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第二十六話:最後の選択

 極悪貴族ホロウ・フォン・ハイゼンベルクと闇の大貴族ヴァラン・ヴァレンシュタイン、裏社会を生きる二人の視線が、静かにぶつかり合う。


「ダフネスの(せがれ)……確かホロウと言ったか」


「お久しぶりです、こうしてお会いするのは、十年前の夜会以来でしょうか」


「なるほど、この儂を消しに来たというわけだな」


「お心当たりは、山のようにあるでしょう?」


 ホロウが優しく微笑み掛けると、ヴァランはペッと唾を吐き捨てた。


「その嘘くさい敬語と作った笑顔をやめい。貴様のような『邪悪の煮凝(にこご)り』が、人に敬意を払うわけなかろう」


「ふふっ、そうですか? では、御言葉に甘えさせてもらいましょう。――ヴァラン、お前の悪事の証拠は突き止めた。観念して、俺に飼われろ。そうすれば、命だけは助けてやる」


 ホロウは懐から紙の束を取り出し、無造作にばら()いた。

 それはハイゼンベルク家の諜報部隊が作成したリストの複製。

 ヴァランの関わった悪事が、証拠付きで丁寧に(まと)められており、明日の正午に王都のど真ん中で配布される予定となっている。


 ヴァランは紙を一枚手に取り、不快げに鼻を鳴らす。


「ふん……よくもまぁここまで調べ上げたモノだな」


「その程度、三日もあれば十分だ」


「はっ、(いき)がるな。お前たちハイゼンベルク家は、何年も前からうちの周りを嗅ぎ回っていただろう」


 それは当主ダフネスが命じた件であり、遥か昔に打ち切られている。

 今回のこれは、ホロウが裏から指揮を取り、本当に三日で集め切ったモノなのだが……。


 隠蔽工作に並々ならぬ自信を持つヴァランは、決して認めようとしなかった。


「それで『奴』は――ダフネスはどうした? ここには来ておらぬのか?」


「父は今、公務で忙しくてな。生憎(あいにく)、俺一人だ」


「くくっ、そうか……それはよいことを聞いた」


 ヴァランは肩を揺らし、好戦的な笑みを浮かべる。


「無駄な抵抗はやめておけ。お前が剣聖と呼ばれていた頃ならば、三秒は持ったかもしれんが……。今ではただの自殺と変わらん」


「ふんっ、儂ではない。うちには『最強の護衛』がおるのじゃ」


 ヴァランが杖を打つと同時――木陰より、漆黒の外套に纏ったエリザが現れた。


「こやつはエリザ・ローレンス、(ちまた)では『魔法士殺し』と呼ばれておる。貴様が魔法士である限り、このエリザには決して勝てん!」


 自信満々のヴァランに対し、エリザは小さく首を横へ振る。


「ヴァラン……お前は終わったんだ。相手はあの(・・)ハイゼンベルク、これだけの証拠を揃えられたら、どう足掻(あが)いても逃げられない。だからもう……返してくれ(・・・・・)……っ」


「何を言うか馬鹿者め! 『情報操作』という一点におかば、儂はハイゼンベルクにも引けを取らん! ここでホロウを排除し、すぐに隠蔽工作を始める! 儂には仲間が多いんじゃ、どうとでも握り潰せるわぃ!」


「そんなことをしたって、絶対にいつかは――」


「――貴様、自分の立場をわかっているのか?」


 懐から魔水晶を取り出したヴァランは、そこへ魔力を注ぎ、『とある場所』のリアルタイム映像を流した。


 その瞬間、刹那(せつな)にも満たない一時(ひととき)、ホロウの顔が邪悪に歪む。


(――出したな(・・・・)


