唐揚げとマヨ
「とり、あ〜たま♪ とり、あ〜たま♪」
調子外れの歌が、いつの間にか声になっていたらしい。きっとラダがこっちを見て、
「気味の悪い歌歌ってないで、早くあれなんとかしてぇ」
と、叫んだ。
話はちょっと戻る。
晩ご飯用に、鳥を狩ってきた。いつもならその場で血抜きとかするんだけど、他の魔物の気配がしたので急いで戻ってきた。で、庭で解体中。
首を落とし、内臓を処理する間、首を皿に置いておいた。足元に置いていたのが悪かったのか、バタバタしてる間に蹴飛ばしてしまったのだ。
皿ごと宙を舞う首。
庭の隅に落ちた首は、……自立した。
しかも2つ並んで、こっちを向いている。
いや、ナニコレ、怖ぁ…と。庭にいた3人共見事に固まった。まるで地面から生えている、いや、生き埋めにされてるようにすら見える。
で、冒頭に戻る。
いやいや、不気味なの過ぎると、面白くなってくるね。楽しくなってきて、放置して肉を捌いていたら怒られた。
「わかったわかった。片付けるから」
フンフン口ずさみながら、頭のもとに向かう。別にものすごい形相をしているとかじゃないから、普通に見れた。しゃがみ込み、よく立ったもんだとしげしげ見やる。
…動かないよな?
ツンツンしてみる。うん、大丈夫。
「レイト、見てないで回収しろって」
「はぁい」
むんずと首を掴み、持ち上げる。ズルズルっと切ったはずの体がついてきたりとか、なにか別物がくっついてたりとかは、もちろんない。なにもない。
首は俺の手の中で冷え切っている。
よし。君たちのお墓を作ってあげよう。これもなにかの縁だ。え? だめ? 人の庭だって? そういや、でも俺前に色々処分してんだけどな…。
コクシンにだめって言われたから、残念ながら君たちはゴミ捨て場のスライムに食べられる運命だよ。ということで、内臓たちのもとにお帰り。
むしむしと羽根をむしる。
何も俺は最初からこうではない。
初めて鳥を自分の手で殺したときは吐いたし、捌いたときも吐いた。前世では魚を捌いたことがあるだけで、もちろん絞めたことも腹を割ったこともなかった。だがやらなきゃ俺が死ぬだけだ。残念ながら誰かがやってくれるという環境じゃあなかったからね。
だからといって、死に敬意を払わなくなったわけじゃない。ないのだが、慣れなのかなぁ。いや、たまにコクシンたちにドン引きされるからちょっとおかしいのかな。
あ、大丈夫。無闇に殺したいとかいう衝動はないよ。
そんな闇に触れつつ、夕食の準備は続く。
「ちょっと、また歌ってる!」
あ、ヤバい。鳥頭が頭から離れんよ。ツボに入ったようで頭の中でリフレインしている。
「レイト。捨ててくるから、そっちのも貸して」
いつまでもそこに元凶があると埒が明かないと思ったのか、コクシンがゴミ捨て役を買って出てくれた。
「スライムってさ、懐いたりしないのかな」
コクシンを見送り、気になっていたことをラダに聞いてみる。
「どうしたの、急に」
「うん? ほら、冒険者って討伐にしても採取にしても解体後のゴミが出るだろ。燃やしたり埋めたりするけどさ、スライムいたら楽なんじゃね?って思った」
ラダが動かしていた手を止める。
ちなみにラダは今マヨネーズを作っている。前世で一時期自作マヨで朝食…なんて優雅なことをやっていた記憶があるので、作り方は分かる。説明時に乳化するという現象に興味を持ったらしく、自ら名乗りあげてくれた。菜箸でやってるんで、多分今後悔しているだろう。
「連れ歩きたいってこと? でもどうなのかな。スライムってさ、そんなに消化スピード早いの?」
「あ。あー…」
どうなんだろう。前に見たときはのそのそゴミの上を這ってたなぁ。漫画とかの一口でばくんとやっちゃうやつイメージしてたわ。だめか。上品にちょっとずつ溶かすのだと、意味がないな。
一口大に切った肉に、塩胡椒、臭み消しの草を揉み込む。今日のメインは唐揚げだ。奮発して植物油で揚げる。小麦粉をまぶして、モミモミ。味を馴染ませたほうがいいのかもしれないが、今日はもう揚げます。菜箸を突っ込み…うん、多分こんな感じ。温度なんて分からん。
「よし、いってらっしゃーい!」
1つ摘んで投入。ジュワ~といい音が響く。いいねいいね。もうこの音だけで腹が鳴るわ。もう2つ投入。次々入れたいところだが、我慢我慢。温度が下がるからな。あ、鑑定で温度見れるのか。まぁいいや。前世でだって適当だったし。そもそも何度で揚げるのがいいのか知らん。
きつね色になって、音が変わってきたら出来上がり。トンカツのときと同じように、吸っちゃうお皿の上に出す。あ、2度揚げとかあったな。いいか。次のを投入し、その間に最初のを試食。割ってみる。大丈夫。ちゃんと火は通ってる。ではいただきます。
「ふもふも。うふぁい〜」
ジュワ~と油が染み出してくる。肉が美味いからな。そんなに手が込んでなくても美味しいわ。
「あ、ずるい、何食べてんの!」
ラダに見つかった。
「火が通ってるか見てたんだよ。そっちはどう?」
よし。これはもういいだろう。次投入だ。
「何か誤魔化してない? まぁいいや。こんな感じ」
ラダが訝しがりながらも、箸を持ち上げる。数本まとめた箸先には薄黄色のものがもったりと付いていた。
「お〜出来てるんじゃない? ちょっと待って、これを出して、入れてから…。ラダ、味みたいから手にちょってして」
合間を狙って、指先にちょんっと付けてもらう。ぱくんとその指をくわえる。
「んあー。マヨネーズぅ」
油が違うからか酢のせいか、ちょっと風味が違うけど、これは正しくマヨネーズ! ちょー美味い。もっと頂戴っと指を差し出したら、ラダはボールを抱き込んで、「ダメ」と言った。
「せっかく作ったのに、ご飯前になくなっちゃうよ」
「なくなったら作ったらいいんだよ」
「なるほど。じゃないよ! 混ぜるのけっこう大変だったんだから」
やっぱり、泡だて器はいるか。メレンゲとかホイップクリームとか作ってみたいんだけど。泡だて器かぁ。俺のなんちゃってプラスチックで作れるかな。
せっせと唐揚げを量産しつつ、構造を思い出してみる。うーん、あれ動くんだっけ、固定していいのか? 何本だっけ。
「ねー。コクシン、帰ってこないよ」
「そういえば。まぁ、女の子に捕まってるんじゃなきゃ大丈夫だと思うけど」
もう揚げ終わるよ。
コクシン熱々食べれないよー?