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第63話 感謝の一撃

サブタイがネテロ会長みたいとかいわれそう……。

 敵はざっと見渡して、100人。

 昔、盗賊相手にヴォルフは100人斬りを達成している。

 だが、あの時と状況はまるで違う。

 そもそも個の力が比較にならない。

 誰が選んだのかわからないが、綺麗に序列の上から選抜されていた。


 つまりは最精鋭だ。


 迫る騎士の向こうにいるグラーフを睨む。


「戦いたかったら、こいつらを倒せということか」


 すべて顔も名前も知っている。

 何故なら、この騎士達はヴォルフが客将の間、大きく実力を伸ばしたものたち。

 自分の子供といってもおかしくないぐらい手をかけた弟子たちなのだ。


「おおおおおおおおおおお!!!!」


 ヴォルフも負けじと気合いを返した。

 いつもの【居合い】の構えを取る。

 波のように迫ってくる騎士を迎え討った。


 一斉に槍が伸びてくる。

 ヴォルフの強化された視覚は、正確にその切っ先を捉えた。


 剣が抜かれる。


 いつもの10分の1程度の力であったが、騎士達の槍を弾いた。

 体勢が崩れる。

 すかさずヴォルフは残心を解いた。

 間合いを一気に侵略する。

 その動きは神速。

 見ていた騎士には、距離が縮んだように見えた。


 ヴォルフは叫ぶ。


「皆、握りが甘い!!」


 再び横一線に薙いだ。


 致命傷はない。

 すべて纏っていた鎧に弾かれる。

 だが、衝撃を殺せず、10数人いた騎士は後ろの壁に吹き飛ばされた。


 おお、と声を上げたのは、謁見の間に残っていた貴族や家臣たちだ。

 化け物のような膂力におののき、震え上がる。


 騎士は違う。

 ヴォルフが化け物など最初からわかっていた。

 彼は英雄を打倒し、ついには神に近い生物すら一刀した。


 弱いわけがない。


 それでも……。

 騎士達は退かない。

 例え国を救った英雄だとしても、王に刃を向けた。

 それだけで理由は十分だった。


 しかし、何よりも騎士達の胸にあったのは、たった1つの思いだった。



 この人と戦いたい。そして、勝ちたい……。



 強い者と戦いたい。

 勝利したい。


 そんな乾きを植え付けてくれたのは、目の前にいる男だった。


 ジリジリと騎士が詰めてくる。

 気を伺い、そして闘気を高めた。


「慎重になるのは悪くない。……が、相手のレベル、戦術を想定できているのか」


 ヴォルフは跳躍する。

 まだそこまでは目で追えた。

 天井だ。

 逆さになったヴォルフが、取り囲む騎士を見下ろしていた。


 蹴る――。

 砲弾のように迫った客将が、1人の騎士に襲いかかった。


 かろうじて、その騎士は避ける。

 すかさず槍を突き放った。

 3連撃――。


「ミルノフ、悪くない3連撃だ」


 いいながら、ヴォルフはあっさり回避した。

 間合いを詰めると、呟く。


「もっと槍を散らせ。的が狭いと、回避がしやすい」


 ヴォルフは遠慮なく、腹に打ち込んだ。

 悶絶し、ミルノフという騎士は蹲る。


 騎士達の攻勢は緩まない。

 ヴォルフに次々と得意の獲物をぶつけた。

 しかし、そのことごとくを回避し、【剣狼】は打ち据えていく。


「アプリル、まだ踏み込みが甘い。もっと走り込んで脚力を上げろ」

「ベルナデッド、調子が悪いのか? 脇を締めて直線に」

「ミロノロフ、視線でまるわかりだ!」

「バーガー、お前は太りすぎだ! もっと身体を絞れ!!」


 1人1人の騎士にアドバイスを送る。

 皮肉ではない。

 ヴォルフは最後の授業を騎士の骨身に叩きつけようとしていた。


 謁見の間は静まり返る。


 騎士たちが、赤子の手を捻るかのように向かっていっては叩きのめされていく。

 その光景を、貴族や家臣たちは固唾を呑んで見守っていた。


 不思議な光景だった。

 ヴォルフの周りだけが、時間が動いているような気さえした。


 皆の中に恐怖はない。


 ひたすら見入っていた。

 戦う者たちの技と知恵。

