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12 冒険者ギルド

この話から、web版からの大きく変わります。

カタリナはweb版にはいなかったキャラです。

 すわっ新人いびりか!

 そう思って、俺は後ろを振り返る。

 そこには大柄で屈強な男がいた。恐らく戦士系冒険者なのだろう。


「やめとけとは、どういう意味だ?」「りゃ~~」

 リアは嬉しそうに尻尾を振っている。人懐こいことこのうえない。


「可愛い……いや、違う。その恰好、最近はやりの南から避難民なんだろう?」

「避難民ではないが……、南から来たってのは、まあそうだ」

「うむ。食うに困って、資格のいらない冒険者になろうってことだろう?」

「まあ、大まかに言えばそんなところだ」

「腕に覚えがないならやめとくべきだ。他に仕事はある。まあ最近は就職難だが……」

 そして俺を上から下に吟味するかのように見た。


「就職難で仕事は選べないが……、すぐに死んでしまう冒険者よりはましってもんだ」

「御忠告はありがたいが……」

「友達が大工の親方をやっているから紹介してやってもいい。見習いの給料は安いが……」


 どうやら、新人いびりに来たわけではないらしい。

 男は本気で俺のことを心配しているようだ。


 俺は粗末で泥だらけの服を着た筋肉のあまりついていない若者だ。

 その上、薬草の束を抱えているのだ。


 一目で戦士として鍛えられた肉体ではないとわかる。

 そして魔導師なら就職には困らないので、ここまで粗末な服を着ているわけがない。

 戦闘技能を持たないのに食うに困って冒険者になろうとしていると判断したのだろう。


「御忠告はありがたいのだが、実は俺は魔導師でもあるんだ」


 俺は魔法も使えるが、本当は錬金術師だ。


 だが、ヨナとトマソンから現在の錬金術師の評判は聞いている。

 当面は魔導師と言うことにしておいた方がいい。そう判断した。


「嘘をついても、すぐにばれるが……」

「嘘じゃないさ。安心してくれ」


 俺は右手の人差し指の先に小さな火の玉を灯して見せる。


「おお!」「りゃあ~」

 男は驚愕し、目を見開いた。リアは火の玉が好きなのか嬉しそうに羽をバサバサさえる。


 同時に冒険者ギルドがざわついた。特に魔導師連中の驚きっぷりは凄い。

 魔導師たちが一斉に立ち上がる。魔導師たちの座っていた椅子が大きな音を立てた。


「うお! 無詠唱だと! 凄腕の魔導師だったか」

「すげー。初めて見た!」


 魔導師たちの驚きの声が上がる中、俺は男に向かって笑顔で言う。


「こういうことだから安心してくれ」

「侮っていたようだ。すまない」


 男はしっかりと頭を下げた。謝られると恐縮してしまう。


「気にしないでくれ。心配してくれたんだろう。ありがとう」

「そう言ってくれると助かる。優秀な魔導師なら歓迎だ。よろしく頼む」

「ああ、こちらこそ、よろしく頼む」


 そんなことを話している俺たちに向けて魔導師たちがどんどん寄ってくる。


「君凄いな、名前はなんていうんだ? 俺は――」

「私は……」


 五人の魔導師に囲まれて、自己紹介された。


「俺はルードヴィヒ。ルードと呼んでくれ。この子はリアだ」

「りゃ~」

「「か、可愛い」」

 魔導師たちにもリアは大人気だ。リアも沢山の人がいて嬉しそうだ。


 そこに端に座っていた戦士がやってくる。

 冒険者らしからぬ、騎士のような立派な全身鎧を着込んだ少女だ。


 腰に下げている剣の柄も高価そうだ。

 その少女が近づいてくると、冒険者たちは遠慮するかのように道をあけた。

 一見して、歩き方は自然だ。


 だが、右足のひざから下がないようだった。

 非常に高価な、きっと魔道具でもある義足をつけているらしい。


「ルードヴィヒ、いやルード」

「何のようだ? というか、まず名前を聞こう」

「む? わらわの名を聞いているのか?」

 なぜかわからないが、少女が驚いたように目を見開いた。


「俺の名を知っているんだろう? なら、お前も名乗るべきだろう」

「カタリナだ! カタリナと呼べ」

 カタリナはなぜかとても嬉しそうだ。


「で、カタリナ、何のようだ?」

「リアを、撫でていいか?」

「りゃ?」

「別にいいぞ」


 カタリナは嬉しそうに俺の肩に乗るリアを撫でる。


「リアを撫でることが用事だったのか?」

「あ、違う。ルードは凄腕の魔導師のようであるな。先ほどの無詠唱魔法のやり方、どこで学んだのか尋ねたかったのだ」

