婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
※かなり設定があやふやです
成人パーティー、それはその名の通り16歳を迎えた"大人になった貴族"を祝うパーティーである。その為、主要貴族やこの国のお偉い方々、国王夫妻まで参加するパーティーとなっている。そんなパーティーで失敗などしたらこの先の人生はお先真っ暗だ。
「おい、リアナ侯爵令嬢。話がある。」
そんな中、私の婚約者が危機感も持たずにに無理やりが話しかけて来た。私が他の人と話しているのを無理矢理中断するくらい大事な事なのだろう。
私が何か気に触る事でもしたのだろうか、顔も声もかなり険しい。
「お前、私達に何か言う事があるだろう」
何の事だか訳がわからない。私の婚約者はこの国で一番のお金を持っている公爵家の跡取りであり、この成人パーティーが終わり次第結婚する予定だった。
しかし、"私達"と言う言葉に引っ掛かって婚約者の側に目を向ける。そこには年齢に合わない高いツインテールをした女の子がいた。
「アイリーナ男爵令嬢…」
その言葉と私の目線にビクッと体を強張らせる。それに対して私の婚約者は私をキッと睨み、彼女の腰を引いて自分に寄せる。その動作に男爵令嬢は頬を染めている。
「なんて馬鹿げた茶番なのかしら」
この茶番は私達が学園にいる時から始まった。
この国の貴族の子供達は皆、13歳から16歳の間を学園で過ごし、その間に社会での知識や教養を身につけ、他貴族との繋がりを作る。そこで、私の婚約者は"運命の人"に出会ったらしい。
その"運命の人"が男爵令嬢で無ければ茶番と言ってはいない。この男爵令嬢は学園の子息達を数多く虜にし、遊んでいる。そんな人を運命と呼ぶ婚約者を信じて愛せるだろうか?いや、無理である。
「馬鹿げた事だと…?ふざけるのも大概にしろ。学園でのアイリーナに対する数々の酷い行い、分かっているのだぞ」
婚約者は大声で怒鳴った。その声に周囲の人達も集まってくる。注目の的となった私を庇うように友達が立ちはだかる。
「酷い行い?アイリーナ様の妄想では無くって?」
「そうですわ!リアナ様は図書館で勉強に勤しんでいる事も多く、そんな事する時間も無かったはずですわ」
「リアナ様の行動は、私達が証明で来ますわ!そちらこそ証拠が無いのでは無くって?」
そう言って友達であるリーファ公爵令嬢、フィオリーナ伯爵令嬢、ジャンネ伯爵令嬢が次々と私を庇ってくれる。
「皆様…」
ありがとうと気持ちを込めて微笑む。
「そうです。私には心当たり一つありませんわ」
「黙れ。こちらにも沢山の証人がいる」
そう言うと、彼らの周りにこの国での重鎮を担う方達の令息達が集まって来た。その姿に私達は全員息を呑む。
そう、その令息達の中には彼女達の婚約者もいた。アイリーナ男爵令嬢は彼らも虜にしたのだろう。
「何故…」
いつもはしっかりとしているリーファが悲しそうに婚約者に言う。彼女の婚約者はこの国の第二王子だ。小さい頃から将来を約束してきた仲だと恥ずかしがりながら私たちに言っていたこともあったので、ショックが大きいようである。
「何故?本当に分からないのかい?リーファ。君には失望したよ。僕と一緒にこの国を支えると言っていたのに、国民の一人をいじめるなんてさ」
あれ?と思う。横を見ると、フィオリーナも不思議そうにしている。
何せ、王子が男爵令嬢に夢中になっている所なんて見た事無いのだ。私達から見た王子はリーファの可愛い所を永遠に従者に言い続けて、1ヶ月会えなかったら発狂する様な人だったはず。
「何を言って…いるのですか?」
その声は今にも消え入りそうなくらい弱々しい物だった。
リーファの友達である私達は王子の奇行を知っているものの、王子はリーファの前では完璧を演じている。その為、王子に違和感を覚えなかったリーファは私達が支えているが、今にも倒れそうである。
「フィオリーナ嬢、俺も殿下と同じ気持ちだ。弱い物虐め程嫌いな物は無いと言ったはずだ」
「そうですね…」
フィオリーナ様の婚約者は、騎士団長の息子で現在の騎士界のエースだ。フィオリーナ嬢を見ると馬鹿を見る時の顔をしている。思ったよりもダメージを受けていないをようで良かった。
「ジャンネ…」
ジャンネ様の婚約者はちょっと違うようで、悲しい顔をしてジャンネ様を見つめている。ジャンネ様はその顔に小さく頷き、私達に耳打ちする。
「皆様、これは茶番です。耐えて頂けますか?」
やはり何か作戦があるようである。リーファ様を支えながら私達も小さく頷いた。
「ふん、言い訳も出来ないようだな。君たち全員がグルな事くらい分かっている。そうだな…ちょうどいい、たった今アイリーナが毒を盛られた。このグラスだ」
そう言って彼はグラスを高々と掲げた。
「盛ったのはリアナ、君だろう?」
「何を証拠に仰っておられるのでしょうか?」
「あくまでシラを切るつもりだな。では、このグラスを飲め!」
その言葉にフィオリーナ様やジャンネ様、それに向こうにいるジャンネ様の婚約者と第二王子が動揺する。
なるほど、第二王子も演技をしてこの集団に紛れているという事か、何か計画があるみたいだ。それに、このグラスに関しては予定に無かった事なのだろう。
「これを飲めばよろしいのですね?」
「ああ、嫌だったら今直ぐアイリーナに謝れ」
私が毒を飲む事を嫌がって泣いて謝るとでも思っているのだろう。しかし、私には心当たり1つない。その言葉呆れ、グラスを一気に煽る。味は普通。これに毒が入っていたならば、もうすぐしたら苦しくなるのだろうか。
「そんな!リアナ様…!」
ジャンネが声を上げて青ざめる。こっち側らしい第二王子とジャンネ様の婚約者が急いで魔法使いを呼んでいるのが見えた。
「ウッ‥」
飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなってきた。本当に毒だったのか…
前で婚約者に縋りつきながら男爵令嬢がニィッと笑う。その姿はまるで悪魔のようだった。
「…そう、これで悪役令嬢はいなくなるのよ。私は推しの公爵様と結ばれるハッピーエンドにたどり着いたのよ」
訳の分からないことを言っている。そうしているうちに目の前がボヤけ、もう無理かも知れないと思った時だった。
ビー
【毒を検知しました】
機会音が会場に響き渡った。この音の元は…私?!!
