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放課後は異世界で獣人やってます

作者: まめつぶいちご

カクヨムの児童向けファンタジー応募用に作成しました。


・12000文字以内

・長編に切り替えれる短編

・わくわくする展開


という条件でした。

反響があれば長編化させてエンディングまで書きたいと思います。

「え? 太陽が二つ……?!」


 歪んだ視界が晴れると、目の前に飛び込んできたのは青々と茂った広大な草原と、青空に浮かぶ二つの太陽。


 明らかに地球ではないその異常な光景に、私は全身に鳥肌が立った。


「よし、落ち着こう。私は旧図書室で本を開いて……」


 深呼吸して自分の置かれた状況を整理していると、嗅いだ事の無いほど爽やかな草木の香りが、優しく鼻をくすぐった。


「わぁ、いい匂い……。って違う違う! ここは! どこなのよー!」



――時は今朝に遡る。


「りょーたー! まーだー?」


 保育園からの付き合いである幼馴染の良太を迎えに行くのが、私の毎朝の日課だった。


「うっせーな、さっきから返事してんだろ」


 歩行補助杖を突きながら、サイズの合ってない新品の学ランを着た村田良太が玄関から出てきた。


「そう? 聞こえなかったわ」

「あ……。ごめん」

「良太が謝らないでよね。調子狂うから。ところで……。やっぱりもうワンサイズ小さいのを買った方がよかったんじゃないの?」

「チビで悪かったな。男ってのは中学の時にデカくなるんだよ」

「だといいけどねぇ」


 良太は生まれつき体が弱かった。保育園を卒業する頃には入院が多くなり、小学生の低学年はほとんど学校に来なかった。


 小学生の高学年になると、良太は登校出来るようになった。しかし、高学年となればもうクラスではある程度グループが出来ており、元々塞ぎがちな性格の良太はクラスでも浮いてしまって、少しいじめみたいなものが発生した時期もあった。


「ねぇねぇ、ところで部活はどうするの?」

「帰宅部」

「面白味ないわねぇ。運動部はどう?体鍛えるの」

「無理だよ。俺の体の弱さを知っているだろ」

「そうね。私に負けるくらいだもんね」

「そういうこと」

「じゃぁゲームアニメ研究部は? 良太、入院中に良くゲームしてたじゃない」

「却下。俺は一人で楽しむのが好きなんだよ。馴れ合いは求めてない」

「ふーん」


 良太は、友達が欲しいくせに自分から作りにいかない。いじっぱりなのか臆病なのかわからないけど、もっと自分から心を開いた方がいいと思う。


「柚乃はどうするんだよ」

「え? 何か言った?」

「ぶーかーつー! どうすんだよ!」

「あぁ、部活ね。もう吹奏楽もやれないしなぁ」


 私は両親の影響もあって、小さい頃からトランペットを吹いていた。大きな音も小さな音も自在に出せるトランペットは私は大好きだった。そう、大好きだった。それは過去の話なのだ。


「なぁ。耳、また悪くなってないか?」

「うん、お医者さんが言うには、どんどん悪化していくだけだってさ。お母さんも早めに違う趣味を見つけなさいって」


 何が原因かわからない。私は小学生高学年になった頃、大会の一週間前に突然耳が聞こえなくなった。安静にしていたら聞こえるようになったけど、それ以降耳の聞こえがすごく悪い。突発性難聴で、とにかく今の医療では治せないらしい。


