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19 だから、どうしてお姉さまなのよ!?【マリン視点】

 今日の私は朝から機嫌が悪かった。


 だって、お父さまが私に『リオ様が来たらマリンが出迎えなさい』なんて言うから。


 出迎えなんて使用人がやることでしょう?

 どうして私がしないといけないの?


 お父様は私がリオ様と出会えるようにパーティーを開いてくれた。


 身内だけの小さなパーティー。


 そこでなら、他の人に邪魔されずにリオ様とお話ができるからって。


 リオ様はパーティーに参加すると手紙でお返事をくれたものの、私のことについて何も書いていなかった。


 他の貴族男性のように、私のことをほめてくれたり、ドレスやアクセサリーをプレゼントしたりしてくれない。

 お金持ちのはずなのに、なんだかケチくさい。


 顔もパッとしないし……。


 一番引っかかるところは、セレナお姉さまなんかに優しくしていたところ。


 リオ様は本当に、女性を見る目がない。


「でもまぁ、それは田舎から出てきたからしかたないかぁ」


 田舎者だからお姉さまなんかにだまされるのよね。


 でも、もうお姉さまはいない。


 お姉さまの貧乏くさい平民メイドに毒薬を渡して、こっそり食事に混ぜさせたから。死んだって話はまだ聞かない。今ごろ体を壊して動けなくなっているのかもね。


 そう考えると私は少しだけ気分が良くなった。


 いじわるなお姉さまのせいで、私がリオ様に誤解されて悪く思われている。お姉さまがいなくなったから、あとはリオ様の誤解を解くだけ。


 誤解が解けたらリオ様は、お姉さまにしていたように私をお姫様扱いしてくれるよね? そうしてくれたら、あの顔でも許してあげる。


 私の部屋の扉がノックされたあと、私の専属メイドが入ってきた。


「マリンお嬢様、ターチェ伯爵家の馬車が到着しました」

「えー、本当に私が出迎えないとダメなの?」

「はい、ファルトン伯爵さまのご指示ですので……」

「はぁ」


 私は嫌々立ち上がると、ゆっくりと部屋から出てエントランスホールに続く階段を下りていった。


 エントランスホールでは、リオ様を出迎えるためにメイドたちが左右に分かれて並び、道を作っている。


 これだけいるなら私なんていらないじゃない。


 あ、でも、リオ様もメイドに出迎えられるより、可愛い私に出迎えられたほうが嬉しいかも?


 そういうことなら仕方ないわね。特別に最高の笑顔で迎えてあげるわ。


 私が笑みを浮かべたそのとき、エントランスホールの扉が開かれた。扉の先には、一組の男女が立っている。


 男性のほうは、もちろんリオ様。でも、その隣にいる女はだれ?


 招待されたパーティーに勝手に別の女をつれてくるなんて、社交界のルールすら知らないのね。本当に田舎者って最低!


 やっぱりお父さまに、リオ様と結婚するのは嫌だって言おうかしら?


 そのとき、私の後ろに控えていた専属メイドが「セ、セレナお嬢様?」とつぶやいた。


「はぁ? どこにお姉さまが……」


 私はハッとなり、リオ様の隣の女を見た。


 綺麗に結い上げられた白っぽい金髪に、高そうな水色のドレス。一見どこかのお姫様のように見えたけど、言われてみればその顔は確かにセレナお姉さまだった。


 リオ様は、右腕をケガしているお姉さまをいたわるように丁寧にエスコートしている。


 よく見れば、二人の衣装はおそろいで作られたものだった。そんなことをするのは、とても仲の良い婚約者か夫婦くらいだ。ということは、リオ様とセレナお姉さまの仲が良いということで……。


「そんなのウソよ!」


 だって、お姉さまは今ごろ体を壊して寝込んでいるはずなのに!


 あっそっか、あの平民メイドが失敗したのね?

 頭が悪そうだと思ったけど、こんな簡単なこともできないだなんて!


 ……まさか、私が薬を渡したこと、リオ様にバレてないよね?


