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謎の人ローレイさんと事の顛末


 ジノイドの事情聴取はすぐに頓挫した。何しろこの男、何も知らない。なぜガンドラと戦うことになったのか、それ以前のフェンイたちの行動、金の使い道、ギルドとの関係。首を傾げるばかりで話にならない。


「街に着くと、俺はご飯を食べに行っていたからな。宿も別だったぞ。なんというか、彼らは宿にいるとずっとくっついてるからな。依頼は彼らが決める。何を相手にするのか、だいたいそれしか聞かない。いつもそんな感じだったぞ」


 ポリポリと頬を掻く。流石にそこの空気は分かるらしい。


「この間か? 達成報告した帰りだぞ。そういえば、いつも何日か休みにするのに、すぐに街を出たな。大物だけど、対抗策があるから問題ないと言っていたが…」


「…なるほど。おそらく、ガンドラの討伐依頼が近くで出ていることを知ったんだろう。フェンイは糞だけ手に入れるつもりだったが、気づかれたんでわざと小突いて、ジノイドくんに任せたと言っていたよ」


 ローレイさんの言葉に、ちょっと違和感を感じる。


「押し付けたのはそうだろうけど、最初からガンドラに殺させるつもりだったんだと思いますよ。笑いながら『押さえてろ』と言い、ジノイドの馬を連れて逃げたんだから」


「ああ、そうだね。なかなかしぶとかったが、そのへんは吐いたよ。ジノイドくんが…まぁなんというか、豪快な金遣いをしていたんで目を付けたそうだよ。彼らはこれまでにも何人も、仲間になったフリでお金を奪っていたらしくてね。今洗い直しているところだよ」


 頭が痛いよとばかりに、ローレイさんが首を振った。やっぱり初犯じゃなかったんだなぁ。


「それは、ギルドも組んでということですか?」


 めずらしくコクシンが口を挟んだ。


「いや、今のところそういう線は出ていない。巧妙というか、小狡いというか。お金を巻き上げてパーティーから追い出す際、かなり執拗に精神的に追い詰めたりしていたらしい。なので被害届が出ていないんだ。ジノイドくんはそのあたりが通用しなくて、魔物に処分してもら…失礼、当てさせようとしていたところに、ガンドラの情報を得て利用した。というところかな」


 食事を終えたローレイさんが、ふうと息をついた。


「あの女性職員はグルではないだろう。単純に知識が足りないだけのようだ。情けない話だが、地方へ行くほどギルドの質が低くてね」


 ソファーに深く腰かけ、顔に陰を作る。


 ローレイさんの話によると、冒険者とは縁のない人間がトップについてしまうことも珍しくないようだ。もちろん就任にあたって教育はするし、数年に一度監査が入る。それでも、カバーしきれないのが実情らしい。

 ここのマスターも、実務は部下任せで自分は『各ギルドと連携を深めるため』と称して、連日お偉いさんとの飲み会三昧だったとか。そして部下は能力より自分の好みで職員を採用。もちろんろくに教育していない。こうして見栄えだけがいいギルドが出来上がった。


 というか、このへんってまだまだ地方だったんだな。


 ちなみに、ガンドラの討伐依頼についての顛末はこうだ。ある外から来た人間が、街道近くでガンドラを見て慌ててギルドに駆け込んだ。何しろ山のように大きく棘を持つ魔物だ。道すがら他の人が「ガンドラ」と呼んでいた。早く討伐してもらわねば! ここでこの男がもうちょっと周囲の話をちゃんと聞き、話を聞いた職員がガンドラのことをちゃんと知っていたのなら良かった。男は箱入り息子でガンドラのことなど知らない。職員は益魔物だと知ってはいたが、手を出してはいけないとは知らなかった。で、二重チェックなどの対策もなく、依頼として掲示されてしまった。ということだ。


「あの女性職員が杜撰な手続きをしていることはフェンイも知っていたようだ。ガンドラとあの職員、このピースが揃ったことで偽装を思いついたんだろうね」


 ローレイさんがぐいっと杯を煽った。


「今分かっているのはこれぐらいだ。半分を残して、私は明日次の場所へ向かわなければならない。処分など聞きたければ、後任に伝えておくが」


 俺はコクシンを見た。いつも通り、俺に委ねる。ラダは、たぶん途中で話についていけていないが、頷いた。ジノイドは、小首を傾げている。


「ジノイド。フェンイたちがどうなるか、知りたい?」


「いいや。俺にはもう関係ないことだ」


 ならなぜ首を傾げるのか。聞く前に答えがわかった。大きく腹の虫が鳴いたので。たぶん、何食べようかな、だろう。燃費が悪いとは聞いたが、ここまでとは。座ってただけじゃねーか。


