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いつもお読みいただきありがとうございます!

「私は男の尻拭い要員か」

「女王の座を尻拭いなどとおっしゃるのは陛下くらいではないでしょうか」


 煌びやかに着飾った自分の姿を鏡越しに眺めながら、王女アイラはつぶやいた。戴冠式を終えていないのでまだ身分は王女である。

 そばに立っていた、幼少からの付き合いである女性秘書官ナタリアは間髪入れずにツッコミを入れる。


「あの兄と父の尻拭いであることに間違いはない。そして、貴族たちが戴冠式の後は夫を決めろとうるさくなるだろう」

「それはそうでしょう。早く王配を決めろと言い出し、陛下と年齢の合う自分の息子たちをここぞとばかりに大安売りするでしょうね」


 ナタリアは全て分かっているという顔でニヤニヤした。


「陛下はどのような男性がお好みですか?」

「ナタリアはよく知っているだろう」

「紫紺の髪に空色の目の優しく穏やかな男でしょうか。お好みが変わったかと思いまして」

「変わらない。変わるはずがない」


 アイラの声は一瞬で暗く沈んだ。服装はこれ以上ないほど煌びやかなのに、声は葬儀にでも赴くようだ。


「陛下。私が男だったら、陛下は私と結婚してくれますか? 栗色の髪に灰色の目で大して優しくありませんけれど」


 虚しそうな表情をしていたアイラは、その言葉に思わず笑って秘書官ナタリアを見た。


「本気か?」

「本気です。本気で私は陛下と結婚したいんです」

「ナタリアが優しいならおそらくこの国の7割は優しい人間だろう」

「それは誉め言葉ですよね?」

「ははっ。何のためにナタリアを秘書官にしたと思っている。仕事の時に側にいて欲しいからだ。最初に希望していた侍女では一番側にいて欲しい仕事中に一緒にいてくれないだろう」

「ふふ。では、結婚していただけますか?」

「来世だな」

「来世なら約束してくださいますか」

「ナタリアが男であれば。そして私が王族でなかったらな」

「陛下は王族でもそうでなくともきっと素晴らしい方です」

「私が王族でなければ、ヒューバートは死ななかった。だから来世は王女も女王も嫌だ」

「戴冠式はまだではありませんか。そういうことは経験してから仰ってください」

「ナタリア。私は王女であろうと女王であろうと、ヒューバートを殺した奴を許せない」


 秘書官ナタリアはアイラの手をそっと握った。アイラは黙ってナタリアの手を眺めていたが、額をそっと手に寄せる。


「陛下。私は大変幸運にも陛下以外には優しくない人間です。『復讐などヒューバート様は望んでいません、復讐なんて何も生みません』なぁんて偽善者ぶったことを口にするとお思いですか? そのような期待は溝か川に捨ててくださいませ」


 アイラはゆっくり顔を上げてナタリアを見た。


「違うことを言ってくれるのか」

「もちろんでございます。復讐しましょう。全力でこのナタリア、お手伝いします。証拠がなければ作りましょう。でっちあげましょう」

「同じ目にあわせてやりたい。ヒューバートのことを思い出すたびに考えてしまう」


 沈んだ顔のアイラと対照的にナタリアはにこやかに笑った。


「そのためには陛下。女王の座はぴったりです。正義はあなたが作ればいいのです」

「ちなみにナタリア。私はまだ陛下ではない」

「練習です。練習。どうせ数時間後には女王陛下です」

「なぁ、ナタリア。私は今すぐヒューバートに会いたい」

「陛下。死なないでください。私が悲しいです。何とかしてヒューバート様をここに呼び出しましょうか。さぁ、天国にはどうやって手紙を書いたらいいのでしょう」


 ナタリアはおどけた様子で冗談のような本気のようなことをつらつら語った。アイラはしばらくそれを聞いてからやっと笑う。


「ヒューバートを殺した犯人を見つけないとな」

「王配の座を狙う貴族が暗殺者に依頼したはずです。証拠は出ませんでしたが。陛下、どのように復讐しますか。同じ目で済ませますか」

「ちゃんと復讐する。犯人は、その者の愛おしいと思う者を奪われるだろう。そやつが私にした仕打ちのように」


 アイラは言葉とは裏腹に力なく笑った。ナタリアは何も聞かずに寄り添った。



 その日、ブライトエント王国では女王が誕生した。女王の名はアイラ・ブライトエント。


 彼女にはまだ婚約者も夫もいない。いや、正確には婚約者がいたが亡くなった。その婚約者の名前はヒューバート・ランブリー。ランブリー伯爵家の嫡男だった。


 アイラに即位する予定などなく、ランブリー伯爵家に降嫁するはずだった。


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