20 最恐の二人
二人が軽トラに乗って向かった先は、ひと気のない夜のふ頭。
そこの倉庫でとある取引が行われるという。
「遅いよ! もう来ないかと思ったよ!」
二人を迎え入れたのは、両目にスコープを身に着けた小柄な男。
通称『覗き魔』と言う大変不名誉な二つ名を持つ彼だが、立派なヒーローである。
「敵は?」
「そこの倉庫にいる。人数は12人」
「マジかよ……裏切り者がうじゃうじゃと」
グラットニーは頭を抱える。
「こっちの戦力は?」
「俺以外にあと数人」
「分かった、俺とグラットニーで突撃するから、
お前らは逃げ出した奴らを狩ってくれ」
「え? また?」
覗き魔は眉間にしわを寄せる。
「いっつもアンタたち二人で標的を狩りつくすから、
みんなのモチベーションが下がってんだよね。
それに、いっつも被害が大きくなるし。
この前も上から散々叱られたよね?」
「さぁ、なんのことだか分からないな。
なぁ……グラットニー?」
「俺にもさっぱりだ」
まったく話を聞き入れる様子のない二人を前に、覗き魔は呆れ気味に肩をすくめた。
「はぁ……何を言っても無駄か。
頼むからやり過ぎないでよ。
後で困るのは俺たちなんだから……」
「ああ……わかってる」
近藤は覗き魔の肩に手を置いて、敵が潜んでいる倉庫へと歩いて行く。
グラットニーも一緒だ。
「見張りがいるな……」
入口に立って辺りを警戒する二人の男。
スーツも着ていない一般人だ。
「んじゃ、いつも通り頼むぞ」
そう言って特殊爆弾をグラットニーに手渡す近藤。
「マジかよ……また怒られるぞ?」
「大丈夫だ、気にするな。
お前だって下準備はしてきたんだろ?」
「ああ……まぁ、な」
「んじゃ、今回も派手にやろうぜ、相棒」
そう言って近藤が肩を叩くと、グラットニーはやれやれとかぶりをふる。
「わかった、行ってくるよ」
グラットニーはそのまま倉庫の入口へ。
見張りを瞬殺してさっさと中へと入っていく。
これから起こることを想像すると、ゾクゾクしてたまらない。
狩りの楽しさ。
敵を蹂躙する快感。
勝利の美酒。
死ぬほど味わったが、まだ足りない。
グラットニーと組んでからは全くの負けなし。
半グレ落ちしたクソ雑魚ヒーローに俺たちが負けるはずがないのだ。
「クズどもがぁ! 木っ端みじんにしてやる!」
「うわぁ! 誰だ⁉ 見張りはどうしたぁ⁉」
中から声が聞こえてから少しして、大きな爆発音。
グラットニーが倉庫のど真ん中で特殊爆弾をさく裂させたようだ。
あの爆弾は周囲に炎をまき散らして辺りを大炎上させる武器。
そろそろ中から敵が逃げ出してくるころだろう。
近藤は用意しておいたレーザーポインター付きの拳銃を構える。
「にっ……逃げ……うぎゃあああああああ!」
「特性唐辛子弾の威力はどうだ?」
倉庫から飛び出してきた敵のヒーローに向けて、催涙効果のある辛み成分入り特殊弾丸を放つ近藤。
顔面に直撃すると悲鳴を上げて地面をのたうちまわる。
殺傷能力こそ低いものの、通常の弾丸に耐性があるヒーローに有効だったりする。
「こっ……これがヒーローの戦い方かよぉ!」
「バカだなぁ、お前。
勝てばいいんだよ、勝てば!」
「クソがっ! お前はクソ野郎だ……みぎゃ!」
近藤は悔しそうに文句を言う敵を特殊警棒で殴り倒す。
特殊な合金で作られたもので、フルスイングで殴りつければそれなりにダメージを与えられるのだ。
「鬼だっ……鬼だああああああ!」
「逃げるんじゃねぇよ!」
燃え盛る倉庫の中から飛び出したグラットニーが、逃げ惑う敵を追い回す。
彼の『鉄壁』は爆発の衝撃を全て防ぐ。
炎は特殊ジェルとスーツの効果で無効化している。
なりふり構わず大暴れするグラットニーと、せこい方法で一人ずつ確実に倒していく近藤。
二人は瞬く間に敵のヒーローと構成員を全滅させた。
もちろん倉庫も炎上した。