「そっか……」

「私たちポンコツだね。えへへ」

「それは否定しねぇけどよ。まぁ中学入ったんだし、楽しんだら勝ちだろ」

「たまには良い事いうじゃん」

「バーカ」


 いつも通りの調子で良太と話しながらゆっくり登校していると、校門前では椅子に座りながら生徒に声をかけている先生がいた。


「あ、獅戸先生。おはようござます」


 獅戸あきら先生、理科の授業を担当してる教師で、ボサボサの頭に痩せ細った体。いつも白衣を着ているから一部の男子にはドクターなんて言われている。


「おはよう。村田、今日は体調はどうだ?」

「いつも通りです」

「そうか、具合が悪くなったら保健室に行くんだぞ」

「はい」


 良太の虚弱体質は学校でも有名だった。なんせ入学式の最中に倒れて、救急車で運ばれたからだ。


 それ以来、良太を触ったら壊れるガラスみたいに思われていて、誰も近寄ってこない。良太のぼっちは中学に上がっても継続しそうだった。


「ねぇねぇ、獅戸先生って良太と気が合うと思うんだけど」


 下駄箱で上履きに履き替えていると、良太は露骨に嫌そうな顔をした。


「ドクターと? なんでだよ」

「獅戸先生って、良太みたいに病気で昔から体が弱いらしいよ。なんでも一度病気で死にかけて、そこから奇跡の生還。当時は神の子なんて呼ばれた時代もあったとか」

「ふーん、それでいつも椅子に座ってんのか」

「一度話してみたら? 獅戸先生って読書感想部の顧問もやってるよ」

「なんだその気持ち悪い部活名は……。却下だ」

「もう素直じゃないんだから」


――そして放課後。


「あ、獅戸先生だ」


 私は日直の仕事を終えて帰ろうとしていたら、廊下を歩く獅戸先生の背中を見つけた。


 良太は中学でも友達を作る気がないみたいだし、少し大人びたところもあるから、共通点の多い獅戸先生とは相性良いと思うんだよね。お節介とわかっていたけど、私は獅戸先生に声をかけようと後を追った。