 対し、圧倒するヴォルフの化け物じみた強さを。


 不意に誰かが叫んだ。


「頑張れ! レクセニル騎士団!!」


 すると、我もと声が上がった。

 皆、騎士団に声援を送る。

 いつしか謁見の場は、競技会と同じ雰囲気になっていた。


 殺されそうになっていた王すら拳を振り上げ、叫んでいる。


 熱くならないわけがない。

 謁見の間で繰り広げられる御前100番勝負。


 これはきっと伝説になる。


「(ふー。さすがにしんどいぞ)」


 ヴォルフは汗を拭う。

 【強化限界】は封印(オン)されたまま。

 手持ちの武器も借り物だ。

 潜在能力の20%も使えていない。

 さすがに状況的に不利だった。


 だが、勝敗抜きでヴォルフは楽しんでいた。


 騎士達に躊躇はない。

 本気で自分を倒そうとしていた。

 誰もが見違えるほど、成長していた。

 それが何よりも嬉しかった。


 不意に死角からナイフが飛んでくる。

 ヴォルフはくるりと回ると、指で止めた。


「さすがに2度はくらわんぞ、マダロー」


 ナイフを返す。

 高速で打ち出されたナイフは、【霧隠れ】ごとマダローの肩口を貫いた。

 彼は吹き飛ばされ、倒れる。

 傷口に手をかけながら、悶えた。


「へ、へへ……。そんなことわかってるよ、ヴォルフさんよ(ヽヽヽヽヽヽヽ)


 ふとヴォルフは気づいた。

 周りにいる騎士は5人。

 倒れたマダローを含めても、6人だ。


 しかし、気配は7つ。

 1つ多い!


「しま――」


 気づいた時には遅い。

 ヴォルフの脇腹の近くに()は現れた。

 2枚目の【霧隠れ】が払われる。


 若い騎士と目があった。


「はっ! だから、てめぇは田舎者なんだよ!」


 くそったれ、とマダローは中指を立てる。


 意識が消えかかる中、貴族出身の騎士はいった。



 やってやれ! エルナンス!!



 瞬間、ヴォルフの脇腹に拳打が打ち込まれた。


 直撃(もろ)だ――。


 大柄なヴォルフの巨体が浮く。

 吹き飛ばされれると、そのまま赤い絨毯の上を滑っていった。


 ヴォルフが授けた脇腹打ち。

 エルナンスの必殺拳……。


「(くうううう……。さすがに痛いぞ)」


 顔を歪ませる。

 なんとか立ち上がったが、口の中に鉄の味が広がった。

 血反吐を吐いたなんて一体いつぶりだろうか。

 レミニアに強化されるようになってからは、初めてかもしれない。


 竜。

 災害級の魔獣。

 そして英雄すらなせなかったことだ。


 それをつい先日まで、1勝も出来ず縮こまっていた新人騎士が成し遂げた。

 2人の連携だとしても、賞賛されてしかるべきだと思った。


「(誇っていい)」


 ヴォルフは素直に賛辞を送る。


 すぐに傷は【時限回復(リルミット・ヒール)】によって全回復した。


 少々残念だった。

 エルナンスは1番目をかけた騎士だ。

 自分の弟子だ。


 その弟子が打ち据えた打撃の痛み。

 もう少し味わっていたかった。


 エルナンスは棒立ちのまま拳を握り、歓喜していた。


 初めて師に直撃を入れたのだ。

 それは嬉しかっただろう。


 だが、ここは戦場だ。


 ヴォルフは一気にエルナンスに詰める。


「全く……。戦場でいつまでもにやけているんじゃない!!」


 張り倒す。

 あっさりエルナンスの巨体は地面に潰れた。

 そのまま昏倒する。

 けれど、最後までその顔は嬉しそうだった。


 ヴォルフは残っていた騎士も打倒する。

 残っていたのは、1人――いや、2人だ。


 その中の1人の男が前に進み出る。


 逆立った頭を撫でつけた後、空を切り、槍を回す。

 その漲る闘争心を見て、ヴォルフは転がっていた剣を拾い上げ、構えた。


「ラスト前だな」


「いや、違う。――これでラストだ」


 ウィラス・ローグ・リファラスが、ヴォルフの前に立ちはだかった。


感想をちょこちょこ返そうと思っているのですが、ちょっと手が回らずすいません。

しばしお待ちを。

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