表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/112

第15話 幼子は何も知らず

(この人が、救世主の人……)


 私は隣のベットで寝ている男の人に目を向ける。


 赤い髪の女の人と話している時には乱暴な言葉を使うけど、私しか居ない時は優しい話し方をする不思議な人。


 私のお母さんを助けてくれた人。


(凄く驚いたな。久しぶりにお母さんが話し掛けてきたんだもん……)


 私のお母さんは遠くの相手とお話する魔法が凄く得意。


 普通は言葉しか伝えられないらしいんだけど、お母さんは言葉だけじゃなくて見た事だって伝えられる凄い魔族なんだ。


(けど。今は凄く疲れているから、声を届けるのも辛いんだよね)


 だから凄く長い間、話せてなかったのに。


 ちょっとだったけど久しぶりにお話出来て、凄く嬉しかった。


(お母さん、言ってた。救世主って人がお母さんを助けてくれたって。それで、これからはその人が私の傍に居てくれるって)


 だから、お母さんと一緒に救世主の人が迎えに来るって思ってたのに。


 男の人が一人しか来なくて凄く怖かった。


(それに救世主の人だって言ってくれないから、てっきりお母さんに酷い事をしている人達の仲間だと思って、折角急いで来てくれたのに酷い態度取っちゃった……)


 もうちょっとだけ我慢すれば、お母さんを助けてくれた救世主の人が来てくれる。


 それまでは頑張らないと、としか思えなくて。


(確か別のお名前持ってるんだよね? 怒られる前にそっちも早く覚えないと……)


 多分、そっちのお名前で呼んだ方がいいんだよね?


 赤い髪の女の人には救世主だって言ってたのに、私には一回も救世主だって教えてくれなかったし。


(ああ、でも救世主って何度も呼んじゃった。怒ってるかも……)


 早くもう一つの名前を覚えないといけないけど、聞き返したら教えたのに覚えてないのかって怒っちゃうよね?


 どうしよう。


 他に聞けそうな人って赤い髪の女の人と金髪の女の人くらいしか居ないけど――


(赤い髪の女の人は駄目だ。いきなり服を脱ぎ出す危ない人だし、私と救世主の人を引き離そうとした、すっごく悪い人だもん)


 言ってた言葉はよく解からなかったけど、救世主の人と凄く仲が悪そうだった。


 お母さんを助けてくれた人と仲が悪いんだ。


 きっとお母さんに酷い事をしていた人達の仲間。


 あの女の人に近付いたら、お母さんに見せられた事と同じ事をされちゃう。


「…………」


 お母さんに見せられた事。


 それを思い浮かべてしまっただけで怖くて怖くて。


 身体が震えて震えて止まらなくなる。


(何度も何度もお母さんに見せられた……)


 お母さんの手や足を切り取っていく男の人の姿。


 凄く熱そうな物が迫ってきて、それ以降は真っ暗で何も見えなくなった。


 どっちも凄いお母さんの悲鳴が付いてた。


(何でこんな物を何度も見せたり聞かせたりするのかって、何度も何度も思った)


 一度だって見たくなかった。


 一度だって聞きたくなんてなかった。


 それでもお母さんは、何度も何度も私の頭の中に見せて。


 何度も何度も頭の中に声を響かせた。


(目を閉じでも耳を塞いでも、どうしようもなくて……)


 何回泣いたか解からない。


 何回止めてって叫んだか解からない。


 何でこんな事するのって、お母さんに何度も何度も訊いた。


(ううん、ホントは解ってる。私が悪い子だからだ……)


 私はお母さんの力を物凄く受け継いでいるから、将来は凄く強くなるらしい。


 だから私はその力でお母さんみたいに人間達と戦って、たくさん殺さないといけないのに。


(でも、戦いたくなんてないよ……)


 痛い思いをしたくない。


 相手に痛い事だってしたくない。


 酷い事をしてくる相手が居るなら、見付からないように隠れるんじゃ駄目なの?


 見付かったら逃げるんじゃ、どうして駄目なの?


(ううん。ホントはそれも解ってる……)


 何度も何度もお母さんが教えてくれたもの。


 逃げても逃げても追ってくる。


 それに終わりなんてなくて、いつかは絶対に捕まっちゃう。


 自分の身を守りたいなら、戦って相手を倒すしかないんだって。


 人間はそういう恐ろしい生き物なんだって。


(そうじゃなきゃ、あんな酷い事出来る訳ないもん……)


 食べたり殺したりもしないで、何であんな事するの?


 他にも人間の怖い話は、たくさん聞かされた。


 他の生き物の爪や牙、皮を剥いで振り回したり身に纏うんだとか……。


(何でそんな事出来るんだろう……)


 だから酷い事をされたくないなら、戦って身を守れるようになりなさいって何度も何度も言ってくれるんだと思う。


 それでも怖いから嫌だっていう私が悪い子なのも解ってる。


(けどさ。それで負けたから、お母さんはあんな目に遭っちゃったんだし……)


 お母さんだって勝てないのに私なんかが勝てる訳ないよ。


(それなら相手の言う事を聞いてた方がいいよね?)


 そりゃあ間違えて機嫌を損ねちゃったら殴られたり痛い思いは、しちゃうと思う。


 けど言う事さえ上手く聞けてれば、精々殴られるだけ。


 お母さんみたいに酷い目には遭わされる事って、そんなにはないと思う。


 どっちにしても痛い目に遭うかもしれないなら――


(戦うだけ無駄だもん……)


 だってあの部屋に閉じ込められてから、ずっとそうだった。


 お前等なんてお母さんがすぐにやっつけてくれるって言ったら殴られて。


 言われたとおりに大人しくしてても機嫌が悪ければ殴られた。


 何をしてても殴られちゃうんだから、何も考えないのが一番楽なのに。


(それでも最後まで個人としての誇りを持ち続けなさい。この人間達はこういう悍ましい事が出来る相手だ。戦う意志を持ちなさいなんて言い続ける、お母さんがどっか変なんだよ)


 うん、そうだ。


 私も悪い子だけど、お母さんだって変。


(……そういえば、お母さんとは、いつ会えるんだろう?)


 助けてくれたって言ってたし、今は落ち着ける場所で休んでるのかな?


 それなら救世主の人の言う事をたくさん聞いて。


 いっぱいいっぱい良い子にしてたら――


(そしたら早く会わせてくれるのかな?)


 それなら救世主の人に褒められるように、いっぱいいっぱい頑張らないと。


 確か、お話し相手になってほしいって言ってた。


 頑張っていっぱいお話聞けばいいのかな?


(それに他の子はお人形さんみたいでつまらないけど、私は鳴かせたら面白そうだみたいな事も言ってた……)


 鳥さんの鳴き真似とかすればいいのかな?


 それとも男の人だし、ドラゴンとか迫力のあるヤツの方がいい?


(やった事ないし、明日からいっぱい練習しよう……) 


 そんな事を思っていたら、いつのまにか私は眠っていたのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ
OSZAR »