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53:間食の誘惑と化粧詐欺

 私はリカルドに手を引かれて、パーティーのメイン会場である広い中庭に来た。

 この学園は、中心に一番大きな中庭があり、その周囲を囲むように校舎が建っている。

 そして、中庭の一番奥に巨大な校舎がもう一つあった。


 奥の校舎は、主に研究職に就いた人間用らしく、生徒たちは中庭の周囲にある校舎で勉強をすることが多いのだとか。

 障害物のない中庭の地面には、幾何学模様の石畳が敷かれている。


「ブリトニー、大丈夫か?」


 隣を歩くリカルドが、緑色の瞳を瞬かせて私の顔を覗き込んだ。


(さっきのことを、心配してくれているんだよね。不自然な行動をとってしまったからな)


 自分でも、そんなことをするつもりはなかった。

 だが、ルーカスを目にした瞬間、漫画の場面が頭の中に次々に浮かび上がり、軽く混乱してしまったのだ。


(だって、ルーカスは……あの漫画の主要人物の一人だもの!)


 ルーカス・リア・ホスヒーロは、この国の北隣の国の第五王子で、少女漫画『メリルと王宮の扉』のメインキャラクター。

 具体的には、主人公メリルに恋するふたりの王子のうちの一人である。

 そして、彼は悪役令嬢アンジェラの大敵だった。

 アンジェラの敵ということは、彼女の取り巻きであるブリトニーの敵でもある。

 私にとって恐怖の対象。


(ある意味、アンジェラに並ぶ危険人物なのかもしれない)


 なにしろ、アンジェラのやらかした悪事を暴き、ブリトニーの処刑に貢献したのは、このルーカスなのだから。


(関わりたくない相手だな)


 そんな彼が、リカルドの友人というのは想定外だった。

 原作のリカルドは王太子の取り巻きだったから、接点があるのは不自然ではないけれど。


(あの場では、リカルドが連れ出してくれて本当に助かったよ。王都は危険すぎるし、さっさと婚約者候補を見つけて田舎に引っ込もう。うん、それがいい、田舎サイコー!)


 リカルドと並んで、学園の奥へと足を進める。

 初めての場所に興味津々の私に向かって、彼が親切に説明してくれた。


「この場所がパーティーのメインになる広場で、ダンスもここで行われる。簡単な食事などは向こうのテーブルだ……」

「食べないよ、ダイエット中だもの」

「……お前、もう痩せているじゃないか。少しくらいなら、いいんじゃないのか?」

「そっか。今までの癖で、つい間食を避けてしまうんだけど……少しくらいなら、食べても大丈夫かな?」


 せっかく痩せたのだし、たまにはご褒美に間食してもいいよね?

 そんな誘惑にかられそうになっていると、またしても私たちは数人の生徒に取り囲まれてしまった。


「リカルド、やっと見つけた! お前が謎の美人を連れて歩いているという噂があって、見にきたんだ。髪が黒いし、可愛くて有名な従姉妹のリリー嬢……じゃないよな?」

「……ルーカスから聞いたんだな、あの伝書鳩王子め」


 私は彼らの話を聞いて、衝撃を受けた。


(美人? 私が謎の美人……?)


 デブ、白豚、おい、お前……身内以外から、そんな呼ばれ方しかしてこなかった私が、美人!


(冷静に考えると、美人は言い過ぎだと思うな)


 私の元の顔は、リュゼほど整ってはいないぼんやりした顔だ。

 特別ブサイクではないものの、どこにでもいるレベル。まさしく、モブキャラ!

 それを化粧で、量産型美人に仕上げているのである。

 前世の私が雑誌などで化粧の研究をしていたのと、ブリトニーが化粧映えする顔だったのが功を奏した。


 お手本にしたのは、リュゼの部屋にあった姿絵だ。

 どうやら、私とリカルドの婚約時に彼が送りつけた釣書の絵の予備らしいが、これは絶対に悪質な詐欺だと思う……ごめん、リカルド。


 とにかく、その絵が美人だったので、真似してメイクしてみたら、意外とうまくいったのだ。

 化粧も詐欺といえば詐欺かもしれないが……大抵の女性がしているので、セーフだと考えている。

 とにかく私には時間がないのだ、今回の王都行きで婚約者候補を見つけなければならない。

 初日にアンジェラやルーカスに遭遇してしまったため、余計にその思いが強くなった。

 命がかかっているのだから、化粧詐欺なんて可愛いものだよね?

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