 カタリナはリアをなで回しながら言う。


「どこでっていうのは?」

「学んだ学院はどこか聞いておる。……わらわも魔法を学び、魔法剣士になってもよいと考えていてだな」

「そもそも、学院ってのはなんだ?」


 俺がそう言うと、カタリナは困った様子で魔導師たちの顔を見た。

 魔導師たちも、困惑した様子で互いに顔を見合わせる。


 だが、すぐに魔導師たちは丁寧に教えてくれた。

 今の時代には魔法の才があるものは、どこかの学院に入って学ぶのが一般的なようだ。


「俺は学院では学んでいないな、というか……」


 千年前から転移してきたなどと言っても、信用されまい。

 だからといって、偽の経歴を作り出すのは大変だ。


「実は記憶がなくてだな」

 俺はヨナたちにしたのと同じ説明をする。


「記憶がないのか? それはどういうことだ?」

 カタリナは驚いているが、


「全裸になっていたということは……追いはぎか」

 魔導師たちは俺の説明に納得してくれたようだ。


「南の方は魔王軍のせいで治安が悪いと聞く。追いはぎに襲われるとは運が悪かったな」

 最初に俺に絡んできた男も納得しているようだ。


「そうか。記憶がないのか。大変だな……」

「だから、おか……、いや風変わりな格好をしていたのか」


 他の冒険者たちも納得していた。

 おかしな格好と言おうとして、言い直すあたりなかなかいい奴らなのだろう。


 リアを撫でながら、カタリナが言う。

「記憶は無くとも、ルードが凄腕なのは間違いない。わらわとパーティーを組まぬか?」

「お誘いはありがたいが、やめておこう」


 そういうと、カタリナは信じられないといた様子で、固まった。

「え?なぜだ? あ、そうか、ルードは記憶が無いんだったな。ルードは知らぬだろうが、わらわも凄腕だぞ?」

「本当か?」

 カタリナの鎧は綺麗だ。歴戦の戦士には見えない。


「もちろんだ。なあ?」

「はい。凄腕です」

「な? こやつ等もそう言っている。わらわは剣聖と呼ばれる当代一の剣士なのだ」


 足を失うまでは凄腕だったのか。片足、義足のまま剣聖になったのか。

 それは俺にはわからなかった。


「そうか、それは凄いな。だが、俺はしばらくソロで活動したいんだ」

「……そうか」

 カタリナは、目に見えてしょんぼりしていた。


 カタリナと魔導師を含めた冒険者たちと少し話した後、俺は冒険者ギルドの受付へと向かう。

「追いはぎですか。大変でしたね。となると、当然身分を証明するものも……」

「あ、一応仮身分証はある」

 俺は王都の門で作ってもらった仮身分証を提示する。


「はい、拝見します……。ん? 保証人はヨナ・ヨハネスさんとトマソンさんですか」

「ああ、徘徊してたら偶然出会ってな。紹介状も書いてくれた」


 ヨナとトマソンの書いてくれた紹介状も提示しておく

 それを受付担当者が読んでいく。


「あの……、人食い魔熊を退治したと書いてありますが……」

「ああ、偶然な」


 俺はヨナたちが襲われていたのを助けたという経緯を簡単に説明した。


「それは本当ですか?」

「魔石ならあるから検分してくれ」


 俺は魔熊の魔石を受付に出す。


「これは見事な魔石ですね。本当に人食い魔熊かも」

「よし、魔石の鑑定は俺に任せろ。ルードのギルドカードの作成準備をしておいてくれ」


 最初に俺に絡んできた男がそういって、魔石の鑑定をはじめた。

 戦士に見えたが、鑑定師でもあるらしい。


「他に戦利品はないか? 毛皮とか」

「毛皮はヨハネス商会に売ったぞ。必要だったか?」

「いや、別に魔石で充分だ。魔熊の毛皮は……重い割にあまり高くないしな」

「確かに毛並みも美しくないし、手触りもな」

 貂とか狐のほうが毛並みが美しい。


 そんな会話をしている間に魔石の鑑定が終わったようだ。

「本当に、……人食い魔熊の魔石だな」


 そして男は、俺に向かって頭を下げた。

「ギルドを代表してお礼を言わせてくれ、こいつには何人も冒険者がやられたんだ」

「それは、気にしなくていいのだが……」


 急にギルドを代表されてお礼を言われても戸惑うばかりだ。

 男は俺の戸惑いに気付いたのだろう。ニコッと笑って言った。


「自己紹介がまだだったな。俺はギルバート。ここのギルドマスターをしている」

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