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78話 聖廟

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「マリアベル、ここに眠る王族は、果たして無事に常春の永遠なる東の国にたどり着いていると思うかい?」


 フレデリック三世は、聖廟に並ぶ棺を指した。


 棺には様々なレリーフが描かれ、宝石がはめられている。その四隅をユニコーンが守っていた。


 フレデリック三世の隣には一番新しい棺が二つ並んでいる。


 十年前に疫病で亡くなった王太后と王弟の棺だ。だがその中に眠って旅立ちの日を待っている人はいない。


「復讐は成就した。けれど……失うものも多かった……」


 フレデリック三世はマリアベルの返事を待たず、空の棺を愛しそうになでた。


 マリアベルは、姿勢を正してフレデリック三世を見る。


 まだ毒の後遺症があるのだろうか、ひどく疲れている様子だ。


 でもこの機会を逃しては、もう真相を知ることができない。

 真相を知ってどうなるのだという気持ちもある。


 もうすべては終わり、後は前を向くだけだ。わざわざ隠された真実を暴く必要はない。


 その証拠に、玉座の前にいたものは、それに触れることはなかった。


 それでも、マリアベルは聞きたかった。


 フレデリック三世がこの場に来たということは、彼もまた、話したいと思っているということだ。


「偽物の御璽をダンゼル公爵に渡したのは、陛下でいらっしゃいますね?」


 マリアベルの問いに、フレデリック三世は顔を上げないまま聞き返す。


 聖廟の中は恐ろしいほどに静かで、お互いの息を吐く音すら聞こえてくるようだった。


「どうしてそう思う?」


「御璽のある引き出しを開けられるのは、陛下の持っている鍵のみ。それはダンゼル公爵もよく知っていたはずです。それに御璽の偽造は国家の大罪。ダンゼル公爵が表立ってそのようなことをしでかすとは思えません」


 黒死麦を使っての王族の暗殺が発覚して結果的に死罪となったが、あれは発覚しないと確信していたからこそ実行したものだ。


 現にサイモンの件がなければ、王太后も王弟も疫病によって亡くなったのだと誰も疑わなかったはずだ。


「でも事実を知っている私が死ねば、誰にも分からなかったはずだ」

「……私は知っています。陛下が教えてくださいましたから」


「そうだな……。今この時に、君が王国にいるというのは、運命だったのかもしれないな」


 フレデリック三世は、顔を上げて遠くを見るような目つきをした。


「黒死麦で私が死ねば、必ずセドリックが気づく。私に出されたカヌレは、その場で一部をセドリックに送っていたから、すぐにそれが黒死麦だと分かっただろう。そうすればダンゼルの罪を明らかにできる」


 そう言って、フレデリック三世は大きく息を吐いた。


「だがエドワードではうまくダンゼルに丸めこまれてしまっていただろう。息子は……善良といえば聞こえはいいが、他人を素直に信じすぎる」


「もしダンゼル公爵が黒死麦のことを認めないようであれば、偽の御璽の件で、エドワード殿下ともども罪に問うおつもりだったのですね?」


 マリアベルの問いに、フレデリック三世は答えない。

 ただ優しい手つきで棺をなでるだけだ。


「陛下はエドワード様を捨て駒にするつもりだったのですか」


「マリアベル、よく覚えておくといい。国と家族とどちらかを選ばなければならなくなる時に、王たるものは必ず国を取らなければならないのだと」


「でも何か他に方法が――」

「なかったのだよ、マリアベル」


 そう言ってフレデリック三世は寂しそうな微笑みを浮かべる。


「弟ならばもっと良い方法を思いついたのだろう。だけど私にはあれしか思いつかなかった。エドワードに国は任せられない。そんなことをすれば王国は共和国の属国に成り下がってしまう。エドワードをああいう風に育ててしまったのは私の責任だ。だから……私が死んでしまったとしても、最後まで責任を取らなければならないと思ったのだ」


「陛下は素晴らしい王様です。決してそのような――」


 それを否定しようとしたマリアベルだが、マリアベルの言葉にかぶせるようにフレデリック三世が話し始める。


「本物の御璽は、からくりによってしか開けられない引き出しに入っているんだ。玉座と王冠と王笏に書かれているやり方を組み合わせないと開けられない」


「……そんなことを私に教えても良いのですか?」


 マリアベルは帝国に嫁ぐ。

 エドワードの婚約者だった時ならばともかく、今のマリアベルが聞いて良いことではない。


「もし私がここの住人になってしまったら……マリアベルとレナート殿下には、セドリックの後見になってほしいと思っている」


 それに、とフレデリック三世は続ける。


「それに完璧な淑女と呼ばれた君ならば、不用意に秘密を漏らすこともないだろう? 御璽の秘密を守ってくれたように」


 フレデリック三世は、したたかな国王の顔で笑った。





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