテナらしき影が飛び出たんだ。

 眠気を誘う臭気、目の奥をさらう刺激香……間違いない。

 僕は大喜びで引っこ抜こうとするけれど、渾身の力を込めたところで、根元の土がわずかに盛り上がるばかり。時間もないし、僕はあらかじめ持ってきておいたはさみを、適当なところへ差し入れる。

 あっけなく切断されるあたりも、毛というものに信ぴょう性を与えているような気がしたよ。そして他の人と同じものを持っているというのは、なんとも気が楽になるものだ。

 僕は毛を持つ側の仲間入りをし、持たない人たちを見守り、時にはマウントとるような態度も取ったりした。はたからしたら、とっても嫌な奴だったと思う。

 けれども、それも終わりを迎えるときが来た。



 集まった毛が10本になった日だ。

 その日は雨が降っていたんだけど、毛を持っているメンツは毎日のように収穫の毛を見せ合い、ここへ新たに10本目の茶色い毛を持ってきた子が加わったんだ。そして円陣を組むようにして、手にした毛をいっせいに見せ合ったとたん。

 閉じ切っていた教室の窓たちが、いっせいに開いた。間髪入れず、吹きすさぶ風が、ちょうど開いた各々の手のひらから、毛を飛ばしていく。

 次の瞬間は、いまでも覚えているよ。

 風の方角は変わらず、なのに僕たちの集めた10本の毛は、水の流れに逆らう鯉のように、向かい風を突っ切る形で、窓の外へ吸い寄せられ、飛び散ってしまったんだ。あとで学校の敷地内を探ったけれど、見つかることはなかった。

 ただね、学校前には田んぼが多くて、いくつかの用水路が通っているんだけど、そのうちのひとつだけ、妙に水位が高いんだ。

 雨の直後なら当然だろと思うかもだけど、それが止んでから何日しても、変わらず。それどころか歩道にまでせり上がって、足元を濡らすことしばしばだったんだ。

 まさかとは思うけれど、僕たちの集めた毛が固まって、新しい龍になっちゃったんじゃないか。

 他の用水路の水が、軒並み干上がり気味になった今でも、あそこだけはめちゃくちゃ元気なんだよね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ
OSZAR »