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第14話 強く優しき全裸姫

「これでも俺としては保護の気持ちもあったんだぜ? 折角の良い道具が雑に扱われて俺の元に届く前に潰れちまったら困るからな」


 言い過ぎたと思い、慌てて軌道を修正していく。


 子ども達を性処理用の道具として見ていないと悪びれずに言い切った時点で、サーラみたいなタイプからの好感度なんて、それだけで地の果てなのだ。


 それ以上はスキルに関係なく無駄に傷付けるだけになり兼ねないし、そんなのは研一だって望んでいない。


「だから変な奴に売られる前に俺が全部確保しておく。それで薄汚い奴も痩せ細って抱き甲斐のないのも萎えるから、いつでも最高の状態で抱けるように、ちゃーんと整備する。その方が変な客に買われるより、よっぽど幸せだとは思わねえか?」


 というか傷付き過ぎて心が折れてしまい、子ども達の面倒を見る事さえ出来なくなっているかもしれない。


 その可能性に備え、最悪の場合は自分で子ども達の面倒を見ていく覚悟を研一は固めた。


 けれど――


「……認めません」


 研一が想像しているより、サーラは強く賢い人間であった。


「マシだとかマシじゃないとか、そんな言葉遊びなんかに騙されたりしません! 子ども達は国で保護し、真っ当な生活が出来るように面倒を見ます! 貴方みたいな人間に渡してたまるものですか!」


 二択しかないように思わせ、それならマシな方を選ばせるという初歩的な詐欺になんか引っ掛かる事無く、卑劣な話術で惑わそうとした研一を敵意と共に睨み付けると同時に――


 一瞬の早業で服を脱ぎ捨てた。


 素肌が空気に触れる面積を増やす事で、空気中の魔力の吸収を高めるという魔法使いの本気を示す姿。


(本気の本気か……)


 しかも今のサーラは半裸どころか、布切れ一つ付けていない。


 手に持っている杖以外は完全に裸の状態になり、研一の後ろに隠れるように佇んでいるセンの方へと視線を向けた。


「その子を渡して下さい。断るのなら貴方を元の世界へと送り返します」


「えっ――」


 いきなりの公開全裸に加えて、これまた突然の強制送還の話。


 これには、さすがに研一も戸惑わずには居られない。


 悪党の演技も忘れ、素で驚きの声が出てしまう。


『女神の承認が無ければ元の世界に送る事は出来ません。そして女神は現状では許可しません』


 そこで何度目かになる無機質な声が頭に鳴り響く。


 声の正体は未だ解かってないが、今までの言葉から推測するにスキルに付属しているシステムメッセージのようなものか、女神の使いのようなものだと推測する。


「はっ、いいのか? 苦労して召喚した偉大な偉大な救世主様だぞ? ここで送り返したら苦労が全部水の泡だぞ?」


 とりあえず、謎の言葉は信じてもいいだろう。


 いきなり送り返される事はないだろうと確信し、悪党の演技を再開する。


「構いません。ここで貴方みたいな相手に子どもを売り飛ばさねば救われない国なら、それは既に国としては滅んでいるのと変わりませんから」


 はったりなのか。


 それともサーラの意志では送り返せない事を本当に知らないのか。


 迷いの見えない決意に満ちた目で、サーラは研一を真っ直ぐに睨み付ける。


「あー、解った解った、俺の負けだよ。取引しようぜ」


「いいでしょう。性欲の処理がしたいと言うのであれば、貴方のような人の心を持たない鬼畜に触れられるのは業腹ですが、呼び出した者の責任。どのような屈辱的で背徳的な行為であろうと、全て私が応えると誓いましょう」


(……何でこの子は毎度毎度、自分を犠牲にする事だけは積極的なんだよ)


