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第83話 魔女が墜つ日、人魚は叫ぶ

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 戦闘は終わり、1度洞窟は静まる。

 奥がほのかに明るいが、地中の底らしい暗さと静寂を取り戻しつつあった。


 ベードキアは振り返る。


 かすかだが、来た方向から物音が聞こえたような気がしたのだ。

 それに想定よりも襲ってきた炎獣は少ない。

 不意に変な想像をしたが、ダークエルフは首を振って、思考を霧散させた。


「アローラ様!」


 静寂を取り戻した洞窟に、リックの悲鳴が響く。

 地面に手を突き、アローラが四つん這いになっていた。

 苦しそうに背中を上下させている。


「やはりアローラ様には無理ですよ。戻りましょう」


「そ、それはダメです。一刻も早く源泉を破壊しなければ……」


「しかし――」


「リックさん。とりあえず治療しましょう。回復薬か水はもっていますか?」


 こういう時に後衛である魔導士が活躍出来れば良いのだが、生憎とベードキアは【闇森の魔女】という異名どおり、闇の魔法を得意とする。

 治療魔法は光もしくは水属性に相当するので、いくら彼女が高名な魔導士でも、習得はできていないのだ。


 リックは道具箱から瓶を取り出す。

 少し口に含ませた。


「苦いっ!」


 アローラは悲鳴を上げる。

 思わず吐きそうになったが、瓶に入った液体はすでに体内に吸収されたあとだった。


 リックは謝罪する。

 裏腹に、アローラの顔色はどんどん良くなっていった。

 すでに洞窟の熱によって軽い火傷を負っていた皮膚も、みるみる回復していく。


 さすがの【闇森の魔女】も感心しきりだ。


「凄い回復力ですね」


「薬屋さんにもらった薬ですね。……驚きました。こんなに回復力がある薬は初めてです」


 薬瓶を見ながら、アローラも目を瞬かせた。


 その横でリックは複雑な顔を浮かべている。


「アローラ様。戻りましょう」


「何度もいわせないで下さい、リック。私は使命を果たすまでは戻りません」


「ですが、このままではあなたの身体が……」


「私はラムニラ教の宣教騎士の1人です。命を投げ出す覚悟はできています」


「それはダメです! わたくしは――俺はあなたを失いたくない!!」


「リック……」


 若き騎士の目に涙が浮かんでいた。

 これまで揺るぐことがなかったアローラの意志が、ひるむ。


 彼と宣教の旅を始めてから1年も経っていない。

 真面目で、時には勝ち気な態度を見せるリックが、こうして涙するのを見るのは、単純にショックだった。


 見つめ合う若い上司と部下の間に割って入ったのは、齢100歳を超えるダークエルフだ。


「あの……。リックくんには悪いですけど、あたくしはこのままアローラ様と進む方を進言しますわ」


「ベードキア殿まで……。理由をお聞かせ願えるか?」


「我々はすでに洞窟の奥深くまで進んでいます。今から戻るにしても、また多くの炎獣が立ちはだかるでしょう。ならば、源泉を叩いた方が苦労は一緒だと思います」


 根元を壊せば、炎獣に対する魔力供給が絶たれる。

 すぐに消滅するわけではないが、そちらの方が安全に脱出できる可能性が高い。

 ベードキアはそう言いたいのだろう。


 アローラは賛同した。

 リックも最初こそ渋ったが、上司の安全を考えると、ベードキアの案の方が確実のように思えた。


「わかりました。その案でいきましょう」


「ありがとうございます。では、これをお渡ししておきましょう」


 ベードキアは青い球状の宝石を、それぞれに渡した。


「これは?」


「あたくしは【氷卵石】と読んでいます。簡単に説明すれば、魔鉱石です。ただし強力な氷属性の魔法を封じ込めてあります」


「何故、これを私たちに?」


「万が一、あたくしが倒れた場合、これを使って源泉を封印してください。ただ【氷卵石】に封じ込めた魔法はかなり強力です。最後の手段とお考えいただければ……」


 魔法の威力によって使用者本人も巻き込まれる可能性がある。

 源泉は止めることができるが、その使用者の命の保証はないということだろう


 すると、リックはアローラに渡された【氷卵石】を奪う。

 無理矢理自分のと一緒に、道具袋の中に収めてしまった。


「アローラ様のぶんはわたくしが引き受けます。こんな物騒な品物をあなたに預けるわけにはいかないので」


「リック……」


「まあ、いいでしょう。使わないことにこしたことはないのですから」