「ということなんで、これ以上は関わりません」


「そうか」


 ローレイさんが軽く頷いた。後ろを見て、書記らしき黒服と二言三言話す。この人このあと寝る時間あるのかな。というか、どういう立場の人か聞いてないや。いや、聞くと面倒そうなんで聞かないけども。これ以上闇に触れたくない。お気楽に旅したいだけなのよ、俺は。


 お先に失礼するよ、と、ローレイさんが立ち上がった。


「君とはまたどこかで会えそうだね」


 笑顔で恐ろしいこと言わないでください。それ厄介事に巻き込まれてるってことじゃないですか。フラグになるんで止めましょうよ。


「協力感謝する」


 手を胸に当て、軽く頭を下げてローレイさんたちは退出していった。ちなみにドアのところの黒服さんも帰っていった。まぁ、街にローレイさんの配下が散らばったので、安心していいよということらしい。俺等が襲われることなんてないと思うんだけどね。


 おもむろにジノイドが立ち上がった。


「なにか食べてくる」


「なにかって、こんな時間に食事出すところあるのか?」


「酒でもつまみでもいい」


 鳴る腹をさすりながら、部屋を出ていく。デカイのがいなくなって、急に部屋が広く感じた。両サイドからため息が漏れる。俺も長々と息を吐いた。正直疲れた。


「いやはや、やっぱり首は突っ込むもんじゃないね」


 ソファーに沈み込む。あー、風呂に入りたい。まったりしたい。流石に今から用意するのはしんどい。ボタン1つで風呂に入れたあの頃が懐かしい。というか、温泉ないのかな、温泉。精神疲労に効く湯はどこですか。


「レイト、寝るな。ベッドへ行け」


 揺すられてふっと意識が浮上した。


「あ〜」


 目をこすり立ち上がる。ラダの方に手を伸ばすと、心得たとばかりに初級回復薬が手渡された。蓋を開けてグビリ。慣れた味にちょっと頭がスッキリした。さて寝るか。


 ベッドへダーイブ!! いや、固いな!


 横になった途端まぶたが降りてくる。コクシンとラダもそれぞれのベッドへ潜り込む気配がする。ジノイド? 彼は別の部屋だ。大柄の人用の部屋。そういえば、ぶっとい尻尾があったな。どうやって寝てるんだろう。うつ伏せで寝るのかな。横向きか。尻尾収納機能があるベッドとか…。





 おはようございます。昨日なにか変なこと考えながら寝たせいか、ベッドから落ちて目覚めるという朝でした。


 俺たちは馬で、ジノイドは駆け足で街道を行く。大きな白い袋を担ぎながら走るさまはサンタのようだ。入っているのはすべて食料だが。走りながら食べるという器用なことをするジノイド。見ている方がお腹痛い。


「ん? レイト、あれ」


 コクシンがなにか見つけた。ん? あの様になる騎乗姿は…。


「ローレイさん?」


「やぁ、おはよう」


 振り返り笑顔を見せてくれたのは、何者感満載の男装の麗人ローレイさん。今日の衣装は濃い群青色。昨日の疲れも見せず今日も美人だ。馬車と護衛たちもいる。冒険者の格好をしているが、もしかして昨日の黒服さんたちだろうか。


「おはようございます。次に向かう街って、こっち方面でしたっけ?」


「いや。ガンドラは去ったと聞いたが、一応確認しておこうと思ってね。ああ、君たちを疑っているわけではないよ? 第二第三のバカが現れないとも限らないからね」


「なるほど」


 気づけばガンドラとぶつかった場所まで来ていたようだ。街道から外れて少し行くと、荒れ地が広がっている。俺がとっさに掘った穴が、がっつり残っていた。埋め戻したほうがいいのかな。聞くとローレイさんは、そのままで構わないと答えた。


「流石にいないか」


 周囲には人っ子ひとりいなかった。もちろんガンドラの姿もない。杞憂で終わりそうだ。


 と、思ったところで、ズズンと大きな地響きがした。木が倒れていくのが目に入る。その向こうに、会いたくなかった巨体が姿を現したのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言]  ていうか、訳あり人をいちいちパーティーに入れる必要性がないと思う。  ラダでさえ、ある程度の旅をしてパーティー入りしたんだから。
[一言] 珍しくまともなローレイさんのおかげで、ギルドに懲罰隊的な自浄作用がちゃんとあって。旅してきたところのギルドはおそらくざまぁされるということがわかり読者もニッコリ。 そして、ダンジョンのために…
[良い点] 100話おめでとうございます。 [一言] まあ…人命救助するとして、助けられる側がどういう人間かなんて事前には分かりませんからね。 レイトとしては目の前の出来事を無視する方が寝覚めが悪いか…
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