魔獣復活
暇である。看守のお兄さんがいなくなったので話し相手もいない。特にやる事もないので備え付けられた固いベットで横になる。
天井を見上げて、外では何が起こっているのだろうかと考えていたらパラパラと天井からゴミが落ちてくる。
そして、次の瞬間大きな揺れが襲う。一体何事かとベットから跳ね起きる。
もしかしたら、最悪の事態が起こっているのかもしれない。どうか、みんな無事でいてくれと祈るばかりである。
◆◇◆◇
時は遡る。真っ暗な空間に二人のローブを着た人間がいる。
「それでは始動するのですか?」
「無論」
「そうですか。では私は私の目的があるので……」
「ふん……」
「健闘を祈ります」
「心配とは珍しいものだな……」
「いえいえ。それではこれにて失礼します」
ルドガーはショウの無実を証明する為に仮面の死体を解剖していた。何故かと言われるとどうしても解せなかったからだ。何故ショウの時だけ攻撃を受けたのかを疑問に感じていた。
それを確かめる為に死体を調べている。
そしてわかった事があった。どうやらこの死体は造られたものだと言うこと。内臓は他の動物のもので身体は良く出来た人形だった。
つまり、仮面の正体はわからないが希少属性を複数所持していること。それと、ショウを嵌める為にわざと殺されたことだ。
これが事実なら全ての辻褄が合う。
それよりも早くこのことを騎士団に知らせなければいけない。そう思いすぐさま動こうとした時にルドガーの元に部下が来る。
「マスター。手紙だそうです」
「誰からだ?」
「それが……地下牢の看守からです」
「看守からだと?」
「どうしたんですか。マスター?」
手紙を読んで見るとその中身を見て驚きの声を上げてしまう。その中身には地図が入っており、地図にはある模様が描いてあった。
その模様とは大規模魔法陣であった。学園を中心に描かれており、手紙の内容は昔話のことだった。
「今すぐに戦闘出来る者を集合させろ!!」
「は、はい!!!」
ルドガーの焦った表情を見て、事態の危機を悟った部下は慌てて駆け回る。多くの冒険者へと通達を行い、出来る限りの人数を集めて見せた。
「よし! 今はこれで全員か……」
ルドガーがざっと見回す。そこには三百人ほどの冒険者達が控えている。果たしてこれだけの戦力で大丈夫なのだろうかと心配するルドガー。
そこに騎士団も入れて五百人。それよりもどう陣形を展開するかだ。まだあの手紙の内容が本当かどうかの確証はない。
しかし、ショウからの手紙の内容を見る限りでは信憑性は高い。ルドガーは信じていた。そして、同時にショウを急ぎ解放してやらねばと、そう思った瞬間にそれは起こる。
ドゴォンッと突然学園の方から大きな爆発音が聞こえる。
「な、なんだ!?」
「学園の方からだ!?」
突然の爆発音に騒がしくなる冒険者に騎士。ルドガーは間に合わなかった事を悔やみ歯軋りをする。しかし、すぐに冷静さを取り戻して指示を出す。
「ナイザー! 街の方は頼む。私は冒険者を連れて学園へと向かう!!」
「わかった!! 気を付けろよ!」
「俺を誰だと思ってる!」
ナイザーに街の方を任せて学園の方向へと冒険者達を連れて駆け出す。
「GYYYYYYAAAAAA!!!」
見たこともない魔物であった。あれは龍なのかとルドガーは凝視する。蛇のような身体をしており額には女性の上半身がくっついている。
あれがなんなのかはわからない。
だが、これだけは言える。あれは間違いなく伝説の魔獣だ。もはや次元が違う。勝てる気がしない。幾多の修羅場を越えてきたルドガーはここまでの恐怖を味わったことはない。
しかし、今は臆している場合ではないと奮い立つ。
「全員気を引き締めろ! なんとしてでも街を守るぞ!!!」
ルドガーを含めた総勢三百人の冒険者達が一斉に魔獣へと突撃する。
「GAAAAAAAAA!!!」
しかし、たったの一撃で全ての冒険者達がやられてしまう。ルドガー以外のほとんどが傷付き倒れて行った。
傷つき片膝を地面についているルドガーは背後にいた冒険者たちに目を向ける。そこには誰一人として立っている者がいなかった。
「くっ!! おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ルドガーは一人立ち上がり、雄叫びを上げながら魔獣へと飛び掛る。
ルドガーが一人魔獣と戦いを始めたころ、街では大変なことが起こっていた。
街のあちこちから魔物が現れて住民を襲い始めていたのだ。建物は壊され、逃げ惑う人々を魔物たちは襲っていく。
阿鼻叫喚の中、騎士団が懸命に魔物を倒し住民を助けていく。ナイザーが率いる騎士団は迅速に魔物を駆除していくが、あまりにも数が多い。
騎士団が必死に魔物を倒している間にも多くの住民達が犠牲となっていく。所々から聞える悲鳴は止む事はない。
それでも多くの人を救おうとナイザーは歯を食いしばりながら魔物を蹴散らしていく。
「うおおおおおおお!!! 一匹でも多く殺せ! そして、一人でも多く救えっ!!!」
騎士団の誰よりも多くの魔物を相手にしながらナイザーは大きく叫ぶ。
火の手が上がり魔物が跋扈する中、一人の男が街を駆ける。歯を食いしばりながら懸命に走り抜ける男は一人の男が待つ牢獄へと向かう。
確信はない。ただ、あの男ならばこの状況を変えてくれるのではないかと期待を寄せて、看守の男は我武者羅に走る。
何度も躓き転びそうになりながらも走る。
だけど、現実は非情である。男の行く手を阻むかのように魔物が現れた。看守でしかない男は大した力を持ってはいない。一般人よりは強いが目の前にいる魔物に勝てない。
「くそ! そこをどけよっ!!!」
叫ぶが魔物は言葉など理解しない。迂回しようにも道は瓦礫で塞がり、引き返すしかない。しかし、男が引き返そうと振り返るとそこには魔物がいた。
「ふざけんなよ。ちくしょう……!」
拳を握り締めて怒りに震える身体。男は、ダメ元で魔物を押し避けて進もうとするが体当たりを受けて転んでしまう。しかも、相当な衝撃で怪我まで負ってしまう。
「がはっ……普段から鍛えておくんだった」
「ギィィ!」
魔物が男へと飛び掛かる。もはや、ここまでかと男が目を瞑る。すると、その時一人の少女が現れる。
「アクセル!!!」
「ギィィッ!?」
男に飛び掛ったはずの魔物は突如現れた少女の剣によって両断される。男も少女の声を聞いて目を開ける。
「き、君は確か闘技大会に出てたローラって子じゃ――」
「そんな事はいいから、ここから早く逃げてください!」
「は、はい!」
ローラによって助けられた男は当初の目的であった牢獄へと向かう。あの男を牢屋から出す為に。
改訂済み