56:婚活事情と罪悪感
長い一曲を無事に踊り終え、私はリカルドと共にダンスの輪を抜ける。
(奇跡的に、一度もリカルドの足を踏まずに済んだ……!)
無事に一曲を踊り終えた自分を褒めてやりたい。
(リカルドは疲れ切っているみたいだけれど、そんなに恥ずかしかったかな。もしくは、足を踏まれるのを避けるのに神経を使わせてしまった?)
今の私は、一緒にダンスをして恥ずかしいと思うような体型ではない……と思う。
連れ歩いても、相手に恥をかかせることはないだろう。ダンスの才能は別として。
「ちょっと休憩する?」
「ああ、そうだな。向こうに椅子がある」
私はリカルドと共に会場の隅に向かおうとし……後ろから声をかけられた。
「ブリトニー嬢、よかったら僕とも一曲お願いできませんか?」
振り返った私は、目の前に立つ人物を見て思わず顔を引きつらせる。
(出たー! ルーカス!)
現れたのは、原作でブリトニーの処刑に貢献した、北の国の恐怖の王子。ルーカス・リア・ホスヒーロである。
せっかくのお誘いだが、猛烈にお断りしたい。
(嫌だ怖い、万が一、ルーカスの足を踏んだりしたら……処刑の危険が増すかも)
一人で葛藤していると、私の前にずいとリカルドが歩み出た。
「すまない、ブリトニーは、靴ずれを起こしたらしい。向こうで休ませようと思っていたんだ」
「……そうなのですか、それは残念ですね」
靴擦れなんてしていないけれど、リカルドが庇ってくれたみたいだ。
そういえば、さっきルーカスに会った時も、早々に連れ出してくれた。
(もしかして、私が彼のこと苦手なの、気づいている? それで、敢えて助けてくれた?)
だとすれば、リカルドは、ものすごく良い少年じゃないか……!
「靴擦れなら仕方がないですね、無理をさせるわけにはいかない。また会う機会もあるでしょうし、その時はご一緒したいものです」
私は、「ご一緒したくない!」と心の中で何度も唱えながら、殊勝な顔で「ええ、是非……」と答えた。
王子相手に、本音なんて言えるわけがない。
笑顔でルーカスと別れた私たちは、そのまま休憩用の椅子に腰掛けた。
紳士なリカルドが、少し固いながらも完璧なエスコートをしてくれる。
「ありがとう、リカルド」
「いや、俺も休みたかったからな」
また耳を赤くしたリカルドは、照れを隠すように話題を変えた。
「そういえば、ブリトニーは、しばらく王都に滞在するんだな」
「うん、王太子殿下が、城での催し物に是非参加して欲しいって……お祖父様の知り合いが、城の近くに住んでいて、そこに泊めてもらうの」
「そうか、俺も催しには参加するつもりだ。ブリトニーがパーティーに出るのは久しぶりだな」
「うん、去年は色々なことがあったし……でも、今年は婚活のために、たくさんパーティーに出ようと思う!」
「……婚活? お前、まだ十四歳だろう?」
リカルドは、ギョッとした顔で私を見た。
「うん、そうだけど。リュゼお兄様に『十五歳までに、婚約者候補を見つけてくるように』って、言われていて……」
「あ、相手に当てはあるのか?」
「ないよ。だって、今までは体型のこともあって、そういう対象に見られなかったし。これから頑張ろうと思う」
「そ、そうか……でも、いくらなんでも早すぎないか?」
「私もそう思うけれど、リュゼお兄様が『見つけられなければ、王都に行かせる』なんて、言うものだから。私、できれば田舎に引っ込んでいたいし」
そう言うと、リカルドは少し言いにくそうに口を開く。
「もしかして……俺のせいか? 過去に、お前との婚約を破棄したから……」
「リカルドのせいじゃないよ! 私が男でも、あの時の自分と婚約はしたくなかったし……! まだ十二歳だったのに、私との婚約なんてひどいよね」
自分でも、なんの罰ゲームなんだと思うくらいだ。
リュゼの用意した釣書詐欺からして、ひたすらリカルドに申し訳ない。