【毒の解析を始めます。解析中…100%完了しました。この毒は猛毒です】
機械音が続ける。
【毒を処理しますか?】
そう尋ねる機械音に「はい」と返答してみる。
【毒を完全に分解しました】
そう言って機械音は消えて行った。会場は全員が唖然としていて、無音だ。数分経っても静かなままなので少し気まずなっていると、後ろからコツコツと足音が聞こえて来た。
「俺の友達はすっごいねぇ〜」
その声と共に私の隣に立つ。王子たちが呼んできたのは、"メイガス"のアーノルドだった。
「アーノルド…貴方がきたのね」
「ん?俺じゃ嫌だった?」
「いえ…そうでは無いんだけれど」
この魔法使いは学園時代に図書館で仲良くなった友達であり、私の密かに想っている相手だ。もちろん、友達にはこの事を隠さず言っている訳で…
友達の方を見ると、若干分からないかくらいでニヤけていた。しかも、フィオリーナはやっちゃえ!とポーズまで決めてくる。
恥ずかしくなって顔を背けると、婚約者が見えた。ワナワナと震えており、お怒りのようだ。
「何だ?それは?今までそんな物を隠して来たのか!だから罪も認めずに飲める自信があったんだな」
「いえ、私も知らなかったわ」
「はぁ…これもシラを通す気なんだな。そんな女を俺の結婚相手とすることは出来ない!お前と婚約破棄をする!」
会場が生き返ったかのようにざわつく。
「分かったわ」
元々貴方の事も好きでは無かったし、運命にうつつを抜かす様な旦那様なんていらない。
その言葉を聞いた男爵令嬢がパァっと顔を輝かせて元婚約者に飛びつく。しかし、その顔は直ぐに切り替えられて私を睨みつける。まるで道化師のように。
「なんで悪役令嬢が隠れ攻略対象と仲良くなってんのよ…探そうとしたのに全く見つからないと思ったらあんたのせいだったのね。お陰で私の逆ハー計画が丸潰れじゃ無い!!」
以前として彼女の言っていることはよく分からない。
「ねぇ、アーノルド」
「どうした?」
「私は…魔法を使ったの?」
この茶番も幕を閉じただろうと思い、一番気になっていた事を聞く。さっきの現象は魔法以外に表せるものがない。
「うん、そうだよ。前から思ってたんだよね!素質あるなぁ〜って。でも、何もない素ぶりを見せたから何か事情があるのかなって思って」
思い返して見ると、私に魔法が使えないと判定したのは元婚約者の家お抱えの魔法師だった。そこで裏取引でもして隠蔽されていたのかも知れない。
「それに、リオラの魔法はちょっと変わってるんだよね〜」
「そうなの?」
「そうそう!だから、一旦君を俺の研究室に連れて行くね!」
「…え?」
急にそう言われ、困惑しているうちに私はアーノルドに俵を担ぐように抱えられた。急いで友達の方を見るが、お気をつけてと手を振っている。いや、リーファも元気にニマニマしながら手を振ってるじゃない!さっきまで気を失いかけてたのに!!
「ちょ、私の同意は…」
「王子様、ちょっとこの子見てくるね〜。これ、後はリオラいなくても何とか出来るでしょ?王様にも試されているらしいし?」
「…あ、あぁ。大丈夫だ」
勝手に許可を出されてしまった。
アーノルドが王子に対して敬っていないのは、彼がこの国で一番優れた魔法使いの称号"メイガス"を持っているからである。その称号さえあれば、平民であっても莫大な権力を得る事になる。そういう彼も元々は平民である。
「婚約者の公爵令嬢にも謝っときなよ〜じゃ、俺は行くね」
そう言い残してアーノルドは転移魔法を使った。
研究室に着くとそこは、酷いあり様だった。
「何なの…ここは」
「俺の研究室だよ?」
そこは、ゴミが散乱しており食べた後の皿が台所に積み上がっている到底ここに人が住んでいるとは思えない所であった。
「こんなの…研究室じゃなくて、ゴミ屋敷じゃない!」
「え〜、魔法使いの部屋はこんなものだよ」
不服そうに言い返す彼をキッと見上げる。
「今から掃除をします!!」
「え〜」
そうして、パーティーが盛り上がるはずの夜の真っ只中に私達は掃除をしたのだった。
しかし、気分は清々しくパーティーよりもドキドキするのだった。
読んでいただきありがとうございます
遅くなりましたが、誤字報告ありがとうございました!