「あれ? どこ行ったかな。確かここを曲がって……」


 旧図書室のドアが少し開いている。今は使われなくなってしまった旧図書室。


 確か今は読書感想部の部室になっていたような。興味本位でこっそりドアから中を覗くと、獅戸先生は、端の棚に置かれた古びた赤い本を開くところだった。


「え……」


 先生が本を開いた瞬間、まばゆい光と共に先生の姿が消えた。


「嘘……。え? 消えちゃった?」


 慌ててドアを開けて旧図書室へ入るが、すごく狭い室内だ。人が隠れられる場所などない。


「この本を、開いてたよね……」


 先生が消えた本棚には、いつの間にか閉じた古びた赤い本があった。

 明らかにこの部屋の中で異質なオーラを放つ本を、私は恐る恐る手に取り栞の挟んであるページに指をかけた。


「わ!」


 本を開いた瞬間、獅戸先生を襲ったのと同じ強烈な光が私を包み込んだ――



「ゲームの中の世界みたい……」


 空に浮かぶ二つの太陽に照らされながら、私は昔のことを思い出していた。


 確か現代からファンタジー世界にワープしちゃうって話のゲームを、良太と病室で一緒にやった気がする。


「確かゲームだと、ステータスっていうのを……。わ!」


 出てきた。

 目の前に青白く輝くタブレットの画面のようなものが……。


ステータス【 Lv.1 】

・HP2000/MP1000

・攻撃力:500

・防御力:500

・素早さ:500

・器用さ:500

・魔法力:500

・精神力:500

・スキル(0/5):超聴覚、腕力強化、無限肺活量

・魔法:マジックシールド(Lv.1)《残りポイント:30》


「ダメだ。私が見ても弱いのか強いのかわかんない……」


 ゲームに詳しい良太がいれば、この状況を説明してくれるかもしれないのに……。


「あれ? この超聴覚ってなんだろう」


 浮き上がる青白い画面の超聴覚の文字に振れると文字が現れた。


《 スキル:超聴覚を装備しました 》


「装備? 装備ってなん……あわわわ?!」


 〈ザザザザー〉

 〈ガサゴソガサゴソ〉

 〈さわさわ~〉


 突然私の耳に、ものすごい量の音が流れ込んできてびっくりした。あまりのうるささに耳に手を当てると、耳がない。


「え?! 耳どこ?!」


 ポンポンと頭に手を当てると、何やら頭の上にある突起物に手が触れた。


「なにこれ?!」


 恐る恐る触ってみると、何やら長い耳のような物が頭から生えている。

 そう生えていたのだ。ひっぱると痛い。


「長い……? うさぎの耳みたい……。ひいっ!」


 頭から生えた耳を触った後、手に違和感を感じて手を下ろすと、私の手は真っ白な毛むくじゃらだった。


「ええぇえ! なにこれ、着ぐるみ?!」


 白いもふもふとした毛が生えた手。スカートから伸びるのは同じく毛むくじゃらの足。ご丁寧に丸い尻尾のような物まで生えている。


「長い耳! もふもふの手足に、丸い尻尾! これ完全に兎じゃない?!」


 自分の体を改めてみて見ると、さっきまでと同じ服装だが、手足は毛むくじゃらで長い耳のついた兎人間になっていた。


「ど、どうしよう……」


 吹奏楽で習った曲を口ずさんでパニックになった頭を落ち着かせていると、葉の擦れる音や川の音、草木が揺れる音に混じって誰かの叫び声が聞こえた。


 〈ザザザザー〉

 〈ガサゴソガサゴソ〉

 〈たすけてー〉

 〈さわさわ~〉


「誰かが助けを求めてる?!」


 超聴覚のスキルを装備してからだ。

 意識を耳に集中させると、方向が明確になる。


「こっちかな」


 音のした方へ走ると、普段では信じられないくらいの速度が出た。この速さならオリンピックにも出れるんじゃないかってくらいの速度だ。


 〈もうダメだーー〉


 近い。木々をかき分けて進むと、倒れた木々の側に巨大なイノシシいて、顔が豚の子供が襲われているのを見つけた。


「くっそー! こっち来るなよー!」


 なにあれ豚人間? 獣人って奴かな? ってそれどころじょない。


 どうしようどうしよう。武器になるような物は持ってないし、さっき見たスキル?だと攻撃スキルっぽいものは何も……。そうだ!


「ステータス」


 巨大イノシシに気づかれないように小声でステータス画面を呼び出して、魔法の項目に触れると魔法ツリーが表示された。


 よし、狙い通り。後はマジックシールドのレベルを最大に上げて……。


《ファイヤーボルトが解放されました》

《アクアボルトが解放されました》

《サンダーボルトが解放されました》

《ウィンドウボルトが解放されました》

《アースボルトが解放されました》


「やった、でた!」


 昔、良太が魔法はレベルを上げて条件を満たすと、他の魔法が現れるって説明してくれた事を思い出した。って感動してる場合じゃない。私は急いでファイヤーボルトのLvを最大まで上げた。


《ファイヤーボルトがLv10になりました》

《フレアブレードが解放されました》


「ブォオォオオオ!!」


 顔を上げると、巨大なイノシシはその鋭い牙で豚獣人の子供へ突進をするところだった。


「く、くらえ! ファイヤーボルト!!」


 ちょっと大袈裟にポーズをつけて叫んだ瞬間、私の右手が熱くなり巨大な火の玉が飛び出してイノシシに命中した。


 着弾すると、爆弾でも爆発したのかと思うほどの爆音と共にイノシシは燃え、叫びながら森の奥へと逃げて行った。


「あぁ、びっくりしたー」


 逃げて行ったイノシシを見送ると、爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされた豚獣人の子供へ駆け寄った。


「ご、ごめん。大丈夫だった?」


 頭を抱えてガタガタと震え何かに怯えてるようだ。


「うう、どうしてこんなところに人間が……あっちいけー!」

「え、どうしたの? もう大丈夫だよー?」


 子供は爆発の影響でところどころ焦げてるけど、命に別状はなさそうだ。


「俺をどうする気だ! 人間!」

「え? 人間?」


 もしかしてと思って、周りを見るが誰もいない。


「あのー? 人間って、もしかして私の事?」

「ぐぅぅ、人間め。俺を殺したければ殺……あれ?」


 ビクビクと頭を抱えて怯えていた豚獣人の子供は、指の間からチラっと私の方を見るとキョトンとした顔で手をどけた。


「え? 兎獣人? あの魔法は誰が?」

「あの魔法は私だけど……」

「う、嘘をつくな! 獣人が魔法を使えるわけないだろ! 魔法を使えるのは人間と魔獣だけだ!」


 そうなんだ。この世界では人間と魔獣?だけが魔法を使えるんだ。でも私は使えちゃうな。元が人間だからかな?


