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16 剣も強化しよう

「ルードさん、魔法の鞄をたくさん作る事って可能でしょうか?」

「可能だが……おすすめはしない」

「それは、なぜでしょうか?」

「商売の仕方以上に戦争の仕方が変わる」

「あっ」


 魔法の鞄が大量にあれば、兵站の概念が変わる。

 大軍を動員することが、今よりもはるかに容易になる。


 そうなれば戦争の拡大と長期化が進むことになりかねない


「確かにそうかもしれません。大量販売はやめておいた方がいいかもですね」


 ヨナは真剣な表情だ。

 やはり、ヨナは金儲けよりもみんなのことを考えられる素晴らしい商人だ。


「ヨナが自分で使う分を一つか二つなら、あとで作ろう」

「いいのですか?」

「ああ。もちろんだ。世話になっているしな。トマソンにも一つ作ろうか?」

「それは助かる」

「大きさはできれば、このぐらいの鞄を持ってきてくれたら、いつでも作るぞ」


 俺がそういうと、早速ヨナが商会の店員に鞄を用意するように言っていた。


「さて、鞄が来るまでに装備の強化を進めておくかな」


 次に俺は剣と短剣の強化に入る。


「街で買ったオリハルコンの剣と短剣だ」

「おお、ルードは錬金術師で剣士じゃないのに、随分と高いのを買ったんだな」

「錬金術師的には格安だったんだがな」


 千年前の基準では捨て値に近いぐらい安かった。

 現代ではオリハルコンを錬金術で強化する技術が失われている。


 だから、武器としては鋼鉄の剣より多少錆にくいだけの剣なのだ。

 ただし、銀の色味などが美しく、貴族や近衛騎士などに好まれているようだ。


 千年前より安いのは、千年前より利用価値が低くなったからだ。

 採掘コストは変わらないし希少なのも同じ。


 オリハルコンもミスリルも大量に買いこむことは難しい。

 いや、千年前と比べて需要が少なくなったから安いだけなのだ。

 俺が買い込めば、すぐに高騰するだろう。


「オリハルコンは錬金術があれば、性能を飛躍的に向上できるんだよ」

「ほう? それは気になるな」


 剣士だからか、トマソンはこれまで以上に関心を持ってくれた。

 錬金術に興味を持ってくれるのは嬉しいことだ。


「まあ、見ていてくれ」

 俺はオリハルコンの剣に練成陣を書いていく。


「この剣は、刃と柄が部品として分れていないだろう?」

「そうだな。刃を交換できなくてもいいなら、その方が頑丈だよな」

「それもあるが、練成陣を刻むなら、部品として別れていない方が良いんだよ」


 刃と柄、そしてそれをつなぐ部品。それぞれに練成陣を書くのは面倒だ。

 それに、それぞれが強くなっても、強い衝撃で部品ごとにバラバラになるかもしれない。

 そうしないように、練成陣を書くことになるが、それはとても面倒だ。


「部品として別れていない剣の方が、練成陣の作製難度が三分の一以下になる」

「ほ~。そんなものかー」


 感心したトマソンたちに見守られながら、作業を進める。

 耐久度と刃の切れ味を上げるために練成陣を刻んでいく。

 これで竜の鱗だろうと、容易く斬り裂けるようになるだろう。


「軽くするのも大切だな。持ち運びが楽になるし、継戦能力も向上するし」

「えっと、ルードさん、錬金術は物を軽くできるのですか? 質量保存則に反するような」


 現代にも質量保存則については伝わっていたらしい。


「ヨナさん、いい質問だ」


【物質移動】でも【形状変化】でも、【形態変化】でも、【物質変換】も質量保存則はいじれない。

【物質転換】は質量そのものをエネルギーに変えるが、剣を軽くする用途には使えない。


「あれ? でもさっき、革の鎧を軽くしていたような」

 魔導師の護衛が思い出して指摘してくれる。


「よく気付いたな。さすがは魔導師、記憶力が良い」

「ありがとうございます」

「答えはこれだ」


 俺は魔法の鞄から革の切れ端を取りだした。


「どういうことでしょう?」「りゃ?」

 ヨナとリアが一緒に首をかしげている。


「つまりだ。簡単に言うと、革の鎧を構成する革の一部を間引いたんだ。強度は向上させつつな」


【物質変換】で分子構造を変えて、より強靱な素材へと変化させる。

 同時に【物質移動】で一部の革を鎧から切り離し【形状変化】で形を元に戻す。


「ということで、元々の鎧より薄くなっているんだよ」

