94.雫
いったいあの男は何のために出てきたんだろう。あまりにも早く退場したせいで【鑑定】し損ねたので正体もわからずじまい。
ただファル・ファーシの触手の中を流れる液体の色が濃くなったのと、陶器のような無表情な顔の口角が心なしか上がったように見える。
「喉仏もないのに雄とは」
「注目するところはそこなのか!?」
「さっきの怪しい野郎への感想はさっきのアレだけ!?」
「フェル・ファーシと色違いなだけよ! 喉仏以外も色々無いじゃない!」
そう言えばそうだ。
「男のことは倒してからでいいだろ」
「喉仏も後に回しとけ!」
気持ちを切り替えたのかガラハド達が真顔で敵に向き直る。
「ホムラの【解結界】はレベル1か。無理かな」
イーグルが私よりも私のスキルを把握してそうで困る。
「何か六属性と言ってたから大丈夫だろ!」
私の装備は杖×2、白の杖。
三つ目の装備『白の杖』は大幅に弱体化されているが【神聖魔法】を使う分には『白の杖』の効果で相殺され普通の回復量は確保できている。
効果の落ちる二本目の杖で【解結界】をかけつつ、握った1本目の杖で【ライトイーグル】【シャドウクロウ】をチャージ、結界の中のどう見ても怪しい石がある男がいた場所に同時に放つ。
宙に浮いたファル・ファーシの足の隙間を縫うように狙う。
いや、これはファル・ファーシをドーム状に覆う結界そのものに攻撃すべきか?
試しに男の張った結界を【鑑定】すると半透明のウィンドウが開いて情報が見られた。レベルのせいか伏せられている情報も多い。もっとも"伏せられている"のがわかるようになったくらいは【鑑定】のレベルが上がっている。
半透明のウィンドウに示される『耐久度』のバーがHPバーのごときものなのだろう。数値は伏せられているが魔法を放つたびバーが徐々に減っていくのを確認して安心する。目視できる光の幕の方にかけてみたがこちらは減りはするものの半分以下と、効率が悪そうだった。
結界をすり抜けてうねるように複数のファル・ファーシの足が多方向からくる。
防御はガラハドとイーグル、回復は今カミラが担ってくれている。『白の杖』を出しているものの、”別々の思考”というのが中々難しい。三本とも同じ魔法をぶっ放したり事前に予定を立てたとおりならばなんとかいけるのだが、瞬時に判断・その場で判断な回復を混ぜ込むとどうしてもラグが出る。
後の二本が使い慣れた魔法ならもうちょっと何とか……【解結界】のレベルを上げておきたい私を許せ!
「たこ足がッ!」
「攻撃待ちでしかダメージ入れられないのは面倒だな」
防ぎながらも攻撃もしっかり入れている。
結構なスピードで繰り出される足、私が食らったら吹っ飛びそうな攻撃を受けて踏みとどまっているガラハド、ステップを踏んで避けながら攻撃し軌道を逸らすことで後衛に届かないようにするイーグル。
足の他にも魔法が来る。泡であったり花であったり水玉であったりと見た目はファンシーだが状態異常やHPドレインMPドレインと効果は厄介だ。ドレイン系は食らったし。
ギギギギッっと虫の鳴き声のような叫びをあげたかと思うとファル・ファーシが倒れこんできた。
「おっと、たこ足、吸盤の色の濃いのいくつか壊すと痺れるのはかわんねぇな」
「潰されそうだったぞ!」
結界からはみ出た頭部に直接攻撃を叩き込みながら言い合う二人。変わらないのはフェル・ファーシとだろうか。痺れが取れてファル・ファーシが起き上がると、大きく震えて今までの攻撃でちぎれた足が再生する。
液体が詰まっているかのようにボコボコと白い気泡が動いていた足だが、斬り落としても液体が流れ出すというようなことはなく床でのたうっていたのだが、本体の足の再生とともに溶けるように消えた。
「全体来るから構えろ!」
再生した足をそろえて独楽のような形状をとると竜巻のように回転。フィールド全体に状態異常つきの風圧ダメージ、ついでに本体の中心にできた竜巻が離れてファル・ファーシの周りを不規則に蛇行しながら回り始める。
「この竜巻、消えねーんだ。できれば四本になるまでに倒し切りたい」
「結界がなければ頭に魔法を叩き込めるのに」
「はい、お待たせ。消えるぞ!」
せっせと結界を消していた私。
鈴を一振りしたような音とともに結界が割れる。
「やった!」
「よし!」
「ありがとう!」
三人が三人、応えたかと思うとカミラは魔法を放ち、ガラハドとイーグルはうねる足を駆けあがった。
……ストレスたまってたのか。
「カミラ、聞きたいんだが、ここは最初に来た時よりも暑いか?」