 自分を犠牲にするのが当たり前だというサーラの姿に、怒りに似た悲しみが研一を襲う。


 スキルさえなければ、そんな事しなくていいと言ってやりたかった。


 無責任に好き放題喚く俺の声なんて、気にしなくていいんだと伝えてやりたかった。


「てめぇじゃ萎えるから新しいの探そうとしてんだろうが……」


 けれど、それは出来ない。


 それこそ今まで苦労して悪党の振りしてきた全てが水の泡。


 研一は手を抜く事なく悪党の演技を続けていく。


「正直言うとさ、ここのガキ共って死んだような目した奴ばっかで、全然そそられなくてな。本音を言うと割とどうでもいいんだよ」


「でしたら――」


「だが後ろに居るコイツだけは別だ。他の人形みたいな奴等と違って、中々良い感じに怯えた表情をしやがる。実に哭かせ甲斐がありそうだ」


 どうか言葉の意味がセンに深く伝わっていませんようにと願いながら、研一は取引の内容を告げた。


「後ろのコイツだけくれればいい。今はそれで満足しといてやるよ」


 言うまでもなくセンの事であり――


 他の子どもの面倒は、サーラが見てくれる事になっているのも含めて理想通りの流れだろう。


「数の問題とでも? 許す訳ないでしょう」


「別に姫様に許されたいとは思ってねえよ。こういうのは本人の意志が大事だろう?」


(魔族の女と約束したし、出来れば俺を選んでほしいトコだけど……)


 問題は、現時点でセンが自分を選んでくれるか。


 事前に自分の非道な言葉は全て演技だと伝えているとはいえ、確率としては五分以下だろうと推測する。


 もし選んでくれなかったら、サーラを怒らせないように注意しつつ、出来るだけセンの様子を見に行こうと考える。


「貴方みたいな極悪非道の男の元に、好き好んで付いていきたい子どもなんて居る訳ないでしょうに」


 そんな提案ならば望むところとでも思ったのだろう。


 余裕たっぷりな様子で話し始めたサーラはそこで言葉を区切ると、しゃがんでセンと目線の高さを合わせ――


「さあ、こっちにいらっしゃい。もう怖がる事は何もないんですよ」


 人好きのするような穏やかな顔で優しく語り掛けていく。


 それは研一に向けている厳しいものとはまるで違う、おそらくサーラ本来の表情。


 ――こんな出会いでなければ、見惚れる程に綺麗であった。


(……これは無理かもな)


 そもそもこんな場に居た以上、男そのものに嫌悪や恐怖を抱いている可能性が高い。


 これはもう自分が選ばれる可能性はないだろうと確信する研一であったが――


「い、いや。来ないで……」


 サーラが腕を差し伸べた瞬間、今まで言葉の一つも発していなかったセンから、心の底から怯えているような声が発せられる。


 と同時にサーラから隠れるように研一の真後ろへと移動した。


「ど、どうしました? 私はアナタを傷付ける事なんて――」


「いやーーーーーーーー!!」


 再びサーラが声を掛けようとした瞬間、耳鳴りを引き起こす程の絶叫がセンの口から飛び出す。


 それは十歳前後くらいにしか見えない身体から放たれたとは思えない程の大音量であり、それはそのままサーラへの強い拒絶感を示していた。


「救世主、救世主……」


 そのまま助けを求めるように研一の足へと必死に縋り付く。


 その腕にも絶対に離れないとばかりの強い意志を感じさせる力が込められていた。


「……どうやら決まりみたいだな」


「まさか、私が来る前に既に操りの魔法陣を刻んでいたと言うのですか!」


 この外道め、とでも言いたげな目付きでサーラが睨み付けてくるが、訳が解からないのは研一も同じ。


(サーラが来る前までは俺にだって怯えてたじゃないか? 何がどうなってるんだ……)


 いや、むしろ態度を急変された研一の方が驚き自体は遥かに上。


 完全に訳が解らなかった。


「それで納得するなら好きに調べろよ」


 いつもより切れのない悪党演技で言葉を返すが本音は別。


 魔法陣だとか何か特殊な薬の影響でも受けてないのか。


 サーラに徹底的に調べてほしかった。


「…………」


 センは無言で研一にしがみ付いている。


 まるで研一を呼ぶ事に力を割く事さえ惜しいとばかりに、全身全霊で。


 この後、城に連れていく道中でも、城に着いてからも、どうしてもセンは研一から離れたがらず。


 やむを得ず研一をすぐ傍に控えさせた状態で、徹底的にセンの身体を調べたのだが――


 結局、ちょっと栄養状態が悪いくらいで。


 それ以外の異常が見付かる事は、最後までなかったのであった。

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