2:キャラメイク-1

『アバターの設定をしてください。』

　無機質なシステムメッセージと共に俺の目の前に広がる真っ暗闇の空間に現実の俺の姿を模したアバターの姿が浮かび上がる。

「髪の毛と目の色ぐらいは弄るか。」

　俺はウィンドウを引き出してアバターの髪の毛を白くした上に頭の左側に赤く染めた髪の毛を三房吊り下げ、目の色を橙色に変更する。

　で、体の方に関してはリアルからほぼ変更無し。

　HASOは公式の説明を見る限りではアクションの要素が強いためなのか、性別の変更や身長・体重の調整はそこまで大きくは出来ない。

　と言っても出過ぎてるお腹や顔の調整をするぐらいは問題なくできるし、現実の身体よりも遥かに高性能な体には変わりないのだが。

　ちなみに俺の場合は身長は170ちょっとで体重も見た目が細マッチョになる程度にしてある。

　まあ、俺のやりたいことを考えればこれぐらいが適当だろう。

『名前の設定をしてください。』

　パソコンのキーボードの様なものが目の前に浮かび上がる。別に頭の中で名前をイメージしても設定できるそうだが、顔文字などを名前にしたい人間が未だに居るらしくて、『イメージ入力に慣れていない方のため』という名目で残り続けているそうだ。

　で、俺はイメージ入力が出来るので、『ヤタ』という名前を入力する。

　意味？本名をモチーフにちょっとイメージを膨らませただけで特に意味は無い。というか、いつもゲームで使っている名前だ。

『名前『ヤタ』。被りが無いか確認します……被りありません。ご利用できます。』

　どうやら問題なく使えるらしい。某神話の烏様が居るから微妙かとも思ったんだが、使えるなら問題ないな。

　俺は確定のイメージを送って名前を決定する。

『初期習得スキル7個を選んでください。なお、武器系スキルと職人系スキルは必ず両方とも1個以上選んでください。』

　さて、本日のメインイベントである。

　HASOはキャラメイク時に7個のスキルを取得し、ゲーム開始後は特定のアイテムを使用しなければ新しいスキルが覚えられない仕様になっている。

　と言っても同時に装備できるスキルの限界数12個まではその特定のアイテムも簡単に手に入るようになっているので、そこまで心配する必要はないそうだ。

　で、今はまだ、それぞれのスキルの効果については語らないでおいて、とにかく俺の選んだスキルを見せておく。

　これが膨大な量を誇るHASOのスキルの中から俺の選んだ初期スキルである。

≪メイスマスタリー≫Lv.1

≪メイス職人≫Lv.1

≪握力強化≫Lv.1

≪掴み≫Lv.1

≪投擲≫Lv.1

≪噛みつき≫Lv.1

≪鉄の胃袋≫Lv.1

　とりあえず、この時点で俺のやりたいプレイスタイルを理解した人間は同志認定をしたいと思う。

　さて、ついでにもう一つ。HASOのプレイヤーがこうして取得できるスキルはその大半がパッシブスキルとでも言うべきもので、それぞれレベルが上昇するとスキルの効果も高まるようになっている。また、スキルと装備品の組み合わせ方によっては『祝福』と呼ばれる一般的なRPGで言うところのアクティブスキルが使えるようになるらしい。

　また、プレイヤー自身にはレベルが存在しない+アバターごとの筋力差などの調整がある仕様のため、スキルを付けていなかったり、装備品を外したりするとどのプレイヤーも基礎能力に関しては同じになるらしい。

　まあ、それでも反射神経なんかにはプレイヤーごとの差が出るみたいだが、それはしょうがないと思う。

『スキルの取得を確認しました。続けて初期アイテムの配布を行います。』

　と、俺がHASOの仕様を思い出しているうちに次の工程への移行をシステムメッセージが告げてくる。

『初期アイテムは“ベースメイス”“ベースメイル”“ベースグリーヴ”“剥ぎ取り用ナイフ”“アイテムポーチ”の5つとなります。』

　俺のアバターの服装が上は飾りの一切ない皮鎧に白いインナー、下は膝の部分だけ皮で覆われた黒いズボンになり、左の腰にメイスというよりは棍棒と言ったほうが正しい武器が下げられ、右の腰には小さなナイフが付けられてすぐ近くに小さなカバンのようなものも下げられる。

　俺はそれを見て「さすがは初期装備。ダサさには定評があるな。」とか思いつつも確認を求める質問に確定で答える。

『以上でキャラクターメイキングを終了いたします。それでは心行くまでHunter and Smith Onlineの世界をお楽しみください。』

　そして、キャラメイク完了のアナウンスとともに俺の視界は白い光に包まれていった。