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第30話 おっさん、王都に帰る。

お待たせしました。

連載再開いたします。


※ 後書きに重要なお知らせがあるので、最後まで読んでいただけるとありがたいです。

 城門をくぐると、そこは王都だった。


 活気のよい声が、圧力となり襲いかかってくる。

 まだ王宮が遠い場所にあるというのに、行き交う人の数は多い。

 大小様々な家屋が並び、その前には露店が開かれていた。

 これから他国や街に商売しにいく行商人がひっきりなしに馬や牛を駆って出ていく。ちょっと通りを外せば、カードに興じ、盤面を睨む下町ならではの光景が、顔を覗かせた。


 人の数、種族の種類、家、馬、舗装された道路。

 今まで渡り歩いた街の中でも、王都はそのすべてにおいてトップレベルだった。


 城門を抜けた後、ヴォルフは立ち止まって、街の姿を目に焼き付けていた。


 本当にやってきてしまった。

 15年前、まだ小さなレミニアを抱いてくぐった城門。

 その時には、もう2度と戻らないと思っていた。


 しかし、ヴォルフ・ミッドレスは戻ってきた。

 冒険者ヴォルフ。

 『竜殺し』のヴォルフ。

 『100人斬り』のヴォルフ。

 そして、ニカラスのヴォルフとして。


「ご主人様。なに突っ立ってるにゃ。王宮に行くんだろ?」


 ミケの言葉を聞いて、ハッと我に返る。


 ヴォルフはエミリの言葉が気になり、とうとう王都にまで来ていた。

 まずは娘の無事を確認し、その口から王に何かしらの危機があることを伝えてもらうつもりだ。


 しかし――。


「部外者は立入禁止だ。そうそう立ち去るがいい」


 王宮にたどり着くも、門前払いを受けてしまった。


「王宮に娘が働いているのです。出来れば、お目通りを」


「そんなものは聞いていない。そもそもお前のような薄汚い男が、来るようなところではない」


 確かに格好は襤褸だが、薄汚いはないだろう。

 今日は娘に会うかもしれないから、洗い立ての下着をはいてきたのだ。

 衛生上は問題ないはず。


 さすがのヴォルフもカチンときたが、怒りを収めた。

 ここで暴れでもしたら、咎めを受けるのは娘ということになるかもしれない。

 ヴォルフは渋々引き下がることにした。


 なんとか王宮に入る必要がある。


 昔のつてを頼りたいところだが、すでに15年が経過していた。

 仲間のほとんどが引退し、ヴォルフのように田舎に帰っている可能性が高い。


「そんな辺りをキョロキョロしながら歩くなよ、ご主人様。あっちまで田舎者だと思われるだろう」


 辺りを見回しながら、大通りを歩いていたヴォルフをミケは注意する。

 いつもなら身体を丸めるようにして歩いているのに、今日はいささかその背筋が伸びているように見える。王都に来て、浮かれているのは、どうやら幻獣の方らしい。


「15年ぶりにきたが、あまり変わってないなあと思ってな」


「そうか。ご主人様はこの王都で働いてたんだったか」


 もっと時間の経過を感じるものだと思っていたが、あまり変わっていない。

 むしろ寂れているように映るところもある。

 つい先日まで北で大きな戦をしていたのだ。

 戦費がかさみ、街のインフラまで手が届いていないのかもしれない。


 ヴォルフは昔通っていた西区ギルドに向かう。


 王都には3つのギルドが存在する。

 1つはレクセニル本部ギルド。

 2つめは東区ギルド。

 3つめが西区ギルドだ。