 まぁ、バレていたらわざわざ、お姉さまを連れてこんなところまで来ないか。


 こっそりリオ様を見ると、リオ様はお姉さましか見ていなかった。その眼差しはとても温かい。

 そういう風に見つめられて大切にされるなら、リオ様でも悪くない。


 私は笑みを浮かべてリオ様にかけよった。


「ようこそお越しくださいました」


 可愛らしく挨拶をしてあげたのに、リオ様からは返事がない。代わりになぜかお姉さまが口を開く。


「久しぶり、マリン」


 その笑みは、余裕ぶっていてまるで私を見下しているよう。


 お姉さまのクセに。

 ケガしてリオ様に優しくしてもらっているうちに調子に乗ったみたい。


 どうせケガが治ったら見向きもされないのにね。

 さっさとリオ様から引き離して、パーティーの間、どこかに閉じ込めておかないと。


 リオ様が帰ったら、お父様にまた食事を抜かれるわよ? 可哀相なお姉さま。


 お姉さまが「マリン、案内してくれる?」といじわるを言ってきた。


 私の代わりに他のメイドがあわてて二人をパーティー会場となるホールに案内する。案内されるリオ様のあとに数人の騎士が続いた。


 パーティーに騎士をたくさん連れてくるなんて、王都ではありえないわ。でも、ああやってたくさんの騎士を従えるのは気持ちが良さそう。


 やっぱり、リオ様って素敵かも。


 二人の姿が見えなくなったとたんに、なぜかメイドたちが騒ぎ出した。


「バルゴア令息がセレナをエスコートしてたわよ!?」

「バカ、お嬢様をつけないと! 見たでしょ!? セレナお嬢様はバルゴアに選ばれたのよ!」


 メイドたちの顔は青ざめていく。


「ど、どうするの!? 今までのこと告げ口されたら!? 私達、こ、殺されないわよね?」

「今までって何よ? 私たちは何もしていないじゃない!」

「でも、ちゃんとお仕えしないで、みんなセレナお嬢様をバカにして、陰で悪口言ってたじゃない!」

「そ、そんなことしていないわよ! それに、セレナお嬢様に一番ひどいことをしていたのは……」


 メイドたちの視線が一斉に私に向けられた。


「なぁに?」


 私がにらみつけると、メイドたちはサッと視線をそらす。


「バカじゃないの? お姉さまがリオ様に選ばれるわけ……」


 エントランスホールに駆け込んできたメイドが、「裏口がバルゴアの騎士に封鎖されているわ」と叫んだ。


「正門にも騎士が立っている……私たち、閉じ込められたの!?」

「しっ声が大きいわ! そこにも騎士が一人いるのよ!」

「こ、これから何が起こるの?」


 ガタガタとふるえるメイドたちを見て、私は心底あきれてしまった。


「どうして、おびえる必要があるのよ?」


 だって、相手はお姉さまよ?

 当主のお父さまに嫌われて、社交界では『毒婦』なんて呼ばれて。

 私の役に立つ以外、なんの価値もないじゃない。

 そんな女、だれも選ばないわよ。今のリオ様は、お姉さまに騙されているだけ。


 私は鼻で笑うとエントランスホールをあとにした。私の後ろをついてくる専属メイドに耳打ちをする。


「私の護衛騎士を呼んで」


 しばらくすると、護衛騎士が私の元に駆け寄ってきた。


 いつも通り、私に仕えることを最高の幸せだと思っている顔をしている。そんな護衛騎士の耳元で、私は可愛いお願いをした。


「セレナお姉さまの顔に、大きな傷をつけて」

「え!?」


 私が祈るようなポーズをしながら、ジッと護衛騎士を見つめていると、護衛騎士は硬い表情で「必ず」とうなずいてくれた。


 覚悟を決めたように、護衛騎士は去っていった。その後ろ姿を見送った私は、がまんできず吹き出してしまう。


「ふふっありがとう」


 バルゴアの騎士がいるから、今、そんなことをしたら、あなたは捕まっちゃうだろうけど、大好きな私のために死ねるなら本望でしょう。


 捕まっても、私への愛を貫いて、私のことは黙っていてね。


 それに、私がバルゴアに嫁いだら、もっと優秀な騎士がたくさんいるから、あなたはもういらないの。


 お姉さまの顔に醜い傷ができたら、さすがにリオ様も目が覚めるでしょう。


 私は足取り軽くパーティー会場へと向かった。

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