「でも使えちゃうんだもん。ほら、ファイヤーボルト」


 右手を空に向けて魔法を使うと火の玉が飛び出すと空へと消えた。


「ほ、本当だ。まさか獣人で使えるやつがいるなんて……。本当にこの近くに人間はいないんだな?」

「いたら私が教えて欲しいわよ」

「はぁ~。助かった……」


 緊張の糸がほぐれたのか豚獣人の子供は、力が抜けてへにゃへにゃと崩れ落ちた。


「……た、助けてくれてありがとう。おいらはブータ」

「私は藤沢柚乃よ。柚乃。よろしくね」

「兎の獣人はこの辺じゃ珍しいな。ユノはどこから来たんだ?」

「わたし? うーん、東京だけど……」

「トウキョウ? 知らねーな。まぁおいらも他の村の事を全部知ってるわけじゃねーしな」


 豚獣人のブータはズボンの砂を叩くと立ち上がって、近くに落ちていたリュックを背負った。


「ユノはこんなところでなにしてんだ?」

「さあ? 私が聞きたいくらいだよ」

「変なやつ……。迷子ならうちの村に来いよ。お礼もしたいしさ」

「そう? お言葉に甘えちゃおうかな。私も聞きたいことがたくさんあるんだ」

「よし、行こうぜ。おいらの知ってる事ならなんでも答えるぞ」


 ブータと森の中を歩きながら色々な事を聞いた。ブータは他所モンは何も知らねーんだなと驚いていたが、説明が難しいから勘違いしたままにした。


「でな? 魔法を使えるのが人間。スキルを使えるのが獣人。どっちも使えるのが魔獣だ。ユノは何故か魔法もスキルも使えちまうみたいだが、どうみても獣人だよな」

「そうだねぇ」

「でも村に入ったら絶対に魔法は使わねー方がいいぞ。村の大人たちは人間が大っ嫌いだからな」

「わ、わかった」


 ブータによると、この世界には人間と獣人の二つの種族が生存していて、昔から戦争をしているらしい。その原因となるのが先ほど戦った魔獣の存在。


 突如、世界中に現れた魔獣は田畑を荒らし、時には人間も獣人襲う厄介な存在らしい。


 なぜそれが争いの火種なのかというと、人間側の主張としては魔獣は獣だから、獣人が魔獣を操って人間の街を襲わせているという。


 逆に獣人側の主張はというと、魔法を使えるのは人間と魔獣だけだ。魔獣は魔法を使う。あれは人間が作った生物だという。


 双方の主張は平行線のまま、もう何百年も争っているらしい。時には死者が出るほど激しくぶつかる戦争もあったとか。


「それでファイヤーボルトが飛んできたから、ブータは人間がいると思ったのね」

「そうだ。父ちゃんに人間を見たら逃げろと言われて育ったからな」

「ところで、さっきからやってるそれはなに?」


 ブータは、リュックから取り出した黄色い葉っぱを何度も千切っては投げている。


「臭い消しの葉だ。ワイルドボアは超嗅覚のスキルを持ってるから、これで追跡されないようにしないと」

「なるほど?」

「あ、おいらの村が見えてきたぞ」


 ブータが指差した先には、お世辞にも繁栄してるとは言いがたいボロボロの村が見えた。


 村に近づくと、入り口にはそわそわしている大きめの豚獣人が立っていた。つなぎの服に麦わら帽子をかぶり、手には槍を持っている。


「父ちゃーん!」


 どうやらブータのお父さんらしい。ホッとしたのかブータの声も先ほどより高音になった。超聴覚スキルのおかげか、声のトーンでその人の感情がどうなってるのかある程度わかる。