 3つのギルドはそれぞれ棲み分けが出来ており、西区は主にCクラス以下の冒険者が受注できるクエストを受け付けている。


 昔寝泊まりしていた集合住宅の脇を抜けると、せせこましい場所に西区ギルドはあった。


 中に入ると、多くの冒険者でごった返していた。

 むせ返るような汗の臭いに、足元にいるミケはくしゅんと鼻を鳴らす。

 前足で必死に鼻を擦っていた。


 ざっと見た感じ、昔の仲間はいない。

 すると、大きな声が飛んできた。


「ヴォルフ! ヴォルフじゃないか!!」


 受付カウンターの脇からやってきたのは、恰幅のよい大柄の女性だった。

 ヴォルフは目を剥く。


「テイレス……?」


 確認する前に、テイレスはヴォルフに抱きついた。

 焦げ茶色の髪を振り乱し、顔の面積に対してつぶらな薄緑の瞳を輝かせる。


 テイレス・レッダー。


 ヴォルフの昔の仲間で、結婚を機に引退し、ギルドの受付嬢として働いている。

 歳は少し上。仲間になった時から、頼りになる姐さん女房みたいに振る舞い、パーティーを鼓舞する立場だった。


「いや、びっくりしたよ。幽霊でも出たのかと思った」

「俺もびっくりしたよ。熊でも出たのかと思った」

「なんだってぇ!!」


 テイレスは太い二の腕をまくる。

 だが、その顔は嬉しそうだった。


「ところでどうしたんだい? 冒険者みたいな格好して」


「冒険者に復帰したんだよ」


「え? でも、あんた……。あたしと3つしか違わないだろ?」


「まあ、色々思うところがあってね」


 すると、テイレスは二重顎をさする。

 怪訝な表情をヴォルフに向けた。


「もしかして……。最近噂になってる『竜殺し』ヴォルフってあんたのことか?」


「俺が名乗ったつもりはないんだが、そういうことになってるらしい」


「【灰食の熊殺し(グレム・グリズミィ)】を壊滅させたってのも?」


「ま、まあな」


 ヴォルフは肩を竦め、苦笑いを浮かべる。

 テイレスは息を呑んだ。

 まるで知らない人を見るかのように値踏みする。

 少々老け込んだが、目の前にいるのはテイレスがよく知るヴォルフ・ミッドレスだった。


「あんたはあたしが知る限り、馬鹿が付くぐらい正直者だった。下手な嘘はつかないとわかってるけど、それでも信じられないねぇ」


「心配するな。俺が一番信じられないんだ。……あと、馬鹿は余計だろ?」


「纏う雰囲気が変わったことはわかるよ。修羅場をくぐり抜けた戦士って感じだ。……ああ、そういえばあの赤子はどうしたんだい? レミニアちゃん、だっけ?」


「ああ。実はその事でテイレスに聞きたいことが……」


「ご主人様!」


 突然、会話を切ったのは足元にいるミケだった。

 紫と緑の異色の瞳は、いつになくキラキラと輝いている。

 口にくわえているのは、クエストの依頼書だろう。

 すでに端が唾液まみれになっていた。


 なんだよ、と顔をしかめながら、ヴォルフは依頼書を見る。

 それは前史時代の遺跡のクエストだ。

 魔獣ではなく、そこを守護するガーディルの討伐依頼らしい。


 前史時代の遺跡――【ダンジョン】には、生きた機械のような生物が存在する。

 こうしたガーディルが、遺跡の研究を阻むことが多く、研究機関がギルドに依頼することが多いのだ。


 ヴォルフが目を細めると、テイレスが横から覗き込んできた。


「なんだい? クエストの受注かい?」


「あ、いや……そういうわけじゃなくて」


「Cクラスのクエストだね。パーティを組めれば、あんたでも受け付けることができるよ。なあ、誰かこの冒険者とパーティーを組んでくれる勇気ある者(ヽヽヽヽヽ)はいないかい」