 そうとも気付かぬヴァランは、映像の方へ杖を向けた。


「くくっ、魔水晶越しではあるが……『三年ぶりの再会』になるかのぅ? 特別に見せてやる、お前の父ダン・ローレンスの哀れな姿を!」


 そこはダンダリア孤児院にあるダンの寝室。

 簡素なベッドの上には――()せ細った父の姿があった。


「……お父、さん……っ」


 ダンの周囲には、武装した五人の男が控えている。

 無論、ヴァランの配下たちだ。


 もしも反抗の意思を見せればどうなるか……想像に(かた)くない。


「最悪、殺さずともよい。とにかくホロウをこの場から排除するのだ、わかったな?」


「……あぁ」


 死んだ目をしたエリザはコクリと頷き、一歩前に踏み出したそのとき――魔水晶の映像に異変が起こる。


 病に()したダンが、ゆっくりと起き上がり、


「ぬぉりゃァ!」


 武装したヴァランの配下を殴り飛ばした。


「はぁ、はぁ、はぁ……ッ」


 鬼気迫る様子の彼は、魔水晶に目を向ける。


「エリザ、儂等のことなぞ気にするな! お前は好きなように生きろ! 自分のやりたいように……お前の『筋』を通せィ!」


 ダンは痛む心臓をギュッと左手で押さえながら、親としての言葉をしっかりと伝えた。


 しかしその直後、


「……痛ぇなごらっ!」


「舐めんじゃねぇぞ、クソ爺!」


「ぶち殺されてぇのかッ!」


「ぐぉ……っ」


 武装した男たちは、ダンの体を引き倒し、殴る蹴るの暴行を加えた。


「や、やめろ……っ。頼むヴァラン、お願いだから、やめさせてくれ……ッ」


 エリザの懇願(こんがん)を受けたヴァランは、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、ゆっくりと『待て』の声を掛ける。


「これこれ、そやつは大切な人質じゃぞ? もうその辺にしておけ」


「「「「「うっす」」」」」


 五人の男たちが頭を下げている間、ダンはジッと魔水晶を見つめた。

 彼の顔には痛々しい切り傷や打撲痕がいくつもあり、思わず目を背けたくなるような状態だ。


 しかしその瞳は――真っ直ぐだった。

 酷い暴行を受けてなお、一ミリも曲がっていない。

 苛烈(かれつ)な暴力を受けても、まるで屈していない。

 ただただ真っ直ぐ、最愛の(エリザ)を見つめ、無言のメッセージを伝えていた。


『自分の正義を為せ』、と。


 だが……父のその痛々しい姿が、『最後の一押し』となってしまった。


「……すまない、ホロウ。私には命よりも大切なモノが、守らなければならないモノがあるんだ……ッ」


 エリザはポロポロと涙を零しながら、白銀の大魔力を解き放つ。

 それは(はかな)く痛々しく、今にも壊れてしまいそうなほどに不安定な魔力だ。


(あー……うん、さすがにこれは胸糞悪いね)


 家族を人質に取って、十五歳の少女を従えるそのやり方は、吐き気を催すほどに低俗だった。


「ホロウ……後生(ごしょう)だ、ここは引いてくれ。私は次に『固有』の『最速』を使う」


「で?」


「私の<銀閃(ぎんせん)>は伝説級(オリジンクラス)でも最強の一角。この前とは『速度』が違う。いくらお前でも、絶対に(・・・)避けれない(・・・・・)


 エリザの言葉に偽りはない。

<銀閃>は、原作ロンゾルキアでもトップクラスの『対人戦闘魔法』。

 一対一という条件下においては、無類の強さを誇る。


 だが――ホロウは呆れたようにため息をつき、いつかと同じ言葉を繰り返す。


「まったく、お前も学習せん奴だな。もう一度だけ言ってやる――『勝負にも(・・・・)ならん(・・・)』」


「……そうか」


 エリザはゆっくりと構えを取り、緊迫した空気が張り詰める中、隙だらけのホロウは(おもむろ)に口を開く。


「――問おう。正義が正義を為さぬとき、お前はどうする?」


「私は……(おの)が正義に(じゅん)じる」


 その瞳には、誇りが宿っていた。

 屈折した中でも正しく在ろうとする、『(けが)れなき純真さ』があった。

 彼女の高潔な精神性は、まさにヒロインと呼ぶにふさわしいものだ。


 しかし、


「違うな。それでは何も変わらん、何も変えられん」


「そんなことは、お前に言われずともわかっている……っ。だが、私にはこうするほかないんだッ!」


 苦悩に(さいな)まれたエリザは、太刀を握る手に力を込めた。


「これが正真正銘『最後の忠告』だ。私に……『殺し』をさせないでくれ……っ」


「教えてやろう、人はそれを『杞憂(きゆう)』と言う」


「……残念だ」


 次の瞬間、


「――<銀閃(ぎんせん)瞬雷(しゅんらい)>」


『最速』の斬撃が、世界を白銀に断ち切った。

 それは音を超えた刹那(せつな)の一撃。

 伝説級(レジェンドクラス)における最速の斬撃。


 しかし、エリザの手に残るのは――『違和感』。


(……この奇妙な感覚(・・・・・)あのとき(・・・・)の……!?)