私も頭部に魔法を放ち、足をよけつつカミラの前に出て聞く。
盾二人とも攻撃に行きやがりましたよ。
メインの杖を刀剣に持ち替えて、足をさばく。
「そうね? そう、うん、だんだん変わって行ったから気にしていなかったけど、暑いわ。最初はガラハドの息が白かったもの」
体温高いんだな、ガラハド。要らん情報まで増えた。
「そういえば男がおかしなこと言ってたわね。温度を上げたとかなんとか」
「雫が出ない原因なんじゃないかと思うんだが」
「仕掛けがあるなら敵本体じゃなくってこの部屋よね?」
仕掛けまでしたボスにボリボリされてたら世話はない。
「一周してくるけど、足は大丈夫か?」
「大丈夫よ、フェル・ファーシより速いけれど避けられないほどじゃない。わかるまで倒しちゃってもまずいしちょうどいいわ。避けながら回復だけ入れてる」
うなずくカミラを見て走り出す。後ろで二人に大技はちょっと待ってと声をかけているのが聞こえる。
何かあるとしたら部屋の隅だろう。ここの床は足がのたうち這いずるせいか物陰というのもなく、掘れるような土ではない。ほんのり赤を宿して見えるが濡れた石灰岩のように滑らかだ。
足の狙いはランダム気味だが、一応タゲが寄せられるかと魔法を何本かに当てながら外周を走る。
怪しいものはすぐに見つかった。もっとも知らなければフィールドの障害物やらの確認をしたあとは、ボスにしか目を向けなかったろう。こんな端の手のひらに収まるサイズのものは目に入らない。
中で炎が揺れているように見えるファイアオパールのような鮮やかなオレンジ色の石。
もったいないかとも思ったが見つけ次第割ってゆく。割った数は五つ、一つ割る毎に床の色がくすんでゆく。床暖房装置なのかこれ、いいなおい。
「待たせた!」
「床の色が変わったわ」
「ああ、だがまだ気温は落ちていない、『フロストフラワー』」
【範囲魔法】を適用してファル・ファーシだけでなくなるべく部屋全体に広がるように『フロストフラワー』を連発する。この魔法なら冷えの効果が周囲にもあるはず。
あっという間にボス部屋は氷の花がそこかしこに咲く幻想的な場所になった。
「ぎゃー、さみぃッ!!」
約一名にも効果があった様子。ファル・ファーシはと、見ると、足の中に見える白い気泡がなくなっていた。……もしや沸騰してたのか今まで?
「オッケーかしらね?」
「どっちにしろ思いつくのはここまでだ」
「二人とも、もうダウンとっていいわよ!」
「おうよ! 試すぜ!!!」
何をと聞こうとしたそばから、ガラハドの掲げた手に身長の二倍以上はある白い光の剣が現れ、答えがわかる。
「【断罪の大剣】ッ!!」
五メートルはあろうかという光の大剣がファル・ファーシに振り下ろされ、触れた瞬間光が溢れる。
「おお!! なかなか爽快だぜ!!」
ガラハドとイーグルが崩れ折れるファル・ファーシから滑り落ちるように戻ってきた。
「派手だな!」
「問題はダウンするかしないかよ!」
「大丈夫、魔法扱いにはなってない、起き上がってこねーよ!」
「もう瀕死みたいだぞ? 何と戦うことを想定したスキルなんだ」
怖い考えに行き着きそうなのでそれは考えないようにしよう。ガラハドのレプリカでこの威力って私の剣はどうなってしまうのか。いや、スキル的には同じなのか。
「見た目に比例する威力なのね。私まだ撃てる状態じゃないわ」
「与えたダメージの蓄積かな? ホムラは?」
「私もまだ溜まってない!」
「じゃあ私が撃っていいかな? 瀕死の相手に使うのは心苦しいが」
「さて【物理・効】がなくともこのスキルは効くかな?」
そう言うと右手に現れた剣を八相に構えスキルを発動する。
「【断罪の剣】!」
発動されたスキルは剣に白い光をまとわせ巨大化させる。これはガラハドの【断罪の大剣】と同じだ。
光を纏った剣を斬り下げ、斬り上げる。光の帯が残像となって軌跡を描く。
どうやら【断罪の剣】は二度攻撃をするようだ。
《ソロ初討伐称号【赤き幻想者】を手に入れました》
《ソロ初討伐報酬『幻想魔法石』を手に入れました》
《お知らせします、迷宮幻想ルート地下40階フロアレアボス『幻想のファル・ファーシ』がソロ討伐されました》
《ファル・ファーシの顔の表皮×5を手に入れました》
《ファル・ファーシの絹×5を手に入れました》
《ファル・ファーシの靴を手に入れました》
《ファル・ファーシの魔石を手に入れました》
《ファル・ファーシの雫を手に入れました》
《精神の指輪+4を手に入れました》
《『幻想の種』を手に入れました》
待て。
靴!?