「へー。気付かなかった。よくわからんが、すごいもんだなぁ」

 トマソンにも錬金術の凄さが伝わったようで良かった。


 俺は説明しながら、軽くするための記述を練成陣に書き加えていく。


「よし完成っと。一応確認して……」


 話ながらだったので、練成陣に間違いが無いか確認していく。

 切れ味を上げ、耐久度を向上させ、軽くする。


「よし、間違いはないな」

 俺は練成陣に魔力を流して発動させる。


「これでよしっと」

 強化したばかりの剣を振ってみる。


「良い感じだ」

 机の上にはオリハルコンの小さなインゴットが残された。


「これが軽量化の結果、あまったオリハルコンですか?」

「そうだよ。これはこれで、素材として使えるからね」


 俺は短剣にも同様の強化を施した。

 短剣は魔物の解体などにも使える便利な装備だ。


「ルード。剣をちょっと、触らせてもらってもいいか?」

「ああ。もちろんいいぞ」


 トマソンは俺の剣を眺めたり振ったりする。


「……素晴らしい剣だな」

「トマソンにも一振り作ろう」

「いや、それは流石に悪い」

「さっき俺の依頼で愛剣を折ってしまっただろう? 弁償を兼ねて作らせてくれ」

「それは気にしなくてもいいのだが……」

「俺は気にする」


 そう言って俺は魔法の鞄から予備のために買った剣を取り出した。

 先ほど折れたトマソンの剣より多少長い。


「先ほど折れた剣の長さが扱いやすいんだよな?」

「まあ、そうだが、本当に気を使ってくれなくても」

「遠慮するな」


 まず剣の長さを変える。【形状変化】の術式だ。

 そして次に軽くした。


「トマソン、振ってみてくれ」

 トマソンは何度か剣を振る。

「重心や重さはどうだ?」

「重さはちょうどいいが……。重心はもう少し剣先の方が振りやすいな」

「わかった」


 トマソンと調整しあいながら、ちょうどいい長さ、重さ、重心などを整えていく。

 それが済めば後は俺の剣と同じ加工だ。

 鋭くし、硬く折れにくくし、錆びないようにした。


「よし。完成だ。トマソン、振ってみてくれ」


 トマソンは剣を何度か振ってから眺めた。

 そしてしみじみという。


「本当に素晴らしい剣だ。元の剣より手になじむ」

「それなら良かった」

「ルード、本当にありがとう」

「礼には及ばないさ」


 そう言ったのだが、トマソンから何度もお礼を言われた。

 ヨナも剣に興味を持ったようだ。


「トマソンさん、私にも見せてください」

「ああ」

「……これは素晴らしい剣ですね。さすがはルードさんです」

「りゃぁ~」


 ヨナの肩に乗ったままのリアも感心したように鳴いている。


「オリハルコンやミスリルは希少すぎるが、鋼鉄の剣や鎧でも似たことは可能だ」

「そうなのですか?」


 もちろん、俺が強化したオリハルコン製の剣よりも性能は落ちる。

 だが、俺が強化すれば鋼鉄の剣でも、かなり高性能の剣になる。


 市場に流通しているオリハルコンの剣よりも、はるかに上等な剣にできるだろう。

 鋼鉄ならば、素材も希少ではないし、材料費も安い。

 商売として成り立つに違いない。


「鋼鉄の剣と鎧を強化して、ヨハネス商会に卸そうか?」

「それは凄くありがたいですが……いいのですか?」

「ああ、暇なときに適当に作っておこう。卸値は材料費分もらえればそれでいい」


 錬金術の宣伝も兼ねているので、儲けは出なくてもいいのだ。


「いえ、そう言うわけには行きません。ちなみに材料費はおいくらぐらいですか?」

「……えっとだな」


 それからヨナと商談した。

 ヨナが商品として求める剣や鎧がどのようなものか、それを作るにはいくらかかるか。

 そのようなことを話し合っていく。


 それが一通り終わった後、ヨナが言う。


「護衛のみなさんの武器と鎧も強化していただけませんか? 費用はこちらが持ちます」

「それはもちろんかまわない」

「ヨナの旦那。いいのかい?」

「もちろんです。護衛の方々が倒れれば私も危険にさらされますから」

 そしてヨナはにこりと笑う。


「それに宣伝になりますし。今後のことを考えたら微々たる出費です」


 その後、トマソンが護衛仲間を呼びに行った。

 みんな武器と防具を持って集まってくれた。


 俺は早速、みんなの武器と防具に錬金術で強化を施すことにしたのだった。

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