 振り返るとそこには、無傷のホロウが立っていた。


 ヴァランは何も気付いていない。

 エリザだけが知っている、この不可思議な感覚。

 脳裏を(よぎ)ったのは、苦々しい敗北の記憶だ。


「お前はまさか……『神隠し』!?」


 ホロウが不敵な笑みを浮かべたそのとき、苛立ったヴァランが怒声をあげる。


「エリザ、さっきから何をやっておる! さっさとそやつを排除せいっ! 大切な家族を皆殺しにされたいのかッ!?」


「……っ」


 エリザが再び剣を構えたところで、ホロウが口を開く。


「エリザよ、先の問いに対する、俺の答えを聞かせてやろう」


「……なんだ」


「正義が正義を為さぬのならば――悪となって正義を為す」


 ホロウが邪悪に微笑んだ瞬間、ヴァランはすぐさま命令を発した。


「エリザ、早くそやつの首を()ねろ!『ナニカ』を企んでおるッ!」


「さすがはヴァラン(きょう)、見事な危機意識だ。しかし――もう遅い(・・・・)


 ホロウの視線の先、魔水晶が映す映像の中に、大きな『異変』が起きた。


 突如として背筋のピンと伸びた謎の老執事が現れ、


「あ゛? なんだてめ……ゴ、ォ!?」


「何しやが、ァ……ッ」


「ふざけんじゃ――が、はぁ……っ」


 圧倒的な剣術を()って、ヴァランの手先を斬り伏せた。

 彼はキョロキョロと周囲を見回し――魔水晶を発見すると、丁寧に頭を下げる。


「坊ちゃま、御指示いただいた座標にて、目標のダンダリア孤児院を発見、これを制圧いたしました」


「よくやった、オルヴィン。(せん)だって伝えた通り、ローレンス夫妻と孤児を保護し、当家の屋敷へ移送しろ。メイド部隊は周辺の警戒に当たらせておけ」


「はっ」


 彼は小さく頭を下げ、迅速に行動を開始した。


「……えっ……?」


 突然の事態に、エリザは目を白黒とさせる。


「さて、これで人質はもういなくなった」


「な、何故じゃ……っ。孤児院の場所は、徹底的に隠した。外部との接触を断ち、食料供給ルートを分散し、絶対にわからぬよう工夫に工夫を重ねた。それなのに……何故わかった!?」


「誇れ、お前の隠蔽工作は『完璧』だった。ハイゼンベルク家の諜報部隊を使い、あらゆるルートを探らせたが、(つい)ぞ尻尾は掴めぬまま。見事なモノだよ、天晴(あっぱれ)だ」


 ホロウは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった表情で、パチパチパチと渇いた拍手を送る。


 ダンダリア孤児院の隠し場所は、『混沌(カオス)システム』の弾き出した乱数によって決まり、その候補地は優に1000を超える。

 とても総当たりを掛けられる量ではない。


 そのためホロウは、『一計』を案じることにした。


「儂の隠蔽が完璧だというのならば、何故わかったのだッ!」


「その魔水晶、孤児院のモノと繋がっているだろう?」


「……ま、まさか……っ。魔水晶同士の接続、そこに流れる『極々微量な魔力』を辿ったとでもいうのか!?」


「魔力の扱いには、少々自信があってな。ほんの僅かでもそこに『繋がり』があるのなら、世界の果てまで追える」


 ヴァランが不用意に魔水晶を出した瞬間――ホロウはその神懸かった魔力探知力で『逆算』を開始、ダンダリア孤児院の正確な座標を三秒で割り出し、<交信(コール)>を使って臣下に伝達。

 その後は適当に会話を繋いで時間を潰し、オルヴィンたちの到着を待っていたのだ。


「ば、馬鹿な……っ。そんなことできるはずが……ッ」


「悪いな、原作ホロウ(おれ)は特別なんだ」


「ぐぬぅ……っ」


 ヴァランは激しい苛立ちに顔を歪めた。


「さて、これでエリザの『首輪』が外れ、『最強の護衛』とやらはいなくなった。チェックメイト、かな?」


 ホロウの言葉を受け、ヴァランは奥歯が噛み締める。


「……なる、ほど……っ。さすがは音に聞く『極悪貴族』ホロウ・フォン・ハイゼンベルクじゃ。確かに秀でておる、卓越しておる。しかし――まだ(・・)青いのぅ(・・・・)!」


 彼は懐から、小さなガラス瓶を取り出した。

 その中には、赤黒い液体が浮かんでいる。


(あれは……『魔王の血』か)