「ブータ! お前! どこ行ってた!」

「ご、ごめん。父ちゃん……」


 ぽかっと殴られた後、ブータは両肩を掴まれた。


「おまえ、魔獣に手を出してねぇだろうな?」

「だ、出してないよ」

「……ならいいが。そちらの方は?」

「ユノだよ。森の中で会ったんだ。迷子らしいよ」


 ブータのお父さんは、立ち上がると私の方へ歩いてきた。その瞳には警戒の色が見える。


「……失礼ですが、どこから来たんですか?」

「えーと、トウキョウです……」

「ふむ。何か事情がありそうですね、同じ獣人同士、力を貸しますよ。さぁ我が家へ」


 ここがどこなのかとか、元の世界に戻るための方法も聞きたいし、私はお誘いを受けることにした。


 付いていくとブータの家は村の入り口のすぐ側にあり、悔しいけど私の家より広かった。


「申し遅れました。私はブードン。これでもこの村の村長をしています」


 ブータの父のブードンは、とても礼儀正しい豚だった。


「さぁ、なんでも聞いてください」

「はい、実は私は――」

「――なるほど、まるで勇者シシドのような話ですな」

「勇者シシド?」

「ええ、獣人が人間と争ってるのは息子から聞いたと思いますが、勇者シシドはとんでもない強さを持つライオンの獣人でして、なんでも噂だとトウキョウから来たと言っていたとか」


 シシド? ししど……獅戸!? それ獅戸先生だ! やっぱりこっちの世界に来てたんだ……。でも先生は毎日学校に来てるよ?! ということは、帰る手段があるんだ……。よしよしっ!


「それで、その勇者シシドにはどこに行けば会えますか?!」

「それは難しいと思います。何せ神出鬼没で、どこからともなく現ては皆を助けてくれる勇者ですから」

「そうですか……」


 こっちの世界の獅戸先生すごいじゃん!

 となると、やっぱりあの草原にあっちとこっちを繋ぐのワープみたいなのがあるのかも。もう一度行ってみよう。


「よかったら村の中を案内させてください。この村に他の村から獣人が来るなんて滅多にありませんから」

「え、私は……」

「ぜひ」


 ブードン、すっごい鼻息が荒い。ぶびぶひ迫られた私は断る勇気がなく、頷くしかなかった。


――「あれがトウモロコシ畑にキャベツ畑です」


 不思議なことに、こっちの世界の農作物はほとんど地球と同じ名前が使われていた。


 街に何人か獣人がいたけど、カエルの獣人、カンガルーの獣人、ネズミの獣人、ダチョウの獣人と、みんな呼び方が地球と一緒だった。


 もしかしたらずっと昔にこの世界に地球から来た人がいて、名前を付けたのかな……。それで農作物も持ってきたとか。


「あ、井戸から水を汲んでるんですね」

「ええ、我々は人間と違って魔法が使えませんから、どうしても原始的な生活になってしまいます」

「水を出すスキルは無いんですか?」

「そんなものありませんよ。魔法というのは自然の力と魔力を使って事象を起こす方法でして、スキルは自分の体力を消耗して肉体の限界を超越する方法です。根本そのものが全く違いますから」


 確かに、私の超聴力スキルは肉体の限界を超越してるし、魔法に関してもマジックシールドの次はファイヤーボルトやアクアボルトなど、自然の力を使ったものばかりだった。


「ちなみに、なんだか空き家が目立ちますけど……」

「お恥ずかしい話です。実は少し前にこの近くにワイルドボアが住み着いてしまいまして」

「ワイルドボア?」

「イノシシの魔獣です。魔獣は基本的に凶暴なのですが、ワイルドボアは非常に温厚な性格で、こちらが手を出さない限りは無害です。それでも魔獣は人間を呼び寄せるという迷信を信じている者も多く、半分近くの村民が別の村へ移住しました」

