(6) 自称・魔王
魔王(?)が出てきた小さなブラックホールみたいなやつは、いつの間にか、消えていた。
そのことに、私が薄く驚くと、魔王(?)が私に声をかけてくる。
「――あんた、私が魔王だと信じていないな!?」
「.......いえ、そんなことはございません。」
私は、プイッと顔を背けながらそう返事を返す。
そんな私に呆れたような表情を浮かべた魔王(?)だが、改めて口を開く。
「まあ、別にそこはいい......おい、人間。あんたはこの私と勝負しろっ!!」
「え、嫌ですけど。」
私は魔王(?)の言葉に即答で拒否る。
私の言葉に、魔王(?)は、一瞬面食らった顔を浮かべたが、すぐに余裕のある表情を浮かべる。
「ふっ、あんたは私に無様に負けるのが怖いのだろう。だが........問答無用だっ!!」
魔王(?)はそう叫ぶと、シュッと、先ほどの陛下とは比べ物にならない程のスピードで私に迫る。
だが、私は相手を冷静に見極め......
「ダーク・ハプティクス」
魔王(?)が私に触れる寸前にそう唱えると、私の影から無数の触覚が出てきて、魔王(?)の体のいたるところに巻き付き、魔王(?)を拘束する。
「な、なんだっ!?これはっ!?」
必死にもがく魔王(?)だったが、もがけばもがくほど、拘束する力が強くなる。
「なんだっけ?私は貴女に負けるのが怖い.....でしたっけ?」
私は拘束されている魔王(?)を見ながら、にっこりと微笑み、先ほどの言葉を確認する。
「さあ、どうしますか、魔王さん。魔王なら、このまま殺してしまっても大丈夫ですよね?」
正直言って、魔王(?)よりも、ポチの方が強かったな、と思いながら、
私は魔王(?)を挑発するように言葉を並べる。
「なっ!?......ど、どうか、命だけは助けてくれっ......!」
先程の強気な態度とは一変して、魔王(?)は弱弱しい表情を浮かべる。
その態度に、私は脅威はないだろうと判断し、拘束を解く。
そのことに、彼女は安堵しながら、私に事情を話す。
「じ、実は私は魔王ではない......と言っても、魔王代理だから、今では実質、魔王みたいなものだが.......」
「魔王代理.....?一致どういうことですか?」
「ああ、実は.....魔王様が数か月前から魔王城に姿を現さなくなってしまって......それで、私が急遽、魔王代理になった訳だ。」
シュン、と項垂れながら、彼女はぽつぽつと話す。
「それでは、貴女はいったい......?」
「ああ、申し遅れた。私の名前はサレリ。魔王様の一番の側近で、魔王様を抜けば、魔界で一番強い。」
「そう、私はユリット・フェリー。よろしくね、サレリ。」
「ああ、よろし......」
「――ワンっ!!」
サレリの言葉を遮りながら、ポチが私の影から勢いよく出て、元気よく鳴く。
「あ、こらポチっ!!まだサレリの話は終わってな.....」
「――魔王様っ!?」
今度は、サレリが私の言葉を遮りながら、そう叫ぶ。
.......え、いま、なんて?
「ワンっ!!」
まるで、サレリの言葉を肯定するようにして、ポチが再度鳴く。
「ああ、やはり魔王様でしたか.....しかし、こんな姿で一体どうさられたのですか.....?」
「ウぅ~、ワンっ、ワンっ!!」
「ほうほう、なるほど.....」
えっ、サレリはポチの言葉、わかるん.....?
先程から驚きすぎて、声も出せない私をよそに、ポチとサレリの会話が続く。
「な、なるほど.....大方理解いたしました。」
先程、私に使っていた乱暴な言葉使いとは打って変わって、サレリはポチに丁寧な言葉で話す。
ポチとサレリの話が終わると、サレリは私の方を向き、頭を深々と下げる。
「先ほどのご無礼、誠に申し訳ございませんでしたっ......!まさか、貴女様が魔王様を保護してくださっていたとは思わず、私は失礼な態度を.....!!」
「ああ、か、顔を上げてくださいっ!!別に私はたいそうなことをしておりませんですし.....」
「――そんなことはございませんっ!!」
顔をばっと勢いよく上げ、サレリが私の言葉を即座に否定する。
「貴女様が魔王様を保護してくださらなかったら、ただでさえ困窮している魔界は、どんどん衰退していくのが目に見えております!」
「ちょっと待って、一体それはどういうこと....?」
まだまだ言葉を続けようとするサレリの言葉を区切り、サレリに疑問を問いかける。
ゲームの知識なので、こちらの世界とは違う可能性もあるが、魔界はとても経済が回っており、人間界よりも発展していた.....はず。
ちなみに、説明が遅れたが、魔界とはその名の通り、魔物たちが住みかとしている場所だ。
私の問いに、サレリが悲しそうな表情を浮かべながら、口を開く。
「実は......魔物が近年、人間の敵と扱われるようになり、数をどんどん減らしておるのです.....ですが、人間に好戦的なのは、一部の凶暴な魔物の。魔王様を含めたほとんどの魔物は、人間とは仲良く暮らしたい。その考えを持っておるのです。」
言葉を進めるごとに、サレリの声が、どんどん小さく、弱弱しいものになり、
頭もどんどん俯いていく。
サレリの言葉の端々に、人間に対する恨みや、それでも憎しみ切れないという気持ちがあふれ出る。
「サレリ、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
私の問いに、サレリは俯きながら、こくりと頷く。
それを確認し、私は口を開く。
「私が、魔物と人間の、橋渡しを役を務める。そういうのはいかがでしょうか?」
私の言葉に、サレリは顔を上げ、目をまん丸にし、信じられないものを見るような目で、私を見つめる。
そんな様子のサレリと、しっかりと目を合わせながら、私は言葉を続ける。
「私、実はこの国の貴族の中でも、結構位が高いところの出なんです。それに、私は知らなかったとはいえ、魔王の保護をしてしまった......こんなぴったりな人材、他にはいませんわよ?」
「で、でも.......貴女にきっと、迷惑がかかる.....」
弱気な態度をとるサレリに、私はさらに言葉を続ける。
「迷惑がかかる・かからないは私が決めますわ。まずは、私を魔界に連れて行ってください。話はそれからです。」
私がそう言うと、私にひく気はないと悟ったサレリが、私に期待のまなざしを向けながら、口を開く。
「そこまで言うなら、私は貴女に魔界の未来を託します。――それでいいですよね、魔王様?」
「ワンっ!!」
「わかりました......それでは、ユリット様、行きましょう。」
サレリはそう言うと、小さなブラックホールみたいなやつが、再度現れる。
そして、サレリがガシッと私の腕をつかみ、ずるずると私をブラックホールもどきの方へ引きずる。
......うん?
「ええっ!!い、今から魔界に行くんですか――」
私の叫び声をすべて言い終わる前に、私はブラックホールもどきに吸い込まれてしまった。
前回は、ブッグマーク・感想・誤字報告してくださった方、ありがとうございます。
悪百合は誤字が多いと思いますので、ぜひとも誤字報告をしてくださると、嬉しいです。
では、ここまでのご視聴、ありがとうございます!!
また見に来てくれると、作者はとっても嬉しいです!!