 魔王の因子を製錬(せいれん)し続け、()の『血』にまで迫った代物だ。

 ヴァランは十年以上も前から、大魔教団へ多額の資金援助を行っており、これはその見返りとして譲り受けたものである。

 彼は小瓶の蓋を取ると、その中身を一気に呑み干した。


 次の瞬間、


「ぬ、ぐっ、ぉおおおおおおおお……!」


 凄まじい雄叫びと共に紫紺(しこん)の大魔力が吹き荒れ――彼は生まれ(・・・)変わった(・・・・)


 醜く(ゆが)んだ顔は、若々しく精悍(せいかん)相貌(そうぼう)となり。

 枯れ木のように細った体は、鋼の如き筋肉に覆われ。

 砂漠のように乾いた皮膚には、鮮やかな紫の鱗が並ぶ。


 人の領域を踏み越えた化物――『魔人』と化したのだ。


「ふ、はは、ふはははははははは……っ」


 ヴァランは狂ったように笑い、その左足(・・)で力強く地面を踏みしめる。


動く(・・)動くぞ(・・・)、私の腐った左足がっ! 成功だ、魔人化は大成功だっ! 私は勝った、憎き天喰(そらぐい)の呪いに打ち勝ったのだッ!」


(ふむふむ……多少の『変異』は見られるけど、ちゃんと適合できている。さすがは『剣聖』、中々に丈夫な『器』だね)


 ホロウが感心していると、エリザはスッと前に出た。


「――ホロウ、ここは私に任せて逃げろ」


「……はっ?」


アレ(・・)はもはや人間(ひと)(かな)う相手じゃない……。お前には大きな借りがある。せめてこの場は、私に持たせてくれ」


「好きにしろ」


「感謝する、本当に――ありがとう」


 最後に自分の気持ちを伝えたエリザは、そのまま一人『死地(しち)』へ進む。


「ヴァラン・ヴァレンシュタイン、貴様だけは絶対に許さん! 私と家族の絶望……その身に刻み込んでやるッ!」


「くくっ、その細腕(ほそうで)で何ができると?」


「問答無用! ハァアアアアアアアアッ!」


 エリザは凄まじい速度で駆け出し、それを受けたヴァランは、腰に差した黒い剣を悠々(ゆうゆう)と引き抜く。


「ハァ!」


「ヌン!」


 両者の剣が交錯(こうさく)し、


「ぁ、ぐ、がぁああああああああ……っ」


 エリザの体に無数の斬撃が叩き込まれた。

 本来なら彼女は、モノ言わぬ肉塊となるはずだったが……。

 咄嗟の判断で全身にありったけの魔力を(まと)い、紙一重のところで命を繋いだ。


(……何が(・・)起きた(・・)……!?)


 エリザには、ヴァランの剣閃(けんせん)が見えなかった。

 無理もない話だ。

『若手聖騎士のホープ』と『神技の剣聖』、両者の間には、山よりも高く海よりも深い差がある。


「くくっ、どうしたエリザ? お前たちの絶望というのは、この程度のモノなのか?」


「まだ、だ……っ。せめて一太刀でも浴びせねば……死んでも死に切れん……ッ」


 エリザはゆっくりと立ち上がり、震える手で構えを取る。


「<銀閃・(しゅん)――」


『最速』を繰り出そうとしたそのとき、ヴァランの顔が邪悪に歪む。


「――『(ひざまず)け』」


 次の瞬間、


「ぅぐ……ッ」


 エリザはその場で膝を突き、ヴァランへ(こうべ)を垂れた。


(へぇ、<支配の言霊(ことだま)>か……珍しい魔法を使うね)


