第55話 ギルド内の小競り合い
よくありそうな、敵対派閥の喧嘩みたいな話です。
Cランクに上がり、気持ちを新たに邁進する俺達【トラストフォース】。
そんな中、クルスがかつて所属していたCランクパーティー【パワートーチャー】のリーダーであるドキュノが絡み始めて一触即発な状況だ。
「トーマさんらもしばらくぶりですね~」
「あぁ、久しぶりだね」
「聞きましたよ~!Cランクにまで上がったんですね!おめでとうございます!」
「ありがとう」
ドキュノは俺を見ると挨拶やCランク冒険者になれた事のお祝いの言葉を並べるが、ハッキリ言って素直に喜べない。
クルスが叩き出された経緯を聞いている事と、その振る舞いは悪意すら感じているからだ。
「ずっと気になっている質問をさせていただきたいんですけど、もしかしてクルス……。今はトーマさんと同じパーティーだったりします?」
「あぁ、俺がクルスを引き入れた。今ではうちのパーティーにおいて大事なメンバーの一人だ!君達はクルスを無能と決め付けているようだけど、彼のお陰で本当に助かっているし、仲間になってくれて心の底から嬉しく思っているよ……」
俺はドキュノの質問に対して真剣かつ淡々と答えた。
「フッハ……!良かったじゃねぇかクルス!拾ってくれちゃった上にCランクパーティーの一員になれるなんてラッキーじゃねぇか?なぁ?」
「本当にそれ!おこぼれ的な感じでなれた気分はどうですか~?」
「まーた重宝してもらえるパーティーに入れてもらえて嬉しいでしょ!?」
「……」
ドキュノの発言をきっかけに、彼の仲間であるカズナとフルカまでからかい始める。
うち一名の女性の『魔術師』らしき人物は初対面だが、クスクス笑っている。
一人の方はよく分からないが、本当に感じが悪い。
俺が改めて嫌悪感を抱き始めていると……。
「おい、クズ男とその取り巻き達……。マジで何様!?」
「あぁ?」
すると後ろからミレイユが怒気を混ぜながら言葉を発した。
「あんたら、どんな神経していればそんな発言デキちゃうわけ?クルスは辞めたって言ってたけど、実際はアンタらが無理矢理追い出したようなものでしょ?!それなのに抜けた後までウザイ絡み方してくるとか、冗談抜きで笑えないわよ!暇なんだね~!?」
「クルスとあなた達はもう関係ないはずでしょう!これ以上私達の仲間にちょっかいを出すなら許しませんし、相応の対応を取らせてもらいますよ!」
ミレイユも元パーティーのメンバーから酷い扱いを受けた挙句に見捨てられた経験があるから、クルスの気持ちをよく理解している。
だからこそ、ドキュノの振る舞いには相当腹が立っていた。
隣にいるセリカも鋭い目つきと怒りを込めながらドキュノ達を見ている。
「な、何だよ?クルスなんかのためにそんなマジになるとか物好きだな。新しいお仲間の女の子達は……。つか、お前程度が……」
「これ以上言うな!」
ドキュノの舐め腐ったような発言にクルスは声を張り上げる。
「セリカもミレイユも、そしてトーマさんも今では僕の……。僕がいる【トラストフォース】の大事な人達だ!僕の仲間達をこれ以上馬鹿にするな!」
普段のクルスは自分から目立ちたがろうとしない性分の持ち主である事は既に分かっている。
しかし、俺はクルスが誰かに向かって大きな声で注意する場面を初めて見た。
同時にドキュノは本当にクルスが嫌いなんだなと改めて分かった。
「ははっ、おいおいクルスよ~……」
カッコつけたような仕草を取っているドキュノだが……。
「テメエの癖に生意気なんだよ!」
「ッ!?」
プライドを刺激されたドキュノは不意にクルスへ殴りかかった。
これ以上は見過ごせないとして、俺が飛び掛かりかけた……。
「?!」
「ヤァッ!」
「グエッ!」
ドキュノのパンチを受けそうになったクルスは身体を横にずらして躱した。
そしてクルスは伸びてきた右腕を掴んでそのまま背負い投げを決めた。
それを見ていたカズナとフルカは驚き、となりの『魔術師』は感心した様子だった。
「テメェ如きが俺に歯向かってんじゃねぞ!ぶっ飛ばしてやる!」
「……ッ!」
ドキュノは怒りながら背中に構える槍を、クルスもロングナイフを抜こうとしていた。
ギルド内で喧嘩はご法度だ。
一触即発になりかけたその時……。
「お前ら止めろ!」
「「「「「「!!?」」」」」」
突如として、猛獣のような一喝が飛んで来た。
「これは一体何の騒ぎだ?」
「ギルド内での喧嘩はご法度なはずよ」
そこに現れたのは、Bランクパーティー【ディープストライク】のリーダーであるケインさんとそのメンバー達だ。
「ケインさん?」
「カルヴァリオさんと打ち合わせが終わって出ようとしてデカい声が聞こえて来てみたら、喧嘩騒ぎか?ウチのギルド内での喧嘩は厳禁だと聞かされているはずだが……」
「これはケインさん。喧嘩じゃないですよ。この馬鹿が突っかかて来たせいで起きたちょっとしたいざこざで、その、えっと……」
「ごめんなさいね。本当に……」
ケインさんが厳しい眼で状況を確認し、ドキュノは必死で取り繕うが、その表情は少し青くなっており、説明もしどろもどろだ。
するとドキュノの仲間の一人であり、先ほどまで言葉を発する事なく静観していた『魔術師』の女性が取り繕おうとする様子で割って入る。
「かつての仲間と会って少しだけ悪い思い出が蘇って、それが互いに許し難い内容だったせいでヒートアップしただけなんですよ。喧嘩になったのは我々の落ち度ではございますが、幸いにも備品が壊れる事態には至っておりません。今後は私の方からリーダーである彼に言って聞かせるので、どうぞ穏便に済ませていただきたいのです」
「ゼルナ……」
ゼルナと言う女性は上手く場を収めようとしており、ドキュノらもそれを見守っていた。
するとゼルナはドキュノを見て何かの合図を示す目線を送った。
「フン!」
「……」
ドキュノは一転して身を引く態度を見せていた。
そんなクルスに俺は「ここは穏便に済ませろ」と目を合わせて顔を縦に振る。
「失礼しました……」
「今後は関係の改善などにも努めますので、どうか……」
ゼルナは品の良い振る舞いを貫いていた。
これ以上の問題はどうやら起きないと少なからず安心する俺達であった。
「分かった。但し、今後は俺達もカルヴァリオさんらも見過ごさないと思うから気を付けるように」
「はい」
ケインさんの言葉に俺達や【パワートーチャー】のメンバーも頭を下げた。
「あなたね……。私が加入する前に所属していた元メンバーのクルス君かな?」
「はい」
「私はゼルナ・ドゥーチェ。『魔術師』をしているのよ。今後はあなたの穴を埋めるつもりで貢献していくつもりだから、今後ともどうか……」
「わ、分かりました」
ゼルナと言う魔術師の女性は物腰柔らかだが、どこか妖しい気配を放っていた。
「えーっと、トーマ君ら【トラストフォース】とドキュノ君ら【パワートーチャー】のメンバーはそれぞれいる感じかな?」
「はい」
「同じくです」
「そうか……」
ケインさんは確認が取れて安堵したような表情をしていた。
「カルヴァリオさんから君達に話があるらしい。我々と来てもらいたい」
(カルヴァリオさんが……)
だが、ここからとんでもないトラブルに巻き込まれていく事を、この時の俺達は知る由もなかった。
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