クリスマス・隠し事3
その週の土曜日、姫芽と美紗は待ち合わせをして、近くの町まで買い物に来ていた。学生に人気のファッションビルで、雑貨店や文房具店を回り、プレゼントを探す。
終業式の後に行われるクラス会は、クラスの約半数が参加することになっていた。参加の条件は、千円程度の交換用のプレゼントを一人一つ持ってくること、だ。千円程度で買えるものとなると、案外難しい。
美紗が、長財布のように見えるペンケースを手に取った。
「あ、これ、可愛いんじゃない?」
姫芽は美紗が持っているものの色違いを手に取る。
ペンケースはチャックを開けるとトレーになるものだった。ポケットも付いていて、使いやすそうだ。色は柔らかいパステルカラーが中心になっている。
「でも、男子に当たるとちょっと……かなあ」
「確かに。誰に当たっても良いプレゼントって、難しいね」
姫芽と美紗は二人揃って小さく嘆息する。手にはペンケースを持ったままだ。
姫芽は、自分と美紗が持っているペンケースを見比べて、口を開く。
「でもこれ可愛い。お揃いにしない?」
「良いかも!」
美紗がぱっと顔を輝かせて頷いた。
それぞれ会計を済ませて別の店に行こうとしたところで、美紗が店頭の棚に飾られていた入浴剤を見つけた。それは、箱に詰められたお菓子のような見た目をしている。丁度千円くらいだ。
「あ。私これにする! ごめんだけど、ちょっと待ってて」
美紗はそれを一つ選ぶと、ついさっき並んだレジの列にまた並び直した。
先程よりも長くなった列にしばらくかかるだろうと思った姫芽は、もう一度店内を見て回ることにした。
文房具を中心に揃えているこの店は、可愛らしい文房具から、少し高級なペンまで揃っている。手が届かない品も多いが、見ているだけでも楽しかった。
父親の誕生日が近いから、こういったものを買っても良いかもしれない。
なんとなくふらふらとガラスケースの中のペンを覗き込む。と、一本のボールペンに目が留まった。
「あ……きれい」
そのペンは、高校生が普通に使うには少し高級なものだった。艶のある白いボディーに、金色のクリップがついている。クリップの付け根の部分には、小さな赤いラインストーンがついていた。
細身なのにしっかりとした存在感のそれから、姫芽は目が離せない。
「ルビーのような瞳、か」
櫂人の話を、思い出した。
前世仕えたというセリーナは、プラチナブロンドにルビー色の瞳の王女だったらしい。櫂人の中にあるという、前世の記憶。どんな理由であれ、命を失ったからこそ転生したのだろう。
それは、姫芽の前世だというセリーナも同じだ。
「あの、すみません。これください」
姫芽のお小遣いでどうにか手が届くくらいの値段だ。高校生が、普段からこんなボールペンを使うことはないと分かってもいる。それでも、姫芽は買わずにはいられなかった。
こんな安物で、慰められるような気持ちではないだろうけれど。
「贈り物でございますか?」
「はい。その……簡単で、良いので」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
なんとなく後ろめたかった。
姫芽が選んだこれは、プレゼントに違いないだろう。
しかし交換するという約束はしていないし、そもそも特別なプレゼントを贈り合うような仲でもない。受け取ってもらえるかも分からない。
姫芽がカウンターで会計を終え、包みを受け取ったところで、美紗が戻ってきた。
「お待たせ! それじゃ、さっきのお店行こう」
左手に二つの紙袋を提げた美紗が姫芽に言う。姫芽は頷いて、別の店に移動した。
途中、何か買ったのかと聞かれたが、姫芽はどうしても袋の中身を答える気にはなれなかった。
そして、クリスマスイブ。
「それじゃあ、メリークリスマース!」
「メリークリスマス!!」
最寄り駅から一番近いカラオケボックスのパーティールームで、姫芽達はソフトドリンクで乾杯した。飲み物はフリードリンクで、ポテトやチョコレート菓子等のつまみやすい食べ物がテーブルに並んでいる。
姫芽は一度帰って制服から冬らしいオフホワイトのニットワンピースに着替えていた。皆一度着替えてから集まっているからか、なんだか新鮮な気持ちになる。美紗以外の人の私服を見るのは初めてだ。櫂人は白いシャツに、グレーのセーターを重ねていた。シンプルな組み合わせだがお洒落に見えるのは、素材が良いからだろうか。
結局、交換用のプレゼントはインスタントコーヒー付きのマグカップにした。皆が知っているキャラクターものだが、男女どちらが持っていても違和感がないデザインだ。
今は皆のプレゼントが集められており、番号札が付いている。この後でくじ引きをするのだろう。
「機械三台あるから、どんどん入れて。あ、続けて入れるのは禁止ね!」
クラス委員と一緒に企画をした男子が、最初の一曲を入れる。誰もが知っているノリの良いアニメソングだった。途端に皆が賑やかになる。
「ひめ様も、遠慮しないで入れてね」
「うん!」
姫芽はカラオケの音に掻き消されないように、大きな声で返事をする。
「一緒に歌おー」
隣に座っている美紗が、姫芽の耳元に顔を寄せて言った。
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