 ホロウは僅かに眉を上げる。


<支配の言霊>、現代ではほとんど使われない(いにしえ)の魔法。(こと)()に魔力を乗せて相手の脳に干渉し、簡単な命令を下すことができるというものだ。 


 強力無比な催眠魔法に思えるが……一つ、致命的な欠点があった。

 これはお互いの魔力量に圧倒的な大差(・・・・・・)がなければ、正しく効果を発揮しない。

『大差』ではなく『圧倒的な大差』が必要、ここが味噌だ。

 それほどまでに大きな差があるのなら、こんな回りくどい真似をせずとも、楽に相手を倒せる。

 しかも、支配できるのは肉体のみ、相手の心を操って情報を吐かせることはできない。


 つまりこれは、ただただ相手を屈服させるだけという、なんともマニアックな魔法だ。


「くくっ、これでわかっただろう、エリザ? 私とお前では、『格』が違うのだよ」


 ヴァランはそう言って、ねっとりとした手つきでエリザの顔を優しく撫ぜた。


「く、ぅ……っ」


 体の自由を奪われた彼女は、悔し涙を流しながら、耐え忍ぶことしかできない。


「ふふふっ、いい顔だな、実にそそられる。後でじっくり可愛がってやろう」


 ヴァランはそう言って、エリザを思い切り蹴り上げた。


 彼女は地面と水平に吹き飛び、


「が、は……っ」


 後方の巨木に背中をぶつけ、そのままズルズルと地面に落ちる。


「く、くくくっ、ふはははははははは……! まさに最高の気分だ! 全盛期を超える圧倒的なパワー! 人の領域を踏み越えた超スピード! 『魔王の力』とは、『魔人化』とは、こんなにも素晴らしいモノなのかっ! 私は今――『世界最強の剣士』になったッ!」


 魔人と化したヴァランは、狂ったように笑い続ける。


 その様子を目にしたホロウは――さすがに我慢できなかった。


「く、くく……っ」


「……貴様、何が可笑(おか)しい?」


「いや、すまない、悪気はないんだ。ただ、あまりに『滑稽』で我慢ならなくてな。気を悪くしたのなら謝ろう」


「……今、滑稽と言ったか……?」


 ヴァランの瞳に危険な色が宿るも、ホロウはどこ吹く風といった様子だ。


「よくもまぁそこまで思い上がれたものだ。その小さな『()』は、よほど心地(ここち)がいいらしい」


「この私が『大海(たいかい)』を知らぬと……?」


「何を言う、『(かわず)』はもっと高尚(こうしょう)な生き物だ。お前はさしずめ、腐った水に浮かぶ『ミジンコ』と言ったところか」


「なる、ほど……どうやら口だけは立つらしい……ッ」


 彼はプルプルと小刻みに震えながら、漆黒の剣を中段に構えた。


 (おぞ)ましい殺気が空間を埋め尽くす中――ホロウはぶち切れるミジンコに背を向け、エリザの前に立つ。


「さて、『最後の選択』だ」


「……最後の……選択……?」


 絶望に沈んだ彼女は、ゆっくりと顔をあげる。


「エリザの前には今、『二つの未来』がある。この俺に身も心も捧げ、大切な家族と再び一緒に暮らすのか。くだらぬ正義に(じゅん)じ、何も守れぬまま(みじ)めな最期を()げるか。さぁ、好きな道を選べ」


 月明かりに照らされた悪魔(おとこ)は、美しく邪悪な笑みを浮かべていた。


(……私は……)


 エリザはずっと『屈折した存在』だった。

 強い正義の心を持ちながら、悪の片棒を担いできた。

 自己矛盾を抱えたまま、道を踏み(ちが)えてきた。

 それでも家族だけは、必死に守り続けた。


 ホロウ・フォン・ハイゼンベルクは『極悪貴族』。

 その立場は紛れもなく『悪』であり、決して膝を折ってはならない相手だ。


 だがしかし。

 この体を悪魔に売り渡すことで、自分の家族を守れるのならば――。

 この魂を悪魔に売り渡すことで、再び家族と一緒に暮らせるのならば――

 この卑劣な身に、そんな幸せが許されるのならば――。


「……頼む、ホロウ……助けてくれ……っ」


 エリザの瞳から、透明な雫が流れ落ちた。


「くくっ、いいだろう」


 ホロウが満足気に頷くと同時、


「――死ねぃッ!」


 ヴァランの鋭い斬撃が、背後から襲い掛かる。


 次の瞬間、


「んなッ!?」


 振るわれた黒剣(こっけん)は――跡形もなく(・・・・・)消滅した(・・・・)


<虚空憑依>、ホロウに向けられたあらゆる攻撃を消し飛ばす『絶対防御』。


『虚空の王』はゆっくりと振り返り、(おぞ)ましい大魔力を解き放つ。


「さて、仕置(しお)きの時間だ」

【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】

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― 新着の感想 ―
イフルートでエリザが可愛がられる話も見てみたい
悪の定義を、『法に反する』ことか『人倫に反する』ことかを見極めないからエリザみたいに悩むことになる。 後者は議論の余地なく悪だが、前者は支配層の思惑で如何様にも変わる。 ましてや法がまともに機能してい…
ヴァランをボイドタウンに送るとして、ホロウ以外が従えられるのかな。暴れ出した時にダイヤや他の人でも勝てるとなると魔人は実はたいして強くなかったとか。
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