「でたあああああああッ!!」
「私の方は無かった。長かったな」
「レアボスの雫持って行ったら騒ぎになるでしょうけど、相手も文句はないはずよね」
【赤き幻想者】は与えたダメージ量の10%MPが回復する。【攻撃回復・魔力】と活性薬併用、移動中は【MP自然回復】もあって、今でもMPはおかしなことになっているのだが。
□ □ □ □ □
・増・
称号
【赤き幻想者】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.36
Rank C
クラン Zodiac
職業 魔法剣士 薬士(暗殺者)
HP 1278
MP 1666
STR 75
VIT 40
INT 146
MID 50
DEX 47
AGI 82
LUK 74
NPCP 【ガラハド】【-】
PET 【バハムート】
称号
■一般
【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
【経済の立役者】【孤高の冒険者】【九死に一生】
【賢者】【優雅なる者】【世界を翔ける者】
【痛覚解放者】【超克の迷宮討伐者】
【防御の備え】【餌付けする者】【環境を変える者】
【火の制圧者】【絆を持つ者】【漆黒の探索者】
【惑わぬ者】【赤き幻想者】
■神々の祝福
【アシャの寵愛】【ヴァルの寵愛】
【ドゥルの寵愛】【ルシャの寵愛】
【ファルの寵愛】【タシャの寵愛】
【ヴェルナの寵愛】【ヴェルスの寵愛】
■神々からの称号
【アシャのチラリ指南役】
【ドゥルの果実】【ドゥルの大地】【ドゥルの指先】
【ルシャの宝石】【ルシャの目】【ルシャの下準備】
【ファルの睡蓮】
【タシャの宿り木】【タシャの弟子】【タシャの魔導】
【ヴァルの羽根】
【ヴェルスの眼】
【神々の印】
【神々の時】
■スレイヤー系
【リザードスレイヤー】【バグスレイヤー】
【ビーストスレイヤー】【ゲルスレイヤー】
【バードスレイヤー】【鬼殺し】
【ドラゴンスレイヤー】
■マスターリング
【剣王】【賢王】
スキル(5SP)
■魔術・魔法
【木魔法Lv.32】【火魔法Lv.30】【土魔法Lv.30】
【金魔法Lv.29】【水魔法Lv.30】【☆風魔法Lv.30】
【☆光魔法Lv.32】【☆闇魔法Lv.31】
【☆雷魔法Lv.30】【灼熱魔法Lv.23】【☆氷魔法Lv.29】
【☆重魔法Lv.29】【☆空魔法Lv.29】【☆時魔法Lv.32】
【ドルイド魔法Lv.30】【☆錬金魔法Lv.20】
■治癒術・聖法
【神聖魔法Lv.33】
【幻術Lv.1】
■魔法系その他
【マジックシールド】【重ねがけ】
【☆範囲魔法Lv.34】
【☆魔法・効Lv.30】
【☆行動詠唱】【☆無詠唱】
【☆魔法チャージLv.24】
■剣術
【剣術Lv.33】【スラッシュ】
【刀Lv.33】【☆一閃Lv.25】
【☆幻影ノ刀Lv.19】
【☆断罪の大剣】
■暗器
【糸Lv.39】
■物理系その他
【投擲Lv.11】
【☆見切りLv.29】
【物理・効Lv.18】
■防御系
【☆堅固なる地の盾】
■戦闘系その他
【☆魔法相殺】【☆武器保持Lv.30】
【☆攻撃奪取・生命Lv.22】【☆攻撃回復・魔力Lv.30】
【☆スキル返しLv.1】
■召喚
【白Lv.14】
【☆降臨】『ヴェルス』
■精霊術
水の精霊【ルーファLv.23】
闇の精霊【黒耀Lv.34】
■才能系
【体術】【回避】【剣の道】
【暗号解読】【☆心眼】
■移動行動等
【☆運び】【跳躍】【☆滞空】【☆空翔け】
【☆空中移動】【☆空中行動】
【☆水上移動】【☆水中行動】
■生産
【調合Lv.28】【錬金調合Lv.35】
【料理Lv.33】【宝飾Lv.22】
■生産系その他
【☆ルシャの指先】【☆意匠具現化】
【☆植物成長】【☆緑の大地】
■収集
【採取】【採掘】
■鑑定・隠蔽
【鑑定Lv.42】【看破】
【気配察知Lv.43】【気配希釈Lv.41】【隠蔽Lv.42】
■解除・防止
【☆解結界Lv.5】【罠解除】
【開錠】【アンロック】【盗み防止Lv.24】
■強化
【腕力強化Lv.9】【知力強化Lv.12】【精神強化Lv.10】
【器用強化Lv.9】【俊敏強化Lv.10】
【剣術強化Lv.8】【魔術強化Lv.11】
■耐性
【酔い耐性】【痛み耐性】
【☆ヴェルスの守り】【☆ヴェルナの守り】
■その他
【HP自然回復】【MP自然回復】
【暗視】【地図】【念話】【☆房中術】
【装備チェンジ】
【生活魔法】【☆ストレージ】【☆誘引】
【☆風水】【☆神樹】
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの