第三十五話:仲間と打ち合わせをする
「……朝か」
目が覚めたので、軽く目を窓の外に向けてみれば、空高く太陽がその存在を示していた。
結局、あの後はコーヒーを飲んだことで疲れていたにも関わらず、すぐに眠ることは出来なかった。
「……」
嫌な気を感じた森は、今は鳴りを潜めているのか、端から見ても普通の森にしか見えない。
昨日の話から、向島君があの森に向かおうとしていることは、否でも理解できる。
念のために私たちも用意だけはしておいてもいいとは思うが、出来ることなら、彼らの力だけで事を収めておいてほしいものである。
そんなことを思いつつ、服を着替えて、髪を結い上げる。
パーティーも終わったことだし、そろそろフィアーナ殿下たちと打ち合わせをしなければ。
☆★☆
「あ」
「あ」
珍しいこともあるもので、フィアーナ殿下たちの部屋へ向かっていれば、桐生君と会った。
「鷺坂さんは……」
「ちょっと、フィアーナ殿下たちに用があってね」
「そうなんだ」
それにしても、彼はこんなところで何をしているんだろうか?
「桐生君は、どうしてここに?」
「あー、ちょっと訓練の休憩に入ったからさ」
「それで、城内の見回り?」
「そんなところかな。これでも俺は勇者だし」
若干照れつつも頬を掻きながら、「まあ、鷺坂さんよりは頼りないかも知れないけど」と付け加えられるが、そんなことはないと思う。
「頼りなくはないでしょ。あのラクライールに立ち向かったんだし」
「でも結局、あの時は鷺坂さんたちに助けられたけどね」
「結果はともかく、立ち向かったという行為が大事なんだよ」
気を失いはしたけれど、彼はーー彼らが立ち向かったことには変わりはない。
彼も後半の訓練があるだろうから、とそのまま別れようとして、足を止める。
「ああ、そうだ。桐生君」
「何?」
「多分、私たちも向島君たちも、そろそろ城を出ていくことになると思うから」
「えーー」
とりあえず、こちらの用件は伝えたので、その場を離れる。
驚いたままの彼を、その場に一人で残して。
☆★☆
「そうね。確かに、そろそろ城を出て、次の目的地に向かわないと」
「まあ、目的地自体は決まっているから良いとして……」
私が巻き込まれ召喚などされなければ、もうこの街を出ていてもおかしくはないのだが、現状が現状である。
城の復興状況も何事もなく進んでいるみたいだが、私としては森の方が気になって仕方がない。
「でも、気になるんだろ? ギルドで聞いたことが」
「まあ、場所は分かってるし、イースティア組も様子は見に行くみたいだから、だったら私たちまで行く必要はないかなぁって」
ウィルの言葉にそう返しつつ、正直不安が無いと言えば嘘になる。
向島君からは、『クリス(さん)たちが助けを求めてきたら、助けてやってくれ』とは言われたし、約束もしたが、私より使える手数が多い向島君が苦戦したり、負けるとなれば、それこそ最悪の可能性を視野に入れて、対策を考えなければならない。
いくらラクライール(とその魔物)との戦闘経験があるとはいえ、今の桐生君たちに私たちが敵わないような存在の相手をさせるのは、さすがに酷な気もする。逆に言えば、戦闘経験はそれだけしか無いと言うことだから。
「でも、困ってたら助けるって、約束しちゃったんでしょ?」
「自分たちで解決できない場合は、ね」
けれど、それも互いの実力を把握しているから、互いに頼み合っているだけで、現地勇者であるフライアとは……うん、彼の性格と会う回数が少ないから何とも言えない。
ただ、何で召喚勇者である私たちの方が遭遇率が高いんだろう、とか思わなかったことが無いと言えば嘘になるけど。
「魔道具、一回見に行ってこようかなぁ」
「俺も予備の短剣とか見てくるか。無くて困るものでもないし」
「それじゃ、私と榛名は陛下に面会しに行きましょうか。解決して、実はこんなことがありましたよーって、事後報告で済ませるわけにもいかないでしょ」
いや、確かに人は居なくなってるし、サーリアン国内の事だから、仮にも他国の関係者である私たちが事後報告で済ませるのは申し訳ないとは思うし、おそらく今も水面下で捜索もされているとは思うのだが、二組の勇者一行が動くとなれば、陛下も騎士団とかを動かさざるを得ないはずだ。
「イースティア組の分まで許可を得ると?」
「あら。そうしておかないと、きっと面倒なことが起こったら、あーでもないこーでもないって、長引くわよ?」
これだから、権力持ちは……。
「分かった。でも、イースティア組についての許可も得るつもりなら、あっちの誰かも連れていかないと説得力が無いから、見つけたら一緒に来てもらおう」
「そうねぇ……イースティアの勇者辺りなら、榛名が声を掛けるだけであっさり付いてきてくれそうだけど」
ララがニヤニヤしながらそう言ってくるが、本当にそうなりそうだから否定できない。
「でも、今回の場合はクリスさんかアスハルトさんの方が良いかなぁ」
責任者的な意味で。
「んー? でも、やっぱりチームの代表なら、『勇者』が行くべきじゃない?」
「う~ん……」
どうなのだろう?
「ま、途中で会った人に頼めば良いでしょ。誰になろうと代表者となってくれるなら、文句はないわよ」
とりあえず、陛下の執務室に行くまでに、イースティア組の誰かに遭遇することを祈るしかない。
「もし、誰とも会わなかったらどうする?」
「その時はもう、誰かを呼び出すしかないよ」
毎回毎回、イースティア関係で向島君に声を掛けるのもどうかと思うが、彼がイースティアの『勇者』であること、そして彼を含め、あちら側の人間の大半が何だかんだ相手を納得させられるだけの力を持つ人物たちであることからも、それを上手く利用して、今回の件も上手く事を進めなくてはならない。
「ーーイースティア組が失敗するとは思えないけど、万が一ってこともある」
完全に嫌なフラグを立ててしまった気もするが、向島君側も「自分たちが失敗したら、私たちに任せる」的なことを言っていたのだ。
「だから、ちゃんとこの件を解決して、次の目的地へ行こう」
そんな私の言葉に、三人は頷いた。