13 子供達への魔法の授業
俺は子供たちに尋ねる。
「昨晩はどうだった?」
「えっとね、みんなで避難所に行って、明け方戻ってきたんだ!」
「そうか、壁を作ったんだが、みんな困ってないか?」
俺はスタンピードから集落を守るために、高さ十メトルを超える幅の広い頑丈な壁集落を囲った。
だが、そのままだと住民が戻ってこられないので、高さ二メトルまで下げて四方に門を作っておいたのだ。
「みんな喜んでたよ! これでゴブリンに怯えなくてすむって」
「それならいいんだが、もし、もっとこうして欲しいとかあれば言って欲しいって大人たちに伝えてくれ」
「わかった!」
元気に返事したあと、タルホはポケットから空き瓶を取り出した。
「そうだ! 先生! これが役に立ったよ!」
「それは、下剤の入れた瓶だな」
偽の錬金術師を見分ける方法として、俺はタルホに下剤を飲ませる方法を教えたのだ。
本物の錬金術師なら、それが下剤だと当然見抜く。
そして、見抜いたら、本物の錬金術師にとって下剤を無毒化することも容易いのだ。
「偽物の錬金術師が出たのか?」
「うん! 避難所で鉛を黄金に変えられる錬金術師ってのが現われて、お金を集めようとしてたんだ」
「あー、詐欺だな、それは」
「うん。怪しいから、本物ならこの下剤を変化させられるから、飲めるはずだって言ったんだ」
「飲んだのか?」
「飲んだよ! すぐにうんこを漏らしてすごく臭かった!」
「うんこー」「臭かった、ねー」「うんうん」「くすくす」
子供たちは楽しそうに言う。
子供はうんことか、そういう言葉がなぜか好きなのだ。
「そうか。その詐欺師は漏らしたあとどうなった?」
「詐欺師め! ってみんなにぼこぼこにされたあと、兵隊さんに連れて行かれてた」
「よざい? とか、ぜんか? とかいってた」
「余罪に前科か。詐欺の常習だったんだろうな」
「そうなのかもー」
「あ、そうだ! 先生! 錬金術教えて!」
タルホが突然そう言った。
「ずいぶんと急だな」
「うん! 教えて! だめかな? 忙しかったら……いいけど」
俺は以前子供たちに錬金術を教えると言った。
あのときは家を建築していると途中だったので、教えられなかった。
そして、その後、スタンピードの対策で忙しくて教える暇が無かったのだ。
「だめではないぞ。約束したものな。じゃあ、授業をするか」
「うん!」
タルホと四人の子供たちが横一列に並んだ。
「錬金術を使えるようになる前に、基本的な魔法を使えるようにならないといけない」
「でも、錬金術と魔法はちがうでしょう?」
そう言ったのはタルホより少し幼い女の子だ。
たしか名前はリホだ。
「リホ、正解だ。錬金術と魔法は違う。よく知っているな」
そういうと、リホは照れていた。
「だが、錬金術を使うには素材を詳しく調べないと駄目なんだが、その時は魔法を使うんだ」
「錬金術だと調べられないの?」
「タルホ、よい質問だぞ」
タルホも褒めると照れる。
「魔法も錬金術も魔力を使う」
「魔力」
「そう、それが全ての基本だ。そして魔法は魔力をそのまま現象に変換する――」
「……?」
子供たちには難しい説明だったかもしれない。
「つまりだ。簡単に言うと、魔法はこれ」
俺は指先に炎を灯す。
「おお~もえてる!」「あつくない?」
「俺は特別な訓練を受けているから熱くないよ。でも素人がやったら火傷する。みんなも魔法を習っても勝手にやったらだめだよ。大やけどするからね」
「わ、わかった!」
注意点を述べたあと、俺は説明を続ける。
「魔力をこうやって炎とか、氷とか」
指先の炎を氷に変える。指が氷に覆われる。
「おお~」
「こんな感じで、魔力を直接炎とか氷とかに変えるのが魔法」
「ふむふむ」
「そして、錬金術は……」
俺は足で地面をダンっと踏みつける。
次の瞬間、土が地面から一メトルほどの高さまで盛り上がった
「おお! すげえー」
「錬金術は魔力を物に作用……そうだな」
作用という言葉は難しいかもしれない。
タルホは十歳ぐらい、リホは八歳ぐらいだが、五歳ぐらいの子もいるのだ。
「魔力で物を変えるのが錬金術なんだ」
「魔力で土の形を変えたってこと?」
「そうだ、リホは賢いな」
「へへ」
「ということで、まずは魔力の使い方を勉強しよう」
「「「はい! 先生!」」」
「りゃ!」「がう!」「ぐる!」
子供たちはみな返事がいい。
その子供たちの横にはリアとガウとグルルが並んで一緒に返事をしている。
もしかしたら、一緒に勉強したいのかもしれない。
いや、多分リアたちは俺が子供たちと遊び始めたと思っているのだろう。
「魔力を使えるようになるためには、まず魔力の流れを感じるところからだ」
「魔力の流れ?」
人族は、量の差があるが全員が魔力を持っている。
自分の体内を流れる魔力を感じ取ることが、魔法を使うこと、そして錬金術を使うことへの第一歩だ。
「両手を前に出して」
「はい!」
子供たちは素直に前に両手を出した。
その手を握って、右手から左手へとほんの少しだけ魔力を流す。