食っちゃ寝
『ナニヲタベマスカ?』
「ウ〜ン、そうだなぁー、今度はペペロンチーノをお願い」
『マタスパゲッティデスカ?』
「良いじゃないか、好きなんだから」
『ワカリマシタ』
俺は、大宇宙を漂流中の全長が70キロちょいある巨大貨物船に取り残されているただ1人の生存者。
あの日やっと勤務から解放され此処貨物船のただ1つある休息室の中の食堂で、ボンゴレビアンコが出来上がるのを待っていた。
休息室には食堂の他にトイレにシャワールーム、シャワーって言っても水シャワーじゃ無く紫外線で身体の殺菌消毒をおこなう物、だから乗組員は全員真っ黒に日焼けしている。
それに睡眠カプセルやロッカーが置かれた睡眠ルーム、上級乗組員の船長や航海士とかは個室が与えられているけど、俺ら下級乗組員は私物を入れるロッカーが与えられているだけで、乗組員の3分の1くらいの数の睡眠カプセルは交代で使用する共用物。
それでボンゴレビアンコか出来上がるのを待ってたら、突然船が微かに揺れた。
え? 大宇宙を航行中の巨大な船が微かにとは言え揺れるなんて事は通常あり得ない。
俺以外の者たちも揺れに気がつき顔を上げて周りを見渡している。
周りを見渡していた俺たち乗組員の耳に、避難を命じる警報音が飛び込んで来た。
警報が鳴り出した途端、休息室にいた俺を除く乗組員全員が休息室と通路を隔てる扉に殺到する。
睡眠カプセルから寝惚け眼の乗組員が、トイレから半ケツでズボンをたくし上げつつある乗組員が、シャワールームから素っ裸の女性乗組員がこけつまろびつ飛び出て来て扉に向かう。
扉が開いた途端、扉に殺到していた乗組員たち全員が通路側に吸い出され、最後に吸い出されかけた乗組員は天井から下りて来た緊急隔離壁に押し潰される。
そのとき俺は船が揺れる直前に俺の前に置かれた皿を引っ掴み、ボンゴレビアンコを口に押し込んでいた。
だって仕方が無いじゃないか、救命艇に乗せられている食料は人が1日に必要とする栄養と水が詰められた不味いゼリーのパックだけなんだから。
皆が扉の外に吸い出されたとき俺も扉の方へ吸い出されそうになったけど、固定されているテーブルにしがみついて助かる。
だから俺が助かったのは食い意地のお陰なんだよね。
暫く茫然と閉め切られた隔離壁を眺めてからポツリと呟く。
「何が起きたんだ?」
それに船のメインコンピュータが返事を返して来た。
メインコンピュータに教えられた事を纏めるとこういう事らしい。
船の進路上に船と衝突する可能性が高い隕石を発見。
船長の指示で隕石を避ける操船が行われたが、巨大な貨物船が直ぐに進路を変えられる筈が無く、操船の途中で隕石が船に激突し突き抜ける。
船の大部分を占める荷室に激突すれば良いのに、寄りにもよって隕石は操舵室を貫いたのだ。
そして俺以外の船の乗組員は休息室にいた者たちと同じように、船の外に吸い出されたり隔離壁に潰されたりしたという。
因みに救命艇まで辿りつけた乗組員は1人もいない。
隕石を避けるべく操船していたために船は今、航路を外れ明後日の方向に向けて進んでいる。
一応メインコンピュータが救難信号を発しているらしいが、航路を大幅に外れている船が救助される確率は凄く低い。
船外作業服が無いんで俺自身は休息室から出て作業する事は出来ない、その代わりコンピュータが制御している補助ロボットが船のアチコチに開いた穴の修復を行っている。
それが終わるまで俺は休息室から出ることが出来ないんで、大好物のスパゲッティを食べながら食っちゃ寝の生活を続けているって訳なのさ。
『オマタセシマシタペペロンチーノデス』
「オー来た来た……美味ーい!」