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75、パレード準備開始

 マルティナの休日に聖女であるハルカと楽しい時間を過ごした日から一週間ほどが経過し、ついにハルカが浄化の旅へと出立する日が決まった。


 出立日は本日から三日後の朝だ。聖女召喚への貢献度から最初の浄化はラクサリア王国と決まっていたので、王国内にある消滅が間に合わなかった五つの瘴気溜まりを回ってもらうことになる。


 また出立の日はハルカの乗った馬車が王都内を進み、出立のパレードをすることも正式決定となった。


 厳しい現実を感じ始めている大勢の民たちにも救世主である聖女ハルカの存在を知らせ、パニックに陥るのを防ぐという狙いを持って企画されたパレードだが……その決定はあまりにも遅かった。


 昨日の午後に行われた会議で、各国からの合意を経て正式決定となったのだ。


「さすがに急すぎるわ。今からパレードの準備だなんて間に合うかしら」


 王宮の廊下を忙しく歩いているのは、マルティナ、ナディア、ロラン、そしてシルヴァンだ。


「しかもハルカがどの国にも属していないことが分かるような馬車の意匠にするなんて、結構な無茶振りだよね」

「この大陸にある全ての国の紋章や特産品などを理解していなきゃ、まず無理な依頼だよな……マルティナがパレードまではこっちに戻ってきてくれて、本当に助かった」


 ロランが心からの安堵を示すような声音でそう告げると、シルヴァンは眉間に皺を寄せて告げた。


「しかしそれでも、パレードまでは全く時間が足りない。馬車のデザイン変更は職人ならば一日で終わるとはいえ、明日には作業に入ってもらわなければならない。私たちにあるのは実質一日だ。さらに今から繊細な意匠の物を作ってもらうのは確実に間に合わない。今この王宮にある飾りだけで、なんとか完成させなくてはいけないだろう」


 ハルカは浄化の旅を、乗馬と馬車移動の両方で行う予定となっていた。したがってハルカのために新たな馬車は作られていたのだが、それはパレードなどが想定されていない無骨でシンプルなものだ。


 それを急遽決まったパレードに適した豪華さに、しかしハルカが特定の国に属していると思われないようなデザインに作り変える必要がある。

 出立が三日後の朝だと考えると、無茶振りにも程がある決定だ。


 シルヴァンが告げたそんな厳しい現実に、三人は無言になった。そしてロランが一言。


「なんで急にパレードなんて話になるかねぇ。ここでパレードをする代わりに、他国の主要都市でも必ず一度はハルカのお披露目を行うって話になったらしいし、押し切られたんだろうが」

「まあ、仕方ないですよ。多くの国が望んでいたら」


 マルティナはその会議に出席していなかったが、ラクサリア王国の代表として出席したソフィアンを気遣った。外交とはどんなに優秀な者が担当したとしても、全てが思い通りにはいかないものだ。


「確かにそうだけどな……もう少し早くしてくれればいいものを」

「それには完全に同意するわ。本当に上は、いつでも無茶振りをしてくるのだから」


 四人はそんな話をしながら足早に王宮内の廊下を進み、政務部に入った。そこでは朝が早いにも拘らず、何人もの官吏が働いている。


 今回のパレードの準備は到底マルティナたち四人だけでは間に合わないということで、政務部が総出での仕事になったのだ。


「じゃあマルティナは馬車のデザインを考案する担当、ナディアは職人との連携、シルヴァンは王宮内から豪華な飾りをかき集める担当、そして俺はパレードに関わる王都内全ての調整役、これでいいか?」


 政務部内に入ったところでロランがそう告げ、全員が一斉に頷いた。共に戦いに挑む同志のような雰囲気だ。


「マルティナ、サシャが来るまではこの部屋から出るなよ」

「分かってます。気をつけますね」


 ロランはマルティナにそう告げてから、忙しく政務部の奥に向かった。そんなロランを見送ってから、次にシルヴァンが動く。


「私はとにかく王宮中から使えそうな飾りを集める。その間にデザイン案は頼んだぞ」

「はい、デザインは任せてください。実物の方はよろしくお願いします」


 マルティナの言葉に頷くと、シルヴァンも足早にその場を離れた。そして最後はナディアだ。


「わたくしは一度、馬車の製作を請け負った職人の下へ向かうわ。すぐに飾りを付けてもらえるよう、準備をお願いしてくるわね」

「ありがとう。私は政務部の自分の机にいるから、何かあったらそこに来て」

「分かったわ」


 そうしてナディアとも分かれたマルティナは、さっそく自分の席に向かって腰掛けた。取り出すのは何枚もの白紙にペンだ。


「まずは各国の紋章を全部書き出そう。それから分かる限りで貴族の紋章も。次に特産品かな」


 そう呟いたマルティナは、今まで読んできた書物の知識を総動員させて、手を止めることなく紋章を並べて描いていく。


 各国の紋章に使われた動物や植物などの意匠は、絶対に使ってはいけない。各国の貴族が使っているものは全て避けるのは難しいので、たくさんの貴族家で使われているような、特定の家や国を連想させないものをいくつか選んでいく。


(この果物は五つの国、九の貴族家に使われてるから使ってもいいかな。こっちの果物は三つの国で使われてるけど、一つの国が国全体の特産品として押し出してるから止めた方がいいかも。この鳥は大陸中を巡るタイプの鳥だから積極的に入れよう。あとこの花も大陸全土に咲くし、こっちの植物もよくあるものだよね。それから――)


 マルティナは描き出した無数のデザインの中から、ハルカの馬車デザインに適しているものに次々と印をつけていった。逆に絶対に避けるべきデザインにも、分かりやすく印をつける。


(そうだ、飾りの素材として金や銀、宝石を偏りなく使わないと、産出国を贔屓にしているって思われるかもしれない。それから宗教も考慮しないとダメだ。確か逆三角形はある一神教で神を敬う形だったはず。他にも特定の宗教を連想させるものは避けるべきで――)


 一つ決まると次の懸念事項が発生し、マルティナの仕事は一進一退だった。最適なデザイン案が完成したとしても、実際にその飾りが存在しなければ意味はないので、ラクサリア王国によくある意匠も描き出し、それを組み合わせることで新たなデザインにできないかを考える。


(宝石を既存の飾りに埋め込んでもらうぐらいなら、一日あればできるのかな……ナディアに確認してもらおう)


 そうして確認事項や懸念事項に対する解決策を思案し、なんとか実現性がありそうなデザイン案がまとまったところで、シルヴァンがやってきた。

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[気になる点] 幾つか気になった点があります。 ①国の一大事を上回って、世界危機にもかかわらず、後継者であるはずの第一子の王子か王女殿下と王妃様が大事な聖女召喚と聖女への謝罪謁見に出席したような描写が…
[一言]  モブ官吏たち「「「マルティナ、ぱねぇ…」」」
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