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86.初めての野営

『永久凍土の石』は誰も使い道が分からないので、私預かりになった。まあ、明らかにそのまま使えそうな素材じゃないし……。

 そして、『すばやさの種』は、種を育ててみたいと言った私が数個発芽しそうなものを貰って、残りは前衛三人で分配した。

 ちなみに、『すばやさの種』というものは、ナッツのような感じで、食べると一定時間すばやさが上がるという代物なんだって。さっきの洞窟のように、宝箱に時々入っていて、冒険者としては、入手出来たら嬉しいアイテムらしい。似たようなものに、『力の種』『知力の種』『護りの種』なんかがあるらしくて、それぞれ力と知力(魔法の威力)、防御力が上がるのだそうだ。入手できる確率はそう高くないらしく、ここぞ、という時にだけ使うらしい。


「普通、これ栽培する人なんていないんだけどな。っていうか、難しいのかもな?でも、もし栽培に成功したら大騒ぎだぞ。結構レア物のドロップアイテムが、店で買えるようになるなんて革命だ」

 マルクやレティアは、私がこれらの種の栽培に成功することを期待しているらしい。


 ……うん、そんなにみんなが欲しがるものなら、緑の妖精さんと相談して育ててみようかしら。


 私たちは、先の洞窟を出て、さらに森をマルクの作った道を通って戻り、その先に広がるやわらかい下草が生える草むらで休憩をとることに決めた。思ったより洞窟内で時間を食っていたようで、既に陽の光はオレンジ色になっている。


 マルクとレティアは、マジックバッグから取り出したテント二張りや、簡単な調理器具とかの野営道具をテキパキと設置している。さすがにAランクになれるくらいだから回数をこなしているのだろう、手際は良く、私とリィンが手を出す必要はなかった。

 私は、さっきの洞窟に擬態したアイスゴーレムを溶かすのに根こそぎ魔力を持っていかれていて、とてもだるかったので、三人に断ってから、大きなままのリーフにもたれ掛かり、親犬に包まれる子犬のような格好で休んでいる。


 リィンは、子ライオン姿になったレオンを『ネコジャラシ草』でじゃらして遊んでいる。

 ……レオン、聖獣なのにそれでいいの?


「それにしても、『錬金術』で戦おうという発想はなかなかない。あれは助かったな」

 そう言いながら、レティアがナイフを使って森に入る時に狩ったイビルボアの肉を捌いている。その横では、既に火が起こされ、この場所に来る前に集めたキノコや根菜などが火の上に引っ掛けられた鍋の中で踊っている。

「私、どうしても火魔法の才能はなくて。でも、錬金術で金属を溶かすっていうのはやっているから、あの状況なら使えると思ったのよね……ふわぁ。でも、錬金釜と洞窟じゃ大きさが違いすぎて、魔力をほとんど使い切っちゃったわ」

 疲れとリーフの温もりに思わず欠伸を漏らしながら答えた。


「デイジーの機転がなかったら、アイテムは入手出来ずに、かろうじて撤退出来れば上々って状況だったんだしな。頑張ったデイジーは、気にせず寝てろ。そもそもまだお前は子供なんだから、無理しないでいいんだ」

 そう言って、レオンをじゃらす手を止めてやって来たリィンが私の頭をくしゃくしゃとする。その掌の中で、こくんと頷くと、私は寝息をたて始めた。『子供なんだから』という言葉にムキになる気力すら残ってはいなかったのだ。


 ◆


「んっ……」

 私が、肉がやける香ばしい匂いに目を覚ますと、既に辺りは真っ暗で、明かりといえば、私たちの野営のために起こした焚き火くらいだった。

 空を見上げると、一面の星明かり。今日は月のない夜のようだ。

「うわぁ凄い!こんな夜空見たことないわ!」

 王都だと、安全のために魔道具式の街灯が街中を照らしているから、地上の明かりが邪魔をして、ここまでの夜空を見ることは叶わないのだ。

 いつも深い紺色に見える夜空は、漆黒。そこに、数え切れないほどの大小様々な星が瞬いて、そして、川が流れているようにも見える、星々が密集している箇所があった。


「ああ、起きたか。ちょうど夜食の準備もできたところだ」

 焚き火でじっくり焼いた肉を切り分けているレティアが声をかけてくれた。

「ねえレティア、あの空の川みたいになっているのはなあに?」

 私は夜空を指さし尋ねた。

「あれは、『神々の涙の河』だね。昔、神々に寵愛されていたとても美しい使徒が、罪を犯して堕天してしまったことを神々が嘆いて流した涙が河になった、なんて伝説があるよ」

「そうなんだぁ……」

 夜空にもそんな物語があったなんて知らなかった。と、ポケっと宙を見上げていると、肩を叩かれた。

「ほら、デイジーの分」

 見ると、私の前に丈夫な葉の上に載せられたイービルボアのローストとフォーク、カップに入れられたスープが置いてあった。

「いただきます!」

 フォークで刺してイービルボアのローストをひとくち食べる。焼き色の着いた表面は塩と胡椒がしっかり振ってあって、肉の臭みを消している。そして、じっくり焼いて中まで火が入っているけれど、しっとりとしたままの内部は、噛み締める度にぎゅっとしまった赤身肉の肉汁が染み出してきて美味しい。

 スープは、野菜とキノコの塩味であっさりしたものだったけれど、体が温まった。


「さて、食べ終わったら明日に備えてデイジーとリィンは寝ろよ。見張りは俺たちが交代でやるから安心して寝てろ」

 そうマルクが言うと、そこにレオンとリーフが口を挟んだ。


「マルク殿、我々は従魔の中でも特殊な個体で、眠ることもありますが本来眠らずとも良いのです。見張りは、我々がやりましょう」

 レオンの言葉にリーフも頷く。


 結局その晩は、二匹に甘えてテントの中でみな眠ることになった。私はリィンと。マルクとレティアは、慣れっこなのかひとつのテントで寝ることにした。

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