 3人は深奥を目指した。

 途中、何匹かの炎獣に囲まれたが、無難に蹴散らす。

 何度か小休憩をはさみながら、源泉へとやってきた。


 そこは一面マグマの海だ。

 あちこちで炎が吹きだし、熱で景色が歪んで見えた。

 アローラの顔色が悪くなる。

 熱対策としてベードキアに氷を用意してもらい、服のあちこちに入れたが、すぐに解けてしまった。


 ひときわ炎が燃えさかる場所があった。

 目的地――源泉だ。


 その周囲で小さな炎が蠢いている。

 炎獣の種となる魔獣だ。

 これらが大気中の酸素や熱を取り込み、大きく肥大し、成獣となる。


「2人はここで待機しておいてください。源泉はあたくしが止めますので」


 ベードキアは進み出る。

 アローラは何か言いたげだったが、反論する体力は彼女にはもうなかった。

 リックも言葉に甘えることにし、再び上司に先ほどの回復薬を飲ませる。

 そして【闇森の魔女】の背中を見送った。


 魔女の前に、炎獣が踊り出る。



 【氷天の一撃(アーク・アイジング)】!



 【詠唱破棄】のスキルに加え、さらに【連続魔法】のスキルを駆使する。

 複数体いた炎獣を葬り去り、一気に源泉へと進んだ。


 源泉の炎は依然として燃えさかっている。

 まるで威嚇するように近付いてくる魔導士に火の粉を放っていた。

 人魚族ではないにしても、洞窟に籠もる熱量は致死レベルにある。

 早く封印しなければ、【闇森の魔女】とてただでは済まないだろう。


 源泉に手を向ける。

 落ち着いて詠唱を始めた。



 ざああああぁぁぁぁぁぁぁああんんん……。



 突如、炎が立ちのぼる。

 ドロドロに溶けたマグマの中から現れたのは、人間と似たような体躯を持つ魔獣だった。


 赤黒い皮膚と、膨れあがった筋肉。

 目は白金のように光り、燃えさかっている。

 口から「おおおおおお!!」と唸りを上げると、手にもった岩石の塊を持ち上げた。


「これは……。まさか【炎嵐王(フレイムロード)】!」


 【闇森の魔女】と呼ばれるAクラス冒険者の顔が、驚愕に歪む。

 離れたところでみていたリックとアローラも、突然現れた魔獣の迫力に言葉を失った。


 【炎嵐王】は源泉の近くにごくまれに発生する魔獣だ。

 炎獣と悪霊系の魔獣が結びつき、その強い怨念と意志の元に集ったなれの果てが、今3人の視界に映る化け物だった。


 そのクラスは「A+」。


 しかもフィールドの効果によって能力は底上げされ、通常よりも大きい。

 災害級(Sクラス)魔獣にも引けを取らないほどの力を持っていた。


「ちっ」


 普段はおっとりしているベードキアが珍しく舌を打つ。


 無理もない。

 相手は災害級に匹敵する魔獣。

 こっちの戦力はAクラスの魔導士に、Cクラスの【盾騎士(ガーター)】と【聖歌手】の3人。しかも、1人は戦える状態になかった。


「撤退しましょう!」


 ベードキアは即決する。

 おそらく冒険者が10人いて、10人が下す判断だ。


 リックはアローラを抱える。

 ベードキアもフロアの出口に走った。

 だが、2人の合流を阻んだのは、【炎嵐王】だ。

 落ちくぼんだ眼下で魔女を睨む。


 ベードキアは唇を噛み、覚悟を決めた。


「お二人は先に撤退を」


「ベードキアさんは?」


「お二人の撤退を援護することにしました。ご心配なく。これでも【闇森の魔女】と呼ばれる魔導士の端くれです。必ず追いつきます、さあ――」


 ベードキアは印を組む。

 呪文の一小節目を唱えようとした時、【炎嵐王】が持った岩石の塊が振ってきた。


 慌てて防御魔法に切り替えるが遅い。


 ぐちゃ……。


 嫌な音がした。

 ベードキアは叩きつぶされる。

 そこにあの妖艶なダークエルフの姿はなかった。


 見せつけるかのように持ち上がった岩石の塊から血が垂れる。

 その鮮血もたちまち蒸発していった。

 残っていたのは、むせ返るような血の臭いだけだ。


 アローラの金色の瞳が、みるみる広がる。

 息を飲み、そして悲鳴じみた言葉を吐きだした。


「ベぇぇぇぇぇトぉぉぉぉおおおお!!」


おっさん、早く来てくれ!!


中途半端なので、明日も更新いたします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 仲間のピンチを演出いいですね [気になる点] 何があるかわからないところへ準備なくいく冒険者の鏡ですね ランクはそこらへんの危機管理能力関係ないのですね
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