 ヴォルフから依頼書を取り上げると、旗のように振って呼びかける。


「今、売り出し中の『竜殺し』のヴォルフだ。損はさせないよ。あたしが保証してやる」


 テイレスが呼びかけると、あっという間に冒険者が群がってきた。

 ヴォルフは今さら断るといえず、はあと息を吐く。

 横で猫だけが笑っていた。



 ◇◇◇◇◇



 早速、ダンジョンに潜る。

 パーティーはヴォルフを含めて、4人。

 剣士兼ガーダーのニス・エクソン。

 かけ出しの女ヒーラーで、エルフのシラ・バイジル。

 パーティのまとめ役でCクラスの魔導士ジェルマ・ヴェール。

 いずれもテイレスのお墨付きで、優秀なパーティーらしい。


「なんかすいません。成り行きでパーティーに入れてもらって」


「いいですよ。噂のニカラスのヴォルフと仕事出来るのは、光栄です」


 礼儀正しい好青年といった感じのニスが、軽く頭を下げる。


 これもそれも、強突張りの幻獣のおかげだ。

 ヴォルフは恨みがましくミケを見る。

 契約幻獣は時折「みゃーみゅー」と鼻歌のようなものを歌いながら、皆を先導した。


「あの……。クエストの報酬は結構なので」


「え? いいんですか?」


「その代わりといってはなんですが、ガーディルに付属されている魔鉱の純結晶をもらい受けたいのです」


「……? かまいませんが、あれはかなり取り出すのが難しいですよ」


 ベテランのジェルマが話に交じる。


「問題ありません。そちらの手を煩わせることはありませんから」


 すると、遺跡の奥の方から金属を叩くような音が聞こえてきた。

 それも複数だ。真っ直ぐヴォルフたちの方にやってくる。

 暗闇の中で赤い1つ目が怪しく光った。

 4本生えた手に、剣、槍、弓、盾が握られている。

 Cクラスに匹敵する強さを持つ、ガーディルに間違いなかった。


「おいでなすった!!」


 ニスは剣を抜く。

 他の仲間たちも戦闘態勢を取る。

 それを制したのは、ヴォルフだった。


「みなさんは見ていてください。……ミケ、お前が依頼したんだから、自分のケツは自分で持てよ」


「はいよー」


 遺跡の硬い床を蹴り、ミケは走り出す。

 雷精を帯びながら、その姿は徐々に大きく、そして気高くなっていく。


「――――ッ!!」


 ミケの真の姿を見て、後ろのパーティーが息を呑むのがわかった。


 【雷王(エレギル)】はガーディルの群の中へと飛び込む。

 その中心に降り立つと、獣は激しく発光した。

 雷が触手のように伸び、古代の守護者を絡め取る。

 強烈かつ鋭い音が遺跡に突き刺さった。


「しゅぅうぅぅぅぅうう」


 奇妙な音と、白い湯気のようなものが、ガーディルの目玉から漏れる。

 途端、ガラガラと体躯は崩れ、物言わぬ骸と化した。


「も、もしかしてあれって【雷王(エレギル)】では……」


「ま……まあ、そのようにいわれています」


 再びパーティーは唖然とする。

 『竜殺し』『100人斬り』のヴォルフの背中を追うだけでも、クラスの低い冒険者たちにとっては恐縮ものだ。そこにさらに伝説の幻獣まで加えられた希有な状況に、頭が追いつかなかった。


「ご主人様、早く! 早く!」


 ミケは機能停止したガーディルの上で飛び上がって催促した。

 仕方なく、ヴォルフは近づいていく。

 ガーディルの胸の部分に来ると、柄に手を置いた。

 ふっと息を吐き、一瞬で切り裂く。

 重い音を立て、ガーディルの胸が開いた。


 パーティーはまた驚く。


 ガーディルの装甲は鉄よりも硬い。

 それ故、斬ることは難しく、雷属性の魔法で仕留めるのが常套手段だ。

 だが、ヴォルフはまるで料理でもするかのように斬り取ってしまった。


「おお!」


 異色の目を輝かせたのはミケだ。

 ガーディルの装甲の下に収められていたのは、緑色の輝く結晶。


 魔鉱の純結晶だ。


 これが魔力を糧とするミケの大好物だった。

 鉱山などで取れる魔鉱も美味しいが、不純物の少ない純結晶はさらに美味いらしい。ミケはこの手のクエストは、昔から大好きらしく、事あるごとに主人にクエストの依頼をねだってきた。


 純結晶は遺跡や、それを守るガーディルたちからしか採取できない。

 ここまで純粋なものは、今の精錬技術では難しく、前史時代の技術にいまだ人類が追いついていないことをよく表していた。


「いやはや感服しました、ヴォルフ殿」


 胸を抑え、進み出たのはジェルマだった。


「いかがでしょう。もっと大きな仕事をしてみませんか?」


「大きな仕事?」


 すると、ジェルマは少し口角を歪めたような気がした。


おかげさまで、

『最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、無敵の冒険者となり伝説を歩む。』ですが、


“ 書籍化 ”することになりました(やったー!!)


ブクマ・評価・感想・応援いただいた皆様のおかげです。

深く感謝申し上げます。


レーベルや発売時期など詳しい事については、

後日、発表させていただきます。


今後も更新は続けていきますので、

発売された暁には是非とも買って下さいね(正直)


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