第2話 再会の鐘が鳴る朝に sideなつき
携帯の画面に表示された名前──真白さや。
(さやさん……さや……
今度こそ……君と共にいたい)
彼女と別れたあと、頭の中は彼女のことでいっぱいだった。
学校に着き、自分の席に腰を下ろすと、隣の席の高橋りくが声をかけてきた。
「なんかいいことでもあったのか? 顔がニヤけてんぞ?」
「え? そんなに出てる?」
「出てる出てる。幸せオーラがな。
……まさか好きな子にでも告白されたとか?」
「……いや。好きな人に、会ったんだ。
はじめましてだったけど、俺、告白しちゃったんだよね」
「はああぁぁぁ?! バカなのか?!
ハーッハッハッハッ!! あのなつきが? 我が校のモテ王子が?!」
「笑いすぎだって……でもさ、逃したら二度と会えない気がしたんだよ」
りくは少しずつ笑いをおさめ、最後は真剣な顔で言った。
「……そっか。よかったな」
「なーつきっ! おはよっ!」
元気な声が教室に響く。同じクラスの天羽あやねだった。
「天羽、おはよ」
「なに〜? 二人してなに笑ってたの?」
「天羽! 俺には挨拶なし? まあいーけどさ!
こいつな、朝から愛の告白タイムしてきたんだってよ~!」
「……え。……なつき、マジで? 朝から何やってんの?
で、フラれたの?」
「フラれたよ。でも連絡先は聞いた。諦める気はないから」
「……ふーん。あ、チャイム鳴るから席戻るね」
笑顔を崩さずに背を向ける天羽。
その横顔には、ほんの少しだけ影が差していた。
彼女のそんな顔に、俺は気づけなかった。
天羽がどんな想いを抱いていたのかも、まだ知らなかった。
***
頭の中で鳴った鐘の音。
──それは再会の合図だった。
「……ソフィー。君がいなくなってから、
私はようやく君の大切さに気がついたんだよ。
もっと早く気づくべきだったのにね……」
真白さやさん。
かつて俺が……いや、想いを伝えられず、失ってしまった女の子。
目が合った瞬間、すべてを思い出した。
前世の俺は、蝋燭の明かりが揺れる静かな館に住んでいた。
そこでは、女神に仕える使いとして、
女神の遣いの子どもを宿すために「選ばれた3人」と暮らしていた。
少し気が強いが、真っ直ぐに愛を伝えてくれたカミラ。
優しく包み込んでくれる穏やかなダイアナ。
そして──天真爛漫で、いつも笑顔が愛しかったソフィー。
あの頃の俺は、“役目”という言葉に縛られて、
自分の気持ちに気づくことも、向き合うこともできなかった。
それでも……
心の奥に刻まれていた感情は、今も消えていなかった。
あの時、ちゃんと伝えていたら。
選ばれる前に、本当の気持ちを選べていたら。
君を、あんなふうに失うことはなかったのに。
だから今度こそ。
はじめましてだからこそ、君との関係を、ちゃんと始めたい。
もう一度出会えた奇跡を、絶対に無駄にはしない。