第十六話
朝食を食べ、俺は制服に換装して登校の準備を済ませる。今年のゴールデンウィークは今日5月2日が月曜日なので登校しなくてはならない。
「あれ、お兄ちゃんもう出るの?」
「スキルを学校に報告するからな。その分早く行かないと」
「ちょっと待って、私も直ぐに行くから!」
遅れて朝食を食べていた舞が慌て出し、母さんに呆れられている。無理して一緒に登校しなくてもと思うのだが、舞的には譲れない物らしい。
「お兄ちゃんと一緒の登校か、お姉ちゃんと一緒の登校か。これが究極の選択という物なのね」
「女性体で登校なんてしないからな!」
下らない選択で頭を悩ます妹に、選択肢を消す事で悩みを解消させる。絶望したような顔で見上げても、そこを譲る事は無いから諦めなさい。
「スキルは戦闘系じゃなかったけど、お兄ちゃんはダンジョンに入るのでしょ?」
「そのつもりだ。ヘラクレス症候群のお陰で有利だからな」
雑談をしているうちに小学校と中学校の分岐する道に差し掛かった。舞と別れいつもより少し人の少ない通学路を歩く。
昇降口で靴を履き替え、職員室に向かった。扉をノックし名前を告げて入室する。
「ああ、滝本は一昨日誕生日だったな。スキルの申請か」
「はい、授かったスキルは2つで『着せ替え人形』と『女性体』というスキルです」
俺がスキル名を告げると、聞き耳を立てていた周囲の教師全員が戸惑いの表情を見せる。
「えっと、名前の感じだと非戦闘系スキルだと思うが、説明と出来れば実演をしてもらえるか?」
「着せ替え人形は服や装備を瞬時に変えるスキルで、女性体は女性の姿になったり戻ったり出来ます」
着せ替え人形も女性体も名前から効果は想像がついたようで驚かれはしなかった。ただ、女性の姿から戻れるという説明で顔を顰めた教師が居た。
「まず着せ替え人形はこのように服装が変わります。女性体は完全に女性になれます」
まずは着せ替え人形で私服に変わり、直ぐに制服へと戻した。次に女性体を発動し見かけと声が変った事を実演してみせて男性に戻った。
「男子に戻れる・・・のか」
「品行方正な子ですし、問題無いとは思いますが・・・」
「かと言って何もしないというのも・・・」
前例のない事態に頭を抱える先生達。悪用すれば男子禁制の場所に入り放題なだけに手を打たない訳にはいかない。しかし、悪用する前提で何かをするのも躊躇われる。そんな所だろう。
「支援級に編入、という所でどうですか?俺も疑いをかけられながらの学校生活は嫌ですから」
「いや、しかしそんな理由で一人だけ別扱いというのも」
「持病で小学校の六年間支援級で過ごしましたから今更ですよ。他に妙案でもありますか?」
俺が提案した落としどころに難色を示すも、そうそう都合よく解決策など浮かびはしない。結局の所今日は帰宅しゴールデンウィーク明けに教育委員会にお伺いを立てる事になった。