表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/385

71.星降る丘

 魔法国家アイル・首都アルスナから東南東二キロ。

 星降る丘の位置だ。



 ルシャ主催、タシャ・ドゥル出席な食事会を終えて最後のファルの神殿に花を捧げ、王都を出た。すっかり暮れた宵闇の中森を歩いている。

 門の衛兵は暗くなると一応止めるように声をかけて来たが、星降る丘に行くのだと答えると笑って送り出してくれた。サムズアップされたわけだが、ものすごく勘違いされた気がするのは気のせいだろうか。

 カミラが言っていた恋人たちうんぬんの話が頭をよぎる。ただの採掘なんだが。


 ……戻るときは転移が使えるからあの門は通らなくて済むのが救いだ。帰りも一人で通ったら、もともとそんなものは居ないが「待ち人が来なかった男」として同情されそうで嫌だ。

いや、元々そんなものがいない方がなおダメなのか? ……考えないようにしよう。


 サーの森は木材にするために手入れされ、木々の生える間隔が広く枝を払われた幹の太い真っ直ぐな木々が多かったのだが、アイルの森は街道沿いは手入れがされているものの木々の生える間隔は狭く、低い位置にも枝葉があるため鬱蒼として見える。夜ならなおさらだ。


 それでもまたナルン山よりは植生のせいか、それとも人がよく入るのか森に分け入っても歩けない事はなさそうだ。今回は星降る丘まで街道を行くつもりだが、街道沿いは採取ポイントに期待ができないので一人の時はいつも獣道ユーザーなのだ。

 木々の枝が空を覆い月明かりも満足に届かない割に魔物の気配も獣の気配もなく、街道には時折夜に活動する鳥の羽ばたきや鳴き声が聞こえるのみだ。


 アイルは城を囲む王都の六つの神殿の結界、さらに等間隔に配置された六つの都市にある神殿により張られた結界に守られている。

 前者は神殿同士の距離も近いため範囲は狭いが城と王都を守るにふさわしい魔物を寄せ付けない強力な結界。後者は神殿同士の距離が遠いため弱くはあるが広範囲な国土を守る結界。

 国土を覆う結界はイメージ的には網目状なのだろうか? 弱い魔物は通してしまい、強い魔物は引っかかる、物理的に網目状というわけではないので弱い魔物でも集団となり気配が濃厚となると引っかかる。

 なので王都から離れると国内にそれなりに魔物もいるし、結界も万全ではなく幾度か破られそうになっているそうだ。それこそ結界の力を上回る強力な魔物の襲来や、はては人による結界の破壊まで。


 王都の神殿の転移が設定されているのはアイルの各都市の神殿からとジアース・バロン・ファガットの各首都の神殿で、アイルの各都市の転移は領主か神殿の許可を得た者しか使えない。国からの転移は私のように冒険者ギルドへ登録してCランク以上のカード保持者だけだ。

 都市からの転移の方が厳しく感じるがアイルの東側には小国を挟んでカンブリア帝国があり、幸い今は友好的関係を結んでいるのだが歴代皇帝が領土拡大に熱心だった名残と、街道の街に金を落として欲しいという打算がある。

 その前に純粋に王都アルスナ以外の転移門が神々が作ったと伝えられるものではなく、人間が作ったモノであるため大勢の転移に耐えられないというのが一番大きいのだが。


 まあ、そういうわけで王都付近のこの辺りには出たとしても弱い魔物しか出ないことはわかっているのだが。街道の雰囲気が鬱々としているのがいけない。あとたぶん門番と交わした言葉のせいで独り身の自覚が出たのがいけない。


 白を呼び出すのは今にしておけばよかったと、後悔する。

 初めて行く場所でも森を突っ切って魔物と戦うなり、月明かりに踊る影を楽しむなりできればよかったのだろうが、なにせ暗いまま暗視を使おうが使うまいが木々の立ち並ぶ風景が変わらない。

 若干気分が沈み始めたところで突然視界が開けた。



 満天の星



 この対比は反則だ。


 時を忘れて宇宙(そら)を眺める。

 星どころか宇宙ごと落ちてきそうだ。いや、自分が宇宙に吸い上げられそう?

 流星を目で追えば、森の中に突然開けた丘が目に入る。

 緩やかなカーブを描く丘はところどころに羊の群れを思わせる白い石が顔を覗かせている。


 その石が【ルシャの目】の効果か幾つかほのかに光っている。

 とりあえず用事を済ませてしまってから思う存分眺めようと、採掘道具を構える。

 文字通り星が降るように見える丘でカツンカツンと石を崩し掘る()って側からみたらシュールじゃないだろうか。本来の目的(?)で来たカップル未満な方々がいたら興ざめだろうな、と思いながら容赦なくタガネにハンマーを打ち込んでゆく。

 この作業、STRが低いと効率が悪い。多少器用が絡むという話も聞くが見た目通りの力仕事だ。『ティガルの星屑』はどうやらレアらしく、銀と鉄鉱が多くとれる。


 途中タガネを持つ手がじんじんと痺れてきたのでツルハシに変えてみる。ツルハシの方が楽だが、タガネの時よりも採れる量が減るのは細かな作業が出来ていないカウントなのだろうか。採掘ポイントはしばらくすれば復活するはずだが、復活までの時間はとれるもののランクに比例して長くなる。

 ここの採掘ポイントが復活するのがいつになるかもわからず、ついでにマメに通ってまた門番に変に勘ぐられるのも嫌なので大変だがタガネに戻して丁寧に採掘することにする。多分復活時間については掲示板で調べれば出てくるんじゃないかとは思うが。


 採掘ポイントは十一箇所で一箇所大体16〜22個の鉱物がとれる、採れる鉱物が+1、実質二倍になる『鉱物好物の腕輪』の効果があるので普通は8〜11個が採れるのだろう。

 『銀』が十個中『ティガルの星屑』が一個、『鉄鉱』は『銀』より若干多めな割合か。結局ティガルの星屑は9個しか採れなかった。【ルシャの目】【ドゥルの寵愛】とレアが出やすくなっているはずなんだが、二桁いかないとは予想外に手強い。まあ、九つ作れれば渡したい人には渡せるのでとりあえずいいとしよう。



 採掘を終えて星降る丘の真ん中に隠蔽陣を敷いてお茶をする。

 採掘中から今まで小動物以外気配察知には何も引っかからない。まあ、恋人たちが逢瀬を楽しむというのだから元々魔物は少ないのだろう。だからと言って絶対魔物がこないとも言い切れない。


 ゴロリと寝転がって空を眺める。


 黄色い月はすでに沈んで天上には白い細い月。満天の星空に幾つもの流れ星。

 この世界ではもう朝が近い、黄色い月の煌々とした灯りが消えて星がはっきり見える短い時間。現実世界ではもうログアウトの時間なのだ。このままここでログアウトしたい気分だというのにログアウト中に死んだらせっかく掘った『ティガルの星屑』をなくすことになると理性が邪魔をする。

 結界があればフィールドでログアウトをしても安全なのだろうか、ちょっと真面目にアイルで結界が習えないか探してみよう。騎獣も探さないと。


 バロンでは迷宮の探索も進めたいし、なかなかやりたいことがたくさんある。

 だがとりあえずはこの風景を堪能しなくては。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ
OSZAR »