「そうだったんですね」


 さっき思いっきり攻撃しちゃったけど大丈夫だろうか。それにしても、そんなに人間を恐れているなんて……。この世界の人間はそんなに凶悪なのだろうか。


「さて、今日はもう日が暮れますから、うちの村に泊まっていってください。空き家はいっぱいありますので。ははは」


 ブードンは笑えない廃村ジョークと飛ばすと、彼らなりに頑張ったであろう豪華な食事を提供してくれた。



――夕飯を終え、借りた家のベットで横になると、窓から夜空に二つの月が上り幻想的な光景だった。


 耳を澄ますと、都会とは違い森林の中の村はとても静か……ではなかった。


<ホーホー>

<チキチキチキ>

<がさごぞ>

<ざわざわ>


「うーん。うるさくて眠れない……」


 超聴覚が装備したままの為、虫とか動物の鳴き声や葉音など周囲の音が気になって寝れない。


「ステータス」


 ブゥンと暗闇の中に青白い画面が現れた。


「超聴力を外してっと……」


≪ 超聴力が解除されました≫


「あとは、うーん」


 とっさにファイヤーボルトをレベル最大まであげたけど、よく見てみたら派生っていうのかな。ファイヤーボルトのレベル上がったことで、フレアブレードという魔法が一覧に出てきていた。そういえばなんかアナウンスみたいのが流れたような。


「これも最大まで上げちゃおうかな。ポチポチっと」


《フレアブレードがLv10になりました》

《メテオインパクトが解放されました》


「またなんか出たけど、もうポイントが無くなっちゃったよ」


 やっぱり良太がいてくれたらなと思う……。良太もこの世界に連れて来れないかな。


 窓の外に見える満点の星空を見上げていると、両親の顔が脳裏によぎった。


「どうしよう。お父さんもお母さんも心配してるよね……」


 明日はなんとしても草原に行こうと心に決め、瞳を閉じた。


――翌朝、まだ薄暗い朝方にカンカンカンという警鐘の音で飛び起きた。


「びっくりした。なんの音だろう……」


 とにかく只事ではないと思い、私は慌てて布団から飛び出しドアを蹴り飛ばすと、家の外へ出た。


「あ! ユノ! いま呼びに行こうとしてたんだ!」

「この音は何?」

「昨日の魔獣……。ワイルドボアがこっちに向かってるらしくて……。どうしようおいらのせいだ」

「え、それを言うなら私は魔法で攻撃したから……」

「違うんだ。ユノと会う前に俺が木の実を取ってたら落ちちゃって、その時に木の下にいたワイルドボアにぶつかって……。あれほど父ちゃんに攻撃するなって言われたのに」

「そうだったんだ……」

「念の為に臭い消しの葉を使ったけど、ちゃんと臭いが消せてなかったんだ。どうしよう。このままだと村が……」

「とりあえずブードンさんに相談するしかないよ」

「そ、そうだね。行こう! 広場だよ!」


 ブータと一緒に広場を目指すと、屋根の上でダチョウの獣人が叫んでいた。体は人間なのに首だけ長くてダチョウの頭がついている。


「南南東から何かが来ているぞー!」


 何かって、なに……。ワイルドボアじゃないの?


「チョウさんは超視力スキルの持ち主でね。四十メートルくらい先に落ちてる爪楊枝も見つけられるくらい目がいいんだ」

「それはすごいね」

「でも、脳みそが小さいから物忘れが早いのが難点で……」


 チョウさんが高台から叫ぶと、広場にいるブードンや村の面々が手お上げて合図を送ったのが見えた。私とブータは急いで広場へ駆け寄ると、みんなの顔から事態の深刻具合を肌で感じた。


「ブードンさんおはようございます。ワイルドボアが接近してるとか」

「ああ、ユノさん。そうなんです……。非常に興奮した状態らしく」

「父ちゃん実は……「やっぱり先に村を出た連中と一緒に、この村は捨てるべきだったんだ!」


 髭を生やしたカエルの獣人がブータの発言を遮って怒鳴り散らした。


「カエール爺さんの言う通りだ! ブードン!お前の責任だぞ!」

「そうだ!そうだ!」


 獣人たちが騒ぎ立てるとブードンは神妙な顔つきで手を上にあげて、みんなを静かにさせた。


「わかりました。私が時間を稼ぎますから、皆さんは西の川を越えて、ルルリリラの村を目指してください。ワイルドボアは嗅覚スキルを持っているので、臭い消しの葉を撒いて必ず川の中を渡って匂いを落としてください」


 みんなは動揺した。時間を稼ぐとはワイルドボアと戦うということだ。ブードンは死ぬ気かもしれない。しかし村人の切り替えは早かった。


「ブードン、お前の覚悟しかと受け取った! そうと決まれば今すぐ全員村を脱出するぞ!」

「よし急ごう! 荷物は最低限だ!」


 ブードンの言葉を聞いて、みんな逃げる準備をするのために足早に散っていき、私とブータとブードンだけが残った。


「父ちゃん……」

「ブータ、いいか? 父ちゃんはこの村に残らなきゃいけない。お前はみんなと一緒に逃げるんだ」

「違うんだ! 父ちゃん! ワイルドボアは俺が」


 パン!

 ブードンがブータの頬を叩き、辺りに乾いた音が響きわたった。


「今は村の一大事だ。お前も俺の息子なら避難誘導して、みんなをルルリリラ村に連れていけ!」

「父ちゃん……わかったよ。でも絶対、父ちゃんもルルリリラ村に来てくれよ!」

「任せろ、お前の父ちゃんだぞ?」


 ブータとブードンは拳を合わせると、ブータは脱出の準備のために家へと走った。


「ブードンさん……」

「ユノさん、申し訳ないですがブータを頼みます」


 ブードンを私に背を向けると歩き出した。


「あの! ブータは……」

「わかってますよ。あの子がワイルドボアを怒らせたんでしょう」

「知ってたんですが……」

「昨日の夜、寝言で言ってました。木の上から偶然ワイルドボアの上に落ちたと」

「それじゃぁ……」

「それをあの子から聞いても、この結果は何も変わりません。ならば今できることを最優先にやる。それが村長とその息子の役割です。それでは」


 そう言い残すと、ブードンはワイルドボアの迫っている村の入り口へ走っていった。


 ――村ではブータを主導に脱出の準備は大急ぎで進められ、すぐさま皆でルルリリラ村へ向けて出発した。


 ブードンの事が心配ではあったが、彼の意思を無駄には出来ない。臭い消しの葉をちぎりながら村人達と黙ってしばらく進むと、言われていた通り浅い川が現れた。


「ここを超えれば安心だ。みんながんばって!」


 ブータが皆を励ますが、獣人達の顔は浮かない。

 やはり村の事がブードンの事が気になっているようだ。それは私も同じだった。


「みなさん、ごめんなさい。やっぱり私はブードンさんを見捨てられません」


 私は走った。

 背後から何か叫び声が聞こえたが無視して走った。

 ブードンさんが一人だけ犠牲になるなんて間違ってる。


――「ぐああぁ!」


 村へ戻るとブードンさんがワイルドボアと一人で戦ていた。

 全身ボロボロのその姿は痛々しく。血まみれの体は必死に時間稼ぎをしていたであろうことがうかがえた。


「ブードンさん!」

「ユノさん……なぜ戻ってきたんです!」

「一人は責任を負うなんて間違ってます!」


「ブォォォオオオオオ!」


 ワイルドボアが覚えのある臭いに気付き、私に向かって突進を繰り出した。


「ファイヤーボルト!!」


 右手から飛び出した火炎弾を見て、ブードンが驚いた。


「ま、魔法?! 人間?!」


 火炎弾は真っ直ぐ飛ぶと、ワイルドボアに……当たらなかった。軽やかなステップで避けると、そのまま私に向かってきた。


「ブオオォオオオン!!」

「ぐぉおお!!」


 私にぶつかる直前で、ブードンがワイルドボアを受け止めた。ワイルドボアの牙が腕に刺さり血を流すも、その腕はワイルドボアを離さなかった。


「は、早く! ユノさん!」

「はぁあああ! フレアブレード!」


 身動きの取れないワイルドボアの胴体を、高温の炎刃が貫いた。


「ゴアァァアアアア!」


 胴体が真っ二つにされたワイルドボアは、燃えながらその場に崩れ落ちた。


「た、倒せたぁあ〜」


 気が抜けて腰を下ろしていると、背後に斧を持ったブードンが近づいてきた。


「魔法を使えるのは人間だけです。私の妻は人間に連れて行かれました。人間は私の敵です」


 その悲しい瞳になにも言えないでいると、ブードンが斧を振り上げ、私に向かって力強く振り下ろした。


 ガンッ! 鈍い音を立て、ブードンの振り下ろした斧は私のすぐそばの地面に突き刺さった。


「ユノさん、魔法を使うあなたがもし人間だとしても、私はあなただけは信じられる」

「ブードンさん……」


 その表情は上ってきた朝日に照らさらて読み取れないが、穏やかな声だった。


「おーい!」


 村の入り口のほうから声が聞こえ、逃げたはずの村の獣人達が戻ってきていた。


「みんな……」

「お前さん一人にかっこいい思いをさせてなるものかっ」

「そうだぜ。ここは俺たちの村だ!ってまさかブードンが倒したのか?」

「……ええ、まぁ」

「すげぇな」

「……しかし、なぜワイルドボアが村に来たのかね」


 カエル爺には村人の誰かがやらかしたと確実しており、その責任をどうするのかとブードンへ問いた。


「……今回の件は、ブータがワイルドボアを刺激したことが原因です。彼には相応の罰を与えます」


 村人からざわめきが上がると共にブータへ視線が集まる。


 そしてブードンは斧を拾い上げると、ブータに突き出した。


「お前は罰としてもっと強くなり、この村を守れ。いいな」

「父ちゃん……」

「村長だ」

「はい! 村長! おいら強くなってこの村を守るよ!」


 パチパチと拍手が上がり、皆がブータを許して受け入れた。


――「確かこっちの方だったような」


「超嗅覚、便利ですね。まさか昨日通った場所がわかるなんて」

「へへ、おいらの自慢のスキルだからな。おっとここまでだよ」


 復興作業があらかた終わると、ブータに協力してもらい私はこの世界に来て初めに降り立った場所まで戻ってきた。


「確かに、ここみたいだけど……」


 あの時は見落としたけど実はワープみたいなものがあるのかと思って来てみたけど。


「やっぱり何もないか……」


 キー……ンカ……コーン


 その時、明らかにこの世界の物ではない音が微かに聞こえてきた。


「これ、チャイムの音?!」


 私は慌てて超聴覚のスキルを装備して、音のした方へ反射的に振り返る。


 よく見ると、私が出てきた場所の近くに薄らと時空の歪が現れ、その先にうっすら旧図書室が見えた。


「こ、これだ! やった! ブータ! ブードンさん! ありがとう! 私、帰るね!」

「そうですか、またぜひ遊びにいらしてください」

「また? ……うん! またね!」


 キーンコーンカーンコーン


 三度目のチャイムの音で、時空の歪みが大きくなって向こうにはっきりと旧図書室が見えた。


 私は思い切って飛び込んだ。


 すると、この世界に来た時のように視界が歪み、ぐにゃぐにゃの世界を通ると、懐かしい匂いがしたと思うと、ドサっと床に腰を打ち付けた。


「痛ったたたた……」


 思わずお尻をさする……。ない! 丸い尻尾がなくなってる!


「わ! 元に戻ってる!」


 毛むくじゃらだった足も腕も元に戻り、もちろん頭に耳もない!


「やったー! 帰ってこれたー!」


 思わず涙が出た。あのまま兎獣人の姿だったらどうしようかと、こっちの世界じゃモンスター扱いでどんな目にあっていたか……。


「あれ、そういえば、時間……」


 旧図書室に置かれたデジタル時計を見ると、十八時三十分。


 しかも私が異世界に移動した日と同じ日だ。つまり、午後の授業が終わって日直の仕事をしてたから、一時間ほどしか経ってない?


「嘘……。ブータのところで一日寝泊りしたのに……」


 もしかして、時間の流れが違う?


 こっちの一時間があっちでの一日なのかもしれない。


 そしてチャイムの音がこっちに戻ってこれる合図?どうしてそんな仕組みになっているのかわからないけど、これが事実ならまたあっちの世界に遊びにいけるかもしれない。


 こうして私の初めて冒険は終わった。


「明日は、良太も連れて行ってみようかな。放課後だけ獣人になりに」

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